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放送作家に学ぶ

ヒット番組を生み出す、鈴木おさむ氏の企画脳とは

放送作家 鈴木おさむ

テレビのバラエティ番組を中心に数々のヒット作を送り出す、放送作家の鈴木おさむ氏。かつて放送作家・構成作家と呼ばれる人たちは、舞台の陰に隠れ目立たない存在だったが、鈴木氏は番組やCMに登場し、自身のマルチなタレント性を惜しみなく発揮する。これには、放送作家という存在を世に知らしめることで、その社会的評価を高めたいという思いもあるようだ。鈴木氏がヒット作を生み出す秘訣は、企業の仕事上のプロジェクトを成功に導くうえでも貴重なヒントになるものだ。

放送作家は「B to C」ではなく、「B to B to C」の仕事。“放送”と付くからこそ、その言葉にこだわりたい

19歳で放送作家になりましたから、かれこれ30年近いキャリアになります。バラエティ番組を一つの家に例えれば、放送作家は全体の設計図を描くだけでなく、細かい窓やドアの配置を考えることもあります。若いころは僕もコーナータイトルを考えたり、小ネタを考えたりと細かいことをたくさんやりましたが、だんだん番組の基本的な設計図を任されることが多くなりました。ただ僕自身は、設計図を書くのも、小ネタを考えるのも同じくらい面白い。だから、番組によって自分が関わる範囲というのはさまざまですね。

僕は映画の脚本を書くときも、小説を書くときも、ラジオのパーソナリティをやるときも常に「放送作家の鈴木おさむ」でありたいと考え、その肩書きを大切にしてきました。もちろん、それぞれの世界で専業のプロがいますし、彼らには勝てないと思っていますけど、逆に放送作家の僕でないと書けない脚本や小説、放送作家でしかできない仕事があるはずなんです。

鈴木おさむ

何より「放送」という言葉が付くことの一種の「いかがわしさ」が好きなんですね。一見いかがわしいからこそ、本気になったらいろんなことがやれるし、格好がいいんじゃないか。そういうスタンスをずっと大切にしてきました。

放送作家というと、自分の物語をいかに視聴者に伝えるかを考えていたり、あるいは、視聴者のことを第一に考えて、視聴者にいかに受けることばかり考えていると思われるかもしれませんが、僕はちょっと違う。放送作家の仕事はテレビ局と契約して、テレビ局からお金(ギャラ)をもらう関係にあります。まずは、僕に仕事をオーダーしてくれたプロデューサーを納得させなければ仕事は始まらない。その人が面白いと思ってくれることが何より大切なんです。つまり、いきなり「B to C」ではなくて、まずは「B to B」なんですね。その関係の中で、自分の技量を求めてくれる人に納得、満足してもらう仕事をするのがプロフェッショナルだと思うんですよ。

もちろん、僕はそのプロデューサーを信頼しているわけだから、そのプロデューサーが面白いと言ってくれたら、それが結果的に視聴者に伝わるはず。結果的には視聴者、カスタマーが喜んでくれないと僕らの仕事は続かないわけですから、その意味では、最終的には「B to B to C」の仕事でもあります。

深夜の人気番組「いまだにファンです!」はこうして生まれた

「どうやって面白い企画を考えてるんですか」と聞かれることはありますけど、まっさらな状態で企画が生まれることは実は少ない。「日曜8時の枠、このタレントで、青春、スポーツもの」などの、番組の外形というか、キーワードが必要です。何もない状態で「企画を立ててくれ」と丸投げしてくるプロデューサーは滅多にいないけれど、そんな人がいたらダメですよね。

つまりあらかじめ与えられた条件の下で、どのように想像力を働かせて、企画を発展させるか。そこにこそ、放送作家の力量があるんです。もちろん、世の中の流れとか話題性とかを考えることもありますけど、単に流行っているから採り上げるのでは面白くない。時代の流れの背景にあるものを、どこかでちゃんと見ていたいと思うんですよ。

例えばですけれど、テレビ朝日の土曜深夜枠で始まった「いまだにファンです!」という番組があります。タレントの今田耕司さんと指原莉乃さんをMCにした番組は前からやっていたんですが、4月の編成替えのタイミングで本格的にリニューアルしたい、主要タレントを残して番組内容をガラッと変えたいと、プロデューサーが言うわけです。

