変化を感知して問題を顕在化する
~思いを行動に変える問題のとらえ方

自治体職員のための組織風土改革《実践》講座 [第7回]
2014年7月

執筆者:株式会社スコラ・コンサルト 行政経営デザインラボ
    プロセスデザイナー/行政経営デザイナー
    元吉 由紀子(もとよし ゆきこ)氏

職場で一歩踏み出す(3回目)

あなたの職場は、仕事で困ったときに、声をあげやすい状況にありますか?
あなたが困って声をあげたとき、親身になってその理由や背景を聞いてくれる人はいますか?

前々回(第5回)から「職場で一歩踏み出す」をテーマとし、職場における同僚との関わり方について2回連続でお届けしました。人は、困りごとを抱えるなど、何らかの変化を感じることによって、「なんとかしなくては」と問題に気づき、「なんとかしよう」という思いを抱いて、一歩踏み出す行動を起こすことにつながります。

そこで、今回は何をもとに変化を感じ取るのか、そこからどう問題を顕在化していくのか、職場における問題のとらえ方について考えてみたいと思います。

「何かおかしいな?」と感じることはありますか?

日々仕事をしている中で、「何かおかしいな?」「ちょっと変だな」「いつもと違うぞ」と感じることはどれぐらいあるでしょうか。
この問いに対して、「よくあります」と首を縦に振ってうなずく人と、「いやぁ、あまりないですよ。いつも同じ仕事をしていますからね」と首を横に傾けて、応える人がいます。担当する業務は同じでも、身の周りで起っている小さな変化を感知するか否か、その違いはどこから生じるのでしょうか?

“ゆでガエル”になっていませんか?

環境の変化とその感じ方、反応のし方については、しばしば“ゆでガエル”にたとえられることがあります。これは、カエルを熱湯の入った鍋に入れると飛び出すけれど、水の入った鍋に入れて徐々に鍋を温めていくとカエルはそのまま湯だって死んでしまうという状況を表しています。

すなわち、変化が急にやってくるときには、感じ取りやすく、行動を起こしやすいけれど、変化がわずかずつ訪れた場合には、変化を感じにくく、行動を起こしにくい。行動を起こしそびれることが致命傷になってしまうことさえある、ということを意味しています。

役所の仕事においては、地域の課題や住民のニーズは多様化、高度化してきており、環境は常に変化しています。東日本大震災のように急激な変化であれば、「なんとかしなければいけない」とみんなが一斉に動き出すことができますが、徐々に起こる変化(やがて大きな変化につながる可能性を秘めていること)については、つい問題を先送りしてしまっているのではないでしょうか。

役所の職員が日々起こるわずかな変化を敏感に受け止め、その変化から問題を顕在化し、次の行動を起こすことができるかどうか、この変化への感受性と反応力が地域の将来を左右するもとになっていると言っても過言ではありません。

変化を感知するための3つのアプローチ

変化を感じ取ると言っても、いつも同じ業務をこなし、同じメンバーで仕事をしているとなかなか気づきにくいものです。また、役所では法律や規則に則る業務が多くあり、職員が自己の裁量で自由に変えにくいという事由もあるでしょう。そのため、たとえ外部環境が変わっていても、それをそのまま変化として感じ取りにくい組織の状況があるようです。

そこで、変化を感じ取るセンサーをつける一工夫を、仕事の中に組み入れていくことをお勧めします。外の環境変化を感じ取るためには、敢えて外から情報を取り入れる流れをつくり出し、それがどんな情報なのかを顕在化させ問題提起する工夫です。

以下に、3つのアプローチをご紹介します。

1. 住民の声を聞き取る

役所全体で住民の声を聞く仕組みは、方針や計画策定時のニーズ調査やパブリックコメント、コールセンターなど、整備がされてきています。しかしながら、個々の職場における日々の業務の遂行については、まだまだこれから、というところも多いでしょう。

住民のご意見やクレーム等を受け付けるだけでなく、定期的に窓口来訪者にアンケートを取るとか、地域への訪問時に声がけして感想を聞き取るなど、積極的に住民の声を集めることを習慣化していけば、常に外から新しい視点を持ち込み、現状に対する疑問を投げ入れることができます。

2. 現場の実態を書き留める

住民の声にならない動きをキャッチできるのは、住民と身近に接している現場の第一線の職員です。地域でどんなことが起きているのか、庁舎内に来庁された方の状況、そこで見たり聞いたりした事実や実態を記録にしておくことが重要です。

ある町では、地域で集会があるときに、少し早く行って集会所周辺の街区を回り、防災や防犯についての状況を職員が見て回り記録するようにしています。「変化がない」ことがわかることも貴重な情報なのです。そして常に“観察する”眼を持っていればこそ、わずかな変化に気づく力を高めることができるのです。

また、個人の定性的な感覚知で終わらせず、できるだけ定量的に数値化をして残しておくことは、異なる人が同じ目線で情報をとらえ、問題を発見することに役立ちます。

3. 職員の声を集める

住民の声を集めても、その場しのぎの対処療法ですませたり“できない理由”を挙げて返してしまったりするのでは、変えるきっかけとして活かされません。小さなことでも現場で気づいたときに「何に困ったのか」を書き留めておくことや、「もっとこうしておけばよかった」と思えた感想をふり返りメモにして残しておくことは、次の行動を起こすきっかけになります。

住民ではない職員ならではの目線から感じ取ったことを集めておくと、有意義なアイデア集ができていきます。このときにはぜひ派遣職員やパート職員などにも協力をしてもらうとよいでしょう。いろんな勤務先を経験している人たちは、外から中を見る目を持ち、異なる発想からアイデアが生まれやすい人たちと言えるからです。

職員一人ひとりが、変化への感度を高めていくことは、それまで隠れていた問題を顕在化して発見し、そこから自分たちが変わるきっかけをみつけ、動きだす出発点になっていきます。

次回は、感受した問題に対して、どう反応していけばいいのかについてお届けしたいと思います。

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