特集 情シス事情を知る
在宅勤務で困っている人は見てほしい
リモートテックで仕事の生産性を高めよう!(前編)
- 前編
- 後編
2021年8月
慢性化する人材不足は中堅中小企業にとって深刻な悩みの種だ。この問題を解決する手段の一つとなるのがリモートワークであり、ネットワークを通じた新たな働き方やコミュニケーションを支援する技術として「リモートテック」が注目されている。前編では多くの企業で導入が進むその代表的なツールやソリューションに焦点を当て、実際に役立つものはどれなのか、使いこなしのための条件を考察する。
リモートワークで人材不足を解決する
あらゆる業界で人材不足が叫ばれてすでに久しいが、特にこの問題が慢性化して悩んでいるのが中堅中小企業である。
人材不足の原因は多々あるが、なんといっても大きいのは少子高齢化の進行だ。総務省統計局の発表によると、2020年12月時点での日本の総人口は前年に比べて49万3000人減少しており、なかでも生産年齢人口(15~64歳)に目を向けると60万7000人も減少している。こうした人口減少が10年以上にわたって続いているのだ。
結果として限られた人材を多くの企業が奪い合う構図となっており、大手と比べてリクルーティングの体制が弱い中堅中小企業は求人を出しても人が集まらず、いつまでも人材不足を解消できないでいる。
では、企業は今後この問題とどう向き合っていくべきだろうか。解決策の一つとして考えられるのがリモートワークの導入だ。場所に縛られない多様な働き方を可能とすることで、会社から遠く離れた地方に在住している人材、育児や介護などの事情で家庭から長時間離れられない人材、地域活動や趣味のための時間を確保したいワークライフバランスを重視する人材など、これまで募集の対象外だった幅広い人材を採用することが可能となる。
あらためてリモートワークを理解する
ここであらためてリモートワークとは何かを定義しておきたい。世の中ではよくテレワークという言葉も見聞きするが、この2つは同じものと考えて差支えはない。リモートワークとテレワークに明確な意味や使い分けの違いはない。
ただし、リモートワークを在宅勤務と同義と考える向きもあるが、これは大きな間違いだ。リモートワークは文字どおり「遠隔で働く」という幅広い概念なのだ。もちろん在宅勤務も含まれるが、必ずしもそれだけがリモートワークではない。
例えば移動しながら場所を決めずに働く「モバイルワーク」や「ノマドワーク」、自宅に近いレンタルオフィスやコワーキングスペース(シェアオフィス)、有休施設などを使った「サテライトオフィスワーク」、観光地やリゾート地で働きながら休暇をとる「ワーケーション」といった働き方も、リモートワークの概念に含まれることになる。
リモートワークの推進状況
これまで働き方改革が求められながらも足踏みしていたリモートワークだが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に一気に導入が加速したと言われる。実際のリモートワーク率はどうだろうか。(※上述したとおり下記に登場するテレワークという言葉はリモートワークに読み替えていただきたい)
東京都が発表したテレワーク実施率調査結果によれば、2021年4月における都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は56.6%となっている。また、その企業のうちテレワークを実施した社員の割合は49.8%、テレワークの実施回数は週3日以上の実施が51.8%となっている。
ではテレワークを実施することで、働く人たちの意識にはどのような変化がみられるだろうか。日本生産性本部の調査によると、「コロナ禍収束後もテレワークを続けたいか」という問いに対して、31.8%が「そう思う」、45.0%が「どちらかといえばそう思う」と答えており、70%を超える人たちが前向きな意向を示している。
実際にテレワークを行った人に対する満足度の設問でも、27.1%が「満足」、48.6%が「どちらかといえば満足」と答えており、日本生産性本部ではこの結果を「感染リスクが軽減されたメリットを実感している可能性がある」と評価している。
こうしたデータからもリモートワーク推進の流れは今後も止まることはないと推測されており、またリモートワークを導入することが、新たな人材の確保や定着(流出防止)につながると考えられる。
