職場内研修(OJT)の進め方と活用
滞納整理責任者が語る「公務員としての仕事の進め方」 [第2回]
2015年5月

執筆者:東京都主税局特別滞納整理担当部長
藤井 朗(ふじい あきら)氏

概要

人事異動直後に、転入者を対象に職場内研修(以下OJTという)を早期に実施し、本来のあるべき業務を理解してもらう。こうすることが、一人前の職員を早期に育成できる。忙しいということで本格的なOJTが実施されないと転入職員は前任者の安易な仕事の流れを覚えてしまい、職員としての自立が遅れてしまう。滞納整理で言えば、一人前の徴税吏員の育成が遅れることになる。

OJTを有効に活用する方策として、単に経験者を講師として活用するだけでなく、より経験豊富な職員を助言者としてOJTの研修に参加させ、能力活用することで、それぞれの個人が持っている長所や経験知を組織に還元できる。そのことが組織全体を活性化させることに繋がる。

転入職員にはOJT

一般的に公務員の仕事の巾は広く、かつどの仕事もとても奥が深い。たとえば、税の徴収である滞納整理事務はとても大変だという先入観があるため、新規採用職員・他部門からの転入者は精神的な負担を感じたまま、初めての滞納整理に着手することになる。その先入観を払拭するためにもそれぞれの組織に見合ったOJTが求められる。

そこで、大切なことはOJTの実施時期、実施内容、実施方法を工夫する必要がある。転入者研修をどのように取り組むかについて組織としての方針を立てる必要がある。職員を育成する方針が策定されていれば、その方針に基づいて実施すればよい。OJTを充実・強化することが、職員の育成と組織の活性化に繋がると考えている。そこで、実施時期、実施内容、実施方法について、説明する。

実施時期の在り方

ほとんどの自治体は、他の行政職員の人事異動と同様に4月の異動が多いように見受けられる。この時期はどの仕事も前年度の決算のため出納閉鎖事務期間ということもあり決算準備を進めている。とくに滞納整理事務では5月末の出納閉鎖直前まで歳入確保のため総力を挙げて追い込みをしている。そのため転入者に対する研修は出納閉鎖終了後の6月以降に実施するというのが一般的な考え方である。

しかし、この6月以降に研修を実施することに私は現場の経験から疑問を感じていた。仮に、6月に転入者研修をするとなると、2ヶ月間組織としての研修がないまま、単に前任者の引き継ぎのままに業務をすることとなる。果たしてこのことが本当に研修時期として妥当なのだろうかと振り返った。

転入者に早期OJTを実施する

私の経験から言えば、4月異動直後の研修を行うには、少なくとも2~3ヶ月前からOJTのための事前準備が必要である。これは当たり前のことであり、他の研修においても同様である。徴収の追い込み時期に、何人もの職員をこの転入職員の研修に充てて、実績が上がらなくなるのも現場の責任者として頭の痛い問題である。

そこで考えたのが、責任者である私自ら研修講師をすることであった。滞納整理経験のない責任者の場合は、経験のある課長補佐・ライン係長等に研修講師を依頼するのも一つの方法である。

“鉄は熱いうちに打て”の言葉どおり、すぐに研修を行うことが職員自身にもメリットとなる。なぜなら研修を行うことで仕事に対する安心感を得ることができる。そうでないと、この2ヶ月間に周囲から様々な雑音が入り、アドバイスをしてくれる人の独自の滞納整理になるおそれがある。

というのも経験者は仕事を進める上で自分流(我流)のスタイルを身に着けている。とくに前任者があまりやる気のない職員であれば、やる気のない仕事の仕方をそのまま継続することになる可能性が高い。これは責任者として何としても避けなければならないことである。

実施内容の検討

OJTの内容については、レベルに応じた研修が必要である。転入したばかりの職員に法律の条文等を詳細に説明する必要はない。

まず、大事なことは、滞納整理の概要、そして接遇、納税交渉、財産調査、滞納処分等について基本的な説明を行うことである。そのほかに、日常業務を行う上で必要な端末操作の方法も最優先である。仕事をする上で様々な疑問が発生した毎に適宜適切にOJTを実施する。

