AI・IoT時代の覇権を制するものは誰か?
~クラウドネイティブ各社の戦略を考える~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第8回]
2017年12月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

Aiの進化による音声アシスタントの音声認識レベルの向上

以前このコラムで、iOS「Siri」やAndroid「Google Assistant」などの音声アシスタント機能を搭載した「スマートスピーカー」がアメリカを中心に海外で人気が高まっている状況をお伝えしましたが、先月には日本市場参入に関する情報について、各社から相次いで発表されました。

まず、10月2日にAmazonが、自社開発の音声アシスタント「Alexa」を搭載した「Amazon Echo」を、年内に日本市場に投入すると発表しました。そして、このAmazonに追随するかのように、10月5日にはグーグルが「Google Home」「Google Home Mini」の2機種を発表、翌日6日には「Google Home」の販売を開始しています。

この「スマートスピーカー」が次々に登場する背景には何があるのでしょうか。その要因としては、人間が話し掛けた言葉を解釈して適切な答えを返すAI(人工知能)が急速に進化し、音声アシスタントの音声認識レベルが実用段階に達したことが挙げられます。

IoT(Internet of Things)の進展によって、音声アシスタントは今後、テレビ・照明機器などの家電製品に搭載されることが予想されます。そして、この家電等のデバイスに話し掛けて機器を操作するAIを中心としたインターフェースが、次の時代のプラットフォームとして一般的なものになると思われます。

さらに、このAIを活用した音声認識プラットフォームの覇者になるため、ネット企業大手各社は自社製音声アシスタントを普及させることに、しのぎを削るような展開となり、今後その覇権をめぐる争いがますます激化していくと考えられます。

このような状況の中、Googleは10月4日にサンフランシスコで開催されたイベントにおいて、新型スマートフォン「Piexel 2」やスマートスピーカー、AI搭載のワイヤレスイヤホンやカメラ、新型Chromebook、VRゴーグルなど数多くの製品を相次いで発表しました。

このイベントで発表された製品の中で最も注目を集めたのが、日本語を含む40カ国語に対応するリアルタイム翻訳機能「Google Translate on Pixel」を搭載し、異なる言語を話す相手との会話をリアルタイムで翻訳することが可能な、同社初のワイヤレスイヤホン「Pixel Buds」です。

このワイヤレスイヤホンの特長を一言でいえば、Google製スマートフォン「Piexel 2」とあわせて使用することで、Googleのリアルタイム翻訳機能を「Pixel Buds」経由で利用できるところにあります。

例えば、ドイツ語で会話がしたい場合、右ユニットのボタンを押して「Help me, speak German」と言えばドイツ語モードとなり、ユーザーが話した言葉を翻訳、スマートフォンのラウドスピーカーを通じて相手に意思を伝えることができます。
そして、相手がドイツ語で話し掛けた言葉をイヤホン内蔵のマイクが拾って、リアルタイム翻訳した内容をイヤホンから聞くことができます。

もちろん、従来のGoogle Assistant機能も音声でコントロールできますので、スケジュールや着信メッセージの読み上げ、音楽再生などにも対応。価格は159ドル、米国内で11月中に発売される予定です。
なお、翻訳可能な40カ国語の中に日本語は入ってはいますが、日本での発売時期は未定とのことです。

さて、このような最近のGoogleの動向には興味深い点が多々ありますが、なぜ、Googleは今になって様々な製品・サービスを次々にリリースするのでしょうか。

競合他社の製品を見ると、Appleの「iPhone X」は現行のスマートフォンでは最高レベルのスペックを誇り、12月に発売される「Home Pod」も、Googleの「Home Max」を含む現行スマートスピーカーの中では、音質が最も優れていると言われています。

しかしその一方で、ハイエンドな機器類を純粋にその構成要素から考えると、ハードウェア的な観点では製品ごとの差別化が困難になってきていることも事実で、スマートフォンの進化が一定レベルまで到達した各社の上位機種においては、搭載するCPUやメモリなど、ハードウェアのスペックから見ると大きな差は見出せません。

