ページの先頭です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. ビズサプリ 総務人事ポータル
  3. 早期離職を防ぐための採用術
ここから本文です。

総務人事向け
これまでの常識は通用しない!売り手市場時代の人材確保術(第3回)

早期離職を防ぐための採用術

2016年12月

ここ数年の新卒採用では、学生の売り手市場が続いていますが、少子高齢化の中で、学生の数が確実に減っていくことを考えれば、今後も競争率は上がり、新卒採用の難しさが増していくことは間違いありません。企業の採用担当者は、そんな環境の中で相当な苦労を重ねながら、何とか新入社員の採用を行っています。

しかし、その苦労にもかかわらず、特に中堅中小企業の場合は、新卒をなかなか思うように採用できないところが多いようです。このため、今いる社員の退職を何とか抑えようという、退職抑制の取り組みが、最近は特に重視されるようになっています。

新入社員の七五三問題は今始まったことではない

その背景には、少なからぬ新入社員が3年以内に退職してしまうという現実があります。いわゆる新入社員の「七五三問題」です。

七五三問題とは、中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が3年以内に離職してしまうことを指す言葉です。最近の採用事情から、特にこれを問題と考える企業が多くなってきており、私も相談を受けることが増えています。

では、この傾向は最近始まったものなのでしょうか? 調べてみると、どうも最近だけに限った話という訳ではないようです。

厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」という調査によれば、この「七五三問題」は、その年の経済環境などによって、「七五三」の七が六に近くなる、三が二に近くなる程度の変動はありますが、20年以上前から、この比率を大きく変化していません。

過去から一貫して状況が大きく変わっていないところを見ると、少なくとも今までの新卒一括採用のような短期決戦の方法を続ける限り、初期段階のミスマッチとしては、ある程度やむを得ない比率なのではないでしょうか。そして、もしもこれが、「同じやり方を続けていること」に一因があるのだとすれば、逆に考えれば、やり方の工夫次第では、状況を変えられる余地もあるということです。

最も多い退職理由は「こんなだとは思わなかった」というミスマッチ

結果的に早期離職になってしまったとしても、初めからそのつもりで入社する人は、恐らくほとんどいないはずです。にもかかわらず、短期間で辞める決断をしなければならないほどの理由がある訳ですが、その理由として最も多いのは、「こんなだとは思わなかった」「こんなはずではなかった」という認識のギャップ、要は「ミスマッチ」です。

特に最近は採用人数の確保が難しくなっているため、内定辞退に神経をとがらす企業が多くなっています。ここで実際に行われた対策の中には、他社での活動ができなくするような囲い込みや、内定を出すことと引き換えに就職活動を終えるように迫る“就活終われハラスメント”、略して「オワハラ」のような事例も見られました。

これは、お互いのミスマッチを埋める努力をせず、企業側が内定者を強引につなぎとめるだけの行為です。このため、「内定辞退」が「早期退職」に先延ばしになるだけの話であり、何の対策にもなりません。さらに、そういう行為が企業の評判を落とすことにつながる、デメリットしかない対応です。

早期離職の対策として基本的にやるべきことは、ごく当たり前のことですが、「いかにミスマッチを避けるか」ということに尽きます。

採用までの間にできる限り会社のことを説明して理解を深め、納得した上で入社してもらうのはある意味当たり前のことですが、実際にはこの当たり前のことができていない会社が意外に多いものです。もちろん、まったく悪気はないのに結果的に伝わっていなかったということもありますし、意図的にネガティブな情報を隠しているような好ましくない事例も、残念ながら存在します。

早期離職に至るのは、入社前と後での認識ギャップが、短期間でも耐えられないほど大きかったことが原因です。仕事内容の理解や社風の理解が決定的に不足していたり、本当の意味での適性がない人を無理やり採用していたりするなど、早期離職の背景には、必ずどこかにミスマッチが存在します。

これが逆に、入社してから「思っていた通りだった」、さらには「想定以上だった」となれば、社員の定着率は確実に上がっていきます。

早期離職に苦労する企業がある一方で、自社なりの対策で定着率が上げることができた企業もあります。では、そうした企業がどんな対策に取り組んできたのか。2つの事例を紹介しましょう。

あえて自社の弱さもさらけ出してミスマッチを防ぎ定着率を向上
~技術系サービス会社C社の事例~

技術系サービスに携わる業界は、業界全体でも長時間労働が問題となっており、C社も同じような問題を抱えていました。

応募者としては、当然労働時間の問題は意識するところでしょうが、こうした問題を抱える会社の多くは、「忙しいときはあるがそうでないときもあり、メリハリがつけられる」とか、「一部に忙しい社員がいて平均時間は上がってしまうが、実際にはそれほどではない」など、言われているほどの問題はないと強調することが多いようです。C社でも、当初は同じような説明の仕方をしていました。