例えば、出納閉鎖終了後の6月になったら、より実践的に具体例を挙げて、2年生職員(滞納整理部門2年目の職員のことをいう)が転入職員を対象に研修を実施する。これを組織のルールとして、毎年実施するのも一つの方法である。そうすることにより、1年前どのようなことに悩んでいたのか説明することができる。また過去1年間を振り返って、良かった点悪かった点を箇条書きにするなど、それを項目毎に分けることで、その自治体独自のマニュアルが策定できる。

実施方法の工夫

4月転入直後のOJTは、滞納整理の本来業務を理解してもらう格好の時期であり、この時期の研修の成果が、その後の徴収実績の成果に繋がるものと確信している。基本から学ばせることが大切である。

私も事務所の責任者として、現場の最前線で仕事をした経験から述べると、研修は上司が企画・実施するものだという固定概念を職員が持っている。むしろ全体的な研修よりも現場で起きた問題を係・課の問題として認識することがなによりも大切である。問題を処理した職員だけが納得するのではなく、他の職員を巻き込んだOJTへと発展させたことについて述べてみよう。

具体的にどのようなOJTを実施したのかというと、責任者のところへ各職員が様々な事案処理の起案文書を提出する。その起案文書の内容を職員から聞いて責任者として事案を決定する。その説明の中で、これは他の職員にも聞いてほしい、または新たな差押え方法でこれまであまり経験がないなど、責任者として是非起案者以外の職員にも理解してほしいと判断したものを決裁の段階で選び、OJTのテーマを選定したのである。

隔週水曜日、30分のOJT

その実施内容は、隔週の水曜日、午後4時半から5時までの30分間を研修時間と設定した。もちろん、研修講師は起案者である職員で、私が直接指名した。当初は、研修講師を指名した段階で、「講師をしたことがないのでできない」とか、「講師の経験がないのでどのように発表すればよいのかわからない」と言った反応であった。

そこで、指名した職員には「なにも特別な研修資料を作成することはない。起案の内容をコピーして、課長の私に説明したように内容を伝えてほしい。そんなに負担になることはないでしょう。他人に自分の考えを伝える絶好のチャンスです。頑張ってやってみなさい。」

さらに、「ベテラン職員にも参加してもらい、あなたの研修で言い足りないことやより実践的な手法について、アドバイスをもらうことにしてあります。心配しないでください。研修で一番勉強するのは、研修講師です。研修をやって良かったと感じるのも研修講師なのです。」と説明をした。

どの職員もモジモジしていたが、予定通り2週間に1回研修を始めると指名された職員は、事案処理の背景や経緯をまとめるなど、それなりに一生懸命努力していた。初めて講師をする職員もいたが、どの回もそれぞれ創意工夫した発表となった。

日常業務に出てくるテーマを選択

ところでどのようなテーマを与えたのかというと「繰上徴収」「出資金の差押」「税務署における財産調査」「口座振替制度の推進」等、日常業務の中にある一般的な内容について若い職員を中心に指名した。この指名により、OJTは8月末から翌年3月末まで続けた。

そのお陰で職員は壁にぶつかるたびに研修資料を開き、場合によってはその事例を発表した研修講師に直接説明を求めたりしていた。

さらにベテラン職員にはこれまで蓄積した経験・ノウハウをOJTの最後に補足として説明してもらうなど、それぞれの役割分担を明確にした。これにより経験の少ない職員とベテラン職員がうまく意見交換ができ、活性化した職場へと変貌した。

人づくりに投資する

現場を預かる責任者として、優秀な人材(財)を育成することに力を注がなければ組織の維持を図ることができない。そのためにも組織を活性化する意味で、自ら人づくりに汗水を流す工夫が必要であり、そのことが「急がば回れ」ではないが、徴収率向上の近道に違いないと確信する。

私は人材(財)育成に力を注ぐことは人づくりに投資することだと思う。人づくりこそ現場の責任者に求められる最大の責務である。

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