そこで、以前、今田さんと話したときに、彼を20代の頃からずっと今まで追っかけているファンがいる、という話を聞いたことを思い出しました。今田さんっていま53歳なんですけど、30年以上ずっとファンであるという。これって凄く面白いと思ったんですよ。長く一線で仕事をするタレントも凄いけど、それ以上にファンって凄いなと。

鈴木おさむ

最近、タレントとファン、タレントと事務所の関係などをあらためて考えることが増えてきたように思います。とはいっても、アイドルやテレビタレントというのは、あくまでもファンがいて成り立つもの。そういうファンの方を番組に登場させて、その人の人生を語ってもらったら、面白いんじゃないかと気づいたんです。

番組では芸能人と、その芸能人を長年ひたむきに応援し続けるファンを招いて、トークをしてもらいます。芸能人が人気絶頂のときはもちろん、卒業、引退、結婚、人気の低迷などを経てもなぜ「いまだにファン」でいるのか。その訳を深掘りするんですね。これまで、高橋ジョージさんや風見しんごさん、山田邦子さんとそのファンの方などに登場してもらいました。

それぞれの人生の中で悲しいこともありながら、ファンであり続けることで、それを乗り越えることができた。そんなエピソードが語られると、MCの指原さんなんかはそれを聞いて泣いちゃうんです。

今の時代は、本当は過去にスキャンダルなことがあった人を叩くのではなく、ファンとタレントの温かい共有関係を人は見たいと思っているんじゃないか。時代は「優しさ」がキーワードだって、番組を企画したときに僕は思いました。それが結果的に当たったと思う。ありそうでいて、こんな番組、実はどこもやっていない。そういう斬新さもあってか、この番組は、放送批評懇談会が選定する「2019年4月度ギャラクシー賞月間賞」という大変名誉ある賞をいただきました。

プロジェクトが迷走しているときこそ、一人走って光を掲げる人が必要だ

鈴木おさむ

それでも僕だっていつもこんな番組が作れるわけじゃない。番組企画が成功するか失敗するかの違いって、企画側と制作側の温度感が重要だと思います。チームとして温度感が一緒にならないと、ダメなんですね。実は「いまだにファンです!」も、最初は僕とディレクターの番組づくりについてのイメージがちょっとズレていました。というか、僕が番組に賭ける思いがスタッフにあんまり伝わっていなかった。

そこで僕は、自分でファンの方を直接取材しに行ったんです。放送作家が取材に行くことはそんなにないこと。ふつうはディレクターがやる仕事ですね。しかし、それをすることで、僕のやる気がスタッフにも伝わって、互いに共有するものが増えてきました。

これは一般の会社の仕事でも言えると思うんですが、制作チームの中にたとえ一人でも、その企画にものすごい情熱と愛を持っている人がいて、その人がみんなを説得し、その熱い渦の中にみんなを巻き込むことができれば、その番組やその商品が成功する確率はきっと高まるはずなんです。中心にいる人の熱量が大きければ大きいほど、ヒットしたときの爆発量も大きくなるものなのです。

チームが迷走したり、先が見えなくて落ち込んでいたりするときにこそ、僕はチームのメンバーに光を見せたい。森の出口を見せたい。まあ、別に僕でなくてもいいんですけど、誰かが先頭を走っていないといけない。誰も正解はわからないからこそ、全力で走る人は、どんな仕事にも必要なんですね。

ワイドショーとSNSが映し出す時代の気分。「ちょっと変」にこだわるところから企画が生まれる

テレビ番組の設計図を描く放送作家は、もちろん時代の流れというものに敏感であることは大切です。だから、僕も今の人々の関心事を知るためにワイドショーなどはよく観ています。ただ、昔と違って今は番組だけでは話題は完結しない。それがTwitterなどのSNSで広がって、その拡散の様子を再びテレビが採り上げるなど、ソーシャルネットワークを抜きにして話題性とか人気とかを考えられない、そんな時代になりました。

だから、ワイドショーである事件が採り上げられ、そこに番組のコメンテーターたちがどんなコメントを寄せたか、それに対して、Twitterがどんな反応をしたかなどは、僕はわりと注意深く観察しているほうだと思います。

