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宇宙飛行士に学ぶ

航空宇宙産業を支える一員として、僕はまた宇宙にチャレンジする
~自分もビジネスパーソンと同じ、宇宙での大きな仕事を動かす歯車の一つ~

宇宙飛行士 野口聡一

宇宙飛行士としてスペースシャトルや国際宇宙ステーションに乗り込み、長期間にわたって数々のミッションを遂行してきた野口聡一氏。2019年からは次のミッションが待ち受けている。宇宙飛行士とはどういう仕事か。野口氏が語る「99%は誰か他の人の仕事のお手伝い」とはどういう意味か。リスクを乗り越えるための覚悟はどのようにして培われたのか。

宇宙飛行士となった今でも、日本の航空宇宙産業の一翼を担う技術者という意識は強い

野口聡一

これまで2回、宇宙飛行士として宇宙に飛び立った私ですが、3回目のミッションがまもなく巡ってこようとしています。ISS(国際宇宙ステーション)第62次・第63次計画の長期滞在搭乗員に選ばれたのです。今回もフライトエンジニアとして、日本実験棟「きぼう」を含むISSの各施設の維持・保全、科学実験、ロボットアーム操作などを行う予定です。今のところ、次のISS滞在は2019年終わり頃から約半年間とされています。そのための訓練を日本、ロシア、米国ですでに始めています。今(2018年7月31日)もロシアでの1カ月の訓練を終えて日本へ帰って来たところで、ひと月もすれば今度は米国のNASA(アメリカ航空宇宙局)での訓練が始まります。

私の宇宙飛行士になりたいという夢は高校生時代からのものでしたが、NASDAの募集に応募するまでは、石川島播磨重工業(現IHI)の航空宇宙事業本部というところで、約5年にわたってジェットエンジンの設計を担当していました。ものを開発し、サービスをつくり、それで社会を回していくというビジネスパーソンとしての経験があるのです。

ですから、宇宙飛行士になった今でも、自分は日本の航空宇宙産業や日本の科学技術開発の一翼を担う技術者であるという意識は強いですね。もちろん、宇宙空間を自在に遊泳することは誰にもできる仕事ではありません。しかし、地上の産業のすそ野があってこそ初めて自分は宇宙に行けるのであって、決して自分一人で宇宙に飛び立つわけではないのです。

ISS計画の中でも、確かに有人ロケットに乗るのは宇宙飛行士だけですが、宇宙船と交信を行って正常な運航を支える管制官の役割は重要です。あるいは、宇宙飛行士を訓練するトレーニングセンターの教官たちも、宇宙開発には欠かせない存在です。そのほか、多くの人が関わってこの計画は成り立っています。有人宇宙飛行という意味では最終的には宇宙飛行士にばかり光があたってしまうのですが、私たちといえど、歯車の一つであることには変わりがない。大きな仕事の一部をそれぞれが担っているという意味では、一般企業のビジネスパーソンと変わりがないのです。

宇宙飛行士は忙しい。膨大な科学実験を担いながら人類の叡知に貢献

野口聡一

かつて一緒に訓練をしたことがある、宇宙飛行士の若田光一さんがこんなことを話していました。「僕らの仕事の99%は他の誰かのお手伝いです」。

「宇宙で楽しかったことは何ですか?」とよく聞かれるのですが、実際我々宇宙飛行士が宇宙に行っても、自分のために使う時間はほとんどありません。例えば科学実験。これは、大学や企業の研究者たちが、次の世代の技術開発を行うために宇宙の無重力空間での実験が不可欠だと考えて提案し、採用されたものばかりです。私たち宇宙飛行士、なかでもフライトエンジニアには、そうした実験を手順通りに行い、その結果を報告して研究の一端を担うオペレーターとしての役目もあるのです。それぞれ科学の重要性という観点で選定された実験テーマであって、私自身の興味だけで選べるものではないし、私の一存で実験のやり方を変えられるわけでもない。そして成果は地上の先生方のものなのです。

その実験の数も増える一方です。私の1回目の「ディスカバリー号」のとき(2005年)は、ISSはまだ完成しておらず、私が担当する科学実験は5つほどでした。ところが、2010年にISSに長期滞在したときは、それが23件にも増えていた。現在はもう軽くその倍ぐらいになっているのではないでしょうか。宇宙飛行士ってけっこう忙しい仕事なんですよ(笑)。

