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コラム

経営に役立つ原価管理

-第2回 原価構造の可視化による、的確な製品利益とキャッシュフローの把握-

2018年7月

はじめに

原価管理は、製品の原価構造を変動費と固定費に分けて明らかにし、生産数量の変動に対応する総原価を可視化できる様にします。同時に生産リードタイムの短縮で利益がどれだけ増加するかを示す役割を果たしますが、具体例を用いて解説します。

原価構造の可視化による、的確な製品利益とキャッシュフローの把握

企業会計の役割は、企業体(グループ/単体)や事業部門の利益やキャッシュフローを可視化することにあります。
一方、製造業では、製品が企業/事業の利益/キャッシュフロー獲得の源泉ですから、製品の利益を的確に掴まなければなりません。
従って製品の利益、引いてはキャッシュフローを掴むのは原価計算の役割です。

キャッシュフロー 254=税引後利益174+棚卸資産在庫の減少50+設備の減価償却額30
(数値は前回の図表2からの例示です)

製品ごとの収益性計算

製造業では、利益計算に人件費や設備費用などの固定費が含まれますが、各製品の収益性貢献度を比較する際には売上から売上と比例的に変動する材料費やエネルギー費用、外注費、配送費などを差し引いた「限界利益」を用いることが望ましいでしょう。

限界利益=売上-変動費
(なお、変動費が工場費用だと限界利益になりますが、変動費に配送費等、販売費を含むと限界利益は貢献利益に名称が変わります。しかし、ここでは以降は混乱を避けるため限界利益で総称します)

この限界利益が高いほど、固定費を回収する力が強いと言えます。
ただ、販売後の限界利益が高い製品も、生産に多くの時間を要していれば、時間は有限ですから、「儲かる製品」とは言えません。逆に限界利益が低くても短時間で生産できるなら、製品の収益性は高いと言えます。
このように、製品ごとの収益力は

収益力=限界利益÷生産時間=時間あたり限界利益
この値によって的確な比較測定ができるのです。

このことから、製造業が儲かる戦略とは次のように言えます。

  1. 生産時間当たりの限界利益が高い製品は販売を強化する。
  2. 低い製品はリードタイムを短くするよう改善を行うことで、打ち手がはっきり見えてくる。

このことを、図表3で見てみましょう。

図表3 製品MIXの儲かる方向は何か?

製造業甲社は、2種類の製品A、Bを製造販売しています。
製品A、Bの収益性を比較してみると、製品Aは製品Bと比べて限界利益が高いので、経営も営業も製品Aを主体に販売することが当然のように推奨されています。しかし、流通業と違って、製造業は生産時間が有限です。

従って製品別の生産速度(製造リードタイム)を制約条件に収益性を比較してみると、

製品Aの時間あたり限界利益は、@240千円÷4H=@60千円
製品Bの時間あたり限界利益は、@50千円÷0.5H=@100千円

となり、製品Bが製品Aよりも1.67倍優位と評価されます。極論すれば製品A1個を販売する意思決定は、製品B1個を販売することに比べて時間あたり40千円の機会損失を与えていることになります。
この原理を、マスクジャ―社の提唱による利益速度(同社の登録商標)の理論と言います。

筆者は、更に利益速度の理論から次の理論を発展させています。
製品Aの販売は、製品Bに比べて時価あたり@40千円の機会損失を作りますが、生産時間を短縮することにより収益性を向上させ、生産時間が1.67倍短縮されれば、製品Bと同じ収益性をもたらします。

さらに製品Aの生産時間の短縮は、製品Aの在庫回転日数を短縮し、利益だけでなく在庫キャッシュフローを0.67倍増加させる効果を生み出します。

従って、甲社の取るべき戦略は、短期的には販売推奨製品を製品Aから製品Bにシフトすることで収益性を高め、長期的には製品Aの生産時間を短縮することを通じて製品Aの収益性も高めることです。
図表3「製品MIXの儲かる方向は何か?」は以上の戦略指針を提起しています。

図表3-2は、このような戦略を講ずる場合の製品別の販売利益と生産利益のマッピング図です。製造部門と販売部門の会議では、必ずこの図表を見て関係者が対策を検討すべきでしょう。

<図表3-2>

図表3

販売戦略に限界利益を活用する

製品の原価を変動原価と固定原価に峻別して、限界利益=売上高-変動原価とする指標を活用して、販売プランや受注判断の意思決定に役立てることが出来ます。

(意思決定事例1)最適な製品別販売計画の策定

最適な販売計画とは、限られた販売資源の中で、利益を最大化する製品別販売数量計画を立案することです。

そこで利益は販売数量が変化しても利益単価が大きく変わらない利益を選ぶべきで、結果、販売数量で単価が変わる固定費を除去した限界利益を使うことになります。即ち「限界利益×販売数」で製品別利益を正しく評価し、利益を最大化する最適な製品別販売計画数(セールスミックス)を策定します。

図表4は、製品A,B,Cを製造する単純化した製造業のモデルです。製品別の生産数量は製造ライン及び材料調達ロットの制約で最大数と最小数の制約があります。

図表4 製品別販売計画

このような製販の制約条件がある販売可能数量で、最も限界利益の高いB製品をどれだけ生産すれば良いかの意思決定を行う場面があります。

B製品を最大限拡販したいのですが、(1)月間製造時間160時間以内、(2)販売可能数A+B100個以内、(3)各製品別最大/最小生産数の制約、(4)B製品の販売に必要なC製品のマイナス利益と時間消費等を勘案すると、B製品の最大製造個数は46個になり、残余の生産可能時間からAは18個、Cは16個と決まります。