そうやって時代の流れというか、時代の雰囲気や気分を観察しながら、番組を企画するわけですが、今は視聴者の「半径5メートル」にない事象や話題を採り上げても、なかなか当たらない時代であることも確か。それ以上の遠さにあるものをあえて採り上げて、それが意外に大爆発することもありますが、こればかりは狙ってできるものじゃないですね。

鈴木おさむ

いずれは、テレビとSNSというメディアが一体のものになるんじゃないか、と僕は考えています。ネットでテレビ番組が観られて、その話題がSNSで拡散し、さらに視聴者が即座に直接、テレビ番組にコメントする時代になるんじゃないでしょうか。すでに人々のメディアとの付き合い方は、そんな感じになっている。動画サービスで流される番組などはすでにそうなっているし、テレビのニュース番組などでもTwitter窓口を設けて、ほぼリアルタイムの視聴者の反応を番組内に取り込もうとしているものもあります。

むしろ、大方の番組がSNSと連動していないことのほうが、僕には「ちょっと変」に思えます。例えば、日本でもQRコード決済が徐々に浸透していますけど、中国などの海外では日本の普及の比ではない、と聞きます。なぜ、こんなに便利なのに、日本ではそんなに普及していないのか、ちょっと変だと思いませんか。いい意味でも悪い意味でも、人々が「ちょっと変」だと思う感覚も、今の時代のキーワードかもしれません。

好きなものだけに閉じこもらず、自分のジャンルをあえて超える

バラエティ番組であれ、企業の商品企画であれ、企画をヒットさせるためには、確かに今世の中で何が流行っているか、何が面白がられているかを、ちゃんと感知しなければなりません。ただ、感知する方法というのは、企画者それぞれあっていいと思うんです。

例えば、僕は映画をよく観ますが、めったに観ないジャンルの映画というのはあります。自分の好みを前提にすると、無意識のうちに自分の好きなジャンルしか観ないようになる。これではちょっと視野が広がらないですね。

だから、自分が観そうにもないジャンルについては、「最近どんな映画に感動した?」と、意識的に人に聞くようにしています。例えば、『ライフ・イズ・ビューティフル』(イタリア映画、1997年)。最初は日本では全然流行っていなかったし、自分も知らなかったんですが、ある人が熱心に勧めるので観たら、席を立ち上がれないぐらい感動しました。そういう経験があるので、人の推薦に素直に耳を傾けるようになりました。

鈴木おさむ

最近の例で言えば、マーベル・コミックの『アベンジャーズ』シリーズの最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、人に薦められて観たら面白かった。上映時間3時間というので最初はビビったんですけど、これは並みの映画じゃない。俳優だけでなく、プロデューサーの気遣いまでを映像に感じることができました。

その映画を観ながら、不思議なんですが、自分が少年時代に「少年ジャンプ」をワクワクして読んでいた頃のことを思い出したんですね。47歳の自分にも少年のように映画や漫画を見て、心ときめくことがあるんだって。

そんなときに、ふと新しいバラエティ番組の企画を思いついたりするんです。「50歳のおじさんがこんなにワクワクする選手権」みたいな。

もし鈴木おさむが栄養ドリンクの新商品を企画するとしたら

こうした企画の発想の方法を、企業の商品企画の話に移し替えて考えてみましょう。例えば、創業者が創案し、今もロングセラーを続けていて、事業の柱になっているような商品。栄養ドリンク剤にしましょうか。「これが最近ちょっと売れ行きが落ちているし、いつまでもそれだけに頼っていてはダメなので、新しい商品企画を出せ」と、あなたがトップから言われている状況を想定してみてください。

ロングセラーにはそれなりのヒットする条件というのがあります。誰もがみんながその商品名を知っているというのは、最大の強みです。ただ、疲れに効く栄養ドリンクだから、おそらく飲んでいるのはオジサンがほとんどでしょう。ユーザーが限定されると、確かにその後の発展は期待できません。

