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ニューノーマル時代の営業変革 ―なぜいま営業変革が必要か?

パンデミックに象徴されるVUCA

新型コロナウイルス感染症の拡大により、世の中は大きく変化した。それは、まさしくVUCA※を象徴するできごとであり、市場環境の変化は、きわめて先を見通せないものとなった。

企業活動にも大きな影響を与えた。2020年4月からは緊急事態宣言が発せられ、企業の営業活動は大きく変化せざるを得なくなった。顧客に面会することを仕事としていた営業担当者は、その強さを発揮することができなくなった。こうした環境下においても、営業活動を止めてしまうことはできない。直接的にはパンデミックがきっかけとなり、世界中の企業が営業変革に本格的に取り組むこととなったが、単純にWeb会議を使った顧客との会議開催などだけでは、成功はできない。

パンデミックは、VUCAの代表的な事象であるが、それのみならず、市場環境の変化は速く、そして大きくなっている。顧客ニーズは激しく変化しており、企業はそれに対して如何に対応するかということが最も重要な課題となっているのである。シェアリングエコノミーは進み、所有することから必要な時に使用するという傾向は進んでいる。自動車においても所有するから使用するという傾向は続いていくだろう。ドイツのコンプレッサメーカーであるケーザーが行っているようにコンプレッサを販売するのではなく、圧縮空気を提供するというように、顧客のマインドの変化に合わせて、提供価値を再定義することが必要となっている。こうした動向が続いていくことは、これまでのように商品を販売するというマインドから、顧客の困りごとを理解し、それはどうしたら解決できるのかという視点を常に持つことが必要となっている。

新型コロナウイルス感染症に対する対応はワクチンが普及することもしくは、スペイン風邪でおきたように多くの人が免疫を得るまで数年間に及びこの状況が続くかもしれない。ただ、営業は、対面営業における制約に直面している。何故ならパンデミックを機に、Web会議などの普及、利用は止まらないからである。したがって、これからの時代の営業変革を考えなければならない。

※Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の略であり、先の見通せない市場環境のこと

これからの時代に求められる営業変革

これからの時代に求められる営業変革は、まず、製品起点ではなく、顧客起点で考えることである。そして、さらに、営業プロセスをなるべく非対面のプロセスと組み合わせたコミュニケーションミックスを実現することが必要となる。こうしたことを実現していくためには、営業の評価の在り方も変化していくべきだろう。つまり営業マネジメントの在り方も大きく変化すべきである。

ア) 顧客起点の営業プロセス

営業の行為にありがちなのが、まずカタログを出して語り始めるということだ。そこに顧客理解は存在していない。カタログトークであればカタログを見ればわかる。

また、顧客はすでにネットでの検索を済ませており、営業からの製品についての説明は求めていないことが多い。顧客起点で考えるということはどういうことだろうか?それは顧客がどのような体験を求めているかを考えることであろう。過去は顧客に対して製品を売ることにより、その製品の性能から齎される便益により、顧客は満足してくれた。そのため、製品の性能が良いなど製品に依存した販売活動でも顧客は喜んでくれた。

しかしながら時代が大きく変わり、顧客は製品そのものでは満足しなくなっている。そのため、必要となるのは顧客体験起点で考えることだ。そのためにはカスタマージャーニーを考えることが大事だ。カスタマージャーニーとは、顧客がどのように注意喚起され、興味を持ち、調査ののち、意思決定をして、購買行動に致り、その結果、満足もしくは不満足を共有するのかについて、顧客体験を描き出すことにある。つまり、顧客がどのような体験を求めているのか、顧客の立場になり考えることで、カスタマージャーニーにおいて、自社がどのような接点を持つべきなのかを考えることになる。例えば右記の図でいくと、顧客はWeb広告で注意喚起を受け、その後検索エンジンから資料請求をし、さらにウェビナーで詳しい内容を調べて、営業に最終的な問い合わせがいき、購買に至っている。その結果、製品についての成功体験をS N Sで共有しているというカスタマージャーニーとなっている。

このように、顧客起点で顧客がどのような体験を求めているのかを考えることが必要となっている。例えば、自社は顧客が求めている動線にしっかりとタッチポイントを持っているかという疑問があがる。顧客が閲覧しそうなWebサイトに広告などのタッチポイントがあるか、顧客が関心事、課題から検索を掛ける際、自社の露出がどの程度、上位にくるかなどの検索エンジン対策なども考えなければならないだろう。そして問い合わせ率を上げるには顧客がどのような理由で、離脱をしてしまうのかも把握することが大事だ。

このようにカスタマージャーニーを考えていくと、営業一人が注意喚起から購買に至るまでを一人でやりきることは難しい。営業、Webサイト、コールセンター、サービスマンなど企業は様々なタッチポイントを顧客と持っている。これらが有機的につながっていないことも多い。つまり、それぞれの顧客に対する接点として、それぞれの役割に対して行動していたが、これからは、実現したいカスタマージャーニーを目指して、これらのタッチポイントが連携して動くことが必要となっている。

イ) コミュニケーションミックス

CX(カスタマーエクスペリエンス)を中心に考えると営業ができることは限られている。Web、コールセンター、コンタクトメールなどと組み合わせ、顧客の動線に合わせたタッチポイントの設計を行い、それらが連携をして、顧客のCX向上に努めなければならない。ここでのポイントは各タッチポイントが実現したいカスタマージャーニーについて共通認識を持つ必要があるだろう。そのうえで、顧客情報、顧客とのコンタクト履歴を共有していくことが必要だ。こうした各種タッチポイントが連携をし、理想とするカスタマージャーニーの実現を目指すことが必要だろう。

ウ) 営業マネジメント

そしてこうした営業変革について非常に重要になるのが営業マネジメントの変革だろう。いくら営業変革を声高に訴えたとしても、マネジメントが過去の考え方から変わっていなければ営業やコールセンター、Web担当など各タッチポイントとなる部門の人財に対して改革を浸透させることはできない。各タッチポイントが理想とするカスタマージャーニーを目指すのであれば、その実現に向けた具体的な行動について評価をするなど、評価についても変革が必要だろう。また、日々の営業マネジメントのコミュニケーションも変わらなければならない。こうしたマネジメントの変革は、組織に変革を浸透させるうえでは最も重要な要素となる。筆者が過去、様々な企業の営業と議論する際、多く聞かれたのは、営業は非常にやる気があるのだが、営業マネジメントが変革に対して消極的であるために、変革が進まないということがある。顧客と直接接点を持つ営業担当は非常に高い問題意識を持っていることが多い。何故ならば顧客の変革に直面しているからだ。しかしながら、営業マネジメントは未だ、商品販売の考え方から抜き出ることができず、結果として改革に対して抑制することになることも多い。営業マネジメントのマインドを如何に変革するかは改革を浸透させるうえでは非常に重要なポイントとなる。

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株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部
シニアパートナー
青嶋 稔氏

1988年精密機器メーカーに入社。1994年から2014年まで10年米国駐在、PMI、新規事業プロジェクト責任者。2005年株式会社野村総合研究所(以下、NRI)に入社し、2012年同社初パートナー、2019年4月同社初シニアパートナーとなる。
専門は、製造業におけるM&A、PMI、長期ビジョン、中期経営計画策定CRM戦略、営業改革を専門とする。
著書は、『マーケティング機能の再構築』中央経済社、『日本は「パッケージ型事業」でアジア市場で勝利する』東洋経済新報社、『「強くて小さい」グローバル本社の作り方』NRI出版、『ハーフエコノミー時代の営業改革』NRI出版など多数。