文書整理上の根本的問題
~私物化と不要文書の氾濫~

行政文書管理をめぐる課題と提言 [第2回]
2017年5月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

今回は、文書整理上の根本的問題といわれる「私物化」と「不要文書の氾濫」について述べますが、その前に少し振り返りをしておきましょう。

前回のコラムでは「行政事務は文書に始まり文書に終わる」といわれる所以について、答えを探るため、地方自治体(町村を除く)が定める文書管理関連例規の「第1条」に着目しました。「第1条」には目的規定・趣旨規定が置かれているからです。分析した結果、行政文書管理の目的に関する成熟度レベルは6段階に分けられました。さて、皆様の職場はいかがでしたでしょうか。

あらゆる行政機関には文書管理に関する例規が整備されています。しかし、行政文書管理をめぐる事件は後を絶ちません。そうした中から、保存年限1年未満の行政文書の取り扱いについて2つのケース(ケース1.日報の廃棄に関する問題、ケース2.土地売買の交渉記録の廃棄に関する問題)を取り上げ、その対応について提言しました。皆様の職場には、1年未満で廃棄される文書はどのくらいあるのでしょうか。

「1年未満保存文書」は、当該年度作成・取得した文書の約40%

「1年未満保存文書」の取り扱いについては、公文書管理法の改正に向けた議論の必要性を問う意見がありますが、その量について論及されることはありませんでした。「1年未満保存文書」とは1年未満で廃棄される文書を意味します。「1年未満保存文書」の廃棄に関する調査研究は、管見する限り、1例しかありません。コラム執筆に際し、調査研究の一部公表について打診したところご本人(M氏)の同意が得られたので紹介します。

M氏は現在、宮崎県都城市総合政策部で管理職をされています。平成17年度と平成18年度は山田町役場で総務係長をされていました。当時、山田町には「文書の発生から廃棄に至るプロセス」を管理する仕組みがあり、廃棄については毎週金曜日に全庁分を1カ所に集めて処理していました。M氏は総務係長として文書管理全般を担当していたことで精緻な量的実証調査が行えたのだそうです。その結果、「1年未満保存文書」の廃棄量は、平成17年度は全体の40.6%、平成18年度は39.6%であったと述べています。

また、M氏は「1年未満保存文書」の区分・類型化についても行っています。

  1. 保有している資料等(行政文書の対象ではない)で業務の参考としないもの
  2. 参考としていた資料等(行政文書の対象ではない)で使わなくなったもの
  3. 本来の業務として取り組んでいない文書
  4. 年度中に不要となり移管基準に該当しない文書
  5. 他課が保有している重複文書
  6. 様式が決定しているもの、簡単に作成できるもの
  7. 電子媒体及びシステムで管理している文書で入出力したもの

文書と文書管理は軽視されている?

行政と文書は不離一体の関係にあります。しかし、前回述べたように、文書管理責任者/担当者の話を咀嚼すると、多くの職員が文書及び文書管理ついて大きな誤解をしているのではないかという疑念を持たざるを得ません。

例えば、「文書管理は仕事ではない、だから文書管理に時間をかける余裕はない。特段の専門知識や技術が必要なわけではないし、こんなことは仕事とはいえない。とにかく私は忙しいのだ。」このように文書管理を軽視する声をよく耳にしますが、残念ながら本音のようです。しかし、本当にこれでいいのでしょうか。

文書とは情報(ソフト)を載せた媒体(ハード)です。つまり、文書を管理することは情報を管理することです。文書の管理なくして情報の管理はなし、情報の管理なくして情報の共有はなし、情報の共有なくして情報の活用はなし、情報の活用なくして意思決定の最適化は期待できない、こうなると、自己決定の最適化が求められている地方分権はなかなか進まないのではないでしょうか。

「文書の私物化」とは「情報の共有化」の反対語

官民問わず我が国の組織体における文書整理上の問題点は実に様々ですが、次の二つの項目に整理されるでしょう。ひとつは「文書の私物化」であり、もうひとつは「不要文書の氾濫」です。

