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カルテ長期保存の現状と将来予測 (その2)

2026年5月

はじめに

前回は、カルテ保存の現状と医療機関が抱える問題・課題及び紙カルテから電子カルテへの移行が進む中での技術動向を記述した。

今回は、カルテ保存における今後について政策を踏まえた上で予測し、今から備えておくことを考えてみたい。

1.医療DX政策と現状

カルテの保存に大きく影響するものとして、現在、国が進めている医療DX(Digital Transformation)がある。

医療DXは、政府が定めた「医療DXの推進に関する工程表」に基づき進行している。

下表は、令和5年に厚生労働省より発表された工程であり、普及率や浸透度はまだ道半ばであるが進行中のものである。

出典:厚生労働省 医療DXの推進に関する工程表(全体像)(令和5年6月2日医療DX推進本部決定) https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001163650.pdf

当初計画された具体的な実施項目は以下のとおりである。

年度 実施項目
2024(令和6)年度
  • 健康保険証の新規発行終了(マイナ保険証へ原則一本化)
  • 電子処方箋の普及促進
  • 電子カルテ情報共有サービス(先行運用開始)
    紹介状、退院サマリ、6情報(病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査値、処方)
  • 診療報酬改定DXの一環として改定時期を変更(4月→6月)
2025(令和7)年度
  • 全国医療情報プラットフォームの本格運用
    オンライン資格確認の原則必須化
  • 電子カルテ情報共有サービスの対象拡大
    検査値(生活習慣病・救急関連)、看護・歯科領域データ
  • 電子処方箋
    • 薬局:ほぼ全国への導入
    • 医療機関:「電子カルテ導入済み機関」への一体導入を促進
  • 医療DX推進体制整備加算(経過措置期限)
    • 電子処方箋:経過措置終了
    • 電子カルテ情報共有サービス:システム整備状況次第であるが、実務的には猶予・運用調整の余地あり
      ただし「いずれ必須化」は明確である
2026(令和8)年度
  • 共通算定モジュールの本格提供
    レセコンや電子カルテの計算ロジック統一
    医療機関やベンダの改修負担を大幅軽減
  • 標準型電子カルテ
    仕様完成。中小医療機関向けに本格展開開始
2030(令和12)年度
医療DX
令和ビジョン2030
  • ほぼ、すべての医療機関で電子カルテ導入
  • 全国どこでも患者情報を共有できる体制
  • 医療データの二次利用(研究・政策)本格化

上記の表からわかるように、現状は計画通りとまではいかないが、遅れはありながらも着実に「令和ビジョン2030」へ向けて進んでいる。明確なのは、カルテがIT利用により標準化・共有化の方向に向かっており、将来的にはカルテデータを共有できる仕組みを目指しているということである。

各医療機関は、今後カルテを保存していくにあたり、この国の方針にのっとって共有可能な仕組みを持った電子カルテを導入していかなければならない。各実施項目は、いずれ必須化されていくことが予想されるため、カルテ保存見直しの機会として捉えざるを得ないと考える。

2.電子カルテの標準化に必要なこと

電子カルテデータを標準化し共有するためには、データを共有可能な形式で保持するか、または変換して抽出できるようにすることが必要である。現実的には、後者の仕組みを作る方向で医療DXは計画されている。

このための電子カルテのデータを同じ形式で扱えるようにする共通ルールの定義が厚生労働省及びデジタル庁にて進められている。レセプト電算化やDPC様式調査データ抽出のようなものと考えていただくとわかりやすいが、データの形式は大きく異なっている。

共通ルールはFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)という国際標準仕様に従い、どの医療機関でも同じ形式でカルテを扱えるようにすることを目的としている。

また、カルテデータの標準化には、カルテ記載ルール適用と同時に、薬剤や病名などのコードの標準化も必須条件となってくる。

標準化により全国医療情報プラットフォームで共有するデータの種類は、以下のとおりである。

情報

傷病名、アレルギー、感染症、禁忌、検査、処方

文書

健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリ

また、標準化すべきコードとして、病名マスターや検査コード、薬剤マスター、看護記録(検討中)などがある。

3.今後の取り組み方

では、各施設においてはどう進めるべきかを考えてみたい。

すでにいくつかの取り組みを進めている施設もあれば、これから検討する施設もあると思われるが、制度的にも現在進行形であるため、即時に最終形を目指すことは不可能である。何より、昨今の物価高騰や人手不足の影響を受けて、病院経営に苦労している施設が殆どである中で、これらの投資や準備作業は非常な重荷となる。

したがって、対応期限が区切られたものを優先して進めていくことが現実的な計画案であると考える。ほとんどの施設が対応を終えているマイナ保険証を除いた項目について、以下に検討時期や実現時期を案として示す。

検討時期 項目 実現時期 備考
すぐに実施 電子処方箋 計画⇒
できるだけ早く実施 ※1
困難な場合は、次期電子カルテ更新時
FHIR対応確認(ベンダ確認のみ) できるだけ早く実施 ベンダへの対応状況や予定の確認は必須 ※2
FHIR対応実施 できるだけ早く実施 困難な場合は、次期電子カルテ更新時 ※3
標準コード化 できるだけ早く実施 困難な場合は、次期電子カルテ更新時 ※3
次期電子カルテ更新検討時 標準コード化 次期システム更新時 ※3
電子処方箋 次期システム更新時 事前に実現が困難な場合 ※3
FHIR対応実施 次期システム更新時 事前に実現が困難な場合 ※4
カルテ外部保存 次期システム更新時または別タイミング 最低限検討は必要 ※5
クラウド型カルテ 可能なら更新時 対応可否をベンダ確認
VNA周知 ※6 任意 最低限、周知だけは必要
将来向け VNA検討 ※6 任意 PACS運用のみとする場合あり

※1:電子カルテベンダだけでなく、周辺の院外薬局の状況も確認すること。

※2:全国医療情報プラットフォームで共有するデータを抽出できることが最低条件。

※3:コードの標準化を行った場合は、同一ベンダでも再利用データとしての移行が困難な場合がある。

※4:全国医療情報プラットフォーム共有データは今後拡張されていくため、ベンダ問い合わせ時に必ず確認すること。

※5:外部保存はセキュリティ面でのマルウエア対策のためにも必ず検討すること。バックアップデータの保存は最低限必須と考えた方がよい。

※6:VNA(Vendor Neutral Archive)は、医療画像データを標準的なフォーマットで一元管理するためのシステム。有用だが高額であるため、院内への周知だけは早い時期から行っておく方が無難。画像量が多量でなければ、PACSシステムで保存する方が安価で現実的である。

まとめ

電子カルテ情報共有サービスに関する経過措置(猶予期間)は、2026年5月31日までとなっている。どの施設も対応途中という中で、2026年6月1日以降は、電子カルテ情報共有サービスの対応が診療報酬上の要件として強く求められることが予想される。

なるべく早い段階で実施することが望ましいが、実際は施設ごとの状況で対応が難しい。また、それなりにコストもかかることになるが、一定期間は診療報酬でプラスとなる金額と差し引きすれば経営上のインパクトはさほど大きくないのではないだろうか

このため、次期電子カルテ更新時が現実的な対応時期となることが想定される。ただし、各社電子カルテベンダへの問い合わせや、自施設の状況調査や確認を早い時点に実施しておかなければ、次期電子カルテ更新時でも対応できなくなる恐れがある。病院の経営状況を考慮し、中長期のIT投資計画を考えることが必須となる。

すでに計画を策定し、実行に移している施設もあるが、特に、これから着手する施設は、IT投資計画を検討するなど、すぐにでも始められることを強く推奨したい。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。