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情シス奮闘記 中小企業編

第10回テーマ 「顔認証」(前編)

2017年11月

急速に進む顔認証技術。中堅中小企業に導入するにはどうすればいいの?

企業の情報セキュリティ対策は進んできたが、それでも情報漏えい事件はなくならない。パスワード認証だけではセキュリティが万全とは言い難い時代になってきた。そこで今脚光を浴びているのが顔認証技術。最先端のセキュリティ技術といわれるが、中堅中小企業が導入するために必要なこととは。

「顔認証について調べよ」と、いきなりの社長命令

アミダ社で唯一の情シス担当として奮闘する中村和人の最近の悩みごとは「顔」だ。先日、江窪社長に呼ばれてこんな相談をもちかけられたのだ。

「中村君、顔認証って知っているかい。友人の社長が顔認証を会社に取り入れたらしいんだよ。セキュリティがすごく強固になったと言っていたんだが、うちに取り入れることはできないのかちょっと調べてくれないか?」

「えっ、いきなり顔認証ですか」

中村は驚いた。うちは情報セキュリティの取り組みがまだまだ弱い。PCのログイン認証の必要性を感じていない社員も多くいるレベルだ。そこにいきなり顔認証というのはかなりハードルが高い。

しかし、顔認証は技術的に成長している分野で、今後多くの企業で取り入れられていくとも聞いている。

「わかりました。まずは顔認証がどういう技術で、うちで導入できそうかどうかを調べてご報告します」と、中村は答えるのだった。

どこでどんな方法で認証技術が使われているのか

とはいえ、新しい技術を導入するにあたっては、現状をあらためて把握しておく必要がある。

今、アミダ社の中で業務上必要な設備や機器を使う上で、なんらかの認証技術を必要としているシーンを整理してみることにした。

まずはPCのログイン。これは一意に割り当てたユーザーIDとパスワードで管理している。最近は社用のスマートフォンやタブレットを使う社員も増えてきたが、そのログインも6〜8桁のパスコードで行っている。一部のスマホには指紋認証によるログイン管理機能もついているから、個人持ちのスマホではその設定をしている社員もいる。

指紋認証が初めて導入されたスマホを買ってきて、指を画面に当ててグリグリさせながら、「中村さん、これって最先端ですよね」と加藤彩が喜んでいたことを思い出した。指紋認証も生体認証技術の一つだ。

「他にはどんなところにうちは認証があるんだっけ?」と加藤に話を振ってみた。

「そうですね、会社の門扉と事務所の出入り口、それから本社工場の入口が、ICカードを使った施錠になっていますよ。それぞれ監視カメラを設置して、警備保障会社に依頼して遠隔管理していますね」と、加藤は即答した。

「後は……、最近は個人情報保護法が厳しくなってきたから、事務所内の個人情報保存しているスペースには、暗号ロック式の鍵をつけました。暗号がわかっているのは、総務部の中でも個人情報管理担当の私と、部長だけです」

さすが、担当者だけあって社内の情報管理に詳しい。中村は顔認証技術の調査も、加藤と一緒にやれば捗るだろうなと思った。

パスワードやIDカードは悪用されてしまう可能性がある

それでは、こうした現状の認証技術の問題点や課題はなんだろうか。中村は加藤と一緒に考えてみることにした。

「PCログインのパスワードはときどき忘れることがありますね。前は、それを忘れないように付箋紙をパソコンに貼り付けていた人もいたけれど、それじゃパスワードの意味がないって、中村さんが止めさせたんですよね」

「パスワードは一度盗まれたら、本人になりすまして、簡単にログインされちゃうからなぁ。頻繁にパスワードを変えるようには言っているけれど、なかなか徹底できないし……」

「いろんな機器にパスワードがかかっていると、ついパスワードを使い回ししちゃうんですよね。何個もパスワードを覚えるのは正直辛いです」

「会社の門扉や工場の入口は、ICカードなんだよね」

「そうなんですけれど、ICカード自体をなくしちゃったり、壊れちゃったりすることもあって、それが怖いです。ICカードを新たに発行するのもけっこうコストがかかるんですよ。後、ICカードを悪用されたりするのも危険ですよね」

