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‘はやぶさ2’通信断絶回避にかける技術と思い

Hayabusa2
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が行っている、小惑星からのサンプルリターンプロジェクトにおける、現在航行中の2基目の探査機。初号機’はやぶさ’は世界初のサンプルリターンに成功した。

初号機‘はやぶさ’は半分失敗作

はやぶさ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2003年に打ち上げた小惑星探査機‘はやぶさ’が2010年6月、地球に帰還した。約7年の宇宙の旅で幾多のトラブルを経て満身創痍となり、大気圏突入時に自身は燃え尽きながらも小惑星「イトカワ」のサンプルを地球に届けた‘はやぶさ’の健気な姿は、多くの人に感動を与えた。

‘はやぶさ’が奇跡的に帰還できたことはある意味成功であり、技術力が証明できた部分もある。だがエンジン停止や通信断絶といった絶体絶命の連続だったことからすると、‘はやぶさ’は失敗作だった、という。あくまで「小惑星からのサンプルリターン」という挑戦の第一歩だったのだ。

それからたった4年半後の2014年12月、各機能を大幅に強化させた‘はやぶさ2’が打ち上げられた。初号機で獲得した技術を成熟させ、確実にサンプルリターンをやり遂げる。これが‘はやぶさ2’のミッションである。

もう劇的なドラマはいらない

はやぶさ
(C)池下章裕

そもそも‘はやぶさ’のプロジェクトは、水や有機物を含む可能性が高いC型(炭素質的)小惑星からのサンプルリターンを目的としていたが、初号機の目的地は天文力学的な事情からS型(石質的)小惑星「イトカワ」に変更せざるを得なかった。‘はやぶさ2’は、何が何でもC型小惑星「1999JU3(仮称)」にタッチダウンしサンプルを持ち帰るため、随所に改良や強化が施された。

まず初号機で3基中2基が故障した姿勢制御装置は、強度を上げて4基に増やした。またタッチダウン後に発生した燃料漏れを踏まえ、配管の溶接プロセスも改善。

イオンエンジンも初号機では1万時間~1万5000時間運転後に発生した4基中3基の劣化や故障を踏まえた対策として、設計を変更して長寿命化し、さらに推進力を25%アップさせた。わずかなエネルギー消費だけで安定航行できるようになった。

通信容量は毎秒1000バイトから4000バイトに増強し、さらに高い周波数の通信用アンテナも設けた。
自律判断機能もより強化されている。小惑星の表面は水や有機物を含んでいる可能性が高く、地表の状態もわからない。そのような条件にも関わらず初号機の惑星探査がたった3か月という短期間しかなかったことでトラブルを引き起こしたという反省もあり、6倍となる1年半という探査期間を設けている。じっくりと探査と分析を行い、その結果次第で作業プログラムを変更するということも可能になっている。

これだけの改良を、たった2年半で成し遂げる必要があった。その時期を逃すと天体的に同条件での打ち上げには10年以上も待たねばならなかったからである。JAXAとともに日本の宇宙開発を長く牽引してきたNECやIHIといった民間企業の技術者たちが現場で知恵を働かせ、短期決戦にも関わらず技術を結集させたのだった。

かくして宇宙へ飛び立った‘はやぶさ2’は、打ち上げから250日が経過した現在も順調に航行中である。(2015年8月現在)

‘はやぶさ2’のもたらす未来とは

‘はやぶさ2’は順調にいけば2018年6~7月ごろ小惑星「1999JU3」に到着する予定で、その頃には地表の様子などを撮影した画像を送ってくるだろう。未知の小惑星はいったいどんな姿をしているのか。

さらに2020年末に‘はやぶさ2’は地球へ最接近し、サンプルの入ったカプセルを地球に落下させる予定となっている。その後は軌道を変え、再び宇宙へ向かうのだという。行き先はまだ決まっていないが、安定的に航行ができる探査機であるという自信の表れだろう。

サンプルリターンという壮大なミッションは未来の私たちに何をもたらすのか。永く宇宙を安定航行できるよう、地上から祈りたい。

はやぶさ

(C)池下章裕