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IT特集 - アバター

仮想からリアルへ。分身となるアバターがビジネスを変える

アバターというと2009年に公開され、3D映像で話題を呼んだ米国のSF映画を思い出す人も多いだろう。今や映画の世界の話ではなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、AI(人口知能)、ロボティクスなど様々な技術を駆使し、人の分身となるロボット型アバターを活用し、リアルな世界で様々な体験が行える時代がやってきている。アバターをビジネスに活用する動きも始まっており、企業の関心も高い。ビジネスにどう活用できるのか解説する。

様々な体験を可能にするロボット型アバター

アバターとは「分身」や「化身」のこと。ネットワーク上の仮想空間に自分の分身であるキャラクターを作り、オンラインゲームやSNSで利用したりする。最近はゲームにとどまらず、遠隔操作で人の代わりに店舗の窓口で接客したり、他のアバターと共同作業を行ったりするなど、使い方は様々だ。

2009年に公開された映画「アバター」ではCGが使われたが、ビジネス分野でアバターを実現するにはVRARAI、センシング、ハプティクス(触覚技術)など、様々な技術を組み合わせる必要がある。振動を伝えるハブティクスはカーレースなどゲームに使われているが、ロボット型アバターを遠隔操作するユーザーに対し、現実世界のようにモノに触れる感触をネットワーク経由で伝えることで、よりリアリティをユーザーに与える効果がある。

そして今、アバターの中でも注目を集めているのがロボット型アバターだ。ロボットというと、AIを搭載し店舗の受付など接客する人型ロボットがあるが、ロボット型アバターは、人が遠隔から操作し、ロボットを通じて様々な体験を可能にするものだ。

ロボット型アバターの研究開発に取り組むある企業は、「アバターは距離や身体、時間などの制限を超える移動手段となる。ロボティクスや物に触ったときの感覚を伝える技術を用いて、離れた場所にあるアバターを遠隔操作し、あたかもそこに自分が存在しているかのようにコミュニケーションや作業ができるようになるだろう」と、その価値や意義について語っている。

遠隔操作で仕事や授業を体験できるロボット型アバター

ロボット型アバターは、動作を視覚的に伝えるヘッドマウントディスプレー、物に触った感触を伝えるグローブ、人の動きや感触を認識する動作認識センサーなどの技術を用い、分身のロボットを遠隔操作する。例えば、疑似的に釣りが楽しめるサービスも検討されている。ロボットを遠隔地の釣り場に配置し、利用者は自宅でヘッドマウントディスプレーと釣り具の感触を読み取るグローブを付け、ロボットを通じてあたかもその場にいるかのように釣り場の景色を見ながら、釣りが楽しめるという。

障がい者の分身となってロボット型アバターがコーヒーショップで接客、配膳サービスをする取り組みも行なわれている。これは難病や寝たきりで外出が困難な障がい者が遠隔操作でロボット型アバターを操作し、就労を体験するというもの。身体的理由で外出したり、働いたりすることが困難な人にも、ロボット型アバターを活用することで仕事と収入が得られる機会が広がる。

病気・入院で学校に通学できない子供のためのロボット型アバターもある。ロボットにはカメラやマイク、スピーカーなどが備えられ、パソコンとインターネットを通じてロボットを遠隔操作することで周囲を見回せ、近くにいる人とあたかもその場所にいるかのように会話が行える。

例えば長期入院で学校に通えない場合、ロボット型アバターを介して教室で友達と席を並べ、一緒に勉強したり、遊んだりすることもできる。ある特別支援学校では授業のほか、学習発表会や校外学習にロボット型アバターを参加させているという。

工場でも作業者が遠隔地から仕事できるようになる?

ロボット型アバターは他にも様々なシーンでの活躍が期待されている。

製造業の場合、工場の生産ラインで工作機械のロボットが既に導入されているが、ロボット型アバターに人の作業を代替させることも考えられる。例えば、作業者が離れた場所から工場内のロボット型アバターを操作して生産ラインの状況を確認するといった使い方ができる。ロボット型アバターの情報はクラウドに蓄積され、他の作業者が指示を出すときに利用したり、AIを組み合わせてより効率的な作業を行ったりすることも可能になるだろう。

また、育児や介護、障がい、病気などで会社に出勤できない従業員の分身として、職場にロボット型アバターを置いて、自宅から操作する。職場ではあたかもその人と一緒に仕事をしているかのように感じられ、ロボット型アバターを通じた会話もできる。また、今まではテレワークといえば、PCやスマートフォンでのWeb会議やチャットがメインだったが、ロボット型アバターを使うと、オフィスを見まわしたり、簡単なジェスチャーをしてコミュニケーションをとれたりもする。従業員としては仕事場の雰囲気を味わうことができ、企業としてはチームワーク強化を図ることができるのだ。ある企業では在宅勤務の社員が社内会議に参加する際にロボット型アバターを利用し、テレワーク時のコミュニケーションに役立てているという。

さらに、人が立ち入ることが困難な危険地域でロボット型アバターを遠隔操作して調査・作業したり、災害時に医師と消防士、警察官など複数の人がロボット型アバターを操作して救助活動を行ったりすることも想定される。

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バーチャル店舗の窓口でアバターが接客業務

ロボット型アバターのほかに、Webサイト上でのアバターもビジネスで活用できる。

例えば本社、支社、グループ会社などで構成されるプロジェクトチームが遠隔会議を行う場合、現在はWeb会議が利用されることが多い。だが、アバターを使えば、仮想空間に設けた会議室に参加者のアバターを集めてプロジェクトに関する作業を一緒に行えるのだ。例えば新築ビルの建設プロジェクトの場合、Web会議では表示が困難な3D映像を仮想空間に表示し、参加者があたかもビル建設現場に視察に来たかのようにアバターがビル内を案内することもできる。

また、ある金融機関では、Webサイト上のバーチャル店舗を訪問した顧客が商品・サービスに対してチャットやメールで質問をすると、担当者であるアバターがAIチャットで答える取り組みを始めている。人によるリアル店舗の対面接客のようなきめ細かな対応は難しいが、味気のない無人チャットよりは、アバターで対応するWebサイトのほうが顧客満足度は高くなる可能性がある。

日本では労働人口の減少により、企業は多様な働き方を認めないと優秀な人材確保は難しくなってきており、AIRPAなどを活用して業務の自動化・効率化を可能にするシステムが登場してきている。今後は、障がいや病気、育児、介護などで出社できない人でも、自宅などの遠隔からアバターを操作して、工場の業務や接客、仕事場での肉体労働などもできるようになるだろう。さらに、出社できない人に代わって、その人のロボット型アバターを職場に置くことで、周囲はその人の存在感を感じながら仕事をしたり、アバターを介して仕事仲間との何気ない会話を通じて本人は疎外感のない在宅勤務ができるようになる可能性もある。自社のビジネスにどうアバターを活用できるのかといった検討を含め、拡大が予想されるアバター関連ビジネスに着目していきたい。

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(監修:日経BPコンサルティング)