「ICT×防災対策」を考える
~福知山市(京都府)を歩きながら~

「ぷらぷら☆旅をしながら情報化について考える」 ~ICT×国づくり×人づくり~ [第5回]
2015年2月

執筆者:NPO法人 HINT 理事長、ai株式会社 代表取締役
総務省地域情報化アドバイザー/総務省地域力創造アドバイザー
 井上 あい子(いのうえ あいこ)氏

大江山、生野の山も遠ければ、まだふみもみず天野橋立て

百人一首にも詠まれ、いにしえの時代から、今もなお北近畿の要衝である福知山市は、京都府北部にあります。
「勅使(ちょくし)」や「上天津(かみあまつ)」等、厳かな地名が多くあるのもそのはずで、八百万の神々が伊勢神宮(三重県)に鎮座されるまでは、福知山市にも住まわれていました。

歴史的にも謂れのある所が多く、大江山には、鬼退治伝説があります。
そんな、福知山市には、総務省地域情報化アドバイザーとして関わらせて頂いています。

一昨年に引き続いて昨年も、大雨によって、由良川(一級河川)の決壊があり、福知山市内の広い範囲が水に浸かりました。昔から、たびたび水害が発生していた地域とはいえ、発災後の対応に慣れているシーンのひとつとして、福知山市が所有する船で、救援活動が行われていました。

そして、平時から、地域の世話役をされている【人】が、有事において【要】となり、リーダーシップを発揮される【人】が、ここ福知山市にはいらっしゃいます。

このように、有事の際にも垣間見える、福知山市のたくさんある魅力をギューッと凝縮して、あえて一言で表現すると、【要(かなめ)】があるということです。
当たり前の日常に、そこに暮らす世代を超えた人々の、有事の際にも動ける【人】を育てる土壌のある【要】となる地域です。

自然災害は、待ったなし。人の都合は、問答無用。

防災対策についても、全国の自治体が避けて通れないテーマですが、想定は、【人】が勝手に決めたことで、自然界のリズムが、【人】の思う通りに動くことはあり得ません。災害は、平日の昼間に都合良く起こるという想定をしていませんでしょうか。念のために、これまで考えられてきた防災対策の想定を今一度見直すことが必要ではないかと思います。

電気が点いていることが大前提で、テレビが見られること、携帯電話やインターネットが繋がっていること、蛇口をひねると水が飲めることが当たり前の日常で、何の準備もしていないと、その機能が寸断されて、麻痺をしてしまうと、すべてお手上げの状態になってしまいます。

広域大災害は、起こってほしくはないと心から切に願っていますが、絶対起こるという前提で、あらゆる見直しを想像からでも始めることが、急務であると考えます。

これからは、情報を得る力も必要となる

今年度は、兵庫ニューメディア推進協議会(注1)の調査研究「自治体と広域メディア等が協業した住民への情報発信の仕組みづくりについて」に参画しており、兵庫県下の自治体向けに実施したアンケートの一部を抜粋して記載させて頂きます。

質問内容は、広域大災害が発生することを大前提として考えています。

  • 貴自治体内のシステムは、クラウド化を利用した構成になっていますか?
  • 近隣自治体との情報連携基盤を構築していますか?
  • 防災や災害等緊急時において、ホームページへのアクセスが増加することを想定した、貴自治体のホームページのアクセス制限の切り替え(非常措置)を行っていますか?
  • 貴自治体は、どのメディアを活用(協力)して災害訓練を実施していますか?
  • 有事の際に防災情報提供アプリに切り替わるような、観光アプリを構築していますか?
  • 地上波放送局等と連携した情報発信を行っていますか?
  • テレビ局等が、カメラ撮影や編集、リポートのやり方など、映像情報に関するセミナーを開催する場合、受講したいと思いますか?

質問の内容が、皆様の想定外であったり、準備が整っていない項目があれば、ご参考にして頂ければと思います。

そして、自治体が発信している情報は、実は、自治体が想定している以上に地域住民に伝わっていないのではないかという前提も加味して頂き、外部の視点や生活弱者(ハンディキャップをお持ちである方)の視点から頂く意見をしっかりと聞いて、見直しを図って頂きたいと思います。

ICT×防災対策 普段の準備とご近所付き合いが『鍵』

自治体が、ICTを利活用した防災対策については、近隣の自治体間における普段からのご近所付き合いが大切であると思います。

前回のコラムでご紹介をした、朝来市(兵庫県)は、福知山市(京都府)の西隣にある自治体です。府県を跨いでいますが、水害で被害を受けた福知山市に応援に向かい、罹災証明を発行するために、異なる自治体の職員が、一緒になって災害現場を歩き周りました。「困ったときは、お互いさま」とおっしゃった職員さんをとても微笑ましく思います。