今後、デバイス等のハードウェアはハイエンドなスペックを誇る機器であっても、AI、ビッグデータ、クラウドネットワークが連携・融合した形で提供される、サービスを体現するための単なるツールの位置づけになっていくと思われます。

現に、10月4日のイベントでGoogleの担当者は、「AIソフトウェアとハードウェアを組み合わせることで、競合製品にはない優れたユーザー体験を提供することが可能になった」と語っています。

クラウドネイティブの三社が目指す新たなビジネスモデルとは

このように見てくると、クラウドネイティブと呼ばれるApple、Google、Amazon 三社が目指す、新たなビジネスモデル構築へ向けたアプローチ手法が、三者三様に異なっているところに興味を惹かれます。

Appleの場合、スマートフォンに搭載するCPUチップから自社で設計を行い、ハードウェアからOSソフトウェアまで、ベストなユーザーエクスペリエンスを提供するために、垂直統合型のアプローチを展開しています。

Appleのビジネスモデルでは、最新のハードウェアを最大限活用するにはソフトウェアが重要であり、真のユーザーファーストを実現するには、ハードウェア・ソフトウェアの一体とした開発が必要なことを、iPhoneの成功事例で証明して見せました。

このAppleの垂直統合型モデルに対して、Googleではコモディティ化するハードウェアを使用しながらも、Android (OS)を供給するなど、卓越した技術力を駆使しソフトウェア・アプリケーション開発を行うことで、他の関連企業と共にユーザーへのベネフィット提供を第一に差別化を図る、水平展開型の事業を展開しています。

いま、我々はスマートフォン・パソコンを日常的に使用していますが、何かの物事を調べる場合「ググる(検索する)」という行為は、もはや無くてはならない存在になった感があります。

このように、生活基盤に密着したユーザーベネフィットを追求するGoogleでは、ハードウェア・ソフトウェアの垣根を超えた、包括的なビジネスモデルの展開を目指しているように思われます。

そして、このGoogleの企業戦略に大きな影響を与えたのは、Amazonではないでしょうか。
Amazonは電子書籍用のデバイス「Kindle」で自社が提供するサービス専用のハードウェアを供給することの重要性を学習し、「Fire TV」、「Fire Stick」、「Amazon Echo」と製品をリリースするごとに、着実にその存在感を高めています。

Amazonのビジネスモデルが競合他社と大きく異なるところは、ハードウェア販売による収益確保を第一の目標にしていない点にあります。Amazonの会員サービス「Amazonプライム」に加入しているメンバーに、より良い形のユーザーエクスペリエンスを提供することで会員を増加させ、そのメンバーを中心にAmazonが提供する環境の中で包括的なサービスを展開するビジョンを描いているのです。

このような、言わばコミュニティビジネス的なAmazonの戦略が進展すると、Amazonが描く世界観の中で「モノ」だけではなく、「コト(サービス)」を販売していく事も可能になります。現に、米国内でAmazonは家庭内の家事などをサポートするサービス 「Amazon Home Services」を2015年3月からスタートさせ、2016年11月からは全米50都市に拡大しています。

これまで Googleは、Apple等のライバル企業の動向を注視してきたと思われます。これには、Amazonの音声認識AIアシスタント「Alexa」を中心としたサービス基盤が形成され、様々な家電製品・サービスが「Alexa」と連携し、AIによる音声認識と会話だけで操作可能な世界が実現している現状分析が、今回のワイヤレスイヤホン「Pixel Buds」のサービスリリースにつながったと考えられます。

Google「Pixel Buds」の事業展開は、ハードウェア・ソフトウェア・クラウド上のAIが連携した、これからの時代のサービスモデルを象徴するものです。そして次に考えられるのは、Amazon、Apple、Google、三社による三国志を思わせるような熾烈な戦いが激化することで、新たなサービスモデルの創生に向けた成長のモメンタム(勢い)が加速することです。

ここしばらくは、このクラウドネイティブ三社の動向から、目が離せないと思っています。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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