ページの先頭です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. ビズサプリ 総務人事ポータル
  3. 迫る労働基準法改正、中小企業の取るべき対策は?
ここから本文です。

特集

迫る労働基準法改正、中小企業の取るべき対策は?

2017年8月

迫る労働基準法改正、中小企業の取るべき対策は?

政府・与野党の調整がつかず国会審議が延び延びになっていた「労働基準法改正案」。2017年度秋の臨時国会でいよいよ審議が始まる気配だ。既に政府では「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下、労働基準法改正案)を国会に提出しており、臨時国会で大きな手直しをすることなく可決・成立すれば、一定期間を経て時間外労働の割増賃金などに関して、中小企業も従来に増して厳格な対応が求められる。労働基準法改正により、総務人事はどのような対応が求められるのか、ポイントを解説する。

長時間労働を是正し、従業員の健康を確保する

長時間労働や過重労働が大きな社会問題になる中、労働基準法改正案の狙いは、長時間労働を抑制するとともに、労働者が健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働ける職場環境を整備することにある。

従業員の労務管理や健康管理などに携わる総務人事部門の担当者が押さえておくべきキーワードの1つは「長時間労働の是正」である。こうした考え方は、2017年3月に政府の働き方改革実現会議で決定された「働き方改革実行計画」にも示されている。長時間労働は健康面だけでなく、「仕事と家庭生活の両立を困難にしている」とした上で、長時間労働を是正すれば、「ワークライフバランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結び付く。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間当たりの労働生産性向上につながる」と論じている。

働き方実行計画は、同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善に関する法制度とガイドラインの整備に関する基本的な考え方についても示しているので、総務人事担当者は一度目を通しておくといいだろう。

時間外労働の割増賃金など、長時間労働の抑制策を追加

労働基準法改正案のポイントは大きく分けて、「長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策」と「柔軟で多様な働き方」の2つ。これらを実現するために労働時間制度の見直しなど法改正を行うとしている。例えば、時間外及び休日の労働について規定した第36条では、次のように改正。「厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長にかかわる割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事項を考慮して基準を定めることができる」と、「健康」の言葉を改正案で追加している。

こうした「健康」に配慮した長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策として、労働基準法改正案では以下のように規定している。

  1. 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
  2. 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定を新設
  3. 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
  4. 労働時間などの改善の取り組みを促進

1.中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

これまでも大企業では、「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を50%以上にすること」が規定され、中小企業は猶予措置が取られていた。労働基準法改正案ではこの猶予措置が廃止され、改正法の施行から3年後に実施されることになる。

2.著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定を新設

現行の労働基準法でも、行政官庁は時間外労働にかかわる助言指導を行うことができるとされているが、新たに36条の5項を設け、労働者の健康確保のために時間外労働に対する行政指導の強化を明確化している。

3.一定日数の年次有給休暇の確実な取得

使用者(事業主)は、10日以上の年次有給休暇が与えられている労働者に対し、そのうち5日について毎年、時季を指定して与えなければならないことを規定。但し、労働者が時季を指定した場合や計画的な付与により取得された有給休暇の日数分については指定の必要はないとしている。

4.労働時間などの改善の取り組みを促進

企業で設置する労働時間等設定改善企業委員会での決議を、年次有給休暇の計画的付与などにかかわる労使協定に代えることができるようになる。

労働基準法改正を通じ、多様で柔軟な働き方を実現する

労働基準法改正案では、「多様で柔軟な働き方」を実現するための仕組みも規定している。

  1. フレックスタイム制の見直し
  2. 企画業務型裁量労働制の見直し
  3. 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

1.フレックスタイム制の見直し

フレックスタイム制の「精算期間」の上限を1カ月から3カ月に延長。3カ月を上限に精算期間内で総労働時間を定め、その範囲内で労働時間を柔軟に設定できるようになる。

2.企画業務型裁量労働制の見直し

企画業務型裁量労働制は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象としたもので、2000年4月より施行されている。その対象業務に、「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加。そして、対象者の健康確保措置の充実や手続きの簡素化などの見直しを行うとしている。

3.特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

職務の範囲が明確で、一定の年収(少なくとも1000万円以上)の労働者が、高度な専門的知識を必要とする業務に従事する場合、健康確保の措置などを講じること、本人の同意や委員会の決議などを得ることを要件に、労働時間、休日、深夜の割増賃金などの規定を適用除外とする。

この高度プロフェッショナル制度については、いわゆる「残業代ゼロ法案」として労働組合や国会の一部の野党の反対で労働基準法改正案の審議が見送られてきた経緯がある。今後の国会審議の中で、内容の見直しがあるかもしれない。

労働基準法改正で必要になる従業員の健康管理や就業規則の見直し

労働基準法改正のキーワードは「長時間労働の是正」とともに、「健康」が挙げられる。長時間労働による過労が原因で精神疾患や心疾患など健康を害する人も増えている。労働基準法改正案に示されているように「労働者の健康確保のために時間外労働に対する指導が強化」される。

そこで、総務人事担当者は、従来に増して従業員の健康管理に留意する必要がある。労働衛生法では、「事業者は労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければならない。また、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければならない」としている。

「健康診断を受けるのが面倒」という従業員もいるが、「受診しなければ法律違反」とは言わないまでも、社内のポータルサイトや部署内の掲示板などを通じて受診を促すなど、従業員の健康管理を徹底する。そして、従業員の健康を守る観点から、残業時間が多い長時間労働の部署に対して、業務の負荷や従業員の数が適正に配置されているかどうかなど、総務人事が中心となってチェックし、問題が見つかれば改善するといった体制づくりが必要だ。

また、労働基準法改正案が可決・成立すれば各企業で規定している就業規則の変更も必要になる。例えば、労働基準法に従って、1週40時間または1日8時間以上働いたときに25%増しの時間外労働手当を支払うことを就業規則に規定している中小企業も多いはずだ。さらに労働基準法改正により、「月60時間以上の時間外労働に対する割増賃金(50%以上)」が決まれば、就業規則を改定する。

総務人事担当者は、労働基準法改正によって割増賃金が増え、人件費が高くなるというマイナスな発想ではなく、労働時間を適正に把握する体制構築やガイドライン作成を行うことで長時間労働を是正、従業員の有給休暇取得を促進するなど、労働基準法改正を契機に従業員の働き方を見直し、生き生きと仕事ができる職場環境づくりを検討してみる。さらには、業務効率化や生産性向上を図り、働き方改革を促進するきっかけとして捉えてみてはどうだろうか。

いまほしい栄養(情報)をピンポイントで補給できる“ビジネスのサプリメント”
「ビズサプリ」のご紹介

ページ共通メニューここまで。

ページの先頭へ戻る