本ウェブサイトでは、JavaScriptおよびスタイルシートを使用しております。
お客さまがご使用のブラウザではスタイルが未適応のため、本来とは異なった表示になっておりますが、情報は問題なくご利用いただけます。
[最終回]業務継続策の立案
2010年6月2日
前回のコラム「感染防止策の立案」では、従業員や顧客の感染を防ぐための感染防止策の立案方法について説明しました。
感染防止策は「個人レベルの感染防止策」と「組織レベルの感染防止策」に分類され、これら2つの感染防止策をバランス良く、パンデミックの進行度に応じて実施することが効率的・効果的な実施方法だということについてご理解いただけたかと思います。
これまで5回にわたって連載してきた本コラムも、今回で最終回です。
簡単に振り返りますと、第1ステップ「全社方針の決定」で継続対象事業と業務を決め、第2ステップ「事業継続体制の立案」でリスクコミュニケーション体制と方法、感染の基準やパンデミックの進行度を定めた各種の基準を決めました。第3ステップでは従業員や顧客の感染を防ぐための感染防止策を立案しました。
ここまでで、パンデミックに対する全社のBC(事業継続)を実現するための周辺環境と、従業員の感染を防ぐ(遅らせる)環境が整いました。
第4ステップ「業務継続策の立案」では実際にパンデミックが発生した際、60%の従業員でBC(事業継続)を実現するための具体策を立案します。
業務継続策の立案こそが、パンデミックに対するBCの本丸というわけです。
![[図] BCP策定の4ステップ](images/cons_column06_10.gif)
第2ステップ「事業継続体制の立案」で行った、リスクコミュニケーション体制・方法の決定を、継続対象事業を構成する事業部/部レベルで行います。
詳しくは本コラムの第3回で説明しておりますので、ここでは決定すべき点のみ列挙いたします。
全社レベルで決定している事項に準拠しつつ、事業部/部ごとに最適な体制・方法を決定します。
パンデミックに対するBC(事業継続)においては、社内の感染者数を基準とする進行度合いがキーとなるため「いかに迅速かつ正確に感染者/欠勤者を把握するか」が重要です。
BC(事業継続)を実現するにあたっての各種の作業を円滑に行うため、第1ステップ「全社方針の決定」では全社のBC主管部門を設置しました。
同じように継続対象事業を構成する事業部/部にもBC主管部門を設置します。
組織の規模によっては部門という形で組織化するのが困難かと思いますので、既存の部門にBC主管部門としての役割を付加する、適当なメンバーによる委員会形式とするなどの方法も考えられます。
いずれにしても、事業部/部のBCを誰が主管するのかを明確にします。今後の作業はこのBC主管部門が中心となって行います。
第1ステップ「全社方針の決定」で事業レベル分析を行い、継続対象事業とそれを構成する継続対象業務が決まりました。
ここでは継続対象業務を担当する事業部/部を分析し、その事業部/部が行う業務のうち継続しない業務(停止対象業務)を洗い出します。
長期間にわたる人手不足が予想されるパンデミック下では、あらかじめ「やらないこと」を決めておくことが大事です。
継続対象業務を担当する事業部/部であっても、継続対象事業との関係が薄い業務があるはずです。そうした業務を洗い出し、あらかじめやらないことを決めておけば、本当に継続しなければならない業務にリソースを集中することができます。
停止対象業務を選定する際には継続対象事業との関係だけでなく、第1ステップの「リスク分析」で考慮したような「他人と近接する業務」や「多数の者を集める業務」であるかどうかについても選定基準とします。
![[図] 継続対象業務の選定とX部門の業務レベルの分析](images/cons_column06_10-1.gif)
業務レベルの分析結果を基に、目標操業度を設定します。
その際ステップ2「事業継続体制の立案」で決めた社内の感染者数に基づくパンデミックの進行度合いごとに設定します。
まん延期には60%の従業員しか出社することができないことを想定し、まずは事業部/部内で60%の従業員でBC(事業継続)を実現できるよう、目標操業度を設定する必要があります。
どうしてもそれができなければ、事業部/部外から従業員を回してもらわなければなりません。
業務を遂行するにあたって、必要なリソースや替えの効かないリソースを把握します。
業務を遂行するために必要なリソースは大きく「ヒト」か「モノ」に分けられ、ヒト・モノ共に社内のリソースと社外のリソースがあります。
これらの観点で必要なリソースを洗い出し、その中で替えの効かないリソースを明確にします。
