文書分類による事務の効率化支援
~文書検索の高速化を検討する~

行政文書管理をめぐる課題と提言 [第3回]
2017年6月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

今回は、文書検索時間の削減により事務の効率化を支援する文書分類の技法について述べますが、そのためには前提条件があることを思い出して下さい。

前回のコラムで、文書整理上の根本問題は2つに集約されることを話しました。ひとつは「文書の私物化」、もうひとつは「不要文書の氾濫」でしたが、覚えていらっしゃいますか? この問題を片付けないと、文書管理の成熟度を上げることはできません。

文書管理の成熟度レベル1は法令遵守(コンプライアンス)です。つまり、文書管理が法に則り適正に行われている状態を示しています。しかし、私物化意識や私物化容認意識が蔓延する組織では、文書存在の有無さえ確認できず、情報の共有化とは程遠い状態となり、法令遵守が危うい状態です。これらをどのように払拭するのでしょうか?

私物化意識の払拭のための3つのポイント

私物化意識の払拭は職場風土の改善といっても過言ではありません。そう簡単にできるとは思えませんが、これに取り組まないと何も変わりません。文書の管理は行政の裁量行為ではなく、「行政文書は、個人・組織だけのものではなく住民との共有財産である。」という情報公開の基本理念を再認識することが重要です。

ポイント1. 管理対象とする情報の設定

現在、行政文書としての管理対象がすべての文書になっているでしょうか。行政文書を組織共用文書としたために、個人文書が対象外になり、すべての情報が管理の対象となっていないのではないでしょうか?また、対象を完結文書にすれば、未完結文書が対象外となるため、これもすべての情報が管理の対象にならないことになります。文書管理の前提である私物化意識の排除のためには、以下の2点を踏まえ、すべての情報を文書管理の対象にする必要があります。

  • 組織共用文書だけではなく個人文書も管理対象とする
  • 完結文書だけではなく未完結文書も管理対象とする

ポイント2. 全職員の参加

文書分類をする際、全職員の参画が不可欠です。私物化を排除できなければ共有化はできません。現場の情報ありきではなく、一部の専門職が大→中→小と論理的に分類体系を決めてしまう方式(ワリツケ式階層分類)では私物化は排除できません。何故なら、現場の情報は刻々と変化し、既存の分類体系からはみ出し、個人の机の上に積まれる状態になっているからです。

従って、現場の情報ありきで、小→中→大と現実的なグルーピングをしていく分類方法(ツミアゲ式階層分類)を推進していけば検索スピード(自己検索)をアップできます。また、検索の思考順に並べる序列式水平分類を共有することにより、部門の誰でも検索が(他者検索が)可能になりますので情報の共有化は進むと考えられます。

ポイント3. 職場風土改革

私物化払拭は、いわば職場風土改革といえます。一部の専門家が必死に取り組んでも容易なことではありません。全組織をあげて取り組む必要がありますので、指導者の力量が問われるテーマだといえます。まさに、全組織が一丸となって取り組むことが求められています。

文書分類は事務の効率化に役立つのか?

文書管理の成熟度レベル2は行政事務の効率化です。事務の効率化というと抽象的になりますので、例えば、文書検索の高速化というように誰もがわかる目標設定をすればよいと考えます。高速化されれば、検索時間が短縮され、事務の効率化を支援することができるからです。

分類は検索の手段です。高速検索性を可能にする分類方法を採用すれば、労働時間の創出とそれに見合う人件費の削減ができ、労働時間または人件費の資源再配分も可能になります。因みに、「従業員が情報の検索に費やす時間が労働時間の22.5%に達する。」という報告(アメリカの調査会社IDC)もあります。行財政改革が求められている官公庁においてもこうした時間の有効活用は大きな課題となっています。

それでは、高速検索性を確保する分類とは何か、下の図でしっかり確認して下さい。


図1.文書分類による事務の効率化支援

はじめに情報ありきですから,組織が保有するすべての情報を対象にします。次に情報の共有化が前提ですから全員の参画が不可欠です。こうして文書管理の根本問題が解決され、私物化が排除されたら全保有情報を全員参画のもとにツミアゲ式に分類していきます。その際、数のコントロール※や検索キーワード付というノウハウを使います。これによって自己検索性が担保されます。次に検索の思考順に序列式水平分類を行います。これによって他者検索性が担保され、高速検索性が確保されるのです。

※数のコントロールとは、大分類の下の中分類は5±3、中分類の下の小分類は10±5というように適切な数の範囲でコントロールすることにより検索性を高める技術

高速検索性確保により事務効率の改善は可能!

駿河台大学文化情報学研究所が行った「行政文書管理アンケート調査の報告」によれば、文書検索の時間は一人20分/日でした。また、総務省の「地方公務員給与 実態調査結果の概要(平成26年)」によると、地方公務員の平均年収は669万6464円です。

仮に、土日祝日を除く稼働日数は、2017年の場合248日ですから27,000円/日、実働8時間とすれば3,375円/時となります。従って、年間検索時間は20分×248日=82.7時間、金額換算すれば3,375円×82.7時間=279,113円/年ということになります。

これは職員一人当たりの数字ですから、100人いる職場であれば82.7時間×100人=8,270時間、金額換算すれば270,113円×100人=27,011,300円/年です。まさに、「塵も積もれば山となる。」ですね。この効果をどう使うか考えるとワクワクしますね。

それでは、実際、高速検索性を確保する分類方法を導入した地方自治体はどのような効果が得られたのでしょうか。島根県A市、静岡県B市、長崎県C町、埼玉県D市、北海道E町など1文書当たりの平均検索時間は15秒前後です。導入前の検索時間にバラツキはあるものの1分以上かかっていたので大幅な改善となっています。皆様もこうした文書管理の改善に取り組まれてはいかがでしょうか。たかが文書管理、されど文書管理です。

これで第3回目のコラムを終了します。文書管理の前提は私物化意識の払拭です。3つのポイントを組み合わせて効果的に推進することをお奨めします。その上で、高速検索性を確保する文書分類の技法を導入することにより、事務の効率化がさらに進むと考えます。

次回のテーマは「情報活用による意思決定最適化支援~情報装備力の強化について考える」です。情報管理・活用能力を機能させるためには、個々人が収集管理する狭い範囲の文書(情報)だけでは不十分であり、組織が保有するすべての情報を文書管理の対象にすべきであることを再度お話しいたします。
どうぞお楽しみに。

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