先ずは、「文書の私物化」です。「私は私物化なんかしていない!」と気を悪くするかもしれませんが、ここでいう「文書の私物化」とは「情報の共有化」の反対語とお考え下さい。「文書は自分しか使わない、だから自分で管理している。」と業務担当者本人が自己流の管理をしています。周囲にもそういう風潮があるようです。いうなれば「私物化容認意識」ですが、何かの事情があって他の人が探そうと思ってもどこにあるかわからない、これが「文書の私物化」を物語る状態ということになります。

一方「情報の共有化」とは、組織が保有する全ての情報を、組織の共通のルールで分類して管理し、組織に所属する人なら誰でも情報の所在を確認でき、即座に検索できる状態を指します。「情報公開」は全ての自治体の標準装備です。つまり、「文書は行政と住民の共有財産である」という基本理念がありますから、「行政文書は、個人・組織だけのものではなく住民との共有財産である。」ことを再認識することが重要です。

「文書は自分しか使わない、だから自分で管理して何が悪い。」ということが、同じ組織に所属する他の人との「情報の共有化」を阻害する「文書の私物化」になることをご理解いただけたと思います。「文書の私物化」と「私物化容認意識」の払拭は文書管理の前提条件といえます。これがクリアできないと、当面の目標である文書管理による事務効率化支援、更に高次な意思決定の最適化支援に繋げることはできません。

「不要文書の氾濫」 なぜ机の上が乱雑なのか?

とにかく、執務室には必要とは思えない文書が多く、本当に必要な文書が取り出しにくいだけでなく、狭い場所を塞ぐなど執務環境を悪くしていることが散見されます。また、文書庫にも文書以外のモノが混在しており必要な文書を探しにくくしているケースもあります。

M氏の行った「1年未満保存文書」の区分・類型化をもう一度ご確認ください。「1年未満保存文書」区分・類型化について一部例示すると、書籍の案内書・申込書等用件済み文書・回覧の類、2部以上保有している重複した研修資料・会議資料等、そして、過去は業務の参考にしていたが現在は不要となった雑誌・新聞等の陳腐化した文書・資料等などがあげられます。

先ほど述べた「文書の私物化」と「私物化容認意識」が蔓延する職場では、自分で扱った文書の管理責任は各担当者に負わされがちなため、こうした不要文書を捨てられずに執務室にどんどんため込んでしまう傾向にあります。その結果、机の上が乱雑になっているようです。何といっても「1年未満保存文書」は、当該年度作成・取得した文書の40%を占めているわけですから、先ずは、ここに手を打つことが大切です。

第1次フーバー委員会報告とナレムコの統計からわかること

古い話で恐縮ですが、米国連邦政府の保管文書実態調査結果(第1次フーバー委員会報告書1949年)によれば、50%が廃棄対象文書、30%が文書庫で管理すべき保存対象文書、残りの20%がオフィスで管理すべき保管対象文書です。これは洋の東西を問わず、また、官民問わず同様の結果が出ているようです。執務室の文書が2割になれば、机の上は劇的にきれいになりますよね。

そもそも文書をとっておくのは、後から見る必要があるからです。これもまた古い話ですが、米国の記録学会(NAREMCO: National Records Management Council)が行った調査統計があります。一般的に「ナレムコの統計」といわれるものです。この統計によれば、事務員が見る文書の99%が、作成・収集されてから1年以内のものです。つまり、よく見る文書は1年以内のもので、1年を超えた文書は100回に1回の割合で見るに過ぎないということです。つまり、執務室には最大2年分置いておけば事足りるということです。

これで第2回目のコラムを終了します。文書整理上の根本問題は2つに集約されます。「文書の私物化」と「不要文書の氾濫」についてご理解いただけたでしょうか。私物化意識をどのように払拭するのか、不要文書をどのように廃棄するのかお考えいただく機会になれば、と願っております。

次回のテーマは「文書分類による事務の効率化支援~文書検索の高速化を検討する~」です。新しい仕組みを導入して文書検索の高速化に取り組んだ自治体の事例を紹介し、文書管理の成熟度レベル2を達成する方策について考えます。
どうぞお楽しみに。

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