この時に、固定費を除いた製品別時間あたり限界利益情報を日常から整備しておくことが必要とされます。それには、変動費と固定費および製品別の生産時間を、全員が認識する利益指向の管理風土が求められます。

固定費の限界利益(貢献利益)による回収進捗可視化で目標進捗管理を行い、回収達成時期を予測する

月次損益会計制度に慣れた我々は、毎月の利益が、月割された固定費で算出されているのが当然になってしまい、未回収の固定費負担額の重さを忘れて、緊張感が麻痺している傾向があります。

未回収の固定費は確実に発生しますが、未回収の売上と利益は、あくまで“運よく達成できて何ぼ“の期待値です。

従って、未回収の年間固定費が日々の限界利益/貢献利益の蓄積で、どこまで回収されたのかを毎日確認する慎ましい努力が必要です。(「経営とは固定費という重き荷を背負いて、ささやかな限界利益という小石を拾いつつ歩むが如し」)

図表5は、年間の固定費が、日々の限界利益/貢献利益で回収されていく進捗を示した図です。

経営者は、この図表で固定費の回収と利益の創造過程を日々可視化し、もし年度末前に念願の年間固定費がすべて回収されたら、幹部や社員一同を召集されて、固定費回収記念を心から祝うことも一考に値するのではないでしょうか?固定費回収後は、「売上高-変動費」はすべて全部利益ですから、心機一転果敢な価格政策でライバルを向こうに販売数を一挙に伸ばす打ち手も考えられるでしょう。

これからの原価管理には、モチベーション向上機能も大切な役割です。

図表5 限界利益による年度固定費回収進捗

販売戦略に限界利益を活用する

前回の販売戦略に限界利益を活用する中で意思決定場面の2つ目の事例を紹介します。

(意思決定事例2)受注すべきか、辞退すべきかの判断

値引額が大きい案件を受注すべきかどうかについて、判断に悩むことがあります。

図表6-1図表6-2は、営業利益が赤字-10になる値引50がある場合の、受注可否の意思決定を支援する限界利益計算とキャッシュフロー計算の例示です。

この場合は、営業利益が赤字-10ですが、他に受注案件が無い場合は、限界利益が黒字20なら受注するケースもあります。

なぜならば、受注を辞退すると、この案件の固定費負担分30が全く回収されず、受注したほうが限界利益分18だけは有利であるからです。

また、このケースで、もし企業が受注した場合に購入するだろう材料在庫30を既に保有し他の使途が無い場合は、この在庫分を消化すれば、新たに購入せずに済むのでキャッシュフロー計算では材料消費分30はプラスに計算されます。

そこで、このケースで、キャッシュフローで可否を判断する場合の比較計算を行うと、受注決定ではプラス24、受注辞退ではー18になり、受注辞退は42もキャッシュフローの機会損失が発生します。

わが国での受注条件の基準は殆どが利益中心におかれているため、このようなケースでも受注を辞退する意思決定が多いのではないでしょうか。意思決定者が企業価値やキャッシュフロー計算の理解が無いと、意思決定錯誤による企業の機会損失が多くなります。

図表6-1 限界利益/キャッシュフローによる受注採算意思決定①

図表6-2 限界利益/キャッシュフローによる受注採算意思決定②

図表7 意思決定のパターン例示

グループ企業連結での正味の原価の見える化

多品種化やグローバル化の進展による市場の広域化に対応して、グループ連携生産体制を取る企業では、生産委託先(内外の協力工場)の材料費や労務費などの原価構成要素や内部利益が、伝統的な原価計算では「外注費」として一括計上されます。ただし、その内訳がブラックボックスになるので製品の本当の原価構造が捉えられません。

しかし図表7のように、生産委託先まで生産上流に遡って材料費や加工費の諸費目などの原価要素を丁寧に把握することで、製品の原価要素がグループ全体にわたって可視化できます。そして、生産連携上の無駄を省いたり、拠点ごとのコンピタンスを活性化したりして、利益創造の改善や生産機能の経済的なシナジーを高めることができます。

このグローバル連結管理を抜本的に解決する手段は、IoTの活用によるグローバル生産統合の基盤確立が必要です。

完成したIoT活用によるグローバル生産情報統合基盤から、リアルタイムにマザー工場で全拠点の生産活動数量情報が収集出来るので要素別単価情報の付加で、品番や受注番号/オーダ番号別の原価集計が可能となります。

連結原価構成や内部利益が可視化できると、移転価格税制のリスク回避や多国間自由貿易協定(FTA)の有利な関税率の選択による最適価格政策など有効な情報武装が可能になります。

図表7 サプライチェーン連結原価の可視化

企業別の原価計算における、グル-プ統合では、グループ内の連携生産にまたがる製品トータルでの原価構成や構造が捉えられません。その阻害要因は、外注先の原価明細が外注費で一括され、中身がブラックボックスになっていることです。

またグループ内取引の内部利益が製造原価に混入されてしまい、内部利益を含まない正味の原価が埋没してしまいます。

そこで、製品単位でのグループ統合の正味原価を把握するためには、製品別の連結原価計算が必要になります。

しかし、企業買収が先行するグループ形成の中で、もともと異なる生産管理標準や原価基準を有する企業の寄せ集め体では、共通性がない基準類の共通化/標準化作業だけでも、強力なリーダシップと多大な工数を必要とし、完全な連結原価計算を実施するのは至難の業と言わざるを得ないでしょう。

これを解決するために、工場ごとの生産活動情報がIoTでコネクトされたグローバル生産統合情報システム構築実現に期待が注がれます。

おわりに

次回は、製品の顧客価値/競争力を高めるための戦略的原価管理について解説します。

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