SIMロック解除と格安スマホは何をもたらすのか
~スマホのビジネスモデルについて考えてみた~

情報化モデルとICTを巡るポリフォニー [第2回]
2015年5月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

格安スマホの動向

最近、「SIMロック解除」と「格安スマホ」の話題をよく耳にします。
「格安スマホ」は、安価な「スマートフォン」端末と、格安な「SIMカード」(電話番号・契約情報等を書き込んだICチップ)を組み合わせたサービスの総称ですが、5月から始まる「SIMロック解除」義務化によって、「格安スマホ」が本格的に普及する予感がしています。

前回のコラムでは、メディア的観点から「スマホ」についてお話しましたが、今回は「SIMロック解除」と「格安スマホ」の動向について、考えてみたいと思います。

2013年11月「格安スマホ」の草分けである、ITベンチャー「フリービット」がMVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを開始しました。当初は、少数のマニアックなユーザーが利用するニッチなマーケットでしたが、2014年4月に流通大手の「イオン」が参入することで一般的なものとなり、その後「ビッグカメラ」が店舗に専用カウンターを設置したこともあり、最近はその認知度が急速に高まっています。

2014年10月に、傘下のフュージョン・コミュニケーションズを通じてサービスを始めた「楽天」の三木谷浩史会長兼社長は、今後3~4年で契約目標1000万台を達成したいと公言していますし、その他にもインターネットプロバイダー「ニフティ」や、「NTTレゾナント」、「ブックオフ」など、同年中に「格安スマホ」市場には幅広い業種から約20社が新規参入しています。

また、ブックオフの「格安スマホ」が解約時の違約金、俗にいう「2年縛り」を撤廃したり、「NTTレゾナント」がポータルサイト「goo」の運営ノウハウを活用した、「教えて!goo」のスマホ向けアプリの提供、「goo防災アプリ」の機能性向上や、訪日外国人向け観光サービスのレコメンド機能など、スマホを巡る新たな動きにも注目が集まっています。

そしてついに、5月から新たに発売される端末については、SIMロック解除が義務化されることになりました。
総務省では、端末のSIMロック解除を通信事業者に義務付け、大手事業者から MVNOへの乗り換えを容易にすることで、通信市場の活性化を目指すとしていますが、同省では、携帯キャリア大手に電波の周波数帯を割り当てる際の基準の一つとして、 MVNOへのネットワーク貸出体制を評価するともしていますので、SIMロック解除義務化によって、「格安スマホ」がより身近な存在になっていくのかも知れません。

世界のスマホ販売シェアを見てみると、「iPhone」を販売する「アップル」が上位を占めているのは日本と米国の二国だけの現象です。

ヨーロッパでも「アップル」のシェアは1割程度で、新興国では、中国メーカーや新興国の地場メーカーが製作する、100ドル前後のローコストなスマホが市場を席巻しています。

「初代iPhone」登場から8年、スマホは急速な普及とともに、コモディティー化が進展し、いまやどの企業でも安価な端末が容易に製作できる時代が到来しています。

「アップル」などの一部の大手端末メーカーでは、次なるイノベーションを求めて、ウエアラブルデバイス市場の獲得に躍起になっていますが、これまでに登場したリストバンド型デバイスや、眼鏡型デバイスが市場を席巻するような、キラーデバイス的な存在にはなりきれていないのが現実です。

一方でスマホは、パソコンに連なるパーソナルコンピューティング端末の歴史の中で、究極的な存在と言えるほどに、使い勝手や端末形状など完成度の高いものになり、世界中の人々が標準的に使う、真の意味での「携帯端末」になる可能性があります。

「Google」の発表によると、世界のスマホユーザーは17億5000万人と言われていますが、「Google」では、残りの人口50億人にスマホを届けるため「Android One」と呼ばれる、低価格なスマホプラットフォームを提供しています。

いまや、スマホのメイン市場は、新興国をはじめとした「次の50億人市場」に移行しつつありますが、日常持ち歩く情報端末として、一定の機能さえあれば、端末そのものやメーカーに対するこだわりなどは薄れていく傾向にあります。

