製造現場の人材不足を乗り越えるには~ノウハウ継承と人材不足改善による現場改革のヒント

製造現場における人材不足の問題やこれを解消するための業務の効率化は、以前から工場改革の重要なテーマとして取り上げられてきましたが、ここ数年の技術の進歩により以前は解決が難しかった課題への対応が可能になりつつあります。
例えば、十数年前は製造ラインへ間断なく部品を供給する「水すまし」という要員の事例をお客様にお話しすると、「そんなところにリソースは割けない」と言われたものです。
しかし、現在では自動搬送ロボットが比較的手の届きやすい価格で提供されるようになり、現場の負担軽減に貢献しています。
本コラムでは、業務とデジタルの視点から、人材不足を乗り越えるための考察を行っていきたいと思います。

村田 寿子(むらた ひさこ)
NECネクサソリューションズ株式会社
コンサルティング統括部
ビジネスイノベーショングループ 主任

2006年よりコンサルティング業務に従事。
ERPシステム、PLMシステム、MES・IOTシステム導入前の構想企画コンサルティングを担当
保有資格:ITコーディネータ

村田 寿子(むらた ひさこ)

製造業の人材不足の現状について

日本の製造業では、少子高齢化や若手人材の確保難を背景に、慢性的な人材不足が続いています。経済産業省が発行する「2025年版ものづくり白書」(注1)によると、製造業の労働人口は2002年の1,202万人から2024年には1,046万人へと約156万人減少しており、全産業の中でも特に減少傾向が顕著です。
さらに、若年層(34歳以下)の製造業就業者数は384万人から259万人へと125万人減少し、65歳以上の高齢就業者は30万人増加しています。これは、製造業の高齢化と若者離れが進行していることを示しており、現場の技術継承や安定運用に大きな影響を与えています。
こうした状況を打開するためには、現場の仕組みそのものを見直す必要があります。工場現場改革を行う際必要となる2つの視点「(1)製造現場の人材不足改善」「(2)ノウハウの継承」に焦点を当て、具体的な事例とともに、製造業の未来を切り拓くヒントを紹介します。

製造現場の人材不足改善
〜“人手不足”を“仕組みと工夫”で乗り越える〜

人材不足が深刻化する製造現場では、限られたリソースで最大限の成果を上げるために、業務の見直しとデジタル技術の活用が不可欠です。現場で発生している課題を定量的に可視化し、最適なプロセスに組み替えることで現場要員の生産性の向上が期待されます。
たとえば、製造進捗状況を可視化する事で、納期遅延リスクへの早期対応や作業負荷の偏りを調整することができます。ボトルネックとなる工程を明確にすることで、製造ライン全体の最適化も可能になります。製造現場で見られる課題例と解決策例を以下に記載します。

《製造現場の課題と解決策例》

課題 具体的な問題例 解決策 効果
作業進捗の見える化 作業の進捗状況(どの工程が完了しているか、遅れているかなど)を現場に行かないと把握できない MESで作業指示・実績をリアルタイム管理 生産状況の即時把握、納期遅延の防止
品質トラブルの原因追跡 不良品の発生原因が特定しづらく、再発防止が難しい IoTセンサーで温度・圧力・振動などのデータを収集しMESで紐づけ トレーサビリティ強化、原因特定の迅速化
設備の稼働率向上 突発的な故障によるライン停止が生産性を低下させる IoTで設備の稼働データを収集し、分析 故障予兆の検知、保全計画の最適化
作業指示のデジタル化 作業ミスや記録漏れが発生しやすく、データ活用が困難 MESで作業手順を電子化し、タブレット等で表示 作業ミス削減、教育コストの低減
部品配送業務の効率化 部品配送に手間がかかる。置き間違え、欠品などにより生産ラインが止まる 自動搬送ロボット(AGV/AMR)を導入し、搬送作業を自動化・最適化する 必要な部品を必要なタイミングで搬送することにより、間断のない製造の実施やライン上の部品在庫を削減

上記のようにデジタル技術を活用しながら、運用方法や役割分担を再設計することで、少人数でも安定した生産体制を構築することが可能です。

ノウハウの継承と属人化の解消
〜“経験”を仕組みに変える〜

製造現場では、熟練作業者の経験や勘に基づく作業が多く、業務が属人化しやすい傾向があります。人材が流動化する中で、こうした“暗黙知”をいかに次世代に継承するかが重要な課題です。業務フローの可視化や標準化を進めることで、誰でも理解できる業務設計が可能となり、ノウハウの形式知化が進みます。また、各種デジタル技術を活用することで、更に精度よくベテラン社員の知見を共有することができます。

《ノウハウ継承の課題と解決例》

課題 解決策 内容 解決例
ベテラン作業者の暗黙知が形式知化されていない 動画マニュアル・AR/VR教育 作業手順や判断基準を動画や仮想空間で体験的に学習 製造工程をARで再現し、新人が安全に模擬作業を体験
作業のばらつきが品質に影響する 技能伝承ワークショップ・OJT制度の強化 ベテランと若手がペアで作業し、経験を直接伝える 定期的な「技能伝承会」を開催し、失敗事例も共有
技術者の退職・異動による知識の喪失 AIチャットボットによる現場支援 作業者が現場で質問すると、過去事例や手順を即時回答 スマホやタブレットで「この部品の組付け方法は?」と質問可能
現場での判断基準が共有されていない IoT+映像記録による作業分析 作業映像とセンサー情報を組み合わせてベストプラクティスを抽出 熟練者の作業を録画し、動作・タイミングを分析して標準化

上記に加え、MES(製造実行システム)を導入することで、作業履歴や設備の稼働状況をデータとして蓄積・分析できるようになります。これにより、ベテランの“勘”を数値化し、再現性のあるノウハウとして若手に伝えることが可能になります。

《MESを使った解決例》

課題 解決策 内容 解決例
ベテラン作業者の暗黙知が形式知化されていない ベテラン作業者の作業履歴・条件・判断基準の分析・標準化 作業履歴・条件・判断基準を分析し、標準化し、作業指示に含める 標準化された条件を指示に含め、MESで作業者に指示することで精度を向上
作業のばらつきが品質に影響する 作業手順を標準化し、リアルタイムで指示 作業手順の統一化を図り、周知する MES画面で作業手順を表示し、作業者が確認しながら作業
トラブル対応の属人化 MESでトラブル実績を収集 過去のトラブル実績を一元管理 「この不具合の対応履歴」を検索し、対応可能に

製造現場改革の着手に当たって

2つの視点で改善を考えたとき、製造現場の各所に改善ポイントが散見されることもあるかと思います。「着手しやすいところから」、「要求の高いところから」、と着手の方法は様々かと思いますが、まずは「工場内にどのような課題があるのか」を洗い出すことをおすすめします。「全体でどのような課題があるのか」、「緊急性の高いテーマは何か」、「効果が高いものは何か」、「最終的にどうなっていたいのか」。このような内容を総合的に考え、改善のロードマップを作成することをおすすめします。
製造現場の業務改革は「点」から「線」へ、そして「面」へと広げていくことで、製造現場全体の最適化につなげていくことができます。

NECネクサソリューションズでは製造現場の課題を総合的に分析し、改善のロードマップを描くサービスや、お客様の現場課題にあわせた柔軟なコンサルティングサービスをご提供しています。お困りごとがあれば、是非お声がけください。

以上

2025年11月