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トークイベント『画家鈴木靖将仕事と人生』と草津市立図書館のこと
図書館つれづれ [第149回]2026年10月
はじめに
滋賀県草津市立図書館の二井治美館長は、館長が若い頃からの知り合いです。2023年、草津市立図書館開館40周年を機に復刊した冊子「michi」のことは、いつか紹介したいと気にはなっていたのです。そんな折、2026年6月、草津市立図書館で滋賀県大津市にお住いの日本画家鈴木靖将氏のトークイベントがあると聞き、伺ってきました。今回は、トークイベントや草津市立図書館の活動について報告します。
トークイベント『画家鈴木靖将仕事と人生』
図書館の3階の会場には、鈴木画伯の新美南吉絵本シリーズの原画(新樹社)をはじめ、万葉の世界が描かれた作品がずらりと展示されていました。児童図書館研究会滋賀支部草津グループが主催し助成金を受け、図書館が共催ということで実現したイベントです。
プログラムは、原画に囲まれた空間で、司書による新美南吉絵本の4つの読み聞かせから始まりました。
- 『げたにばける』 田中多津子(南草津図書館)
- 『こぞうさんのおきょう』 森野雅子(草津市立図書館)
- 『木のまつり』 神村茉里(草津市立図書館)
- 『でんでんむしのかなしみ』 福田宏美(南草津図書館)
司書の皆さんは黒子に徹すべく黒い洋服で統一していましたが、一人ひとりの人柄がにじみ出るような話に、みんな聴き入っていました。さいごの『でんでんむしのかなしみ』のオカリナ奏者 戸高弘子さんの透き通るような伴奏には、アンコールの声がかかるほどでした。
読み聞かせの後、館長のインタビューに応じる形で画伯とのトークが始まりました。
新美南吉の絵本シリーズのほかに、兵庫県尼崎市にある水堂須佐男神社の「万葉の花」平成10(1998)年作は鈴木氏の代表作として知られています。水堂古墳の被葬者と、阪神・淡路大震災の犠牲者の霊に捧げるため、東西8m 南北4mの天井に杉板165枚。古墳副葬品をイメージした大作を中心に配し、周囲に『万葉集』の歌に詠まれた野の草花を描き、震災復興のシンボルになっています。話をいただいた当初、板は20枚ほどの予定だったのに、蓋を開けてみれば165枚の天井画! ほかの仕事と重なっていたのもあり、お子さんや家族も動員して描いた話や、小倉遊亀氏とのエピソードなど、普段聞けない話がたくさん聞けました。
若い頃は社会派的な絵を描いていた画伯が、万葉をテーマに目覚めていくのは、昭和49(1974)年に大津京の遺構が発掘されたのがきっかけだったそうです。自分の住んでいる場所が日本の歴史の重要な舞台だったと気づき、詠まれた歌の背景や歴史を調べていくうちに、すっかり万葉の世界にはまったそうな。館長から「好きな歌人は?」と聞かれ、柿本人麻呂を挙げていました。画伯に私の似顔絵を描いていただいたのですが、衣には、「朝咲き夕は消ぬる月草の消ぬべき恋も我はするかも」(万葉百科奈良県立万葉文化館 巻10-2291)の歌を添えてくれました。
創作のエピソードでは、絵本『でんでんむしのかなしみ』のために蝸牛を2か月観察し、悲しみを形にするのが難しかったある日、「そうか、自分がでんでんむしになればいいんだ」と気づいたそうです。自分の悲しみと向き合って創作した話に、聞いていた皆さんも、それぞれの自分の内なる悲しみを思い描いていたと思います。画伯の前妻は、癌のため35歳で亡くなった画家の三橋節子氏であることも、今回初めて知りました。
トークでは、親しみを込めた館長の口調が、画伯の素顔を引き出していました。さいごに、「絵を描くのが好きで、ただただ描き続け気がついたら70年経っていた」と締めくくられました。会場からの「どうしたらうまく描けるか」の質問には、「絵具はチューブから出したら絵具とは違う。自分の感情や色を乗せていくのはセンスの問題」とおっしゃっていました。
帰宅して調べたところ、「琵琶湖疏水とさざなみの道の会」にも深く関わっていたのを知りました。昭和58(1983)年に長等公園の一角に13階建てマンションの建設が計画され、反対の声をあげたのが発端でした。ただ反対するだけでは意味がないと、琵琶湖疏水を観光資源として活用し、京都と大津の再創生につなげる琵琶湖疎水の通線復活を計画し、平成30(2018)年に通線復活を果たしました。