この説明が実態を反映していれば問題はありませんが、このような「安心させたいというバイアスがかかった大ざっぱな情報提供」は、その後の認識ギャップを生む元凶になります。

そこで、C社は、説明会や面接などの場で、自社の長時間労働の実態を具体的な数字を挙げて説明し、それが解決しきれなかった原因を伝え、さらに問題意識の強さ、取り組みの決意、いま取り組んでいる対策などを合わせて説明するようにしました。

もちろんその説明を聞いて入社を辞退する人もいましたが、応募者との認識ギャップを大きく減らすことができ、その後は労働時間に関することを理由にした早期離職者は出なくなりました。

C社は、失敗プロジェクトや赤字事業などについても、自社のリアルな状況とそこから得た教訓を伝えることで、「こんなはずじゃなかった」という認識ギャップを極力減らそうと努めています。

採用活動で自社のアピールをするのは当然のことですが、それとともに現状の弱さや課題もしっかりと、しかも前向きに伝えることが、認識ギャップを減らすことにつながります。

「あえて自社の弱さもさらけ出す」ということが、結果的には離職を減らすことにつながります。

辞める理由を減らすより、残る理由を増やす
~Webサービスを展開しているD社の事例~

D社では、せっかく育成した技術者が数年で他社へ流出してしまうという課題を抱えていました。そのため、その理由を明らかにして対策を施せば、入社前と後での認識ギャップがなくなり、早期退職を防げると考えたのです。

そのためD社はまず、退職する者へのヒアリングを行いました。しかし、これはあまり効果がありませんでした。

退職理由を調べ、その原因を改善することで退職を抑制しようという取り組みを行う企業は少なくないようです。しかしながら、実際にこれから辞めようという当事者の多くは、できれば余計なことを言わずに円満に辞めたいと考えているのではないでしょうか。

このため、退職理由として、「転職先の方が少しだけ給料が高い」「やりたかった仕事ができる」など、会社としてはどうしようもない当たり障りのない理由を言われることがほとんどです。数年後に聞いた時に初めて「実はあの時は・・・」などと言われるくらいですから、いくら退職する人をヒアリングしても、本音が語られることは少なく、そのため効果的な対策を見つけることは難しいのです。

そこで、D社では発想を変えて、在籍している若手社員を中心に、「なぜこの会社で働くのか」「この会社で働く良さは何か」という内容を聞く活動を始めました。会社を去っていく人に去る理由を聞くのではなく、残っている人に残る理由を聞き、それを退職抑制の施策に生かそうとしたのです。

話を聞く中では、「実は辞めることも考えている」という社員に出くわすようなショックなこともあったようですが、「残る理由」という会社にとっての強みから対策を考えることで、退職抑制の効果は徐々上がってきています。そして、それを採用時にも積極的に語っていくことで、入社後の「想定以上」という、いい意味での認識ギャップにつなげられる効果も出始めています。

会社を去る理由を聞いても、それをすべてなくすことはできませんが、その会社で働く理由、残る理由を増やすことには限度がなく、それが多ければ多いほど、社員の定着率は高まります。「辞める理由を減らすより、残る理由を増やす」という取り組みは、一つの有効な考え方ではないでしょうか。

会社からすべての退職者をなくすことはできません。ただ、早期離職の場合は、会社と社員の双方にとって好ましい結果とはいえませんから、それを改善するための努力は不可欠です。地道な取り組みを通じて、状況を改善できている企業も確実に存在します。どんな会社でもできることは必ずあるはずです。

工夫と実践の積み重ねがなければ問題は解決しない

全3回にわたっての連載は最終回となりますが、最後に今のような売り手市場の中で人材確保を進めていく上で、これまでの常識や、去年はこうだった、昔は大丈夫だったという過去の経験則が、どんどん通用しなくなってきていることだけは、改めて強調しておきます。

人材確保を進める施策には、画期的な改善策も一発逆転もありません。基本は人と人との対話に基づく、地道な人間関係作りがあるのみで、それを効果的に行うための小さな工夫と実践の積み重ねがなければ、問題を決して解決しません。

ただ、こんな変化が激しく難しい時代だからこそ、工夫のしがいもあるはずです。今までの常識から一歩踏み出した、新しい発想による工夫が不可欠です。

これまでの常識は通用しない!売り手市場時代の人材確保術

いまほしい栄養(情報)をピンポイントで補給できる“ビジネスのサプリメント”
「ビズサプリ」のご紹介

ページ共通メニューここまで。

ページの先頭へ戻る