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デジタル社会重点計画が目指す未来とは
~新たな時代の「AX」構造改革を考える~
シンギュラリティ前夜に描くDX戦略の核心 [第10回]
2026年10月
令和8年7月、日本成長戦略本部は「戦略17分野における主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ」を公表し、同日、政府の基本計画「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。
これら一連の動きは、単に国のデジタル化政策が変わる、という話に留まりません。住民と最も近い距離にある「地方自治体」のあり方、業務の進め方、そして地域住民の暮らしそのものを変貌させる大きな潮流になると思われます。
今後、地方自治体にとって重要なのは、個別の施策を遂行するだけでなく、その先にどのような社会が出現するのかを見据え、その未来を実現するために自治体が果たす役割をしっかり認識し、再定義することではないでしょうか。
政府の日本成長戦略本部が決定した投資ロードマップは、2040年度までに官民で合計370兆円超の投資を目指す目玉政策ですが、ここで注目すべきは、半導体や量子、宇宙開発などの先端分野に加え、「フィジカルAI(AIロボット)」と「セキュリティの確保された政府・地方公共団体のAX/DX基盤」の構築です。
この施策では、単にシステムの更新だけではなく、人口減少によって深刻化するインフラ点検や福祉・ゴミ収集などの物理的現場へのAIロボティクスの導入や、地方自治体の行政サービスを持続可能にするインフラ整備などが挙げられています。
政策の向こう側にある「自律型社会」の出現
今回の重点計画や官民投資ロードマップに共通する注目すべきキーワードとして、「AI」「データ連携」「デジタルインフラ」「サイバーセキュリティ」「半導体」「量子技術」「デジタル人材」などがあります。
そして、これらの要素技術を個別に見るのではなく、全体を俯瞰して考えると、あらゆる社会活動がリアルタイムにデータ化され、AIによって最適化される、そんな社会の実現を目指していることが推察されます。
例えば、出生届の提出によって、児童手当や保育関連手続きが自動的に案内され、高齢者の検診データや介護データを分析することで、重症化リスクが高まる前にフォローアップが実施され、災害時には交通データ、気象データ、SNS情報などを統合し、効果的な避難誘導が実施されるなど、「申請主義」から「予見型行政」へ変化すると思われます。
同じように、地域社会においても、観光、物流、エネルギー、防災、医療、教育などに関するデータが地域内で連携することで、地域全体が一つのデジタルプラットフォームとして機能することが想定できます。
このように、かつては「スマートシティ」や「都市OS」が目指してきた未来の姿が、生成AIや高度なデータ基盤の発展によって現実味を帯び始め、「自律型社会」の出現に繋がっていきます。
「システム管理」から「データマネジメント」へ
これまで、地方自治体における情報化の中心は、基幹系システムの運用や庁内ネットワークの整備と考えられてきました。しかし今後は、自治体が保有する膨大なデータを地域の価値創出に活用することが求められるようになります。
自治体が保有するデータの他、公共交通機関のデータ、事業者が持つ観光に関するデータなどは、地域課題を解決するための重要な資源であり、民間企業においてデータが経営資源であるように、自治体にとってもデータは地域経営の基盤となるのです。
今後、自治体の情報政策担当者は「システム管理者」ではなく、「地域データ戦略の責任者」としての役割を担うことになると考えられます。
例えば人口減少対策を考える場合でも、住民基本台帳だけではなく、転入・転出に関連した移動データ、住居データ、教育データ、就業データなどを統合的に分析することで、若年層の流出要因や定住促進策をより精緻に設計することが可能になります。
地域課題の解決には、もはや部局単位の情報では不十分であり、組織を横断したデータの利活用が不可欠になると思われます。
最大の課題は「技術」ではなく「組織」
一方で、これらの政策実現を阻む最大の要因は技術ではなく、組織文化と人材ではないでしょうか。残念ながら、一部の自治体では依然として縦割り構造が強く、データが部局ごとに分断されているのが現状です。
福祉部門、教育部門、防災部門、観光部門などがそれぞれ独立してシステムを保有し、データ連携が十分に進んでいないケースが多く見られます。