後日、館長に紹介された植松三十里著『空と湖水 夭折の画家三橋節子』文藝春秋を読んでみました。大津市の三橋節子美術館へ行きたくなったのはもちろんですが、気さくで人を引き付ける、それでいて芯の強い画伯のトークを改めて思い出しました。その陰に、会場でも細やかなサポートをされていた、今のパートナーである陶芸家の鈴木晴嵐氏の存在があることは言うまでもありません。
三橋節子美術館:
https://www.city.otsu.lg.jp/sc/c/ca/n/index.html
草津市立図書館のこと
活動の幾つかを紹介します。
1. 市民と図書館でつくる「michi」の復刊
1990年から約11年間、市民有志グループと図書館職員が共同で作成・刊行していた情報誌「径」。「径」が創刊された当時の滋賀県下の図書館設置率は30%でした。図書館を広く知ってもらうために、立場の違う人たちの語りを通して図書館の理解を広め深めていく試みが「径」でした。自然消滅していたその「径」を2023年、草津市立図書館開館40周年を機に復刊したのです。創刊号には、二井館長が入庁時に出会った井上眞澄館長のことが書かれていて懐かしく拝見しました。その後、年に2~3回発行される「michi」の各巻頭には、大阪教育大学名誉教授の塩見昇氏、元甲賀市立信楽図書館の杉原幸氏、元東近江市立湖東図書館の澤谷とし子氏、元長浜市立図書館の明定義人氏、元大津市立図書館の夘滝清春氏とレジェンドの方々の寄稿が続きます。ページをめくれば、図書館職員や書店員や市民の方々の投稿に、地域のお店や本の紹介など盛りだくさん。「michi」の中で人が出逢い言葉を交わします。「本音、エール、私らしく」をコンセプトにコラムを担当する二井館長は、井上館長からの図書館のバトンを次世代へと継いでいます。原点を見つめながらもグローバルな視点を切り開く「michi」には、「満ち」た「未知」への想いが詰まっています。

2. 障害者サービスグループへの予算化
図書館は多くのボランティアに支えられています。イベントでオカリナを演奏した戸高さんは、会員25名の草津おはなし研究会の一員です。ストーリーテリング、絵本読み、紙芝居など年間170回のキャラバンをこなします。ちなみに、演奏されたオカリナの曲は、美智子さま(当時)が結婚40周年のテレビ番組で『でんでんむしのかなしみ』を読まれ、そのバックで流れていた曲だそうで、小さな物語が秘められていました。
今回の訪問で初めて知ったのですが、図書館の開館した昭和58(1983)年から、協力団体(草津音訳グループさざなみ、草津点訳グループあゆみ会、拡大写本てくてく草津)による障害者サービスについては予算確保をしていたようです。当時は点訳室、音訳室、対面朗読室完備の図書館は珍しく、大活字本の購入もさきがけて対応していたとのこと。毎年発行している「草津市の図書館」にも関係団体として掲載しています。障害者サービスのグループを予算化している図書館は、全国にどのくらいあるのでしょう。
3. 毎月第3土曜日は図書館DAY
開館40周年を機に2025年に策定した読書のまち推進計画に伴い、「全世代・全市域・つながり」の3つの基本方針の下、これまで図書館に来たことのなかった市民の方にも広く興味を持って図書館や本に親しんでもらえるように、毎月第3土曜日を「図書館DAY」として、さまざまな切り口でのイベントを実施しています。絵本の読み聞かせ以外にも例えば、
- キッチンカーや手作りパン屋なども出店して「あおぞら図書館」を開催
- 持ってきた本を会場にある本と交換する本の交換会(1人2冊まで)
- ビブリオバトル
など
「図書館、なんか楽しそうなことしてるなーと思ってもらえたらこっちのものです!」とは、館長の弁。どの図書館も、悩んでいる中高生サポーターも現在募集中で、中高生企画イベントも行う予定です。
伺った日、図書館の前にキッチンカーが来ていました。図書館の近くには食べる場所がありません。キッチンカーは、草津市の観光物産協会を通じての募集と図書館ホームページからの募集をかけて実現しました。消防署の手続きなどもありますが、キッチンカーが来ると、利用者の方も職員もテンションが上がるそうです。

草津市の文化芸術振興に取り組む麻植美弥子さんのこと
