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「第2の住民制度」で自治体は変貌するのか
~ふるさと住民登録制度の可能性を考える~
シンギュラリティ前夜に描くDX戦略の核心 [第11回]
2026年11月
住んでいなくても、その地域の「もう一人の住民」になれる。そんな新しい制度が、いよいよ現実になろうとしています。2026年3月に総務省から公式ガイドラインが発表され、8月には先進自治体が集まる「首長サミット」が開催されるなど、いま実装に向けた動きが加速しているのです。
これまで、地方自治体にとって「移住」「人口増」が大きな目標とされてきました。しかし、人口減少と少子高齢化が同時進行するいま、「人口を増やす」ことがますます難しくなっています。もちろん、移住者を増やすことは重要ですが、全ての人が自分の望む場所へ転居して、好きな場所で暮らせるわけではありません。
「年に数回訪れる」「祖父母が住んでいたので、故郷として愛着がある」「旅行で訪れて好きになった」「地域の農業を手伝ってみたい」「仕事をしながら、地方の地域づくりにも関わりたい」こうした人たちも、地域にとっては貴重な存在です。
そこで、いま注目されているのが、いわゆる「関係人口」です。「ふるさと住民登録制度」は、この「関係人口」をデジタルの力で可視化し、地域の担い手の確保や地域活性化につなげようとする、新たな取り組みなのです。
いまなぜ「ふるさと住民登録制度」なのか
制度のポイントは、現在の住民票を移すことなく、関心を持つ自治体と継続的な関係を持てる点にあります。本制度では、大きく「ベーシック登録」と「プレミアム登録」の2段階が想定されています。
「ベーシック登録」は、関心のある自治体を登録し、その地域からイベント情報や地域のニュース、担い手募集などの情報を受け取ることが中心です。
一方、「プレミアム登録」は、より地域との関係が深い人を対象としています。基本的には、自治体が指定する「担い手活動」を年間3回以上行うことをベースに、自治体ごとに要件を設定する仕組みです。
例えば、農業ボランティア、地域の清掃活動、地域イベントの運営、地域課題解決プロジェクト、自治体の委員や会議構成員としての参加、地域活性化につながる専門的知見を活かしたプロボノ活動などが想定されています。
つまり、単に「この地域が好きです」と登録するだけではなく、「その地域が好きになり」「その地を訪れる」、そして「関わりを持って」「地域を支える」という関係性を作り出すことを目指しているのです。
例えば、大阪に住むITエンジニアが、月1回オンラインで地方自治体のDXを支援する、東京に住む会社員が、年に3回農繁期に農作業を手伝う、名古屋に住むWebデザイナーが、地域の観光サイトの運営を支援するなどの活動が考えられます。
自治体側から見たメリット
「ふるさと住民登録制度」は、これまでの「関係人口」を単なる概念ではなく、自治体が具体的に把握することで、地域づくりに利活用できるデータとして捉えようとする試みともいえます。
これまで自治体が把握できなかった「地域のファン」を、データとして把握することで「どの地域から人が来ているのか」「どんなテーマに関心があるのか」「どの程度の頻度で地域と関わっているのか」などの情報を分析できれば、従来の観光統計とは違った地域マーケティングが可能になります。
観光では、どうしても「来訪者数」の増加が目的になりがちです。しかし、一度だけ訪れて終わる観光客と、毎年訪れて地域活動にも参加する人では、地域に与える価値が全く異なります。
「ふるさと住民登録制度」によって、観光客がリピーターになり、それらの人々が関係人口を構成し、地域の担い手となる、という流れを作り出すことが可能になります。これは観光DXの観点から見ても非常に興味深いポイントです。
また、急速に人口が減少する地域では、農業や林業、観光、地域イベントなど、様々な局面で人手不足が発生しています。例えば都市部の人が週末に農作業を手伝ったり、企業の社員が地域課題の解決に参加したりするなど、関係人口を地域課題とマッチングさせることができれば、地域の「担い手不足」を補完できると思われます。
そして、デジタル化の観点からも重要なのが、「誰が」「どこから」「どの地域に」「どんな目的で」「どれくらいの頻度で」「どんな活動をしたのか」などのデータを分析・精査することで、地域政策そのものを変革していくことです。
つまり、これまでの担当者の経験や感覚など、勘と経験知を元にした政策の策定から、データに基づく地域マネジメントに進化させる。ここに、「ふるさと住民登録制度」の大きな可能性が感じられます。
「ペーパー住民化」と「関係人口格差」などの課題
ただし、制度を作れば全てが上手くいくわけではありません。むしろ、ここからが重要です。一番心配なのは、自治体A「ふるさと住民10万人突破!」自治体B「うちは20万人達成!」となってしまったら、制度の本来の目的から逸脱してしまうことです。