リモートワークで活用する技術とは
もっともリモートワークの拡大に問題がないわけではない。多くの企業が懸念しているのがコミュニケーション総量の減少である。
総務・人事部門の専門誌「月刊総務」が2020年10月に行った調査によると、「社員同士が顔を合わせる機会が減ることでモチベーションに影響がある」と回答した企業は82.6%に達している。リアルなオフォスに皆が集まっていれば、近くにいる人に声をかけてすぐにコミュニケーションを取れるが、リモートワークではそうはいかない。
裏を返せば、この課題を解消することでこそ、本当の意味でリモートワークを拡大し、組織に定着化させることができる。そして、その鍵を握っているのが「リモートテック」と呼ばれるITのツールやソリューションである。
世の中ではさまざまなリモートテックが登場しているが、その中から代表的なものを取り上げて、「導入にあたっての難易度」、「利用のしやすさ」、「費用感」といった観点から考察してみよう。
メール
メールについては今さら述べるまでもなく、あらゆる企業に広く浸透しており、さまざまな場所に分散してリモートワークを行っている社員間や社外の相手とのコミュニケーションツールとして利用できる。だが、一方向なコミュニケーションツールであるので、意思決定が迅速とはいえない、という従来からの課題もある。
メッセージ/ビジネスチャット
そして近年、メールよりも気軽に会話できるツールとして導入が進んできたのがメッセージ/ビジネスチャットだ。これもそのままリモートワークで活用できるので、企業にとって追加のコスト負担はない。新規に導入する場合でも、サブスクリプションのクラウドサービスとして利用できるものが多く負担は軽い。社員がプライベートで使っているLINEと操作感もほとんど変わらないため、導入教育も短期間ですむだけでなく、即時性が高いため、意思疎通の迅速化や組織のコミュニケーション活性化などのメリットがある。
ビデオ会議/Web会議
映像や音声を使って、オンライン上で顔を見合わせながらコミュニケ―ションできることから、コロナ禍において一気に普及した。できるだけ訪問や対面を避けなければならない状況において、社内だけでなく顧客や取引先との接点としても用いられている。
会議の参加者は主催者から送られてきたURLをクリックするだけなので、利用のハードルはそれほど高くない。また、無料で使えるツールもある。
バックオフィス/管理者負担軽減サービス
中堅中小企業では経理や総務などのバックオフィスのIT化が遅れ、紙を使った業務フローが依然としてかなりの比率を占めており、リモートワークから取り残されているケースが少なくない。
コロナ禍を機にバックオフィスにクラウドサービスを導入することで、担当者をリモートワークに移行することが可能となる。加えて属人化を解消し、煩雑な入力作業の負担も軽減するなど、リモートワーク下でも業務効率を高めることができる。そのぶん各業務部門とのコミュニケーションが活性化することも期待できる。
ただし、紙の文化からの脱却や業務フローの見直しなど組織全体の改革が必要で、単にITツールを導入するだけでは課題は解決しない。
仮想オフィス
ビデオ会議/Web会議のようにミーティングをするときだけつなぐのではなく、常にオンライン状態であたかもオフィスにいるかのような環境をつくりだす。誰が何をしているかが一目で分かるため、リモートワークにおけるコミュニケーションの取りにくさが解消される。実際のオフィスのように気軽に声をかけ合うことが可能で、他の社員の会話も聞こえることから組織の一体感を維持できる。
ただしITに不慣れな人にとっては、仮想オフィスでコミュニケーションをとることが逆にストレスになったり、勤務状況を常に監視されているという感覚に陥ったりすることもある。こうしたことから全員がスムーズに使いこなせるようになるまでには、事前の説明や研修はもとより、継続的なサポート体制が必要となる場合がある。
また、当然のことながら仮想オフィスを利用するユーザーの人数が増えるほど月額の利用料金は高くなる。常時ネットワークと接続する通信コストを、誰が、どのように負担するのかといった問題も事前に明確化しておくことも大切だ。
- 前編
- 後編