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IT特集 - 経営力強化

さらなる利益を得るために、今すべき取り組みとは
~企業が利益を上げるためには、どんな施策を行えばよいのか~

長い間経済の低迷が続き、売り上げの拡大が期待できない中で、企業は利益を確保するために様々なコストを切り詰めてきた。しかし、ITの進化によってもたらされた、グローバルな視点やリアルタイムな現状把握、きめ細かな状況分析などにより、これまでとは押さえるべきポイントも変わりつつある。今回は利益向上のためにITをどのように使うべきか考えてみたい。

ビジネス環境の変化を利益向上に結び付けるには

利益を生み出す構造としては、売り上げの拡大とコストの削減がある。昨今売り上げに伸び悩む中、確実に利益を上げるためにコスト低減を図ってきた企業は多いのではないだろうか。さらに企業は、原価構造の見直しや調達の最適化、経費の抑制など、様々な努力も続けている。

そんな中、市場がグローバル化したことで、サプライチェーンの構造も変化しつつあり、調達・生産・販売など世界中のチャネル活用が可能になってきている。IT環境の変化が市場のグローバル化促進に大きく影響しているのだ。クラウドサービスが拡大し、世界中の企業がよりシステム面に連携できるようになってきている。このような環境の変化は、企業にとってビジネスモデルを見直す良い機会となっており、企業にさらなる利益をもたらすチャンスとなっている。

こうした流れは、経済の再活性化につながっていく。企業はその流れに上手に乗り、あるいは自ら流れを生み出すことで、ピンチをチャンスにできる。そのためにはどんなアプローチがあるのだろうか。事例を交えながら具体的に考えてみたい。

グローバルな調達ときめ細かな原価管理の実現

ITによってグローバル性が高まっているのが製造業である。ある製造業の企業では、プラスチック製造、金属製品・電気製品・ペットフードまで多種多様な商品の開発、製造、販売をグローバル環境で展開している。この企業の強みの1つは、世界各地に拠点を持ち、グローバルに生産を最適化していることだ。世界の様々な国や地域からコストパフォーマンスに優れた素材を選び出し、中国や米国などその商品に適した場所で生産を行っている。

理想的なサプライチェーンをITの活用で構築し、適正なコストでより良い原材料を調達して製品の品質を高めることができる。そして顧客のニーズに合わせて常に商品の最適化を図ることで、優れた新製品の提供につなげている。今では売上高に占める新商品の割合は半数以上となり、売り上げも拡大するという好結果につながっている。

ITの活用により、企業の規模にかかわらず、様々なサプライチェーンの構築が可能になりつつある。EDI(電子データ交換)や法人向けECプラットフォームなどの発展で、規模の大小にかかわらずグローバルな調達が簡易化しているからだ。これらの活用を検討する価値は大きい。従来の取引先からの情報をうのみにしたり、価格交渉に力を注ぐよりも、調達先や為替レートなども考慮に入れながら、グローバルに目を向けて新規の取引先を探す方が、効果的な原価の削減になるかもしれない。

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外食産業では、ITによってきめ細かな原価管理を実現している。外食チェーンでは店舗ごとに材料費を把握し損益管理を行っているが、最近ではITの活用により個々のメニューごとの原価管理を行うところも出てきた。ERPパッケージなどシステムを導入することで、きめ細かな原価を把握することができるようになったからだ。

さらにポイントになるのがリアルタイム性だ。外食産業では、市場などから食材を仕入れるため、原価が日々変動する。当初想定した標準原価(※1)と顧客に提供する際の実際原価(※2)に大きな差が生じることが多い。この仕入れ原価をITの活用でリアルタイムに把握し、その時点で利益率が高い食材に切り替えて利益を確保するといった、より的確な経営判断が実行できるようになっている。

しかも、様々な業界向けのソリューションがクラウドサービスの形態で提供されるようになってきているので、以前よりも低コストでの導入が可能となった。外食産業以外でも、こうしたこともコスト削減につながる有効な施策として検討すべきだろう。

(※1)標準原価:あらかじめ基準として設定しておく原価
(※2)実際原価:実際の材料費、労務費、製造経費などから算出した原価

人件費の削減にも新たな視点から取り組む

利益確保のためのITの適用領域として注目されているのが人件費の分野だ。人件費もコストの大きな要素の1つだが、やみくもなリストラや賃金の抑制は競争力や従業員のモチベーションの低下につながり、中長期的に企業体力をそぐことにもなりかねない。こうしたジレンマの中、逆転の発想で利益を上げている企業もある。

子どもやベビー用品の製造・小売りを手掛け、チェーン展開しているある小売業の企業では、人の集まる駅前や繁華街への出店をわざと避け、人の少ない郊外で店舗を展開している。郊外の店舗であれば、家賃を抑えることができるが、来客数は少ない。そこでこの企業では、1人の従業員にレジや売り場などマルチタスクをこなしてもらい、それと同時にITを活用して、店内の様子をカメラで撮影し、イントラネットを利用して本部で店内の様子を管理している。この結果、地区長が店舗を巡回してチェックする必要がなくなり、人件費のムダを省くことが可能になったので、郊外店舗でも高い収益を上げるという戦略が実現している。

