経営に役立つコラム

【賢者の視座】ストリートアカデミー株式会社 藤本 崇

教えたい人、学びたい人がこんなにいる!
ユーザーのパワーがポストコロナ時代を切り拓く。

ストリートアカデミー株式会社
藤本 崇

インターネット上で「教えたい人」と「学びたい人」をマッチングし、1回数千円で手軽に学びの場を提供するストリートアカデミー株式会社。
今や幅広い世代に浸透する通称「ストアカ」のビジネスモデルを考案した代表取締役社長CEO藤本崇氏が、ビジネス成功のキモを語る。

教えること、学ぶことをもっと気軽に!学びを通じて、よりよい循環を生み出したい。

ストリートアカデミー株式会社 藤本 崇

ビジネススキル・英会話から包丁の研ぎ方やペットのしつけ方までなんでもOK。インターネット上で時間・場所・講師・講座内容を検索し、講座を選ぶことで、1回数千円で誰でも気軽に学ぶことができる̶̶2012年に創業したストリートアカデミー株式会社は、そんなありそうでなかったサービスを提供し、2020年6月時点で登録生徒数44万人、登録講師数2万8,000人、約170ジャンル4万4,000講座を掲載する学びの一大マーケットに成長させた。

創業者の藤本崇社長は、日本と米国で教育を受け、名門コーネル大学やスタンフォード大学の大学院も修了した学歴の持ち主。著名な外資系企業に勤務していたが、「学ぶことが好き」で仕事帰りに調理師専門学校や映画専門学校へ通う20代を送った。ところが、仕事を早めに切り上げ、アフター5に学校へ通うことに職場はいい顔をしない。結局学校を続けられず、150万円ほど支払った学費は大半がムダになった。

「なぜ学んではいけないのか?なぜ人は自分がやりたいことを探究心を持って探さないのか?大人になっても、ずっとそんな疑問を持ち続けていました」

転機になったのは妻が開いたケーキ作り教室。面白い切り口だったが集客が難しく、本人は「東京は競争過多だ」と思い込んであきらめてしまった。その様子を見ていた藤本社長は、ストアカ(ストリートアカデミー)のビジネスモデルを思いつく。

当時はエアビーアンドビー(注1)やキックスターター(注2)など、インターネットを活用した新しいシェアビジネスが勃興していた時期。その潮流を受けて、藤本社長は「これからは個人と個人が信用経済で結ばれる時代が来る」と直感。「教えること教わることは究極の個人サービス。それなら自分の特技や経験を教えたい人と学びたい人がインターネットで出会える場を提供しよう」と考えた。

ではなぜ、今まで同種のサービスがなかったのか?「おそらくインターネットで広く講師を募るため、その信用評価が難しい。そしていくらインターネットで講師と生徒をマッチングしても、授業は対面式なので同じ地域でないと会えない。つまり、サービスとしての立ち上がりが遅すぎる。それが理由で挑戦する人がいないのではないか。でも自分ならできる――今から思えば安易でしたが、当時はそう考えました」

(注1):宿泊施設を貸したい人と借りたい人をマッチングするCtoCサービス。
(注2):クリエイティブなプロジェクトに向けて、自社HP上でクラウドファンディングによる資金調達を提供するサービス。

講師の質の担保が勝敗を分ける

起業後、藤本社長は自ら予測したとおりの苦境に陥った。集客のハードルが高いので、講師から敬遠されてしまう。エリアが限定され、いつまでたっても東京以外に飛び火しない。結果として講座数が増えず、生徒側から見ればカルチャースクール的な楽しさがない。まさに三重苦だった。

「立ち上がりの遅さはわかっていましたが、想像以上でした。閑古鳥が鳴いている期間が長く、なかなか壁を乗り越えられなかったですね」

そこで講座を充実すべく知り合いにサクラで講師を頼んだり、講師に適した人を探しては会いに行くのだが、逆に全否定される始末。「そこをなんとか…と、もう土下座ですよ(笑)。ただ、こんな地道な活動を毎日続けるうちに、少しずつ講師や講座数が増えていきました。今振り返ってみても、突破口らしきものはなかったですね」

学びのサービスを提供する場合、もっとも課題となるのが講師の質の担保だろう。学びは人的フィットが非常に重要で、当然ながら講師の質が低ければ、その講座は続かない。この課題に関しては、「延々もぐら叩きを続けるような忍耐の勝負」だったという。

