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ジャパネットたかた創業者に学ぶ

「人を感じる」ことが全てのビジネスの原点
~ジャパネットたかた創業者がコロナ禍で考えること~

ジャパネットたかた創業者 髙田 明

テレビショッピングで知られるジャパネットたかたの創業者・髙田明氏。長崎県平戸市の写真店から通販ビジネスに参入し、一代で年商1,800億円の企業にまで育て上げました。テレビの前で自ら商品をわかりやすく快活に説明するその姿は、今も記憶に新しいものがあります。2015年に社長職を子息に譲り、その後2017~2020年1月1日までは、サッカーJリーグの「V・ファーレン長崎」代表取締役社長を務めました。現在は、自分の会社で、経営者としての経験を伝える活動などをしています。30年近くのオンラインショッピングの経験を通して得た、消費者の心をつかむ秘訣、人を魅了するための話し方、そしてその根底にある「人を感じる」ことの大切さを伺った。

便利さや効率の追求一辺倒ではなく、バッファのある社会を

Jリーグ「V・ファーレン長崎」の運営会社は2020年1月から長女にバトンタッチしました。ただ、地元のサッカークラブということもあり、私自身は社長を退任してからも、「サッカー夢大使」としてクラブの後方支援活動に携わっています。ジャパネットホールディングスも5年前に完全引退しましたので、今は「A and Live」という自分の小さな会社で自由に活動しています。機会があれば、私の経営者としてのささやかな経験をみなさんに伝えたい、そんな想いで仕事をしています。

2020年という年はやはりコロナ禍で記憶される1年でした。100年前にスペイン風邪が世界中に流行ったということですが、私は、もっと大きな、中世のペスト禍以来の人類の危機だったのではないかとさえ考えています。

それに応じて、私たちのビジネスも根本から大きく変えざるを得ませんでした。

対面でお客さまと接したり、世界中を移動したり、密集して仕事をすることが困難になりました。そこであらためてオンラインという手段が注目されましたが、今後もビジネスのすべてがオンラインで完結するわけではないと思います。オンラインは確かに便利だけれど、やはり人と人がリアルに出会い、会話をするところにこそ、ビジネスの本質があると思うんです。いずれは、コロナも収束すると思いますから、必要以上に悲観的になったり、塞ぎ込む必要はないと思います。

そもそも効率化や便利さを求めすぎた結果が、感染症の拡大という今の事態を招いているとも思います。ふつうのビジネスでも売り上げを上げるために人件費を削減することがありますが、そうした動きが、保健所や病院といった医療インフラにも及びました。その結果、検査が間に合わないとか、病床が足りないとか、医療現場が逼迫しているということがあったのではないでしょうか。

便利さや効率の追求一辺倒でなく、危機の際にそれをちゃんと受け止める、バッファのある社会を作っていくことが重要です。そのことにあらためて気づかされたのも、この一年でした。

森林伐採などで人間が自然破壊したことが、感染症の遠因であるという説もあります。地球や自然には限りがある。それとの共存をどう考えるか。SDGsやESGといった観点から、地球環境に優しい持続的なビジネスを考えるという視点も、これからはますます重要だと思います。

「見つけて、磨いて、伝える」のがテレビショッピングの基本

髙田 明

私は会社に勤めて営業の通訳もやりましたし、家業の写真屋に関わるようになってからも、基本はお客さまと相対する仕事をしてきました。それが41歳の時にラジオの通販番組を始めることになり、その後はテレビに進出します。さらに紙媒体、インターネットといったさまざまなメディアを駆使しながら、30年近く、非対面の商売、今で言うオンラインショッピングをやり続けてきたことになります。

オンライン販売は、相対販売とはツールや状況こそ違うものの、本質は同じ。私はテレビカメラに向かって喋っていても、常に100万人の視聴者一人ひとりに向けて語りかけ、見えない消費者との会話を楽しむようにしていました。

2010年ごろ、シニア向けのウォーキングシューズに注目し、その販売に力を入れたことがあります。当時は、いわゆる高齢者と呼ばれる人口が日本には3,200万人いると言われていました。その靴は私自身が使って、とても履き心地がよかった。「この靴はとても履きやすいから、ぜひ使ってください」とカメラに向かって訴えながら、私が何を想像したかというと、3,200万人のシニアのみなさんが一斉にその靴を履いて歩き始める風景なんです。

