「アナと雪の女王」の”Let It Go”を聴きながら
~ディズニーを例に情報化について考えてみた~

システムとビジネスモデルの思考実験 [第4回]
2014年8月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

はじめに

「アナと雪の女王」の勢いが止まりません。
興行収入は200億円を達成し、Blu-ray Discの初週売上が151万4,000枚を突破、映像作品史上最高の初週売上を記録しました。 私も「アナと雪の女王」Movie NEXを発売初日に入手した1人ですが、見れば見るほど面白い、と言うか良く出来ていると思います。

この「アナ雪」、構想されたのは70年以上も前に遡ることをご存知でしょうか。
1930年代に(仮題”Snow Queen”)のアニメ化構想があったそうで、ディズニー内部では、同時に「Enchanted Snow Palace from Snow Princess」というアトラクションを作る計画もあったというのですから驚きです。

この「アナ雪」が凄いのは、ディズニーの古典的要素を継承しながら、「ウォルト・ディズニー」の精神を現代に即応するように再定義することで、ディズニーの作品として進化(深化)させているところです。
そして、このようなディズニーの新たな進化は、映像作品だけではなくTDR(東京ディズニーリゾート)内のリアルな空間でも、確認することができます。

そこで今回は、「アナと雪の女王」の”Let It Go”を聴きながら、ディズニーが生み出す世界観を例に、情報化について考えてみました。

「情報」はインフォメーションからインテリジェンスへ

ここで「情報」という言葉について整理したいと思いますが、旧来「情報」の意味は、「インフォメーション」でした。

その後、ネットワーク社会の到来とともに、本当に価値があるのは、「インフォメーション」ではなく、「情報」を加工したもの「インテリジェンス」であることに人々は気付きます。

もう少しベタな言いかたをすれば、一般的な情報(インフォメーション)に情報化(処理)を加えることで高付加価値な情報(インテリジェンス)を生成することになります。

情報化の観点から見れば、一般的なレジャー・観光は観光地を訪れる、その観光地に付随した情報を確認する、そして、その情報を自分の中で情報化(処理)することで高付加価値な満足感を得るという形で推移していきます。

例えば、京都を訪れる観光客は旅行本や映像を見て、京都に関する情報を、事前に自分の中に蓄積します。そして、現地(リアルな観光地)で、その情報を確認するのです。

オリジナル(リアルな京都)を、情報(バーチャルな京都)で確認するのですが、清水寺を訪問した観光客が「テレビで見たのと同じだ」「この清水の舞台からの風景を見たかったんだ」と思った時点で、観光客が、自分自身の中で行う「情報化」の過程では、情報(バーチャルな清水寺)を確認するためにオリジナル(リアルな清水寺)を訪れることになり、主客逆転したような現象が現れるのが、興味深いところです。

メディア主体の情報発信から自分主体の情報発信へ

さて、お話しをTDL(東京ディズニーランド)に戻しますと、現在のTDR(東京ディズニーリゾート)の基礎となる、TDL(東京ディズニーランド)がオープンした1983年、インターネットが登場する以前の時代といってよいと思いますが、一般の人々は、ディズニーについて断片的な情報しか持っていませんでした。

私のような、1960年代に日テレ系で放映されたテレビ番組「ディズニーランド」を見て育った、旧来からのマニアな層以外は、TDL(東京ディズニーランド)の開園で、ディズニーが持つ世界観や情報に触れることになります。

開園当時、TDL(東京ディズニーランド)は、テレビ・雑誌などマスメディアを利用することで、東京ディズニーランドを中心とした、ディズニーの世界観をプロモーションしていきます。

アニメ映画(ディズニークラシック)の放映・販売を始まりとして、1980年代後半に登場する、「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」などの一連の流れを経て、広く一般に、ディズニーの世界観「情報」が認知されていきます。

そして、リアルなパークであるTDL(東京ディズニーランド)は、メディアによって各個人が自分の中に醸成した、バーチャルな情報をリアルに認識・体験する場所として機能することになります。

このネットワーク社会到来前の時代、メディアが主体となって

TDLの情報を得る ⇒ TDLを訪れる ⇒ それを確認する

という形式で、ディズニーの世界観が醸成されていきました。

しかし、このメディア主体の図式は、インターネットの普及による急激な情報化社会の進展とともに、大きな変化を見せはじめます。

上記の形式に、「自分が情報を発信する」がプラスされ、

TDLの情報を得る ⇒ TDLを訪れる ⇒ 確認する⇒ 自分がTDLの情報を発信する

という図式に変化を遂げていくのです。

まず、社会のネットワーク化が急速に進展することで、ディズニーファンや、TDLを訪れたゲスト(来園者)たちが、旧来のメディアではなく、ネットを経由して独自の情報を入手しはじめます。

そして、熱烈なディズニーファンとなった、彼ら・彼女たちは、ホームページ・ブログ・ソーシャルメディアなどを通じて、ディズニーに関する知識・情報を自らが発信するようになります。

ネットには、ディズニーに関するバーチャルな情報が集積され、ディズニーファンは、各個人の嗜好に合致する情報を検索・閲覧していくのです。また、自らがネット上で情報発信することで、TDL・ディズニーに関する情報は、無限の広がりを見せるようになっていきます。

このような、ディズニーファンによる情報発信のカジュアル化や、情報アクセスの多様化は、スマホ・タブレットなどデバイスの普及も伴って、旧来のメディア主導による、情報発信の図式を凌駕するものとなります。

TDLを訪れるゲスト(来園者)達は、自らがディズニーに関する情報を処理することで、それぞれが、自分だけの「ディズニーの世界」を作り上げて来園するのです。

バーチャルな「情報」の増殖に伴うリアルな「現実」の変革

こうなると、情報はより個人に特化したものにカスタマイズされ、既存のメディアがディズニーに関する一元的な情報を発信しても、ディズニーファンであるゲスト達は、そのような情報には興味を示しません。
TDR(東京ディズニーリゾート)では、このようなゲスト達に対応するために、その姿を徐々に変容させてきました。

対応策としては、パーク内の空間・パレード・ショーなどから、ストーリー的要素を可能な限り減少させていきます。そして、その代わりにディズニーの世界観(情報)を羅列するような形で来園者の前に提示することで、個々のゲストが持つ、肥大化したディズニー情報に対応できるように変化させています。

また、ゲスト達は自らの情報発信をパーク内においても行うようになってきました。最近よく目にする、お気に入りの「ダッフィー」に、ハンドメードで作成したダッフィー用のコスチュームを着せて、見てくれと言わんばかりにパーク内で行動する様は、これを象徴するような現象であると思っています。

私は、このパーク内で起こっている現象、リアルな「現実」よりも、バーチャルな「情報」が多面的に増殖していくことで、その「情報」の増大化にともなって、リアルな「現実」が変革していくような現象が、今後は様々な分野においても、現れてくるのではないかと思っています。

冒頭にも書かせていただいたように、情報(インフォメーション)に情報化(処理)を加えることで、高付加価値な情報(インテリジェンス)を生成する、そして、それを反映させるようなシステムやビジネスモデルを創生していくことが重要であると考えます。

今回は「ディズニー」の世界観を例に、「情報化」について考えてみましたが、このコラムでは、今後もこのような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考えて行ければと思っています。

最後に「ウォルト・ディズニー」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り成長し続ける。」
(Disneyland will never be completed. It will continue to grow as long as there is imagination left in the world.)

それでは、次回をお楽しみに・・・

上へ戻る