システムで「民意」を把握することは可能か
~ソーシャルリスニングについて考えてみた~

情報化モデルとICTを巡るポリフォニー [第3回]
2015年6月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

大阪都構想から見た「民意」の把握

先月、5月17日の大阪市を廃止し5つの特別区に分割する「大阪都構想」の住民投票は僅差で否決されました。

コラム読者の皆さまもご存知のとおり、開票の結果は、約0.8ポイントの僅差で反対が賛成を上回り大阪市の存続が決まったのですが、この結果については、大阪市は存続させるものの、いまの大阪市が抱える課題は早急に解決する必要があることを、大阪市民の「民意」が絶妙のバランス感覚で示した結果だと私は考えます。

しかし、このような重い決断を市民に迫ることが本当の意味での民主主義なのでしょうか。私は、行政が地域住民の本意を様々な手法でリサーチし、それを元に策定した政策を議会で時間を掛けて充分に審議し、結論を導き出すことが本来の姿ではないかと思っています。

今回のコラムでは、「大阪都構想」と呼ばれる大阪市の解体構想についての住民投票が終わったのをうけて、システムで住民の「民意」を把握することができるとすればどのような方法があるのか考えてみました。

もちろん、システムだけで地域住民の意向が全て把握できるとは思っていませんが、「民意」というものにたどり着く方法の一つの選択肢として検討してみる価値はあると考えます。

ソーシャルリスニングを活用し、地域の声を集約

皆さんは「ソーシャルリスニング」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。企業のマーケティング活動などでは、ネット上のブログ記事・ソーシャルメディア「Twitter」のつぶやき等のデータを「検索」することで、ユーザーの本音や潜在的ニーズを導き出し企業活動に活かす方法として「ソーシャルリスニング」はいまや必須の要素となっています。

ソーシャルメディアが登場する以前、企業が顧客の声を集約する手法として、街頭調査や書面によるアンケートがありましたが、「ソーシャルリスニング」ではネット上に流れるニュートラルな発言を捉えるため、ユーザーのリアルな生の声「本音」を把握することができるようになりました。

自治体が「ソーシャルリスニング」を利活用すれば、地域に関するネガティブな発言を注視することによる「リスク対策」や、地域住民に潜在する要望などの声を精査することで、今後の施策展開に活用することが可能になると思われます。

自治体が「ソーシャルリスニング」を有効活用するためには、まず自治体名や地域の名称等に関する「キーワード」をソーシャルメディアから効果的に抽出するための「検索方法」を理解する必要があります。

例えば、自治体名・地域名等の「ビッグキーワード」で検索すると膨大なデータ量に面食らうことになりますので、「地域名 and リスクキーワード」での検索や、「自治体名 not 不要ジャンルキーワード」の検索で、不要なキーワードを排除する「検索」が有効です。

つぎに、「ソーシャルリスニング」を利用する際の要点などについて考えてみたいと思います。

自治体に対するブランドイメージ調査

「ソーシャルリスニング」では、いま地域住民が何に興味を持っているのか、役所や行政サービスについて何に価値を感じているのか、どのような生活シーンで利用しているのかなど、旧来の調査手法では把握することが困難であった、漠然とした概念に対して情報収集することが可能になります。

民間企業では「組織・部門」、「業務プロセス」、「商品・サービス」等のカテゴリーに分類して企業活動を把握する傾向がありますが、顧客・ユーザー側では、「解決してほしい課題」、「ブランドイメージ・企業全体を通して提供される体験」、「商品/サービスの品質が良くても全体として感じる不便さ」、「企業側で想定してない利用シーン」など、あらゆる観点から商品・サービスを評価している傾向があります。

行政分野においても「ソーシャルリスニング」を活用して、ソーシャルメディア上で日常的に発信されている地域住民の本音を抽出することで、どうすれば行政サービスや事業展開の価値を向上させることにつながるのかなど、ブランディング・ブランドイメージ調査のような利用も可能であると思われます。

新たな施策展開への活用

また「ソーシャルリスニング」では、個別のサービスに関する投稿を収集・分析することで、評判や改善点を具体的に把握することも可能であると考えます。

例えば、企業などではユーザーの声を集めるために「お客様相談窓口」を開設していますが、その窓口へとどく苦情や問い合わせは、解決したい強い欲求や要望を抱えた人からのものが多くなる傾向にあります。

一方でソーシャルメディアの発言では、その時の気分やノリで気軽に発信する傾向がありますので、ネガティブな要素だけでなく、ポジティブな投稿が多いのも特徴ですから、不満を見つけ出したときに改善につなげていくのは当たり前ですが、ポジティブな投稿を集約して新たな施策の展開につなげることができると思います。

なお、投稿日時のデータを持つソーシャルメディアでは、時系列で評判の変化を追うことができますので、イベントなどを実施した際に、その効果をすぐに把握することができるのも「ソーシャルリスニング」特徴の一つです。

イベント等の効果測定

「ソーシャルリスニング」では、タイムリーな評価・評判を把握できることは、前に書いたとおりですが、新たなプロモーションが住民にどのように受け止められたのか、好意的なのか、また逆に反感を持たれたのかなど、良くも悪くも反響の大きさをリアルタイムに確認することができることも興味深いところです。

結果を早く把握することで、次のアクション(軌道修正や新たな事業展開)に反映させることも可能であると考えます。

アンケート調査との併用

アンケートを実施する際に「ソーシャルリスニング」を活用することも有益な手段です。

アンケート結果を有益なものとするには、適切な設問を設定する必要がありますが、それを導き出すための基となる情報を「ソーシャルリスニング」で抽出することで、アンケートの設問が実情に則したものになり、ふたつの手法を組み合わせることで、アンケートの内容をより充実したものにすることが可能になります。

今回は、ソーシャルメディアで住民の声を聞く手法について考えてみましたが、「ソーシャルリスニング」を万能ツールのように言うつもりはありません。

しかし、誰もが利用できるネット上のツールを上手に利用することで、ネガティブな発言に対応した早目の「リスク対策」や、地域住民に潜在する要望などの声を施策に反映させることで、住民満足度を向上させることもできるのではないでしょうか。

ご参考までに、ネット上のフリーで利用できるツールをご紹介します。

Googleトレンドの登録機能(メール通知)(注1)

Googleトレンドの「登録」機能を使うと、そのキーワードでのGoogle検索ボリュームに大きな増加があった際、検索トラフィックでどれだけ増加したのかGoogleからのメールを受信することができます。(Googleアカウントでのログインが必要となります)

Yahoo!リアルタイム検索(注2)

Yahoo!リアルタイム検索を利用すると、そのキーワードがTwitterとFacebookで発言された状況を知ることができます。

また、Yahoo!リアルタイム検索のスマートフォンアプリを使うと、特定のキーワードでツイートや投稿があった際に、「スマートフォンにプッシュ通知(アラート)」させることも可能です。

Google検索での「24時間以内」等の期間指定

Google検索には、「いつGoogle検索にインデックスされたページか」を基準に検索結果をフィルタするオプション機能があります。

キーワードで検索した後、検索結果上部のメニューにある「検索ツール」から、「期間指定なし」となっている期間指定を「24時間以内」「1週間以内」などに指定することで、該当期間内にインデックスされたページのみを結果表示させることができます。

今回のコラムでは「ソーシャルリスニング」を例に、住民の民意を把握するためのツールについて考えてみましたが、このコラムでは、今後もこのような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考察したいと思っています。

最後に英国の政治家「ウィンストン・チャーチル」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。
風に流されている時ではない。」

それでは、次回をお楽しみに・・・


ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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