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最新の会計基準をアップデートする(第1回)
繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の解説
1.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針公表の経緯
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が平成27年12月28日に公表されました。その経緯について解説します。
平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に係る会計基準」が公表され、当該会計基準等を受けて、日本公認会計士協会から会計上の実務指針及び監査上の実務指針が公表されました。これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきました。
しかし、企業会計基準委員会は、基準諮問会議の提言を受けて、日本公認会計士協会における税効果会計に関する会計上の実務指針及び監査上の実務指針(会計処理に関する部分)について、企業会計基準委員会に移管すべく審議を行っています。
このうち、主に日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」において定められている繰延税金資産の回収可能性に関する指針は、基本的にその内容を引き継いでいます。その上で、実務に対して柔軟に適用可能な適用指針を作成するべく審議され、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を先行して移管することとされました。
2.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の概要
(1)基本的な考え方
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」の取り扱いの枠組である企業を5つに分類しています。そして、当該5つの分類に応じて繰延税金資産を見積もる枠組みを基本的に踏襲した上で、取り扱いの一部について必要な見直しを行っています。
(2)分類1~分類5のいずれの要件も満たさない企業の取り扱い
企業は、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等複数の要件をもとに分類1~分類5のいずれかに分類した上で、繰延税金資産の計上額を決定することになります。
分類1~分類5の要件のいずれも満たさない企業は、以下の事項を総合的に判断し、各分類の要件の乖離幅が最も小さいと判断されるものに分類します。そうすることで、すべての企業を分類1~分類5に分類します。
- 過去の課税所得
- 税務上の欠損金の推移
- 当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み
- 将来の一時差異等加減算前課税所得 等
(3)分類2及び分類3に係る分類要件の変更
監査委員会報告第66号では、分類2及び分類3については経常的な利益を要件としていました。しかし、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針では、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得という課税所得に基づく要件を変更しています。
臨時的な原因により生じたものとしては、営業外損益項目及び特別損益項目の益金及び損金のうち、将来において頻繁に生じることが見込まれないもの等が該当します。
(4)分類2のスケジューリング不能な将来減算一時差異の取り扱いの変更
監査委員会報告第66号では、分類2に該当する企業は、一律にスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、回収不能な取り扱いがなされていました。
しかし、分類2に該当している企業がIFRSや米国会計基準を適用している場合に、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上している実務がみられました。
そこで、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針は、次のようになっています。
(5)分類3に該当する企業の、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合理的な見積もり可能期間の取り扱いの変更
監査委員会報告第66号では、分類3に該当する企業は、おおむね5年内の課税見積額を限度とするスケジューリング可能一時差異は回収可能性ありとされています。実務においては、おおむね5年を限度とする等と解釈し硬直的な運用がなされていました。そこで繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針では、以下の事項を勘案しています。
- 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因
- 中長期計画
- 過去における中長期計画の達成状況
- 過去(3年)及び当期の課税所得の推移 等
5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、次のようになります。
- 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。
- 5年間に縛られず、回収可能な期間にわたり、繰延税金資産を計上できる。
(6)分類4の要件を満たす企業が分類2又は分類3に該当する場合の取り扱いの変更
監査委員会報告第66号では、分類4の要件を満たす企業であっても、次のようなケースでは分類3と同一の取り扱いがなされています。
→おおむね5年内の課税見積額を限度とするスケジューリング可能一時差異は回収可能性ありとされ、分類3と同一と取り扱う。
しかし、上記(5)同様におおむね5年間が硬直的に用いられ、リストラ等非経常的な特別な要因が何かが明確でなく実務上議論が多い等の問題がありました。
そこで、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針では、分類4の要件を満たす企業においては、以下の事項を勘案しています。
- 重要な税務上の欠損金が生じた原因
- 中長期計画
- 過去における中長期計画の達成状況
- 過去(3年)及び当期の課税所得又は税務 上の欠損金の推移 等
そして、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、次のような取り扱いに変更されました。
- 将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるとき
→(分類2)に該当するものとして取り扱う - 将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることが合理的に説明できるとき
→(分類3)に該当するものとして取り扱う
3.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の適用初年度の取扱い
下記(1)~(3)のケースを適用する場合は、これまでの監査委員会報告第66号と異なる会計処理となるため、会計方針の変更に該当します。
つまり、前期末の繰延税金資産及び繰延税金負債の金額と期首時点で新たな会計方針を適用した場合の繰延税金資産、及び繰延税金負債の金額との差額を適用初年度の期首利益剰余金に加減します。ただし、その他包括利益の項目は、期首のその他包括利益累計額に加減します。
- (1)分類2の企業でスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上する場合(2(4)のケース)
- (2)分類3の企業で5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産を計上する場合(2(5)のケース)
- (3)分類4の要件を満たす企業で将来において、5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるとして分類2として取り扱う場合(2(6)のケース)
4.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の適用時期
平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る、連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用も可能です。
最新の会計基準をアップデートする
- 第1回 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針の解説
- 第2回 税効果会計に適用する税率に関する適用指針の解説
- 第3回 修正国際基準の解説
- 第4回 マイナス金利における会計上の論点の解説
筆者プロフィール
福留 聡(ふくどめ さとし)
慶應義塾大学商学部卒業後、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)・あずさ監査法人(現有限責任あずさ監査法人)を経て公認会計士税理士ワシントン州米国公認会計士米国税理士福留聡事務所を開業。「日本で最初の日米公認会計士兼日米税理士」として、上場企業の決算支援、IPO支援、IFRS導入支援、監査法人対応支援、IFRS・USGAAP・JGAAPのコンバージョン、US-SOX・J-SOXのコンバージョン、日米税務、外資系企業への会計・税務サービス、セミナー等幅広く活躍中。
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