2019年からのミッションで私はどんな実験を担当するかはまだ決まっていないのですが、最近の様子を見ていると、そのテーマは物理学から医学・生物学まで、自分の専門領域をはるかに越えるものばかり。認知症に関わる遺伝因子の解明のために無重力空間での実験を行うというようなものもあります。もちろん、飛行の前は実験を提案する大学や企業の研究者の方々と直接お会いする機会が設けられ、実験の狙いや注意点などを伺います。ただ、きわめて専門性の高い内容なので、私たち宇宙飛行士もその概要をつかむための勉強が欠かせません。

これだけ宇宙での実験が多様化しているのは、逆に言えば、宇宙ステーション計画が完全な円熟期に入っていて、いろいろな科学実験を滞りなくやれるだけの環境が整ってきたということでもあります。

仲間たちの死が、あらためて宇宙に飛び立つ覚悟をもたらした

野口聡一

私がJAXAの宇宙飛行士候補者に認定されたのが、1996年のことです。1998年にはNASAの正式な宇宙飛行士になり、米国、ロシアで訓練を受けました。最初の宇宙飛行は2003年3月に予定されていました。ところが、その年の2月、私たちの前に打ち上げられたスペースシャトル「コロンビア号」が地球への帰還を目前にしてテキサス州上空で空中分解し、7名の宇宙飛行士の命が失われるという大事故が発生しました。その中には宇宙飛行士訓練センターで私と一緒に訓練した3名も含まれていました。

確かに宇宙飛行には危険が伴うことは知っていました。しかし、その頃は日本人宇宙飛行士として毛利衛さん、向井千秋さん、若田光一さんがすでに飛んでおり、宇宙開発計画は順調に進んでいるように見えたのです。訓練センターの同期たちも次々に宇宙に飛び立っていく。「行ってらっしゃい」と見送って、次は私の順番。たとえ乗り遅れても次があるというような、いわばエスカレーターに乗っているような状態だったのです。

しかし軽い気持ちで見送った仲間や家族が、帰って来ないということがあり得るのだ。宇宙飛行士というのはそういう仕事なのだ、とあらためて自覚させられたのがコロンビア号事故でした。

NASAのスペースシャトル計画はその後、2年半にわたって中断されます。もしもそのまま継続されていたら、私はその任務から降りたかもしれません。実際、1986年の「チャレンジャー号」事故では、直後に引退を表明する宇宙飛行士が何人かいたということです。

ただ2年半の中断期間は、私に宇宙に行く意味をあらためて問い直す時間を与えてくれました。宇宙への旅立ちが家族や仲間との永遠の別れになるかもしれないというリスク。そのリスクを踏まえた上で、なぜ自分は宇宙に行こうとするのか。いわば、この仕事には死を賭してでも遂行するだけの意義があるのかどうか――それをずっと考えていました。

結論はイエスでした。リスクを十分に理解したからこそ、そのリスクを冒してでも、自分は宇宙に行くべきだ。宇宙と向き合う意識がコロンビア号以前と以後では大きく変わりました。いわば、宇宙飛行士としての覚悟ができたのです。

そうして、2005年7月26日、私は他の6人のクルーと共に「ディスカバリー号」に乗り込みます。打ち上げは無事成功。私は船外活動のリーダーとして、軌道上でのシャトル耐熱タイルの補修試験や、ISS制御装置の交換や改修などの任務を粛々とこなしました。船外活動時間はのべ20時間以上に上りますが、その間、はるか遠くの地球を見ながら、あらためて人の命の大切さを感じたものです。もし簡単に宇宙に行っていたら、こんな感動は得られなかったかもしれません。死んでしまった仲間たちがいればこそ、そして生き残った仲間たちの間での熱いコミュニケーションがあったからこそ、得ることのできた感動でした。

ビジネスにも通じる多文化・多言語環境でのトレーニング

野口聡一

宇宙飛行やISS(国際宇宙ステーション)船内でのオペレーションは、決して一人ひとりで遂行できるものではありません。すべてはチームワーク。それゆえ対人コミュニケーションがきわめて重要になります。それは地上の仕事と基本的には変わるものではないのですが、ただ、宇宙飛行士の場合は、特有の難しさが二つあります。

一つはメンバーが多国籍であること。現在の宇宙開発は決して一国だけに止まらず、多国間の国際共同プロジェクトなのです。特に有人宇宙開発は米国、ロシア、欧州、日本の共同事業になっています。いずれはその中に中国も入ってくるでしょう。アラブ首長国連邦のような新興国も宇宙開発に関心を示しています。こうした多国籍の人々とチームを組むときは、言葉の問題がたしかにあります。