その情景を想像し、靴がもたらす価値を私自身が感じながら、消費者のみなさんに語りかけたのです。本気で自分が思っていることを消費者と共有できれば、たとえ、お客さまと直接会うことはなくても、言葉は通じるし、モノは売れるんです。

商品の良さを本当に理解していること。それを使うユーザーに本気で向き合うことが大切。つまり、情熱を伝えることができれば、リアルの世界以上の成果を導くことができると、私は確信しています。

もちろん情熱をもって語れといっても、MC(司会者)自身が当該商品を深く知らなければ始まりません。社員には情報のインプットを「それまで100だったら、300にしろ」とたえず言ってきました。エアコンを紹介するにしても、単に製品のスペックだけでなく、その商品の業界における立ち位置、開発のストーリー、配送・設置取付の品質やその後の満足度まで含めて伝えることが大切なんです。

まだその良さが知られていない、それを使うメリットが感じられていないところに、良さを発掘し、伝える。まさに「見つけて、磨いて、伝える」のがテレビショッピングの基本。単に、カメラの前でうまく喋れるというテクニックの問題ではないんですね。

これはジャパネットのようなB to Cのビジネスだけでなく、法人相手のB to Bビジネスでも同じことです。対象が個人でなく、企業であるだけ。どれだけ相手の企業のことを思い、相手の立場に立てるかどうかが問われると思います。

「伝えた」と「伝わった」の違い。顧客といかに価値を共有するか

私たちは、つねに商品がもつ本物の価値をお客さまに伝えることに腐心してきたのですが、言葉に出して「伝えた」ということと、それがたしかに「伝わった」というのは違うと思います。世の中には「伝えたつもり」で終わる人があまりにも多い。通販でも、あれだけ何十回と喋っても全然注文が来ないのは、それは「伝えたつもり」で実は「伝わっていない」からなんです。

一、二度話したからといって、想いが伝わることはありません。しっかり「伝わった」という手応えを得るまで、そして伝えることで何かが変化するまで、私たちは伝え続け、伝え方を工夫し、その結果を見届け、さらに改善を重ねる必要があるのです。これはビジネスに限らず、学校の先生と生徒の関係、友達同士の会話でも夫婦や親子の会話でも、あらゆる現象で言えることです。

かつて「髙田社長が話すと、つい衝動買いをしてしまう」というお客さまの声を聞いたことがあります。衝動買いというとネガティブに捉えられますが、しかし、衝動買いして届いた商品がよかったら、それはネガティブには決して捉えられないと思います。10万円の商品がそれ以上の価値をお客さまにもたらした。それこそが「価値が伝わった世界」なんです。この「伝わった世界」を売り手と買い手の間にどうやって作るか、それが重要なんですね。

だからこそ、私は何でもかんでも「買ってくれ」ということはありません。ある健康食品を販売する時、「長続きしないと思う人は、絶対買って欲しくない」と正直に話したこともあります。そんなことが言えたのは、自分自身が20年近く飲み続けていて効果を感じているからだし、真にお客さまのことを思ってのことでした。「理解」と「本音」と「情熱」をもって語りかけ、その想いを相手と共有することで、言葉は伝わる。それが30年に及ぶオンラインショッピングの仕事を通して私が得た結論でした。

「難しいことをやさしく、やさしいことを深く」——井上ひさし氏の言葉

顧客へのセールスであれ、部下への指示であれ、ビジネストークということで考えれば、たしかにより効果的に伝えるスキルはあり、それは修業を通してある程度身につくものです。

以前、作家の井上ひさし先生からいただいた言葉があります。先生がご存命の時、テレビのインタビューで、小説や戯曲の書き方で基本に据えていることは何ですかと問われて、「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く、面白いことを真面目に、真面目なことを愉快に、愉快なことはあくまで愉快に」と語られたことがあります。

私がその話を大切にしていることを伝え聞いた井上先生のお嬢様から、その言葉をしたためた色紙を送っていただいたこともあります。私の宝物です。とりわけ「難しいことをやさしく、やさしいことを深く」というのは、まさにセールストークの基本でもあるなと思いますね。