イベントの後、館長が新卒の頃からの旧知の仲である箏演奏家の麻植さんを紹介してくれました。福井大学で学生に箏を教える傍らでさまざまな活動をしています。麻植さんご夫婦が引っ越してきた47年前、草津市の人口は今の半分にも満たない6万人ほどで、まちに文化の雰囲気はあまり感じなかったそうです。
以下は、麻植さんが草津市と向かい合った記録です。
- 2001年から社会教育関係団体「美音の会」会長
箏や尺八を中心とした和楽器による音楽活動を通じ、日本古来の伝統楽器の振興や心の豊かさの増進、子どもたちの上層の発達・成長を目的とした市民活動団体を立ち上げました。学校への出張授業や被災地復興支援を目的としたチャリティーコンサートを精力的に開催しています。 - 2012~2016:教育委員
草津市と積極的に関わるようになったのは、隣市でいじめ事件があったとき、子ども達のために何かできないかとの強い思いがあり、2012年に教育委員を拝命してからでした。その後、草津市文化振興審議会委員、草津市歴史文化基本構想策定委員、草津市道徳教育審議委員、草津市教育基本構想策定委員など、さまざまな委員を務めていきます。 - 2013年:中島貞夫監督による草津市市制60周年記念イベント
教育委員として市制60周年に何かできないかと、中島貞夫監督のご自宅に直接伺い、「草津市のためにお力を貸して欲しい」とお願いをしました。2014年5月、草津アミカホールで「中島貞夫監督とシネマトーク」開催し、同市と縁が深かった監督に、ロケで使われた草津の町並みや映画について語っていただきました。舞台上で挨拶した当時の橋川市長が京都大学の映画同好会だったこともあり、同年11月に「映画ファンが集う夕べ」と題した中島監督と橋川市長の対談につながります。 - 2015年:草津キッズシネマ塾誕生
さらに、中島監督率いるプロのスタッフが協力し、小学生による映画作りが始まりました。第1作目は「草津宿本陣物語」。毎年開催し、市内の小学4~6年生20人近くが参加します。
草津キッズシネマ塾:
https://www.city.kusatsu.shiga.jp/bunka/bunkageijyutsu/shinema/index.html - 2017年:草津市文化振興条例施行
当時、草津市には文化条例がありませんでした。条例がなければ、いくら文化を積み上げても、首長が変わればなくなってしまうかもしれない。教育委員会や市長にも再三条例の必要性を訴え、その甲斐あって条例が施行されました。 - 2017年:一般社団法人草津に麗しい文化芸術を育む会(通称:麗し草津)代表理事
2014年から任意団体を設立し、草津市域住民による文化芸術活動を続けていました。映像発表や音楽コンサートなど、約3年間の活動を通じ、「もっと多くの市民を巻き込む多様かつ創造性あふれる活動が必要」と、名称を一部変更して、草津市と業務委託契約ができる一般社団法人として再出発しました。上記草津キッズシネマ塾は、草津市より委託され、当会が製作しています。
一般社団法人草津に麗しい文化芸術を育む会:
https://uruwashikusatsu.wixsite.com/bunka - 2023~2025:アオバナの魅力再発見事業実行委員会 副委員長
アオバナは市の花でつゆ草の変種です。青色の汁が水で消える特性があることから、友禅の下絵書きの染料として栽培され、「青花紙づくり」は草津の地場産業だったそうです。市政70周年記念事業でプロデューサーとして「アオバナの魅力再発見~アオバナ博士になろう~」のDVDを制作しました。そして、草津市の民話「青花」の紙芝居を麻植さんと娘さんの箏で盛り上げました。作成したDVDは活用してもらうからこそ意義があります。2026年7月の図書館DAYでは、館長の声掛けもあり、「アオバナ博士になろう(アオバナのDVD鑑賞と青花紙を使ったワークショップ)」を行いました。
「演奏家」と「教育者」の両輪で活躍する麻植さん。図書館にとどまらず、草津市への愛を感じました。
改めて思うこと
お話をお聞きして、草津の図書館の精神は、私たちがお世話になっていた井上館長の時代から脈々と引き継がれているのだなあと感じました。きっと、どこのまちにも麻植さんのような方がいて、図書館やまちをサポートしているのでしょうね。