ちょっとひといき テクノロジー探訪

テクノロジー探訪

「伝統技術×最新技術」のアート
――花火最前線

いつも変わらぬ美しさと驚きを与えてくれる花火だが、その長い歴史の中で、大きな変化を遂げてきた。
伝統技術と最新のITを組み合わせた新しい試みで観客を魅了する、花火の最前線を追った。

技術革新進む、花火

夏の夜を彩る打ち上げ花火。国内初の花火大会は、1733年隅田川のほとりで行われた「両国の川開き」までさかのぼる。前年に「享保の大飢饉」やコレラの蔓延により多数の死者が出たため、鎮魂の祈りをこめて行われたものだったという。

16世紀ごろ火縄銃とともに日本に伝来してきた花火は、当初は戦場での狼煙や合図などとして活用されてきた。現在のような花火の鑑賞が始まったのは江戸時代。伊達政宗や徳川家康が鑑賞したという記録が残っている。

打ち上げ花火は年々少しずつ変貌を遂げている。音、光、その場の風景や人を巻き込み、壮大なスケールで観客を魅了するテクノロジーアート。その美しさを支えるのは、ITだ。

点火作業は手から電気、ITへ

火薬を詰め込んだ「玉」を打ち上げ筒に入れ、導火線を点火し花火を打ち上げる。昔ながらの花火師といえばこのイメージだろう。このような直接点火では連続して点火することに限界があるばかりか、花火師は常に筒の側にいる必要があるため、危険を伴う。今でも直接点火の方式がなくなったわけではないが、少なくなっている。

電気で発火する導火線を打ち上げ筒に設置する電気点火方式が取り入れられ始めたのは1980年台後半だ。筒場から離れた場所でスイッチを押すだけで、正確に、多くの花火に瞬時に点火できる。点火の際の安全性が格段に増し、トラブルなどで点火を中断したい場合にも対応しやすくなった。

電気点火が定着し花火の規模が拡大するのに伴って、打ち上げ玉数が増加した。連続花火の導火線の端から端までの長さが1988年には400m程度だったのが、1994年ごろには約2㎞まで飛躍的に伸長。多くの花火を細かく制御するために活用されたのがITだ。打ち上げ専用のソフトにプログラミングしておき、コンピュータと打ち上げ筒に入れる点火装置を接続する。これにより、花火のスケールが格段に上がることとなった。

「伝統技術×最新技術」のアート̶̶花火最前線

花火×最先端技術のコラボ

150年の歴史をもつ老舗煙火店とイベントプロデューサーが中心となって行った2017年「TOKYO ODAIBA STAR ISLAND」は、伝統的な花火と最先端の3Dサウンドとショーパフォーマンスを掛け合わせたイベントとして、海外でも大いに話題となった。

会場となったお台場海浜公園には230台以上のスピーカーが設置され、辺り一面は臨場感ある3Dサウンドで包まれた。花火は1万発以上。打ち上げ筒を数十本まとめたものに点火用の端末を接続しており、予めプログラミングされたソフトを遠隔操作することで打ち上げる。花火と音楽は100分の1秒の精度で調整でき、人が直接点火する方法ではなし得ない多数の花火をシンクロさせた。

打ち上げ自体の作業が軽減されたように思えるが、実はそうではない。打ち上げの数が増えた分、筒のセットには大変な手間を要し、端末の配置に間違いがないよう慎重に接続する。コンピュータのフリーズなど異常事態にも備え、常にシステム全体をチェックし、微調整をしながら打ち上げるのだ。

従来の花火とは一線を画す壮大なスケールのエンターテインメントとして、同イベントは今も拡大を続けている。2018年にはシンガポールにも進出し、花火と3Dサウンドに加え、最先端のプロジェクションマッピングやレーザーが会場そのものを彩った。湾岸エリア一帯は丸ごとイベント会場となり、幻想的な夜を創り出した。

「伝統技術×最新技術」のアート̶̶花火最前線

伝統芸術は、さらなる高みを目指す

花火の演出は最新技術により遥かに高度になり、エンターテイメント性を増してきたが、それだけでなく、玉の中身そのものも進化している。わずかな時間差で打ち上げる「スライド牡丹」は花火が様々な色に変化していくような立体的な美しさが表現できる最新技術だ。また、花火といえば「ドーン」という音だけだったのが、「シュワッ」という弾けるような音の花火も出現している。毎年8月に秋田県で行われる全国花火競技大会「大曲の花火」では、花火師たちが最新技術を競い合い、技を磨きあっている。

花火が打ち上がる風景は、今も昔も変わらず美しいが、実は多くの技術がその進化を支えている。花火を見上げるときには、繊細でありながらダイナミックな日本の花火師たちの技術にも思いを巡らせてみたい。