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カルテ長期保存の現状と将来予測 (その1)

2026年4月

はじめに

カルテは、診療が終了してから5年保存が法令(医師法第24条)で義務づけられていることは、既にご存じのことと思う。ただし昨今では、訴訟リスクへの備えや慢性疾患・小児疾患の対応など現実的には20年程度の保存が無難だといわれている。

紙カルテから電子カルテへの移行が進む中で、カルテ保存において医療機関が抱える問題・課題とカルテ保存の将来予測を政策や技術動向を踏まえて考えてみたい。

今回は、現状とその問題・課題から記述したい。

1.カルテ長期保存の現状

紙カルテの長期保存は、以下のような問題を抱えている。

  • ア)施設内の物理的スペース圧迫
  • イ)外部保管倉庫のコスト増
  • ウ)劣化、破損、紛失のリスク
  • エ)閲覧必要時の検索に手間がかかる

など、これらを解決するソリューションの一つとして電子カルテが有効であると考えられてきた。

まず、一般病院における電子カルテシステムの年度別普及率の推移並びに、令和5年における病床規模別普及率は、以下の通りとなっている。

電子カルテシステムの普及率

年別普及率 病床規模別普及率(令和5年)
普及率 病床規模 普及率
平成23年 21.9% 400床以上 93.7%
平成26年 34.2% 200~399床 79.2%
平成29年 46.7% 200床未満 59.0%
令和3年 57.2%
令和5年 65.6%

出典:厚生労働省 第26回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ
資料「電子カルテの普及について」より

令和7年については現在調査中であるが、多くの医療機関において電子カルテの普及率は高くなり、さらに進んでくるであろう。しかしながら、病床規模の小さい医療機関や療養型の医療機関においては、その進み具合が思わしくないのも事実である。

電子カルテの普及によって、電子化が進んでいるわけではあるが、導入済みの施設においても紙媒体が全てなくなったわけではない。同意書や紹介状などは紙媒体で運用されているものの、デジタル化(スキャナによるPDF化や認証・タイムスタンプ対応)を実施していない施設も依然として多く残っている。電子カルテ導入前の紙カルテ保存も必要なため、電子カルテと紙カルテの両方を保存対象として運用している施設が大半であろう。

この問題は、電子カルテ化が確実に進み、年月が経過すれば徐々に解決していくのだろうか。確かに電子カルテに切り替えて、紙媒体の保存スペースは減少し、カルテ閲覧時の検索スピードは圧倒的に上がっている。ただし、電子カルテでの長期保存においては、別の課題が新たに発生することを導入済みの施設では感じているはずである。

それは、電子カルテ導入時や5~7年程度のサイクルで発生する電子カルテシステムの更新時期に浮き彫りとなり、頭を悩ませている医療機関も少なくないのではないか。

電子カルテでの運用時には、以下の事象に対する対策や継続した管理を検討する必要が出てくる。電子カルテ本体のみならず、診療データとしては必須であるPACSや部門システムの画像やレポートのデータも併せて検討が必要である。

区分 検討問題・課題
電子カルテシステム本体
  • データ消失リスク「サーバー故障/バックアップ不備/災害(地震・水害)対策」
  • 改ざん防止・セキュリティ対策「ログ管理/アクセス管理/ランサムウエア対策」
  • システム更新・媒体寿命の問題「HW/OS/アプリの永続性、ベンダー撤退リスク」
スキャナ保存
  • 解像度・改ざん防止(認証やタイムスタンプ)などの技術基準
    ※厚労省ガイドラインでは、スキャナ保存に厳しい要件がある。
部門システム
  • 電子カルテシステム本体の同様の課題
  • 膨大なデータ容量の確保
  • 複数ベンダーにわたる画像やレポートデータをシステムごとに保存を検討
共通
  • システム障碍時、停電時などのバックアップ運用
  • 自家発電など非常時電源の確保や参照用電子カルテの構築 など

上記には長期保存のみならず、電子カルテ運用そのものに対して必要な事項も含まれているが、電子化でやらなければならないことが増えて「永久保存が簡単に実現できるわけではない」というのが現実である。

