現状 -地域包括ケアシステムでのICT利活用の現状について-
地域包括ケアシステムにおけるICT利活用の現状と課題(第2回)
2015年5月

執筆者:公認情報セキュリティ監査人
    プライバシーマーク主任審査員
    審査員研修主任講師
    小川 敏治(おがわ としはる)氏

はじめに

前回(第1回)、在宅医療・介護に関するICT政策動向について、お話ししました。今回は、地域包括ケアでのICT利活用の現状について、お話ししたいと思います。

地域医療連携ネットワークシステム

まず、地域の基幹病院と医療機関(病院、診療所など)との地域医療連携ネットワークシステムに関しては、地域医療再生基金や地域診療情報連携推進などの補助金を利用した導入が進んでおり、現状、次のような課題があり今後の改善が期待されています。

  1. 維持コストの課題
    補助金による費用負担低減措置が終了した際の月額利用料などのコスト負担。
  2. 運用ルールの課題
    診療情報のどの項目を連携する先に開示するかは各医療機関(主に基幹病院)に委ねられており、医療機関毎に開示項目が異なる状況での有用性が懸念されています。
    また、地域の基幹病院と医療機関(病院、診療所など)が互いに入力及び参照できる双方向型の情報共有が望ましいのですが、医療機関から地域の基幹病院への参照のみの一方向型に留まっているケースがあります。
  3. データ標準化の対象範囲の課題
    電子的診療情報を他システムとの交換や地域医療連携で利用するために、診療情報の標準的な形式仕様を決めているものの、まだ標準化されていない項目についてのデータ標準化。
  4. 基幹病院での診療所向けサマリー作成の課題
    病診連携において、「ICTによるカルテ情報の参照は情報量が多すぎて、重要な情報を見過ごす可能性がある。基幹病院にとってサマリー作成作業は面倒だが情報連携において有用性が高い。」との参照側である医療機関の意見があるようです。

地域包括ケアシステムでのICT利活用の現状

一方、多拠点・多職種間の連携・協働のためのICTは、緒についたばかりで、各ITベンダーが開発し提供しているクラウドサービスは、在宅医療・介護の現場関係者の意見を聞きながら運用し改善している段階でありますが、各地域での在宅医療連携拠点事業などによる検証から、以下の利点が確認されました。

  1. 在宅療養者の状態をタイムリーに共有でき、チームケアの有効な手段である。
  2. 職種間のメンタルバリアが軽減し気軽に相談出来るようになった。
  3. 在宅療養者及びご家族の安心感が増した。
  4. 訪問後の事務や他職種への連絡などの負担が軽減した。
  5. 事業所内でのシフト勤務での引き継ぎが効率化した。

其々を具体的に紹介します。

まず、1に関しては、「医療・介護の多職種が等しく入力し治療及びケアの進捗管理が効率よく出来るようになった。」、「ショートステイ側としても、利用者が居宅に居る時の状態も把握でき事前の受け入れ準備に役立った。」、「訪問看護時その場で在宅療養者の褥瘡の写真を撮ってかかりつけ医の判断や指示を仰げたので、心強かった。」などの声が上がっています。

次に、2に関しては、特に介護職からかかりつけ医へ連絡は心理的な壁があり電話では気後れしてしまいがちですが、「在宅療養者の相談について、スマートフォンによる簡単な短文の書込み(チャット)で返答がもらえたので嬉しかった。」とのアンケート結果も出ています。

一方、3に関しては、在宅療養者やその家族がかかわる医療・介護職の方々とコミュニケーションがとれる機能が標準で利用できるクラウドサービスもあり、例えば、終末期の在宅療養者を介護しているご家族の不安な気持ちを支える効果があることがわかりました。

また、4、5は、同事業所内での業務の効率化が図れたことを示すもので、前述以外に、地図情報システムを併用することにより、訪問の順序やルートなどを最適化して移動時間の無駄を極力抑制する試みも見られます。

さらに、ある医師は訪問診療後、次の訪問先への移動中に先ほどの訪問診察内容を音声で病院に送り、病院の医師事務作業補助者が代理で仮入力し医師は病院に帰ってから入力する必要はなく、チェックし登録操作するだけで診療録が出来上がる仕組みを導入し、在宅医療で効率を低下させる「移動」というプロセスをICTの利活用により、訪問滞在時間のアップや増患及び増収に繋げている医療機関も見受けられます。

まとめると、1から3は、多拠点・多職種間の連携・協働のためのICTツール導入の直接的な効果であり、4、5は同事業所内での現業業務の見直しも併せて行った効果であると考えられます。

高齢化により増大する在宅医療・介護ニーズに対して、少子化による医療・介護職のマンパワーのより一層の不足状態の中で、病院として地域医療・介護に対応していくためには、ICTツールを導入するだけでなく、例えば以下のような現業業務の見直しも不可欠ではないでしょうか。

  1. 他職種への連絡、シフト勤務での引き継ぎなどの手順の見直し
  2. 訪問の順序やルート及び訪問エリア区分などの見直し
  3. 各専門職にしか出来ない業務に絞りその他の業務を
    医師→特定看護師→看護師→看護助手→医師事務作業補助者→アウトソーシング
    へと順送りに移行するなど、役割分担の見直し

以上、地域包括ケアシステムでのICT利活用の現状について、その利点や導入に際しての現業業務の見直しの必要性などをお話ししました。

次回は、地域包括ケアシステムでのICT利活用の課題について、お話ししますので、皆様のご参考になれば幸いです。

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