オペレーションについての話し合いや日常会話に英語を共通語として使ったとしても、それぞれの文化背景が違うので、喜怒哀楽を含めた感情、フラストレーションや感謝の気持ちなど、細かい部分まで通じているかどうかを常に考えておく必要があります。そうした感情をお互いに通じた言葉のチャンネルに乗せられるかどうか。多文化間のコミュニケーションにまつわる難しさをいつも感じます。

宇宙飛行士特有の環境と言いましたが、これは日本の企業にも言えることかもしれません。さまざまな性別、年齢、習慣、家庭環境、受けた教育が異なる人たちと、その違いを超えてチームワークで仕事をします。いわゆるダイバーシティ環境でいかに成果を挙げるか、そうした訓練の先駆けをしているようなところがあるんです、宇宙飛行士は。

「伝わっているはず」という思い込みは禁物。複数のチャネルを使ったコミュニケーション

もう一つは、緊急事態への対応です。緊急事態が発生したとき、一定時間内に正確な手順を実行して状況を改善しないと、宇宙飛行士は文字通り生命の危険にさらされます。想定していないような事態が起こると、身体的・精神的なストレスも限界に達します。その中で、正確にコミュニケーションをとりながら、任務をやり遂げなければならない。緊急事態での危険事項や対応手順などをいかに短く正確に伝え、相手の意思も正確に理解できるか。それがスキルとしては難しいところです。

こうした多文化コミュニケーションや緊急事態の対応スキルは、ある程度は訓練で鍛えることができると思います。私はこの前までロシアで訓練していたのですが、一緒に飛ぶ可能性のあるクルーたちとサバイバル訓練をしました。ロシア人、米国人、日本人一人ずつ。ロシアでの訓練なので、船内の共通言語はロシア語。クルーと教官の間もロシア語です。

幸い、私も米国人もロシア語を喋れるので日常的なコミュニケーションに困ることはないのですが、例えば、「緊急事態発生! すぐに全員脱出!」というようなケースでは、のんびり動いているわけにはいきません。例えば、緊急事態発生から30秒以内に正確なボタンを押すとか、8分以内にすべて準備を終えてカプセルから脱出するというような時間制限があるのです。

事前に手順を確認してはいるものの、実際にはなかなかその通りにいかない。8分以内に脱出できないと、やり直し。船内には「ダバイ! ダバイ!(ロシア語で“急げ”の意味)」と、怒号が飛び交います。制限時間以内に正確な作業が終わらないと、実際の宇宙空間ではもう空気がなくなっているから、全員が死んでいます。こうした緊急時のオペレーションを秒単位でできるところまで、訓練を繰り返しながら仕上げていくのです。

ロシア人のクルーは、私たちがロシア語で一生懸命コミュニケーションしようとしていることについては、十分尊重してくれています。しかし、確実にやらなければならない重要な指示については、彼もたどたどしい英語でみんなに伝えるようにしていました。正確に伝わっているかどうかを確認するために、英語とロシア語の二つのチャンネルを駆使するわけです。「たぶん、あいつはわかっているはず」という思い込みは禁物。英語、ロシア語など通じ合える複数の言語を使い、かつ相手の目をみて伝わっているかどうかを確認する、このようなノンバーバルな(言葉によらない)方法でも互いの意思を確認しあうことが欠かせないのです。このコミュニケーションについては、日本人同士でも同じことが言えると思います。

いくつになっても、何度経験しても、たえず現有の能力をテストされる宇宙飛行士

野口聡一

訓練は、一度やっておけば十分というものではありません。これは宇宙飛行士という職業の宿命でもあるのですが、何回目でも、何歳になっても厳しいテストが課せられるのです。例えば、パラシュートによる脱出訓練や、海水に落ちて救助を待つまでの間のウォーターサバイバル術。私は初めて宇宙飛行士になるときにこの訓練をしましたが、今度もやらなければなりません。

私も一般企業で働いていたのでわかりますが、報告書や見積書、設計図の書き方を新人時代には指導されますよね。けれども、何年も経って管理職になってからも、年度初めには全員に設計図を書く訓練をさせるということはありえないでしょう。そもそも管理職が設計図を書くことなんてめったにないことですけれど(笑)。英語のテストもそうですね。TOEFLで高得点を取った人が、次の年もその翌年も毎年のようにTOEFL試験を義務づけられる、というのもあまり聞いたことがない。少なくとも、新入社員と机を並べてテストをすることはないでしょう。