「格安スマホ」の登場は、スマートフォンそのものが成熟期を迎えていることを表していますが、スマホは現在のパソコンと同じように、その存在が当たり前のものになり、本体の形状や個別の機能などに一喜一憂することはないのが現状です。

すでに、我々ユーザーは新たな機能の追加には期待していませんし、単に機能を訴求するだけでは、共感を得ることが難しくなってきているのも事実です。下手に中途半端な機能を追加すると、かえって使いづらくなる、逆効果をもたらすことも容易に想像することができます。

これからのスマホを取り巻く情勢は、新興国における「格安スマホ」を中心とした、モバイル端末市場のパイを奪い合うようなかたちで、現地のメーカーを巻き込んだ、世界的規模の陣取りゲームの様相を呈していくのでしょうか。

振り返ってみると、情報端末としてのスマホは「iモード」などのキャリア端末が席巻した「ケータイ」の時代、そしてアップルの「iPhone」がスマホ革命を起こしたこの8年間が、特殊な時代だったのかもしれません。

本来、マーケットは企業が自らの技術を誇示するための場ではなく、利用者に対していかにベネフィットを提供できるか、ユーザーの共感をどれだけ得ることができるかが問われる戦場なのです。

「モノ」はハードとしての個体の機能が成熟してくると、「普及」から「利用」へとユーザーの心は「モノ」から「コト」に移り変わっていきます。「利用」を広げるのはハード「モノ」ではなく、アプリなどの「ソフト」が主役となった「サービス」であることを我々は知っています。

今後のスマートフォンを巡るサービスモデル

このような状況の中、「日本郵便」が「格安スマホ」事業への参入を検討しているようです。
具体的なスケジュールは公表されていませんが、携帯大手から通信回線を借り受け、自社ブランドの端末やサービスを提供する、仮想移動体通信事業者(MVNO)として2015年度中にも事業を開始し、15年度の株式上場を目指すなどの情報もあります。

その実現性については現時点では定かではありませんが、もし実現すれば今後の「格安スマホ」を巡る台風の目となるのは必至です。

「日本郵便」は、他の事業者と差別化できる、「販路」と「他サービスとの連携」の二つの大きな要素をすでに保有しています。

もし実現すれば、全国に24,000ある郵便局のネットワークを「販路」として活用することが可能になりますが、店舗数で比較すれば、通信業界大手のドコモショップ約2400店舗を遙かに凌駕し、コンビニ大手「セブンイレブン」の店舗数17,177店(14年11月末)も上回る巨大な店舗網が実現することになります。

郵便局を窓口として考えた場合、「かんぽ生命」などの保険事業で使用している契約に必要なスペースが郵便局内に整備されているのも大きな利点です。既存の「かんぽ生命」の顧客にとっては、心理的抵抗感がないことも顧客の獲得に有利に働くことが予想されます。

「他サービスとの提携」では、「格安スマホ」を「eコマース」分野で活用することが想定されます。ゆうちょの「金融」、郵便の「物流」を「格安スマホ」で連携させれば、いままでにない、「eコマース」サービスが実現することになります。

現にヨーロッパ諸国では、郵便局を携帯のサービス拠点として活用していますし、フランス・イタリアの郵便事業者は携帯子会社を傘下に保有して、郵便・物流・金融などのサービスを展開しています。

現時点では、参入を検討というそれ以上の、具体的な話は聞こえてきませんが、もし実現すれば、「SIMロック解除」と「格安スマホ」を巡る動向の目玉になることは、間違いありませんので、今後の動きを注視していきたいと思っています。

今回は「SIMロック解除」と「格安スマホ」を例に、今後のスマートフォンを巡るサービスモデルについて考えてみましたが、このコラムでは、今後もこのような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考えたいと思っています。

最後にフォード・モーターの創業者「ヘンリー・フォード」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「今こそ大きなチャンスの時である。だがそれを知っている人は実に少ない。」

それでは、次回をお楽しみに・・・

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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