また、工場などの製造業においてはITの活用によって人材管理を高度化しようという取り組みが進んでいる。例えばビデオ解析ソリューションを導入することで、人の流れや作業を可視化する。流れ作業に良いと思われていた配置や、現場監督の個人の判断で配置されていた人や機械などには、気づかないところにムダが隠れていることも多い。そうしたムダを丁寧に取り除いていくことで、より効率的に貴重な人材を活用し、一人ひとりの生産性を向上させることができる。

こういった利益向上のための取り組みについてまとめてみると、最適地調達と生産を行うための「グローバル」、原料の適正価格を把握するための「リアルタイム」、ムダを省き人材を有効に活用するための「人件費管理」という3つのキーワードが浮かび上がってくる。そしてそれらを上手に解決するための手段としてITがある。


ITで人材活用を推進し、人件管理費を適正化する

まず、ITを活用した生産的で効率的な人材活用による「人件管理費」について考えてみたい。

昨今では街角でも頻繁に見かけるようになった、ネットワークを通じてカメラで撮影した映像を見ることができるネットワークカメラ。小売店舗や製造工場でも、防犯や従業員の業務状況のチェックのために導入しているところも多い。「動線描画ソフト」を使えば、録画された映像から人の流れを定量化して分析でき、映像の中から人の動きを検出、描画し、動線の分析を容易に行えるようになる。特定のエリアを設定して、複数の人物ごとにそのエリアに入った回数や滞在時間、エリア間の移動回数などを把握することができるのである。

人の流れを可視化することは的確な改善策の立案につながる。小売店舗では顧客の動きを把握してより効果的な陳列を行ったり、従業員による商品補充の進め方を点検して動線をシンプルにすることもできるだろう。製造工場では人の移動や作業の中身を可視化することで、製造工程での無駄な動きを削減し、生産性の向上につなげることができる。

また、スマートフォンなどモバイル端末を利用して、適正な人件費の管理を行うことにも効果がある。従来のタイムレコーダーでは、勤務状況の記録を給与計算システムに入力し直す必要があったが、勤怠管理システムを導入すれば、パソコンなどから入力された勤務データをそのまま給与計算に利用でき、迅速に人件費を把握できる。勤怠管理システムの多くはクラウド化されているので、少ない初期費用で導入できるはずだ。

また、モバイル端末から利用できる勤怠管理システムであれば、外出先への直行直帰も可能になる。営業担当やメンテナンス担当など、外回りが多い従業員の労働時間を短縮でき、業務全体のサイクルを効率化し、適正な人件費を維持することにもつながる。GPS機能によって、どこにいるのかを把握して、他の社員に適切なアクションを指示することで、重複した訪問を回避するなど、無駄な動きを省くこともできる。

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リアルタイムの原価管理でグローバルな調達を

もう一つの視点は原価管理だ。利益の向上のためには原価管理も重要なファクターとなるが、グローバルな市場においては、最適な価格の材料や部品の調達、リアルタイムでの実際原価(※1)の把握となると、実現できていない企業が多いのではないだろうか。原価管理は工数がかかり負荷が高いので、生産管理システムやERPなどのシステムを活用して管理体制を確立したい。

ある化学業では、原価計算のスピードと精度を向上させ、経営の意思決定とアクションを支援するために生産管理システムを導入した。MRP(資材所要量計画)機能から得られる情報を原価管理と生産管理に反映させることで、全工場レベルでのトータルな生産管理と製品ごとの利益管理の精度を高めた。

また、ある製造業では、従来、営業担当が表計算ソフトを用いて伝票を作成して売上管理を行っていた。このため、データが属人化されてしまい共有することが難しかったという。そこでERPソリューションを導入し、売上管理をシステム化した。このシステム化によって、原価や粗利などが可視化され、商品ごとの利益やコスト、顧客ごとの売り上げなどを組織的に把握する仕組みが構築できた。

このように、原価管理の体制を強化することで、プロジェクトや製品、案件などの原価管理を行うことができ、実際原価を可視化できる。日々変動する原価の情報を自動で更新するように設定しておけば、数値データとしてリアルタイムに管理することも可能となる。

さらに、実際原価と標準原価(※2)を品目別に捉え、原価を詳細に分析する「原価管理のPDCAサイクル」を確立できれば、利益の最大化や製品の取捨選択などの経営判断に積極的に活用できるようになる。また、スマートフォンなどを用いてモバイル環境でも確認できるようにすれば、リアルタイムな生情報を取引や経営の判断に生かすことが可能になる。以前はシステム自体が高価だったが、今ではクラウドサービスとしてERPを利用することもできるので、気軽に取り掛かることができるという点も重要なポイントだ。

(※1)実際原価:実際の材料費、労務費、製造経費などから算出した原価
(※2)標準原価:あらかじめ基準として設定しておく原価

今こそITを活用した利益向上策を考えよう

売り上げの増加が見込みにくい低成長のビジネス環境の中では、目に見えやすいコスト削減が注目されがちである。しかしITを上手に活用すれば、直接的なコストの削減だけではなく、生産性や効率性を向上することができる。

加えて、顧客のニーズを適切に捉えた商品やサービスを提供していくことができれば、営業利益自体を引き上げることもできるだろう。そこで確保した利益を人材の活用などに還元していくことで、さらなる成長への道筋を作っていくことができるのではないだろうか。

企業の成長のためには、ITをコスト削減の手段にのみ使うのではなく、ITによってリアルタイムに原価費や販売費、人件費などを把握・管理して、利益向上に向けた適切な施策を打っていくことが求められているのである。

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(監修:日経BPコンサルティング)