ちょっとひといき テクノロジー探訪

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宇宙ゴミ削減に取り組む人々

人類が初めて月面に降り立ったのが1969年。それから50年あまりが経過した今、地球の周りを廻っている人工衛星の数は5,000を超えるとされている。
宇宙ゴミの危険性が認識されはじめたものの、未だに包括的な国際ルールが存在しないなか、宇宙ゴミ削減のために行動を起こす人々がいる。

秒速7㎞の恐るべき宇宙ゴミ

通信、天気予報、カーナビや位置検索に使われる全地球測位システム(GPS)など、暮らしが便利になっていくのに伴い、数が増え続けてきたのが人工衛星である。欧州宇宙機関(ESA)によると、2019年1月までに地球周回軌道上に投入された人工衛星は9,000に上り、うち5,000以上が今も周回している。宇宙活動が拡大の道を突き進んでいる今、この数は増え続けていく見込みだ。

運用を終えた人工衛星や、ロケット打ち上げ後に切り離された部品、それらの爆発や衝突で発生した破片は、高度が低ければいずれは落下し大気圏で燃え尽きるが、何十年も軌道上を、秒速7kmという高速で周回し続けるものも多い。これが宇宙ゴミ(スペースデブリ)である。

宇宙は3次元に広大であることから、物体が衝突することは極めてまれだろうと思われてきたが、2009年2月、米国の衛星携帯電話用の衛星イリジウムに、運用を終えたロシアの軍事衛星が衝突するという宇宙初の“交通事故”が起きた。この事故で衛星イリジウムは機能を停止し、衝突によって多くの宇宙ゴミをまき散らした。

宇宙ゴミは猛スピードで飛ぶため衝突した際の衝撃は凄まじい。10㎝以上の大きさがありレーダーでの監視が可能な宇宙ゴミが20万個近く、レーダーで監視できないほど小さなものも10万個以上はあると推測されている。小さなものでもいわば弾丸のようなパワーをもち、運用中の衛星や有人宇宙船を破壊しかねない。この宇宙ゴミをいかに掃除するか、また、これから先いかに宇宙ゴミを増やさないか。この2点で研究が進んでいる。

宇宙ゴミ削減に取り組む人々

動くゴミを捕まえる難しさ

宇宙ゴミを掃除するというと一見シンプルなようだが、宇宙空間での作業となると困難を極める。工程は宇宙ゴミを見つけ、近づき、捕獲し、落とす、の4つだ。

まず捕獲衛星が電波を発さない物体を探し出しキャッチする必要があるが、宇宙ゴミは高速で地球を周回しており、かなりのエネルギーを持っている状態。捕獲衛星側が宇宙ゴミに回転を合わせて慎重に接近する必要があり、また網でとらえた宇宙ゴミを牽引すると宇宙ゴミと衛星が衝突する恐れも。衝突を避けながら作業しなければならず、ここに宇宙空間ならではの難しさがある。

実際、2018年に軌道上を漂う宇宙ゴミの回収技術を開発している欧州のグループが、人工衛星から網を投げ、宇宙ゴミに模した模擬デブリをキャッチする実験には成功した。しかし結局、この模擬デブリは軌道上に放置された。

そこで日本企業が考えたのは、強力な磁石を使う方法だ。宇宙ゴミを磁力で引き寄せ、捕獲衛星の動きとシンクロする“準協力物体”とすることでしっかりと捕まえる。これから打ち上げられる衛星には磁力プレートを予め搭載しておけば、故障時に回収することも可能となる。ただ、今すでに宇宙に漂っているものは磁石が有効とは限らないため、また別の方法の検討も継続している。

電気で宇宙ゴミを落とす

次に課題となるのは、いかに捕獲した宇宙ゴミを減速させ大気圏に落とすか、だ。

宇宙ゴミは高度600㎞以上に飛んでいることが多い。高度400㎞くらいであれば自然に高度が下がり大気圏で燃え尽きるのだが、600㎞ほどのものだとそうはいかないため、少しずつ高度を下げていく方法が模索されている。

そこで2017年に国際宇宙ステーション(ISS)に水や食料などを届ける補給機「こうのとり」で実験が行われた。こうのとりから長さ約700mの導電性テザーという金属のワイヤーを伸ばし、宇宙ゴミに付ける。そしてテザーに、こうのとりの進行方向とは逆に、つまりブレーキがかかるように10mAほどの電流を流す。すると宇宙ゴミの速度が落ち、大気圏に落ちていくという仕組みだ。

このときの実験自体は失敗に終わった。が、これ以前に検討していた宇宙ゴミにエンジンを取り付けて噴射する方法などよりはるかに装置がシンプルで、電流を流すだけという点にもメリットがある。この方法はさらなる研究が進められている。少なくともこれから宇宙ゴミになる可能性のある衛星については、予めこういった対策をし、回収できる仕組みづくりが必要である。

今向き合うべき宇宙ゴミ問題

宇宙ゴミは普段私たちの目には見えないが、天体望遠鏡で夜空を覗けば、かなりの確率で見つけることができるという。私たちの暮らしのために、地球の軌道上の衛星やその残骸などが大渋滞を起こし始めている。

宇宙ゴミに対しての国際的なルールが存在しない今、宇宙ゴミに対して危機感を持っていても、宇宙ゴミ掃除には莫大な費用もかかるため、なかなか進まない現実がある。とはいえ放置すれば、いずれはその宇宙ゴミが新しい衛星の障害になってしまう。これからも宇宙で人類が活動するためにも、今向き合わなければならない課題となっているようだ。