ベーシック登録は参加のハードルが低いため、「登録したけれど何もしない」という人々が大量に発生する可能性もあります。いわゆる「ペーパー住民化」の懸念です。重要なのは登録者数ではなく「登録者のうち何人が実際に地域と関わっているか」「どれだけ地域課題の解決につながったか」をしっかり検証することです。
これに加えて、もう一つの懸念材料は認知度の差です。
全国的に誰もが知るランドマーク的な観光地を持つ自治体と、知名度の低い地方の小さな自治体とでは、どちらが「ふるさと住民」を集めやすいでしょうか。
当然、知名度の高い地域が有利です。その結果、人気自治体には関係人口が集中し、人口減少が深刻な地域には人が来ないという、自治体間の新たな格差「関係人口格差」が発生することも考えられます。
ここで、重要なのが地域住民との関係性です。外から来た「ふるさと住民」が、「こうしたほうが地域は良くなる」と提案しても、地元住民からすれば、「ずっとここで暮らしている私たちの意見は?」となる可能性があります。
したがって、「外から来る人」と「そこに住む人」のどちらが上でも下でもない、関係性の構築が重要になり、新たな制度の成功には、単なるデジタル化だけではない、地域側のコーディネーターや対話の仕組み作りが不可欠ではないでしょうか。
システムはあくまで「人と地域をつなぐツール」で、本当に必要なのは、地域側に具体的な課題があり、その課題を理解して都市部の人材とつなぐ人がいること。つまり、システム以上に重要なのが「地域コーディネーター」の存在なのです。
成功のカギは「地域との関係性」
今回の制度で最も重要なのは「登録者数」ではありません。例えば、ふるさと住民が10万人いても、誰も地域に来ない。誰も地域活動に参加しない。誰も地域の課題解決に関わらない。これでは、「登録者数」が独り歩きしているだけで無意味です。
逆に、登録者が5,000人でも、毎年地域を訪れる、農業を手伝う、地域イベントに参加する、Web会議で専門知識を提供する、地域の商品を購入する、ふるさと納税で地域を応援する、そして、その中から「二地域居住」や移住につながる人々が生まれる。
こちらのほうが、地域にとってははるかに価値があります。だからこそ、自治体側の考え方や、「KPI」などの目指すべき目標を熟考する必要があります。
例えば、登録者数、アクティブ率、地域訪問回数、担い手活動参加回数、地域内消費額、ボランティア活動時間、プロボノ・副業参加者数、リピーター率、二地域居住への移行数、移住への移行数、などを組み合わせて評価する。
つまり「何人登録したか」から、「どれだけ地域との関係性が深まったか」へ、自治体側の考え方をシフトチェンジすることが重要になります。
「ふるさと住民登録制度」が興味深いのは、地方自治体の「人口政策」そのものを変える可能性があることです。これまでの自治体経営では、定住人口=住民票を持つ人を対象とした施策展開が基本でした。
しかし人口減少時代には、それだけでは地域の実態を捉えきれません。例えば、「週末はこの地域で暮らす人」「毎月農業を手伝いに来る人」「オンラインで地域の仕事をする人」「年に数回、地域の祭りを手伝う人」「ふるさと納税で地域を継続的に応援する人」など、こうした人々も地域社会を支えているのが実情です。
地域と人との関係性構築へ向けて
では、自治体が留意するべきポイントは何なのでしょうか。もちろん、デジタル化による施策展開は必要です。しかし、それ以上に重要なのが、地域側の受け入れ体制の整備ではないでしょうか。
例えば、「農業を手伝ってほしい」「空き家を活用したい」「地域イベントを一緒に作りたい」「観光DXを手伝ってほしい」「地域のSNSを運営してほしい」「高齢者のデジタル支援をしてほしい」など、具体的な「地域の困りごと」を整理する。
そして、それを「ふるさと住民」にわかりやすく提示する。「あなたのスキルで、私たちの地域を手伝ってください」と訴求するマッチング戦略です。これは、従来の観光プロモーションとは全く異なります。
このように考えると、この制度の本質が見えてきます。「ふるさと住民登録制度」は、新しいかたちの住民票を作る制度ではありません。むしろ、人と地域との関係をデジタルで可視化する制度と考えたほうがわかりやすいかもしれません。
これまで自治体にとって、自分たちの地域を「好きな人」「応援してくれる人」「関わりたい人」を把握することは困難でした。「ふるさと住民登録制度」は、そうした「見えなかった人々」をデータとして認識できるようにする試みです。
年に一度しか来ない人もいる、毎月来る人もいる、オンラインで地域を支える人もいる、「二地域居住」する人もいる、そして、いつか移住して来る人もいる。こうした多様な関係性を包括的な「地域とのつながり」として捉える。
住民票を移動させなくても、その地域の仲間になれる! この「第2の住民制度」ともいえる新たな仕組みが、日本の地方と都市の関係性をどこまで変えていくのか?
これまでの自治体DXが「行政手続きをデジタル化する」ことだとすれば、これからの自治体DXは、「地域と人との関係性をデジタルでデザインする」段階に入っていくのかもしれません。