髙田 明

わかりやすい言葉を起承転結をもって語ることも大切ですね。私は世阿弥が好きで、世阿弥について本を書かせてもらったこともありますが、世阿弥が『風姿花伝』などで芸道一般に通じるものとして語った「序破急」という構えを、自分が誰かに語りかける時はいつも心に留めています。話の構成には、序破急つまり導入、展開、結論を常に考える必要があります。

重要なことは何度も繰り返すことも大切ですね。さらに大切なのは、話の中に「間」を挟むことです。商品の良さを説明した後、「今なら2万9千800円!」と叫んで、その後、一瞬の間を置く。その何秒かの間に、私はお客さまの反応や疑問や心の動きを感じとろうとするのです。つまり、間があるからこそ、人とコミュニケーションできるし、会話が成り立つ。相手の心の内を知ることなく、自分だけ一方的に語りかけたら、聞いているほうは集中力が続かなくて、飽きてしまいます。

もう一つ、言葉以上に大切なのが、非言語コミュニケーションでしょう。喜怒哀楽の表情や手振り、身振りですね。これは人の上に立つ企業のトップにとっても、とても重要なスキルです。米国の大統領選などをみていると、候補者はいずれも言葉だけでなく、表情に力がありますね。日本の政治家にはなかなか真似ができない。あれはきっと長期の選挙戦の中でだんだん鍛えられていくのではないでしょうか。私たちも、日ごろから喜怒哀楽を伝えるトレーニングをしておくべきだと思います。

相手の立場で自分を見る、演者の自分と観客がいる舞台を客観視する

世阿弥の話をしたついでに申し上げると、世阿弥には「我見(がけん)」「離見(りけん)」「離見の見」という能楽の教えもあります。「我見」とは自分が思う姿。「離見」とは、相手から見えている自分の姿。そして「離見の見」とは、役者が観客の立場になって自分を見る、客観的に俯瞰して全体を見る力のことです。世阿弥は、観客から自分がどう見られているかを意識しなさいと説いているわけですね。その視点を頭に置くのと置かないのでは、観客への伝わり方は全く違ってくるでしょう。

これを人と人のコミュニケーションに置き換えれば、自分の言い分だけを言っていては何も通じない。謙虚さ、誠実さが大切だということなんですね。通販番組でも「これはいいでしょう」「安いでしょう」と一方的に連呼するだけでは、いくら品質がよく、お買い得な商品だったとしても、お客さまは反応してくれない。つまり、我見だけで語っていたら相手に響かないんです。

お客様の立場になって、商品の魅力をしっかりわかってもらえるように話すことで初めて、我見と離見、売る側と買う側双方の視点が一致するのです。

さらには、通販番組で自分が演じている姿を、自分やお客様などすべてを眺める視点で、少し離れた場所から想像すること、つまり「離見の見」も大切です。通販番組の放送中、直接お客様の姿を目にすることはできないので、想像力を膨らませるには場数を重ねるしかない。自分ではうまく伝わったと思っても結果が出ないのは離見の見が不十分だったから。何度も失敗を重ねながら離見の見を磨いていくのです。

こうしたコミュニケーションの中で最も大切なことは、やはり「人=相手を感じること」だと思います。これは、現代の人と人、親と子、企業経営、さらには政治的・社会的なコミュニケーションにも通じるものです。とりわけ、企業経営では、経営者は自分の夢を繰り返し、わかりやすく語らなければなりません。社員はその話を聞いて、自分は何が貢献できるのか、何のために働くのかを考えることができ、それが社員のモチベーションにつながる。

その前提にあるのが、社員を一人の人間、一人の仲間として感じること。つまり「人を感じる」ことがすべての原点だろうと思います。

コロナ禍であらためて感じる、自分の価値、自分のビジネスの意義

30年近く、通販会社を経営してきましたが、その間に、売上の数字に一喜一憂することは実はあまりなかったんですね。テレビがアナログからデジタルに移行した後、全くテレビが売れなくなり、2011年と2012年の2年間で売上が600億円も下がりました。ふつうは倒産という言葉が頭をよぎりますよね。しかし私は決して心配はしなかった。それよりむしろ苦境を乗り越えるためには積極的な投資が必要だと判断し、オフィスを東京に進出させました。