そして、たとえ、研修時であっても、災害を想定してSkypeを使っていた朝来市の職員は、実際に起こった災害現場での情報を対策本部に伝送し、幹部職員に対して情報共有を行い、その後の対策に役立たせた職員さんの姿勢を誇りに思います。

もし、Skypeを伝送した先が、テレビ局と繋がったならば、この伝送された映像は、ニュースに取り上げられる可能性が広がります。もし、広域大災害が起こった時に、自治体が自ら、発信する術を持っていないと、テレビ局が取材を出来ない自治体の情報は、ニュースに取り上げられることは皆無に近いということになります。

  1. 避難場所の情報通信インフラの把握(できればWi-Fiの整備を)
  2. 携帯キャリアごとに受信状況の把握(2キャリアの受信は確保)
  3. 衛星電話の定期点検と操作方法の確認
  4. ソーシャルメディアの利活用
  5. 住民に対する、避難場所の確認・食料品と衛生用品の備蓄の啓発
    (持病のある方は、薬の処方箋の情報がわかるように)

上記は、ICTを利活用した防災対策における普段の準備の一例ですが、様々なICTの利活用が考えられたとしても、その使い手は、【人】であり、すべては【人】に委ねられています。

福知山市は、災害に強いまちづくりを行うために、あらゆる市民の意見を取り入れながら、自治体が所有する施設の管理や運用方法のあり方について、将来を見据えた見直しの検討に入っています。
地域の住民さんは、積極的な自主防災組織を結成し、高齢者や若い世代に配慮をしながら、行政運営に強い関心を持ち、子供や孫世代のまちづくりの【要】について、模索をされています。

★要★とは、物事の最も大切な部分。要点。肝要な箇所のことで、【要】となる【人】がいる地域こそが、災害に強いまちづくりには必要です。総じて、防災対策のためには、そこに暮らす住民と事業者が協力して、普段の準備とご近所付き合いが必要となります。

そこで、先導役(リーダー)となるのは、やはり自治体職員の皆様方だと思います。だからこそ、普段からICTを利活用していないと、イザという時には使えませんし、メディアごとの特性を理解していないと、有事の際に、迅速に正確な情報を一度に多くの人に対して伝達することができません。

そのためには、今一度、情報共有の徹底と情報発信の即時制、今スグにでもできる、皆様の身の回りで使える、ICT利活用から行って頂きたいと思います。

ICT×防災対策を考える前に、普段の準備とご近所付き合い、これまでの既成概念や前提を見直すことが、優先事項です。そして、やっぱり【人】。

第5回のコラムを終えますが、福知山市(京都府)に興味を持たれましたでしょうか? 防災は、普段の準備とご近所付き合いが大切です。防災に関わる【人】が、旅をして、食べてみて、色々と体感して頂かないと・・・とっとと、仕事や用事を片付けて、とにかく外へ出掛けて行って下さい。

何より、本コラムをご覧になって頂きまして、何かのHINTにして頂ければ光栄に思います。

次回は、りんごで有名な弘前市(青森県)を歩きながら「ICT×地域のブランド戦略」について考えてみたいと思います。

どうぞ、お楽しみに・・・伊丹空港から青森までは、ひとっ飛び☆

(注1)企業・学識者・行政が一体となって、地域情報化の推進・調査研究・普及啓発など、ICTにかかるさまざまな活動を行っている。昨年、設立30周年を迎えた。(事務局;兵庫県産業労働部産業振興局 新産業情報課内)

旅のMEMO

福知山市の代表駅への交通

JR山陰本線と播但線、北近畿タンゴ鉄道「福知山」駅 

福知山市のお薦めのスポットの一部をご紹介させて頂きます。
是非とも、神秘に満ちた福知山市においで下さい。

お土産品

  • 足立音衛門 店構えとともに接客は超一流
  • 福知山市唯一の酒蔵仕込み「福知三萬二千石」

お食事処

  • 鳥名子 鴨鍋は超絶品

温泉

  • 福知山温泉 養老の湯・ホテルロイヤルヒル・夜久野高原温泉

宜しければ、blogをご笑納下さい。

※市民交流プラザふくちやま(平時は交流の場。有事は避難場所。)

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