2017年はスマートスピーカー元年と呼ばれるのか
~AIアシスタントデバイスの可能性を考える~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第4回]
2017年7月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

スマートスピーカー市場の活性化

Appleは先月6月5日、同社の音声アシスタント「Siri」を搭載したスマートスピーカー「HomePod」を、今年12月に米国、英国、オーストラリアで発売すると発表しました。このApple「HomePod」の登場によって、Amazonの「Amazon Echo」や、Googleの「Google Home」等のスマートスピーカー市場が一気に活性化する気配を見せています。

日本国内では未だ製品がリリースされていない関係で、大きな盛り上がりはないものの、Googleが「Google Home」を2017年後半に日本を含む5カ国で発売をすることを予定していることや、LINEがスマートスピーカー「WAVE」の先行販売を今夏から開始し、今秋には正式版のリリースを発表するなど、スマートスピーカー分野への注目度が日増しに高まりつつあります。

「スマートスピーカー」とは、ネット接続する無線通信機能と音声操作のアシスタント機能を持つ、AIスピーカー・スマートスピーカーなどと呼ばれるデバイスの総称で、Amazonが2014年に市場に投入した「Amazon Echo」が最初の製品です。端的に言えば「音声コマンドに対して、音声情報や動作で返す」生活支援ツールとも言えます。

「Amazon Echo」は、直径84mm×高さ235mmの筐体で、上部にはコントロールに関連したボタンが配置され、”Alexa”と呼びかけるとリングが青く光って、待機モードになり、音声で指示すると、天気予報やニュースを読み上げます。また、音楽・オーディオブックの再生機能を搭載し、Amazon.comでは179ドル前後の価格で購入することができます。

なお、「Amazon Echo」には複数のラインナップがあり、室内での使用を想定したフル機能の「Echo」、バッテリー内蔵で持ち歩きが可能な「Tap」、外部スピーカーに接続するのを前提にした廉価版「Echo Dot」の3種類が市販されています。

このスマートスピーカー市場ですが、昨年12月28日付Business Insider誌の記事では、2015年に240万台、2016年には520万台の「Amazon Echo」が販売されたと記されています。米国内ではリビングに設置したスピーカー型デバイスに話しかけることで天気予報を調べる他、各種情報の検索、音楽コンテンツの再生、家電やクルマの遠隔操作を可能にするなど、Amazonの音声認識AIアシスタント「Alexa」を中心としたサービス基盤が形成されてきています。家電メーカー側の認識としては「家庭にはスマートスピーカーが普及しつつあり、家電と連携する機能は求められて当然」という状況になっています。

米国の調査会社イーマーケッター社が2017年3月に発表した資料では、アメリカ国内でのスマートスピーカー市場のシェアは「Amazon Echo」70.6%に対して、「Google Home」が23.8%となっています。さらに、それを実証するように、今年1月に開催された家電の国際見本市CESでも、最も話題を集めたのがAmazonのAIアシスタント「Alexa」と「Amazon Echo」に関連した展示です。

このCES会場では、Coway社の空気清浄機や、フォルクスワーゲン(VW)の音声操作可能な車載システム、LGのレシピを音声検索してAmazonに注文ができる冷蔵庫「LG Smart InstaView Refrigerator」などが展示され、今年のCESで発表されたものだけでも、新たに700を超える家電やサービスが「Alexa」につながり、AIによる音声認識と会話だけで操作可能な世界が実現していることを実感させるものになりました。

一方、Googleでは2014年から運用開始して先行する「Amazon Echo」に対して、昨年11月に自然言語処理機能「Google Assistant」を搭載し、個人を識別する能力を備えたスピーカー型デバイス「Google Home」を「Amazon Echo」より50ドル安い129ドルの価格設定で市場に投入して対抗する姿勢を鮮明にしています。

「Google Home」はGmailやGoogle Calendarと連携することで、ユーザーが問いかけなくてもカレンダーに予定が入っていれば、交通状況を見て「早めに出発した方がいいですよ!」と通知する機能や、今日のスケジュールをTV画面に表示する機能を搭載しています。このような個人に寄りそったサービスをより強化して、ユーザーをアシストする機能を充実させて行けば、後発のGoogleにも勝算は十分あると思われます。

また、他の事業者では、Microsoftがオーディオ機器メーカーHarman Kardon社のスピーカーにMicrosoftの音声アシスタント「Cortana」を搭載し、音楽の再生や予定の確認、リマインダの設定、ニュースチェック、家電・ホームデバイスの制御などの機能を搭載したスマートスピーカーMicrosoft Harman Kardon「Invoke」を今年の秋に発売すると発表しています。