ところが、宇宙飛行士は違うのです。ソユーズの宇宙飛行士になるための筆記試験は、初めて試験を受ける人と会場で、私も一緒に受けさせられます。過去の経験はもちろん重要ですが、一度やったからいい、前に通っているからいいというものではないのです。つまり、今、確実にその能力やスキルを保持しているかが重要なのです。それができなくなったときは、現役を引退すべきときだと私は思います。

リーダーの目的は全員が納得することではない。全員の不満の間にばらつきがないことだ

宇宙船ではチームをまとめるリーダーシップのあり方がきわめて重要になります。

宇宙飛行士は、一人ひとりが船外活動や科学実験、緊急脱出など宇宙活動をするための最低限のレベルを越えている人ばかりですので、その気になれば誰もがリーダーになれるし、よいフォロワーにもなれます。しかし、その場ではリーダー/フォロワーの役割分担は明確です。リーダーにはチームとしていかに短時間で成果が達成できるか、それを達成する役割を各自に割り振る力が求められます。

リーダーシップのスタイルはいろいろあるでしょう。自分がリーダーであることをたえず示し、その指示に正確に従ってくれるように命令をするタイプ。それとは逆に、メンバーがその場で感じていることを吸い上げながら、最大公約数の解を探る協調型のリーダー。ふだんはリーダーシップをむしろ強調せずに、何かあったときのみ「責任は自分にある」と明示するタイプもあり得るでしょう。

宇宙船と呼ばれるからには、海上の船の船長さんをイメージされる方も多いと思います。船長には、海上での警察権や裁判権など強大な権限が集中しています。しかし、今の宇宙の船長は少し違う。特にISS(国際宇宙ステーション)の場合は、地上にいる管制官(フライト・ディレクター)と船長(コマンダー)がISSを“共同統治”しているというのが実状です。地上にいる人たちを束ねるのがフライト・ディレクター。宇宙ステーションにいる人を束ねる役がコマンダー。それぞれのリーダーが並列しているのです。

もちろん二人のリーダーの間で意見の食い違いがあっては困ります。そうならないようにするのが、二人の関係の妙であり、最大の目的です。地上がこうしろと指示しているのに、宇宙船のクルーはその指示に逆らうということがあっては大問題になります。

実はそういう例が昔、1970年代に宇宙ステーションを打ち上げた米国の「スカイラブ計画」で発生したそうです。宇宙船の3人のクルーが結束し、地上の指示を一切聞かないで、いわば“反乱”のような状態が生まれたと。これは精神的にも辛いミッションだっただろうと想像します。

そういう残念な例が実際に起きている。だからこそ宇宙船の船長は一緒に飛んでいるクルーを束ねると同時に、地上との協調が欠かせないのです。

私自身がもし宇宙船の船長になるとすれば、常にメンバーの意思を確認しながら、最大公約数的な解を探る協調型のリーダーになるだろうと思います。2005年のディスカバリー号の船長だったアイリーン・コリンズ(米国初の女性スペースシャトル・パイロット、女性船長)の言ったことで今も覚えているのは、「リーダーの目的は全員が満足することではない。全員の不満の間にばらつきがないことだ」という言葉です。

一般には、チーム内のメンバーの不満には、常にばらつきがあるものです。全員が100%ハッピーであればいいけれど、そんなことはあり得ない。しかし、誰かは100%満足しているが、別の人は80%、また別の人は20%しか満足していない、というのではうまくいかないのです。みんなが上手に折り合えている。不満がないわけではないが、みんな同じ程度にハッピーだとも感じている。満足度や不満度が一部に偏るのではなく、全員にいわば不満が“等分配”されている状態がいいのだ、とアイリーンは言うのです。

例えば、船外活動は宇宙の花形の仕事で、その任務を与えられた人は超ハッピーでしょう。しかしそうではない人も当然いる。そういう人には船外担当はないけれど、ドッキングのメインの担当になってもらう。ロボットアームの操縦は任されなかったけれど、科学実験のメインの担当者として目立つ位置に立ってもらう。そんな風に役割を上手にアレンジすることで、不満の等分配はできるはずです。

逆に言うと、アリーンが言いたかったのは、メンバーそれぞれが抱えている小さな不満から目を離さないということじゃないかと思います。

リーダーに従いながら、適切なアドバイスをする。フォロワーシップの重要性

野口聡一

先ほど、リーダー/フォロワーの役割分担という話をしましたが、実は私はリーダーシップと同じくらい、フォロワーシップが重要だと考えています。フォロワーとは、リーダーの言っていることを理解してその指示を確実にこなしながら、チーム全体としての成果を求めて建設的なアドバイスをする人、という意味です。