2.電子カルテの長期保存に有効なソリューション

現在は、全ての問題を解決とはいかないまでも、電子カルテの保存に対しては有効なソリューションがいくつか登場してきており、複数の施設で適用されている。

以下は、一例である。

1)クラウド型電子カルテ

特徴・メリット デメリット
  • バックアップをクラウド事業者側で実施
  • 災害対策(地理的に離れたデータセンター)
  • セキュリティ対策をクラウド事業者側で実施(データの暗号化、多重バックアップ、ウイルス監視、ランサムウエア対策など)
  • 導入時の初期投資抑制、サーバー設置スペースの削減
  • ネットに依存するため、回線速度にレスポンスが左右される
  • 導入後、月額使用料が長期的に必要(オンプレミス導入と変わらなくなる可能性もある)
  • カスタマイズは一切できず、運用がベンダー依存となる
  • クラウド対応されていないオンプレミスシステム(部門システム)との併用となる

カルテ保存の観点では非常に有効なシステムではあるが、機能の充実やレスポンス性能、回線費用、複数年にわたるトータルとしての利用料比較などから、現在は、クリニックなど比較的小規模な施設で利用されることが多いのが実情である。

2)外部アーカイブサービス

特徴・メリット デメリット
  • 医療データを「院外の専用データセンター」に長期保存
  • 電子カルテの古いデータや紙カルテのスキャンデータを保管
  • 災害対策・セキュリティ対策が標準装備
  • 医療法・ガイドライン(真正性・見読性・保存性)に準拠
  • 閲覧専用のビューアを提供するサービスもある
  • 閲覧スピード:大量データ(画像など)は表示が遅いことがある
  • ネット回線の速度に依存する
  • データ量に応じて料金が増える(長期的には院内保存より高くなる場合も)
  • 外来患者来院時の参照などリアルタイム運用には向かない(急を要しない参照用)
  • データ形式が独自仕様だと既存システムからの抽出・移行が難しい
  • 永続的に参照させようとすると院内のデータをPDF/A、TIFF、FHIR/HL7、DICOM(画像)などの標準的な形式に変換する必要あり
  • 契約終了時のデータ取り出しに費用がかかることもある

参照機能はあるものの、あくまでスペース貸しのイメージである。とりあえずの退避場所としては有用なのかもしれない。

3)ベンダーニュートラルアーカイブ(VNA)

特徴・メリット デメリット
  • メーカーに依存しない(Vendor Neutral)⇒メーカーのPACSでもデータを扱える
  • PACSを更新してもデータ移行が簡単
  • DICOM標準で保存(国際標準での保存)
  • DICOMデータ以外も保存可能なため総合アーカイブとして利用可能
  • PDF(レポート)、JPEG(写真)、動画(内視鏡)、文書(Word、Excel)
  • PACS更新時にベンダー変更が可能
  • 導入コストが高い
  • サーバ・ストレージ・ソフトウェアが高額な上に、保存対象となるシステムからのデータ移行が多数あるほど高額となる
  • 導入に時間を要する
  • 過去データ含めて各システムからのデータ移行に時間を要す。
  • 小規模施設では過剰な投資となる場合もあり、まず画像量が少ないとメリットが薄い(PACS単体で十分なケース)
  • ベンダーによって“ニュートラル度”に差がある

ベンダーニュートラルアーカイブ(Vendor Neutral Archive)は、医療機関が扱う画像データ(CT・MRI・レントゲンなど)を「特定メーカーに依存せず、標準形式で長期保存・共有できる仕組み」のことである。いくつもの部門システムの画像やレポートを一つにまとめて保存するため、画像系の保管庫のイメージとなる。

有用ではあるものの、とにかく高額なイメージのあるVNAだが、画像データ以外も格納保存できるため、電子カルテのデータをPDF化して保存することによって画像系・電子カルテ両方をあわせたアーカイブとして利用される施設も出てきている。

この場合、PACSのみならず、電子カルテ更新においてもベンダロックされることなく検討をすすめることが可能となる。ただし、運用継続性を重視したDO用のデータとしては使用できないことにご留意願いたい。

ここまで、カルテの長期保存における現状や問題・課題とソリューションについて述べてきたが、いずれも根本的な解決を導くまでには至っていない。

次回は、今、何を検討することが良い方策なのかを、政策を踏まえて考えてみたい。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。