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江東区立豊洲図書館と中央区立晴海図書館
図書館つれづれ [第143回]2026年4月
はじめに
東京都の江東区立豊洲図書館と中央区立晴海図書館は、どちらも東京湾の埋め立て地にできた高層ビルやタワーマンションが立ち並ぶ中にある図書館です。改めて地図で確認してみると、距離にしてみればすぐそこなのに、橋で繋がっていて、区も違えば管理する運営会社も違います。今回は2025年11月に訪問した、似て非なる2つの図書館の紹介です。
江東区立豊洲図書館
江東区には全部で12の区立図書館と1つの図書サービスコーナーがあります。歴史的背景もあり、中央図書館機能は、児童サービスを管轄する深川図書館と、それ以外を管轄する江東図書館の2館が担っています。この2館は窓口の業務委託で、他10館と図書サービスコーナーは指定管理の運営です。
豊洲図書館は平成元(1989)年5月、区内で7番目の図書館として開館しました。その後南部地域の飛躍的な発展に対応すべく、平成27(2015)年、南部地域の行政サービスの拠点となる豊洲シビックセンター内(9階~11階)へ移転しました。所蔵数約17万点、面積約1,860㎡、席数224席。延べ面積や閲覧席など以前より2倍近くに拡大しました。閲覧席ではWi-Fiが利用できますが、9階郷土資料コーナーでは、音への配慮のためかPCの利用はできません。
豊洲地域は高層マンションが密集するエリアであり、乳幼児や若い親子世代の利用が多いのが特徴です。江東区の中でも入館者数が多く、平日でも1,000人を超え、休日では2,000人近い方々が訪れ、年間ではおよそ50万人が利用します。
安宅仁志館長がまず案内してくれたのは、11階にある「おはなしのへやキッズ」でした。

江東区では読書環境の充実を図るべく、読み聞かせボランティアを公募し研修をしています。区内の学校や図書館での読み聞かせは、研修を受けた約200名の読み聞かせボランティアに依頼しています。豊洲図書館でのおはなし会は週に3回開催されます。読み聞かせのない午後は一般にも開放し、絵本やおもちゃで自由に過ごすことができます。「本は勉強のためのものだけではないことをこどもに知ってもらいたい」と、体を動かして楽しむ英語ワークショップや、あとで出てくる多くのイベントにも使われる万能の部屋です。
9階、10階には現代の里山をコンセプトとしたテラス席があります。9階には一般書架だけでなく図書館司書が毎月作成しているテーマ展示コーナーや近隣の昭和医科大学病院の医療スタッフが推薦する本のコーナー(医療スタッフの顔写真つきブックリストも展示・配布)、区報の記事に関する本のコーナーなど。地域との連携や利用者の興味を引く司書の工夫が見られました。

10階は児童開架、YAコーナー。絵本コーナーは段差や斜面を取り入れ、遊びながら本と親しめる設計です。YAコーナーにある閲覧席は、シニア層やビジネスマンや学生の利用も多いと聞きました。「図書館は静かな場所」と思っている方は一定数います。広くない館内での騒音への気配りに、身内目線で司書の大変さを感じました。

利用者は9階、10階にある自動貸出機や自動返却機を使い、10階の予約棚コーナーで予約本を受け取ります。カウンターは利用登録やレファレンス対応とのことでした。
移転から10年が過ぎ、その中で築いた地域のさまざまな団体と連携したイベント開催も、この図書館の大きな特徴です。場所は11階の「おはなしのへやキッズ」。片づければ40席ほどが用意できます。特に芝浦工業大学附属中学高等学校の電子技術研究部による小学生向けワークショップは人気で、すぐに定員が埋まるとのこと。他にも豊洲市場の「銀鱗文庫」と連携した魚と親しむ講座や多様な講座を実施しています。こうした取り組みは、新しい利用者層の開拓とともに、地域交流の場「サードプレイス」としての図書館の役割を発揮しています。
ファミリー層向けマンションの増加で利用者層が変化し、今後の地域ニーズへの対応が求められているとのこと。館長から、今後の課題として、図書館業務を基盤としつつ、図書館と文化センターなどとの活動との棲み分けや、地域の利便性やネットワークを強化する地域連携のあり方があげられました。
江東区立豊洲図書館: https://www.koto-lib.tokyo.jp/viewer/genre.html?id=7
中央区立晴海図書館
晴海図書館は、中央区4館目として2024年7月にオープンした新しい図書館です。図書館が入っている晴海区民センターは、2020年オリンピック選手村ビレッジプラザの跡地に建てられました。ビレッジプラザで活用した木材の一部が使用され、選手が平和への祈りを込めたサインのモニュメント「休戦ムラール」を常設しています。晴海区民センターの3階と4階の約10万冊の内、9万冊は新刊も含め開館前に選書しました。児童書や海外書籍も、開館準備時に購入できなかった資料は復刊時に補充しています。
指定管理者が決まり、案内いただいた三浦なつみ館長が赴任した時、建物はほとんど出来上がっている状態でした。そんな中で3階の児童エリアの書架で考慮したのは、おおよその年齢の流れになるようにということでした。絵本書架(特に靴を脱いで使うはだしスペース)の場所は決まっていたため、絵本→読物→知識と使う年代が自然と変化するよう配架しています。