でも、だからといって新商品へと飛躍する以前に、やるべきことはあるんじゃないかと思うんです。僕だったら、新規の商品を考えるよりも前に、そのドリンク剤を渋谷を歩いている女子高生にも飲ませてみたい。彼女たちにとっては意外性のある新鮮な味に感じるかもしれない。そのうち「JKがドリンク剤を飲むのは当たり前、なんで君は飲まないの」ぐらいに、普及するかもしれないじゃないですか。もちろん何らかのパッケージのデザイン変更は必要かもしれないけれど、もうちょっと本質的なところで、商品イメージを変えていく戦略です。

誰でも知っている商品だからこそ、その固定したイメージを転換して、新たなフェーズに進化させる仕掛けを考えるのは、僕だったらワクワクしますね。

商品がヒットした後、「なんでこれがなかったんだろう」と思わせる商品には、ヒットの必然性があります。例えば「ペットボトルのコーヒー」。移動しながら飲むコーヒーといえば、缶コーヒーが当たり前で、ペットボトルのコーヒーは売れないと思われていたそうですが、やってみたらその観念が覆ったわけです。

乳酸飲料は濃縮された原液を家で水で割って飲むのが当たり前だったところに、あらかじめ水で割った商品を開発したら、それが爆発的にヒットしたという話もあります。これなんか、技術的な改良も必要だったのでしょうけれど、それ以上に、乳酸飲料は子供が家で飲むものという概念を変えることに成功して、乳酸飲料の需要を拡大した好例ですよ。

そんなことを考えていると、たとえ新しい商品を企画する場合でも、その会社の本業というか、主力商品、ロングセラー商品の優れた部分に一度立ち返って、それから時代に応じた商品を発想していくことの重要性に気づきます。やはり、世の中から自分の会社に求められているものは何か、自社らしさとは何かを考えることが大切なんだと思います。

鈴木おさむ

ところで最近の僕はバラエティ番組の仕事と並行して、「男性不妊」をテーマにしたエンターテインメント小説を書きました。不妊治療って昔はあまり人前でおおっぴらに話すような話題じゃなかったと思うんですが、「妊活」という新しい言葉が生まれ、うちの大島などがそれを前向きに使ったりしたこともあって、もっと自由に話していいんだ、みんなで話題にしていいんだというように世の中の風向きが変わっていったと思うんです。 不妊治療では、男性側に問題がある場合もあるし、男性にも積極的に協力してもらう必要があるじゃないですか。だからこそ、僕は「男性不妊」という言葉を使うことで、世間のみなさんが普通に気軽にそのことを考えていけるような雰囲気を作れたらいいな、なんて思っています。

僕はテレビやラジオの、いわゆる業界の人たちとはもちろん会議はしますけれど、あまりプライベートでご飯に行ったりとかしないほう。普通に過ごしていたら会わない人と話すことのほうが面白いんですよね。最近は仕事の合間に、20代の若い起業家とよく会って話をしますね。大いに刺激を受けるし、彼らの背中を少しでも押してあげられるように、知り合いを紹介したりもします。

2019年4月からは母校の明治学院大学の文学部芸術学科メディア論コースで非常勤講師も始めました。この仕事は、今のリアルな若者が好きなこと、関心のあることについて、授業を通して膨大なデータが取れるというメリットもあります。例えば、今の学生は意外と居酒屋では電子マネーなんて使わず、現金で割り勘しているとか、そういう話って、あまりオモテに出てこないじゃないですか。

そんな業種や世代を超えた交流と、そこに降ろしたアンテナに、「ちょっと変なもの」がひっかかって、それがもしかすると今後の企画につながるかもしれない。そんなことを期待しています。

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鈴木おさむ 放送作家

1972年千葉県南房総市生まれ。高校時代から放送作家を志し、明治学院大学在学中の19歳で放送作家デビュー。初期はラジオ、20代中盤からはテレビ・バラエティ番組の構成をメインに数々のヒット作を手がける。妻の大島美幸(森三中)との生活を語ったエッセイ『ブスの瞳に恋してる』、映画『ONE PIECE FILM Z』の映画脚本などでも知られる。他にも舞台の作・演出、ラジオパーソナリティ、CMの企画や監督などで多才ぶりを発揮。ビジネスパーソン向けの著書に『新企画 懇親の企画と発想の手の内すべてを見せます』(幻冬舎)などがある。