日本のスマートスピーカー

これら海外のライバルに対して日本国内の動向は、LINEとNAVERが共同開発するクラウドAIプラットフォーム「Clova」を搭載した、LINEのスマートスピーカー「WAVE」が、LINEと連携してメッセージ・LINEニュースを読み上げたり、LINEの通知などコミュニケーションにも利用できる機能や、「LINE MUSIC」のユーザーの好みを学習することで、その時の気分や雰囲気に合わせたオススメの楽曲をレコメンドするサービスを提供するとしています。

このLINEのスマートスピーカー「WAVE」ですが、今年の夏頃に音楽再生機能に特化したバージョンを販売予定価格1万円で先行してリリース、今年の秋頃には機能を強化した正式版が予定価格1万5千円で市販され、同時に先行バージョンについてもアップデートされる予定です。また、LINE「WAVE」の他にディスプレイ付きのLINE「FACE」、モバイル利用を意識したデザインのLINE「CHAMP」の発売も予定されています。

LINEのスマートスピーカーの強みは、何と言っても国内企業が提供する安心の日本語対応と、国内企業とのサービス連携の可能性、「LINE MUSIC」など親和性の高い既存コンテンツ、そして日本をはじめ、台湾やタイなどで展開する「メッセンジャーサービス」の運用ノウハウを活かしたサービス展開です。

そして、キラーコンテンツになると思われるのが、LINEというコミュニケーションインフラを活用した各種サービスとの連携で、これは他社には実現できない領域になります。また、モバイル利用を意識したLINE「CHAMP」に対して、国内の通信事業者がSIMを提供してセット販売すれば、一気にブレイクする可能性もあります。

LINE「WAVE」は音声認識用マイクを4基内蔵し、5m離れた距離からの発話も正確に認識することが可能で、赤外線通信機能によるエアコンのコントロールや、2,000以上のテレビを操作できるスマートホーム機能を搭載しています。

LINEでは、AI「Clova」を搭載したデバイス「Clova Inside」を、今後パートナー企業と協力して増加させていく方針で、ソニーモバイルコミュニケーションズ、LGエレクトロニクス、タカラトミー、ヤマハの歌声合成技術「VOCALOID」と連携するなど、各種事業者との関係性を強化して、新しい音楽体験への挑戦や、あらゆるシーン・環境にAIが溶け込む世界を目指すとしています。

また“好きなキャラクターと一緒に暮らせる”をコンセプトに、より親しみの持てるキャラクターをインターフェースとしたバーチャルホームロボット「Gatebox」を開発するウィンクル社と資本業務提携を締結するなど、新たな試みにも挑戦していますので、LINEのコミュニケーションインフラを活用したAI「Clova」が、より自然に対話できる会話型へと進化すれば、ユーザーにとってスマートスピーカーは、一緒に生活する家族のような存在になるのかもしれません。

小売業界との連携

さらに、生活支援サービスの分野では、自動車向けの展開としてトヨタが提唱するコネクテッドカー規格との連携、新たなコンビニエンスストア向けの展開としてファミリーマートと「Clova」を用いた各種サービスを次世代型店舗に導入することについても協力していくとしています。

この自動車業界を巡る動きでは、トヨタとフォードが中心となり、マツダ・ダイハツ・スバル・プジョーシトロエンなどの自動車メーカー各社が加盟するコンソーシアムが推進する、スマートフォン/タブレットアプリとの連携規格「SDL(Smart Device Link)」と、LINEのAI「Clova」を連携させた製品展開を検討するとして、協業基本合意書を締結しています。

トヨタが提唱する「SDL」の最大の特徴は、ドライバーにとっての安全な環境を実現することです。具体的なサービスイメージでいえば、運転中にLINEで急な連絡が入った場合、ダッシュボードなどのタッチパネルに触れずに、マイクとスピーカーを使って、メッセージの読み上げを聞き、そのまま声で返信が可能になるなど、ドライバビリティを向上させる、モビリティメッセンジャーサービスの実現が期待されています。

コンビニ業界との連携については、ファミリーマートの店頭でLINEのAI「Clova」を活用することで、顧客のニーズや購買履歴に適応したサービス基盤を構築することが可能となります。これによりLINE Payによる決済や、店内の顧客の動線と連動したディスプレイによる商品案内とセール情報の発信、外国人向けのポップ(商品説明)の自動翻訳、欠品状況や需要予測に基づく発注管理など、新たなマーケティングが可能になります。

このような小売業界と関連した動向では、米国内においてAmazonが小売り大手Whole Foodsを買収することによってオンライン市場のみではなく、オフライン市場にも本格参戦することが確実になり、対するウォルマートを初めとする既存のスーパーマーケット各社もIT技術でサービス品質の向上を目指していると伝えられています。

今年は様々な業界において、スマートスピーカーの開発競争から派生した、オンラインとオフライン、そして業界の垣根を越えた、熾烈な戦いが本格化する予感がしますが、我が国においても、2017年はスマートスピーカー元年と呼ばれる年になるのでしょうか。 しばらくは、スマートスピーカーを巡る動向から目が離せないと思っています。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

上へ戻る