これは持論ですが、それが身の丈を越えるものでなければ、経営者は積極的に投資すべきだと思うのです。もちろん、投資には常にリスクはあるから覚悟は必要ですけれども、それを踏まえた投資は経営者にとっては常にリーズナブルなものなのです。

この時は社員にも不退転の決意を伝えました。それがかえって社員の奮起を促すことになりました。その結果として2013年は過去最高の経常利益を達成することができました。

会社が危機に立たされた時に、えてして経営者が経営判断を間違うのは、「できないこと」ばかりを考えて躊躇するからではないでしょうか。「できない」ことは確かにたくさんあります。しかし、そこで「できる」ことが10%でもあれば、そこにチャレンジするのが経営者ではないでしょうか。90%の「できない」ことで悩み続けても何も前には進まないので、10%の可能性にチャレンジして、できることを増やしていく、というのが私の考えです。

もう一つ例を挙げると、私は30歳の時に、親兄弟がやっていた撮影や現像を請け負う写真業を佐世保市内に展開するのを任され、小さな支店を出しました。1万人ほどの商圏ですが、地域の中で一番店になるためには、DPE(原像、焼き付け、引き伸ばし)のスピードや品質を高める機械の導入が欠かせませんでした。しかし機械を購入するとなると750万円が必要です。そんなお金はとてもありません。けれども、5年リースを組めば月額リース料が15万円で済みます。その後店舗を追加で3店出店しました。しっかり計算をした上で投資に踏み切りました。結果的にその機械のおかげもあって、私の店は4店とも地域一番店になることができました。

今はコロナ禍でどの企業も大変ですが、補助金や金融機関からの無利息や低利の融資もあります。危機にたじろぐことなく、さまざまな手立てを考え抜き、しっかりと計算することが大切だと思います。リーズナブルな投資判断とリスクへの覚悟があれば、日本の中堅中小企業は、どんな危機でも切り抜けることができると信じています。

このコロナ禍を機に、あらためて私たちは、自分のビジネスの本質的な価値とは何かを考えるようになりました。自分たちは何のために仕事をしているのか。自分たちの会社や製品はどこが優れているのか。それがお客さまにどういう価値をもたらしているのか。

ビジネスが不調の時こそ、ビジネスの原点に戻るよいきっかけです。この時期にビジネスの原点に立ち返って考えたことは、アフターコロナの時代に必ず花開くと思います。

いま息子が社長を務めるジャパネットホールディングスは、長崎市の工場跡地に、サッカースタジアムを中心に、アリーナ・オフィス・商業施設・ホテルなどの施設を民間主導で開発するプロジェクを進めています。そんなジャパネットの夢を陰ながら見守り、できる限り応援したいとは思います。でも、あまり未来のことばかりで悩まないというのが正直なところ。以前、「経営目標を持たない経営者」と言われたこともありますが、それでいいのかな。たとえ目標を持っても、10年後、20年後は環境が変わるから、その通りにいくとは限りませんからね。それよりも精一杯「今を生きる」ことが大切だと思っています。明日が変われば明後日が変わる。そして一年後が変わります。

もちろん、常に自分を見つめ直し、相手を理解し、思いやる心にはいくつになっても磨きをかけなければならないと思います。その研鑚には終わりというものがありません。そうやって、30代、40代に仲間たちと一緒にやってきた楽しいことを、70代、80代になっても何かできれば、これこそが本望だと思っています。(談)

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髙田 明 ジャパネットたかた創業者

1948年長崎県平戸市生まれ。大阪経済大学卒業。機械製造メーカーへ就職し、通訳として海外駐在を経験の後、家業の写真店「カメラのたかた」に入社。その後、分離独立し、「ジャパネットたかた」を創業。ラジオ・テレビを通した通販ビジネスに参入。2015年、同社代表取締役を退任。「A and Live」を設立。2017〜2020年「V・ファーレン長崎」社長を務める。著書に『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)、『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』(日経BP)がある。