ストリートアカデミー株式会社 藤本 崇

講師希望者にはもちろん審査を設けたが、時には勧誘目的や公序良俗に反する輩が審査の目をかいくぐって入って来る。そこで実名掲示・身分証明書提示を必須にし、HP・ブログ・SNSなどで活動実績が見える人に限定。さらに常識やマナーに関してもガイドラインを作成。例えば「講師側からのキャンセルは禁止」「生徒が会場に行ったのに講座が開かれなかった場合、2回続くと違反」など細かく取り決め、違反パトロールも実施した。

「1階層目が情報開示の徹底と審査。2階層目がパトロールと違反摘出のメカニズム。そして3階層目がいよいよ講師力です」

講師力を測る目安として導入したのがレビュー制度だ。現在、ストアカのレビューは5段階の★印と定性コメントで構成され、講師から返信できる機能を持つが、ここに至るまで試行錯誤の連続だった。当初は5段階評価に強硬に抵抗する講師が多くて導入できず、とはいえ生徒側は定性コメントだけでは選びづらい。そこで双方の声を聞きながらよりよい方法を順次導入し、時間をかけて落としどころを見つけていった。

「インターネットのコミュニティサービス作りは、この種の我慢ゲームです。懸命にユーザーと対峙するのはいいのですが、その間のキャッシュフローをどうするか。やはり、ある程度耐える期間が必要です」

現在、ストアカの講師には、長年講師を務めていたり、脱サラするなどして講師業を生業とする人が多く在籍する。彼らはブランディングがかかっているため、ストアカの講師レビューに敏感に反応し、生徒集めに利用する。双方のニーズが一致し、生徒数が順調に伸びれば、講師は「ストアカのおかげ」と考える。こうしたスター講師が各ジャンルに少しずつ増えていき、2~3年かけて事業が軌道に乗っていった。その後、ストアカの成功を見て参入する競合他社も少なくなかったが、大半が撤退していった。その理由は、やはり講師の質の担保だったという。

オンライン化の先に見えるもの

2020年、世界を震撼させた新型コロナの感染拡大は、ストアカにも大きな影響を与えた。そもそもストアカのサービスでは講師と生徒の出会いこそインターネット上だが、実際の教室は対面を基本とする。前提として、「講師と生徒だけでなく、生徒同士の交流や切磋琢磨も大きなポイント」という考えがあるからだ。

だが、3密になりやすい対面型の講座は全面自粛に。すると講師からも生徒からもオンライン講座の許可を求める声が高まり、一時的に許可したところ、驚いたことに2カ月程度で対面と同じぐらいまで講座数が増加した。

「どれだけ教えたいんだ!どれだけ学びたいんだ!と思いました。まさにユーザーのパワーですね。この結果を受けて、当社も2020年6月より公式にオンライン講座をスタートさせました」

ストリートアカデミー株式会社 藤本 崇

また、以前よりストアカでは法人事業部を立ち上げ、ビジネススキル系の講師を派遣して法人向け研修を実施しているが、これもオンライン研修のオファーが増加中だ。とくに社員研修のオンライン化に舵を切った企業が多いが、当然ながらオンラインではできない実技系の研修もある。その辺りの仕分けや、オンラインなりの研修コンテンツの作り方、セキュリティに優れたオンライン会議システムの提案など、企業からさまざまな相談が寄せられているという。

「パンデミックに背中を押された形で思いも寄らないオンラインの利用方法も生まれており、大変面白い時代になりました。おそらくオンラインと対面は今後も共存し、同じ内容ならオンラインのほうが低価格に設定されるのではないでしょうか。選択肢が増えるだけで、対面が必要なものも必ず生き残ると私は見ています」

ストアカが創った学びの場には大企業の研修もこなすプロ講師もいれば、人生100年時代の老後のたしなみとして気軽な講座を開く人もいる。

「もっともっと気軽に教えたり学んだりできる社会にして、自由に生きる人を増やしたい。学びのハードルをさらに低くして、いずれは海外展開を目指したいですね」

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代表取締役社長CEO 藤本 崇

1976年、千葉県生まれ。中学1年のとき、商社勤務の父の転勤で米国へ。米国コーネル大学工学部修士課程を修了。ユニバーサル・スタジオに入社。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン設立企画に携わる。2000年、日本に帰国し、フェデックスに入社。2004年、スタンフォード大学にて経営学修士(MBA)を取得。2006年、再び帰国し、カーライル・ジャパンに入社。2012年、ストリートアカデミー株式会社を創業。「まなびを自由に」をビジョンに、教える人と学ぶ人をつなぐスキルシェアサイトをオープン。講師の企業派遣や出版サポートなど、講師のマネタイズにも尽力する。