ちょっとひといき テクノロジー探訪

テクノロジー探訪

サグラダ・ファミリアの工期を早めたものとは

サグラダ・ファミリアはスペインのバルセロナで建築中の巨大教会で、日本語での正式名称は「聖家族贖罪大聖堂」(カタルーニャ語ではTemple Expiatori de la Sagrada Familia)という。
「聖母戴冠」「受胎告知」といった聖書の象徴的なシーンを再現した彫刻作品の集大成ともいえる。

サグラダ・ファミリア

“未完”の世界遺産

サグラダ・ファミリア

2005年に世界文化遺産として登録されたスペインの「サグラダ・ファミリア」を含めたアントニ・ガウディの作品群は、日本人である私たちにとっても一度は目にしたい建築物の一つである。1882年の着工から完成まで300年ほどはかかるというスケールの壮大さに誰もが圧倒され、完成した姿を想像しては悠久の時の流れに思いを馳せる、いわばロマンの建築である。

2010年にはローマ法王ベネディクト16世の献堂式が行われ、サグラダ・ファミリアは着工から128年目にして、未完ながら正式な教会となった。それとともに聖堂の内部も公開され、今でも毎年320万人以上が訪れる世界有数の観光名所として君臨し続けている。今のところ、正面から見て東に位置する「生誕のファザード」と、西側の「受難のファザード」とその周辺、聖堂内部は完成しているものの、高さ170mにも及ぶメインファザードに関してはまだ建設途中だ。完成するにはまだ100年以上かかるのだろうと誰もが思っていた。

ところが、2013年になって、このサグラダ・ファミリアの工期が大幅短縮されることが明らかになった。すでに着工から132年という歳月が経過していたが、ガウディ没後100周年にあたる2026年に完成するというのだ。永遠に未完のままかのように思われた大聖堂の建築は、これから急ピッチで進むことになりそうだ。

なぜ今まで完成しなかったのか

サグラダ・ファミリア

長い工期の理由の一つは、そもそも明確な設計図が存在しないということだ。ガウディは図面に残すことより、実験模型で表現することを好んだ。弟子たちが図面化したものもあったがスペイン内戦で焼失してしまい、残ったのはガウディ本人のスケッチ1枚と、実験模型。そこに見られる思想と模型を手掛かりにして推測しながら工事を進めるしかなく、建設に時間と費用がかかる要因ともなっている。

ガウディが残した実験模型は無数のワイヤーと錘を天井から吊り下げたもので、ワイヤーが描く自然な曲線をそのまま上下反転させると、サグラダ・ファミリアの形になる。そのため、サグラダ・ファミリアには直線や直角といった箇所はなく、唯一無二の複雑な形状をしているのだ。緩やかな弧を描く柱、壁面と一体化した緻密な彫刻が見る人を魅了し、しかも巨大建築の割に柱が極端に少なく空間が広いということにも目を奪われる。計算式で割り出される形状より、自然に生み出される形状にこそ美と安定性が内包される。それがガウディの思想だった。

作業方法もまた時間がかかるものだった。まず逆さ吊りの模型で部材の接合座標や角度を求め、3D構造解析を行った後、さらに大きいスケールでの模型を作り、それから現場での施工を行う、という流れで行われてきた。各パーツにこれだけの手間を要するわけだから、気の遠くなるような作業である。

作業工程の変革

近年になりこの作業工程をガラリと変えたのが、3D設計ソフトや3Dプリンタ、CNC加工機などのITである。複雑な曲面が組み合わさった立体のシミュレーションはコンピュータ上で正確に行えるようになり、さらに実際の石材を切削する際にも、CNC加工機にプログラミングすることで正確な形状を造り出せるようになったのだ。また、従来の石造りから鉄筋コンクリートも使用するようになったことで、作業効率は格段に上がったようだ。

激変していく工事現場

このように着工当初とは手法が変化した現在、もはやガウディの精神は失われてしまったのではないか、これでもガウディの建築といえるのかと疑問視する声もある。かつては資金不足のため工事が滞ったこともあったが、現在急ピッチで進む建設現場を一目見ようと、観光客は一人につきおよそ2000円以上の入場料を支払って見学しており、潤沢な資金で先端技術を取り入れることも可能となった。未完であることが一つの魅力であったサグラダ・ファミリアは、こうしてついに完成までの11年間をカウントダウンする段階に入った。144年に及ぶ壮大なプロジェクトは、はたしてどのように幕を下ろすのか。