しかし、AI活用の本質は、単一データではなく複数データを組み合わせることで本領を発揮するといわれています。そのため自治体には、「データを共有する文化」を醸成することが求められます。
また、デジタル人材の確保も深刻な課題で、国はデジタル人材育成を重点施策として掲げていますが、政令指定都市クラスの自治体では人材を採用できても、地方の基礎自治体では確保が困難であるなど、自治体間での人材格差は拡大しているのが現状です。
今後は、単独自治体によるデジタル人材の確保では限界があるため、近隣自治体間での広域連携の仕組みや、共同利用組織の創設、さらには民間事業者との人材交流を進めることが重要になると考えられます。
AI時代における自治体の新たな責務
生成AIの急速な発展により、自治体業務の多くが自動化される可能性が高まり、文書作成、問い合わせ対応、統計分析、政策立案支援などは、すでにAIの活用領域として認識されています。
しかし、AI導入が進むほど、人間に求められる役割はむしろ増大すると思われます。AIは過去データを基に最適解を導き出すことは得意ですが、「地域として何を目指すのか」という、クリエイティブな命題に対して判断することはできません。
人口減少下において、高齢者支援と子育て支援のバランスをどのようにしてとるのか、観光振興と住民生活を両立させる方策は何かなど、これらの課題を判定するのは、地域社会の合意形成や、高度な政治的判断によって決定されると考えられます。
地方自治体の政策担当者は、AIの出力を鵜呑みにするのではなく、その結果を住民と共有しながら政策に反映する能力が求められ、AI時代の自治体職員は、データサイエンティストであると同時に、地域のファシリテーターでなければなりません。
新たな情報化施策の展開に向けて
新たな施策を展開する際には、新システムを導入することが目的ではなく、地域課題を解決し、住民サービスの質を向上させることが目的であり、解決すべき課題を明確化することで、「システム導入」から「地域価値創出」への発想の転換が必要になります。
そして、「データ連携」を自治体経営の中心に据えることが重要になります。データ連携基盤の構築や、自治体システム標準化を、単なる新システムの導入と捉えるのではなく、地域全体のデータ活用戦略として位置付けるべきではないでしょうか。
それに加え、自治体内部のデータ保全だけでなく、民間企業、大学、医療機関、他の地域団体との連携を見据えた、データガバナンスを構築することも重要になります。
また、「人材育成」を最優先課題として取り組むことも必要です。どれほど優れたシステムが整備されても、それを活用する人材がいなければ成果は生まれないのです。全職員のデジタルリテラシー向上に加え、データ分析、AI活用、プロジェクトマネジメントを担う高度人材の育成を進めるべきではないでしょうか。
「デジタル化(DX)」から「行政の構造改革(AX)」への進化
これまでのDXは「紙の書類をPDFにする」「窓口申請をWebフォームにする」といった、従来の業務手順をそのままデジタルに置き換える「手段のデジタル化」に留まっていました。しかし、2026年以降の改革の方向性は、行政変革「AX(Administrative Transformation)」へ向かって、大きく舵を切ると思われます。
職員の働き方そのものを、データとAIを前提とした形へと根本から作り替え、申請を待って処理する「受動的」な行政から、データを分析して必要な給付や支援を届ける「アウトリーチ(能動)型」の行政へと進化するのです。
デジタル社会重点計画と官民投資ロードマップが描く未来は、単なる行政DXの延長線上ではありません。それは、データとAIが社会の基盤となり、行政、産業、市民生活がリアルタイムに繋がる「デジタル共生社会(データとAIを基盤とした新たな社会モデル)」の実現です。
そのとき自治体は、行政サービス提供者という従来の役割を超えて、地域データのハブとして地域全体の価値創出を担う存在へと進化していると考えられます。
日本の未来を変える鍵は、国が描いたロードマップを温かみのあるサービスへと変え、住民に届ける「地方自治体の現場」にこそ握られています。変革の波を恐れず、一歩ずつ新しいデジタル社会の扉を開いていくべきではないでしょうか。
人口減少や少子高齢化が進む日本において、「デジタル技術」は単なる効率化の手段ではなく、限られた人的資源の中で地域社会を持続可能にし、地域全体のデジタル変革を牽引する社会基盤の源泉となります。
そして、自治体は自らすべての公共サービスを直接提供する存在から、地域プラットフォームの管理者であり、民間企業や市民団体が活躍するための「フィールド」を共に創生する「地域のプロデューサー」へと役割を変えていくと思われます。