課題 -地域包括ケアシステムでのICT利活用の課題について-
地域包括ケアシステムにおけるICT利活用の現状と課題(第3回)
2015年6月

執筆者:公認情報セキュリティ監査人
    プライバシーマーク主任審査員
    審査員研修主任講師
    小川 敏治(おがわ としはる)氏

はじめに

前回(第2回)、地域包括ケアでのICT利活用の現状について、お話ししました。今回は、地域包括ケアでのICT利活用の課題について、お話ししたいと思います。

各地域での在宅医療連携拠点事業などによる検証から、ICT利活用の課題も明らかになりました。(尚、ICT以外に関する課題、例えば、連携する事業者によって在宅医療・介護への取り組み姿勢が異なることや医療職と介護職との在宅医療・介護の認識の違いなどにもありますが、本コラムでは省略させて頂きます。)

職種間における ICTリテラシーの格差

病院では、オーダリングや電子カルテなどの基幹系システムの普及に伴い、日ごろからICTを利活用している為、傾向として、医療職のICTリテラシーは高い。一方、介護事業所の基幹系システムはそれほどICTが普及しておらず、アナログ(紙媒体への記録)にとどまるところが多く、また平均年齢も高いため、ICTリテラシーは相対的に低いのが実情です。また、「居宅での現場入力は時間的な制約と共に、入力作業中は会話が途切れてしまい使い辛い。」との声も上がっています。

したがって、ICT導入教育や講習会は必要ですが、ICTリテラシーに依存せず、在宅医療・介護の現場で簡単に操作できるものが望まれます。

例えば、情報の入力や閲覧はスマートフォンやタブレット端末を用いての選択型の入力や直感的に登録できるインターフェイスなど、利用者に優しい操作性が重視されます。

共有する在宅医療介護連携情報の標準化

一人の在宅療養者に対して、医師、歯科医師、訪問看護師、薬剤師、介護支援専門員、作業療法士、ホームヘルパーなど多くの専門職がかかわり、また、事業者として、病院、診療所、歯科診療所、調剤薬局、訪問看護ステーション、居宅介護事業所、訪問介護事業所、通所介護事業所、地域包括支援センターなど多岐にわたる事業者が関係します。

当然のことながら、これら関係者が連携して在宅療養者情報を共有し、コミュニケーションを充実させることで、協働体制によるサービスの提供が求められますが、職種も事業者も異なり、標準化もされていない状態では十分な連携ができないことが判明しました。

そこで、共通基盤整備事業(厚生労働省「在宅医療と介護の連携のための情報システムの共通基盤のあり方に関する調査研究」)において、在宅医療介護連携情報の標準化などが検討され、「在宅医療と介護の連携における情報システムの適切な利用を促進するためのガイドライン(草案)」としてまとめられました。

今後、業界団体や標準化団体等による標準規格化が期待されます。

既存システムとのデータ互換性、連携性

多岐にわたる事業者が関係することを前述しましたが、それらの関係する事業者毎に業務システムが異なる場合が多く、在宅療養者情報を共有するクラウドサービスとのデータの互換性や連携性が十分でない場合は、二重入力の手間が発生し業務負担が増大することも指摘されています。

異なるITベンダーの電子カルテ間の連携に多額の費用がかかる地域医療連携ネットワークシステムの現状課題を医療介護連携でも繰り返さないために、共通基盤整備事業(総務省「在宅医療・介護分野における情報連携基盤の開発及び活用の実証」など)が行われており、その成果が期待されます。

また、初回のコラムでお話したように、今後は国家財政の厳しい中、経済的な効果を勘案して、厚生労働省は、今後の普及・展開のための取組として、「クラウド技術の活用等による費用低廉化方策の確立」を表明しており、大いに期待するところです。

個人情報の適切な取扱いに関するマネジメント

医療機関や介護事業者など、事業主体が異なる複数の事業者で在宅療養者などの個人情報を適切に取り扱うためには、厚労省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に準拠する必要があります。また、関係する医療機関、介護事業者を取りまとめて、全体を統括しマネジメントする機能が必須となります。

短期的な年度単位での実証事業ではあまり顕在化していないようですが、本格的に導入し運用する場合、大きな課題になると思われます。
一方、個人情報保護法は、10年ぶりに今国会で一部改正の審議中ですが、まだいろいろな課題が残されていることが専門家から指摘されており、今後の再改正が期待されます。

例えば、個人情報の保護に関する法律は、民間部門(個人情報取扱事業者(民間企業など))を対象にした個人情報保護法の第4~6章と、公的部門を対象とした「行政機関の保有する個人情報保護に関する法律」、「独立行政法人等の保有する個人情報保護に関する法律」、地方公共団体による「条例」の4本立てになっており、さらに地方公共団体による「条例」に至ってはそれぞれの都道府県や市町村など個別に異なった条例があり、それぞれ監督機関が縦割りになっており、東日本大震災時の被災者情報の扱いで混乱をきたしました。

地域包括ケアシステムでは、多岐にわたる事業者(個人情報取扱事業者、行政機関、独立行政法人、地方公共団体等)の間で在宅療養者の機微な個人情報を共有し共同利用する為、「医療分野における番号制度」も含め、関係する法制度の整備が望まれます。

以上、地域包括ケアシステムでのICT利活用の課題について、4点に的を絞りお話ししました。

次回は、最終回として、ICT導入で押さえて頂きたいプロセスを、個人情報の適切な取扱いに関するマネジメントシステムのフレームワークで、お話ししますので、皆様のご参考になれば幸いです。

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