替えの効かないリソースとしては、属人的な業務を担当する従業員や、特殊な原材料を供給するベンダーなどが考えられます。
「替えが効くか効かないか」は業務継続策を立案する際の非常に重要な情報ですので、必要に応じて現場へのヒアリングなどを行い、正確に把握して下さい。
業務の目標操業度と業務を遂行するために必要なリソースが整理できれば、パンデミックの進行度合いごとの欠勤率と稼働人数から、目標操業度が達成できるかどうかが予測できます。
目標操業度が達成できないことが予測される場合、何らかの施策を打つか目標操業度の見直しの必要があります。
施策を打つ場合、内容によっては投資が必要になることもあるかと思いますので、投資の内容・規模を明らかにし、投資対効果を考慮することも大切です。
社外に替えの効かないリソースがある場合、その調達先の事業継続方針について確認し、調整することが必要です。
| 進行度 | 欠勤率 | 稼働人数 | 目標 操業度 |
必要人数 | 施策 | 投資の要否・内容 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 早期 | 5.0% | 9人 | 100% | 10人 | 部門内の リソース調整 |
無し |
| 拡大期 | 25.0% | 7人 | 80% | 8人 | 他部門からの リソース調達 |
業務マニュアルの整備 |
| まん延期 | 40% | 6人 | 70% | 7人 | ・在宅勤務 ・他部門からの リソース調達 |
・在宅勤務環境の整備 ・業務マニュアルの整備 |
| 回復期 | 25.0% | 7人 | 80% | 8人 | 他部門からの リソース調達 |
業務マニュアルの整備 |
| 小康期 | 5.0% | 9人 | 100% | 10人 | 部門内の リソース調整 |
無し |
継続対象事業を構成する事業部/部から業務継続策が出揃ったら、60%の従業員でBC(事業継続)が実現できる施策になっているかを確認します。
停止する事業や業務を担当する従業員でリソースは足りるのか、特定のリソースの取り合いになっていないかなどを確認し、継続対象事業間で調整します。
これにより立案した業務継続策が机上の空論となることを防ぐことができます。
第1ステップ「全社方針の決定」から第4ステップ「業務継続策の立案」で決定したことをBCP(事業継続計画書)として文書化します。
BCPは通常の製品などと違い、実際に試用することができませんので、訓練を通して評価を行い、問題点を是正するというPDCAサイクルを回します。
停止する事業に携わる従業員は継続対象事業の業務をマニュアルを通じて把握しておく必要があるでしょう。
「決めて終わり」や「文書化して終わり」ではなく、PDCAサイクルを回すことが、組織の事業継続力を高めるための近道です。
2009年の11月より5回にわたって本コラム「今日からはじめるパンデミック用BCPの策定」を連載してきました。
繰り返しになりますが、パンデミックは40%の従業員が出社できなくなり、組織の活動が制限される非常事態です。
こうした非常事態を乗り切るには、平時からコツコツと組織の事業継続力を高めるための活動をしていくほかありません。
非常事態においては事業継続力を備えていることが大きな競争力になることは周知の事実かと思いますが、今後は平時においても事業継続力を備えている企業が評価されるようになっていくでしょう。
パンデミックだけでなく、地震など様々な脅威にさらされるたび、この傾向は強くなっていくと思います。経営者がこうした観点から事業継続力を高めることの重要性を認識し、自らの組織の事業継続力を高めるための活動を積極的に推進することを願ってやみません。
2010年は今のところ2009年の新型インフルエンザ(H1N1型)のようなパンデミックの予兆はありません。代わって宮崎では口蹄疫による被害が拡大しており、まさに「家畜のパンデミック(正確にはエンデミック)」とも言える様相を呈しております。この様子を見て、2009年の新型インフルエンザ(H1N1型)騒動を思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。
パンデミックの脅威を忘れることなく、万一に備えて事業継続力を高めるための活動を推進していくことをおすすめいたします。その際、本コラムが皆様の活動の一助になれば幸いです。
長きにわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。
NECネクサソリューションズ
コンサルタント 吉田 一紀
[ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、情報セキュリティアドミニストレータ]