「物理的な鍵はすべからくいつかは壊される、という前提で考えないといけないよね。そういう課題があるから、顔認証というのが注目されていると思うんだ」

「顔認証って、そもそもどういう技術なんですか」

と加藤に問われて、中村はこれまで調べたことを解説することにした。

顔認証技術の仕組み。99.7%の精度、1枚あたり0.4秒のスピードを誇る技術も

顔認証は、指紋、声紋、網膜、虹彩、静脈など人体のパーツで本人を特定する生体認証の一つだ。しかし、人間の顔はメガネやヒゲ、表情、加齢などでも変わってくるので、これまでは実用にはあまり向いていないとされてきた。

ところが、近年は技術革新が急ピッチで進んでいる。技術のコアにあるのは、登録された顔写真と実際の顔の類似点を見つけることにある。まず画像の中から、これは人間の顔であるというものを見つける(顔検出技術)。さらに顔の画像の中から目や鼻、口端などの特徴点を見つける(特徴点検出技術)。そして最後に顔画像を比較して、類似度を計算し、類似度が高い場合には本人と特定し、低い場合には他人と判定する(顔照合技術)。顔画像のデータは膨大な数値データとして保存されていて、その数値の近さを判定基準にしている。

「最近は画像認識技術や人工知能技術が進んで、それぞれの技術の精度がとても高まっているんだって。アメリカには顔認証技術の評価コンテストなんてものも開かれていて、そこでトップに立ったある会社の技術だと、99.7%の確率で照合できるらしいよ」

「99.7%の確率ってすごいですね。それって1000人の顔を突き合わせて照合させたとき、間違うのがたった3人ってことじゃないですか。私だって久しぶりに会った人の顔は忘れていることがあるので、人間よりすごいかもですね。でも照合するのに何分もかかるんじゃ実用的じゃないですよね」

「速度も速くなっているよ。そのコンテストの例だと、画像1枚あたり0.4秒しかかからなかったという報告もある。これなら十分実用に使えるだろ」

「わぁ、最近はそんなに技術が進んでいるんだ」

「だから、オフィスや工場の入退室だけでなく、アミューズメント施設の入場管理や、国境での出入国審査にも使われるようになっている。来年度からは成田や羽田空港でも、顔認証で本人を確認する自動化ゲートが本格的に運用されるらしいよ。オリンピックに向けて外国人観光客が増えるから、出入国管理業務の大幅な削減につながるだろうね」

そんな解説をしているうちに、中村自身がなんだかワクワクしてきた。

新しい技術をなんとかウチの会社にも取り入れて、情シス担当としての業務を効率化できないだろうか。

「ともあれ、うちのような中小企業でも、入退室管理や防犯対策で認証を利用できる場面はありそうだね。今度、情報セキュリティ関連の展示会があって、そこで顔認証ソリューションのいくつかが紹介されているので、調べてみようと思うんだ。加藤さん、一緒に行ってみる?」

「はい、喜んで」

加藤の積極的な態度を見て、その成長を嬉しく感じる中村であった。

今回のポイント

  • 現在はID/パスワードによる認証が主流だが、忘却・漏えいは頻繁に発生し、使い回し・なりすましのリスクは小さくない。
  • パスワード管理はユーザー本人だけでなく、システム管理者や個人情報保護担当者にも大きな負担をかけている。
  • IDカードなど物理的なデバイスも、紛失や改造・破損の危険性が絶えずある。
  • 顔認証技術の近年の進展はめざましく、コンテストなどを通した技術競争も始まっている。
  • 精度・速度ともに実用化のレベルに達しており、出入国管理など厳密な認証が必要な場所でも使われ始めている。
  • 中堅中小企業でも、入退室管理、機密情報の保護、防犯対策などで顔認証技術の利用が広がりつつある。
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