チームのメンバーの中には、立場による違い以上に、経験値の明確な違いがあります。一般の企業でも勤続年数が長い人が上に立つ、いわゆる年功序列の会社はまだまだ多いのは、勤続年数が長いということは、人間的にもマチュア(成熟している)であり、経験値が高いと見なされているからです。

宇宙飛行士の場合も、リーダーを決めるにあたっては経験を重視します。しかしそれだけに依存することはできません。同じくらいの経験の人から誰か一人をリーダーに選ばなければならないこともあるからです。つまり同期の間でリーダーになる人と、フォロワーになる人が分かれる。ときには特定のミッションについては、フォロワーの方が経験値が高い、という場合もあります。

だからこそ重要なのは、リーダーに対するフォロワーの役割です。フォロワーが自分の得意分野を持っていればいるほど、その経験をリーダーにアドバイスして、リーダーの付加価値を高めるように働く必要があるのです。つまり、リーダーとフォロワーの間には、外からみるほど上下関係があるわけではないということ。それぞれに責務があり、その重さは変わらないと思うのです。

おそらくこれは一般の企業の職場でも同じことが言えるのではないでしょうか。たとえフォロワーという立場であっても、リーダーに有効なサジェッションを行うことで、チーム全体としての完成度を高めることができる。よきフォロワーに恵まれたリーダーは幸いだし、だからこそよきフォロワーを育てることが、リーダーの重要な役目になるのです。

宇宙はビジネスパーソンにとっても、ずっと身近なものになる

ISS第62次・第63次計画の長期滞在搭乗員に選ばれ、2019年終わり頃から約半年間、宇宙で生活することになります。その頃には私も55歳になっているでしょう。日本人宇宙飛行士として最年長での宇宙飛行になります。この歳になって三度宇宙に挑戦させてもらえるのは大変ありがたいことだと思います。

しかし前回、前々回と同じことを繰り返すつもりは、私にはありません。何より、米国が威信をかけて開発中の新しい宇宙船に乗れるわけですから、やってみたいことは無数にあります。そのための訓練、新人たちとの横一線のトレーニングでも、私は決して負けるつもりはありません。

たしかに、ロケットを打ち上げ、宇宙ステーションに宇宙飛行士を送り込むという事業は、昔のように、新聞の一面を飾るほどのインパクトはなくなりました。成功が蓄積されると、それが当たり前になってしまう。宇宙に行くだけでニュースになる時代ではないのです。

そうはいっても、宇宙開発のもう一つの目的には、次世代を担う子どもたちに科学に対する興味を喚起することがあります。宇宙船で、科学技術実験の成果を挙げて帰ってくること、それを通して、日本人も宇宙に行けるんだという昂揚感や夢を語り継ぐ役割が私にはあります。

人類の宇宙開発という意味では、これからがむしろ面白いんじゃないかと思っているんです。小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトや、民間ロケットなど、宇宙への夢は多様化しています。民間のファンドがお金を出しあって、月面に車を走らせるプロジェクトなど、面白いアイデアがたくさん登場しています。単に有人宇宙飛行だけではなく、宇宙ビジネスの広がりが出てきているのです。

これまで宇宙などに全く縁のなかった企業やビジネスパーソンも、これからもしかすると、それに関連する事業に携わることがあるかもしれません。その意味で宇宙は身近になってきており、人々の日々の生活にもより深くかかわっていくことになると信じています。(談)

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野口聡一 宇宙飛行士

1965年横浜市生まれ。東京大学工学部航空学科卒業。同大学院工学系研究科修士課程修了。1991年石川島播磨重工業株式会社入社。1996年NASDA(現JAXA=宇宙航空研究開発機構)入社。米国、ロシアで宇宙飛行士としての訓練を受けると共に、「きぼう」日本実験棟の開発支援業務に従事する。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」によるSTS-114ミッションに参加。日本人として初めてISS(国際宇宙ステーション)での船外活動を行う。2009年、日本人初のソユーズ宇宙船フライトエンジニアとして、「ソユーズTMA-17」宇宙船に搭乗。ISSに159日間滞在した。現在JAXA宇宙飛行士グループ長。宇宙探検家協会アジア地区常任理事。2017年11月、ISS第62次・第63次の長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命され、訓練をスタートさせている。