特集
危機管理の徹底が企業を救う~不祥事編~
2018年9月
危機管理の徹底が企業を救う~不祥事編~
企業にとって不祥事はいつ何時発生するかわからない。とすれば、起きてしまったときに備えて危機管理を徹底しておくことが必要だ。危機管理の重要性は、対応に誤り企業・組織のブランドが地に落ちた数々の事例を見れば容易に理解できるだろう。大企業であれば危機管理対応部門があるが、中堅企業では総務部が対策を担うこともある。危機管理対策とは実際にどのようなことをすべきか解説する。
危機管理が徹底されないと企業イメージは地に落ちる
食品の不当表示、自動車のリコール隠し、データ改ざんや検査の不正、粉飾決算など、企業の不祥事は後を絶たない。記者会見の場で有名企業の社長や役員が一斉に頭を下げ、謝罪するシーンは、もはやおなじみのものとさえいえる。近年も企業の不祥事は相次ぎ、事後対応の失敗も含めて危機管理の不備を白日の下にさらしてしまった例が多く見られる。
不祥事に対する危機管理が徹底されていないと、企業やブランドのイメージは地に落ちてしまう。長年築いてきた信頼感もたった一つの失敗で崩れてしまうことがある。仮に従業員が個人的に起こした不祥事(例えば、暴行・傷害や万引き、交通事故、薬物使用など)であったとしても、その個人と会社が関連付けられれば、会社側も対応に追い込まれる。実際に、ある大手メーカー役員が麻薬に絡む事件で逮捕されたケースでは、会社とは一切関係のない個人的事件であったにもかかわらずメディアで注目され、結局は社長が謝罪会見を開くことになった。
不祥事は、もちろん起こさないに越したことはない。しかしながら、どんなに厳しい管理・チェック体制を構築しても、不祥事を完全にゼロにすることは難しい。企業は常に不祥事に見舞われる覚悟をしておくべきであり、まずは危機管理対策の重要性を経営層がしっかり理解することが重要だ。
不祥事の芽を摘む危機管理対策を考える
一般的に不祥事は、従業員が個人的な事情から起こすこともあれば、組織風土に問題がある場合や体制・制度の欠陥が理由になることもある。ただし前述の真に従業員個人の事件を別にすれば、例えば横領はそれを許すシステム面の不備が前提にあり、ヒューマンエラーが原因のものもエラーを防ぐ管理・チェック体制がなかったことが遠因だ。つまり、個人、組織風土、体制・制度の3者は密接に絡んでいるといえる。
原因がどのようなものであれ、現実に不祥事を起こすのは常に個人だ。この場合の個人とは、従業員やパート・アルバイトスタッフだけでなく、役員など経営層も含む。そこで危機管理対策の第一歩としては、個人の資質を向上させることが重要になる。コンプライアンスや倫理観などの教育推進、不祥事を許さない意識の啓発によって、個人の不祥事はある程度抑えられるだろう。絶対に守るべきルールや標語をわかりやすい場所に掲示したり、日常業務で達成すべき業務上の注意点などの目標を設定して定期的にチェックする方法もある。
次に手を打ちたいのが、リスクを知ることである。自社の風土や日常業務、企業活動、制度などをチェックして不祥事が起きる可能性を検討し、リスクを洗い出しておくべきだ。その上で、体制・制度の見直しを行う。従業員の仕事が忙しすぎたり、長時間勤務が当たり前になっていたり、成果が正当に評価されなかったりといった場合、目的意識の欠如、モチベーションの減退を生み、不祥事につながることがある。リスク洗い出しでそうした点が判明したなら、管理体制や人事制度を適切に見直すべきだ。また、長年付き合いのある取引先との馴れ合い的な関係がリスクの芽になる可能性があるとわかったら、取引先と話し合って適正な関係を再構築すべきだろう。
不祥事防止に向けて企業がすべき対策にも気をつけたい。ただし注意したいのは、いわゆる内部統制を徹底しすぎてルールでがんじがらめにしてしまうと、日頃の業務活動にかえって悪影響を生む場合があることだ。「あれはいけない、これもいけない」ばかりでは、会社としての活力も失われるだろう。
(例)不祥事防止に向けてすべき対策 |
---|
|
このほか、危機管理部門を設立し、日頃から啓発をリードするエキスパートを育成することも効果的だ。ただ、人材不足の中堅企業は専従者を置くことが難しいので、兼務でも構わない。その場合、総務人事担当者は有力な選択肢となるだろう。
危機管理対策で大事なのは迅速性と真摯な姿勢
そして最も重要なことは、万が一不祥事が起きてしまったとき、どのように対応するかだ。誤解を恐れずにいえば、不祥事はどれだけ対応を行っても、起きるときには起きるもの。しかし迅速かつ適切な事後対応を取ることで、ダメージを最低限に抑え、信頼回復につなげることが可能になる。
そこでぜひ実践したいのが、対処のマニュアルやガイドラインを定めておくことだ。社内での連絡および指示系統、情報収集の手段と事実確認・原因調査、弁護士・危機対応コンサルタントとのやり取り、取引先など関係各所への連絡、さらにはマスコミ対応も含めた社外への公表について、具体的に整理しておきたい。中でも重要なのは、誰がどこから情報を収集し、その情報を誰に対して報告し、それをもとに誰が意思決定を下すのかを明確にしておくことだ。
(例)不祥事対処のマニュアル、ガイドライン作成時にすべきこと |
---|
|
危機管理の事後対応においては、他社の例を反面教師として参考にするといい。過去の例を見てもわかるように、最も効果の大きな事後対応は、とにかく初動スピードを速めること、そして真摯に謝罪することだといえる。
記憶に新しいのがある大学の例だ。対応自体が後手に回った上、記者会見を早く切り上げようとする広報の姿勢にも批判が集まった。真摯な印象を与えられず、かつ不用意な発言もしてしまい、結果的に大学側のイメージを悪くすることにつながったといえる。
また、2000年に起きたある乳業メーカーの集団食中毒事件では、当時の社長が記者会見を切り上げるため、延長を求める記者に対して「私は寝ていないんだ」と、やはり不用意な発言で紛糾した。マスコミ対応の誤りは致命傷につながりかねないことを頭に留めるとともに、公表の場には何を言うべきで何を言わないかをきちんと整理して臨み、“言う必要のないこと”は決して言わない姿勢を徹底するべきだ。
危機管理対策は、すでにほとんどの企業が何らかの形で実施していることだろう。それでも不祥事は起きてしまう。もちろん大前提は不祥事を起こさないように努めることだが、人間は完璧ではないため限界もある。今回の内容を参考に、最善の危機管理対策へとブラッシュアップしていただきたい。適切な危機管理の徹底が、結果的に企業を救うことになる。
いまほしい栄養(情報)をピンポイントで補給できる“ビジネスのサプリメント”
「ビズサプリ」のご紹介