また、昔話や日本語以外の絵本は大人が手に取ることが多いので、はだしスペースの外に置いています。成長してどこの地域の図書館に行っても自分で本を探せるようにと、極力NDC分類順に並べています。窓側に座席を置くことも決まっていたので、百科事典など調べることに役立つ資料が近くに置けるように、分類の開始位置を窓側から0類としています。毎年出版した本の中からおすすめ本を紹介する「このほんしってる」冊子は中央区立図書館の児童担当が毎年選書して作ります。ベビーカー置き場が児童書エリアに設置されているのは嬉しい設計です。授乳室に(母乳の)搾乳OKの表示があり、バリアフリー本棚など、司書の細かな配慮が伺えます。
一般書フロアの棚は、基本NDC分類に準じています。棚の側面に注意事項や禁止事項が用途に分けて色分けして表示されていて、メッセージは差替可能になっていました。こちらも利用者は自動貸出機を使い、職員はレファレンスや死角が多いのでフロアーワークに注がれます。
事務室にある3Dプリンタを活用して分類表示(ギターや音符は3D作品)をしているのも興味深かったです。この3Dプリンタは、職員が率先して技術を取得し、事務室でもバーコードの貼位置固定ツールなど業務の効率化にも一役買っていました。

中央区立晴海図書館のコンセプトは以下のとおりです。
- 晴海という新しい「まち」を利用者とともに広げます
- こどもたちやTeensの「みらい」を広げます
- あらゆる利用者の「相互理解と交流」を広げます
一番目を引いたのは、4階のTeens & Youth(中高生・大学生向け)エリア。全蔵書の1/3を4階フロアに集約させ、人生100年時代の10数年間にスポットをあてたTeensだけでワンフロアの試みは初めてかもしれません。「4階の選書のポイントのひとつは表紙がイケていること」と、魅力的な表紙や装丁にこだわって選書され、面出しが多いのも特徴ですが、Teensの本がそんなに多いわけではありません。

大学生向け書籍もTeensエリアに分類し、進学・就職のみならず利用者の将来設計にも役立つ書棚になっています。若い人が学習やおしゃべりをする場を大事にしており、コンセントの配備、Wi-Fiも当たり前としてフリースポットを張り巡らしており、どこでもPCを使ってよしとしました。
座席数は全部で280席の滞在型図書館。実は、開館当初にも一度伺ったことがあるのです。今回伺って、グループ学習室で熱心にグループ学習に取り組む中高生の姿を見て、利用者の定着を感じました。
中央区は人口増加が著しく、自転車や車での来館が多く、地下鉄はこれから着手されます。外国人利用者の増加に伴う多言語対応や、ボードゲーム部など、多世代交流の取り組みも行われています。
開館して1年。やっと人の流れが定着してきました。館長から、今後の課題として地域連携があげられました。イベントの周知を強めるために、今後はSNSなどを活用していきたいと語ってくれました。
中央区立晴海図書館: https://www.library.city.chuo.tokyo.jp/
見学を終えて
一見同じような高層ビルやマンションが立ち並ぶ中にある2つの図書館は、できた背景も経過年数も違っていました。共通しているのは、指定管理による運営ビジョンや方針が明確にあり、地域や利用者との繋がりを意識して、それが形になって見えていたこと。館長に見守られながら、司書の皆さんが伸び伸びと仕事をしていたのは、気持ちのよい光景でした。10年後に各々の図書館がどんな変貌を遂げているのか、ニーズも読みながら変わっていく図書館をまた見学できたらと思いました。
委託や指定管理が増えてくると、設計段階から関わる経験のある専門家が自治体側にいなくなります。委託側や指定管理者側の職員が新しい図書館の建設や準備に関われるのは、設計が既に決まってからが大半です。また、応札時に指定管理者の期間内の予算は決まっています。決められた予算の中で、自治体の評価点の大きなウェイトを占めると聞くイベントなどを実現するには、どこかで費用を調整するジレンマも発生します。更に、指定管理者が素晴らしい運営をしていても、全国的に見ると指定管理の運営には根強い反対の声があります。直営でも委託でも指定管理でも、司書の力が正当に評価してもらえることを願っています。