自治体が担うケーブルテレビの現状と、更なる情報発信の方法について
自治体の情報発信とメディアの役割について考える [第2回]
2015年11月

執筆者:養父市企画総務部情報センター 副主幹
長谷川 伸也(はせがわ しんや)氏

はじめに

少し話は違うのですが、私はこの年になって初めて、あるアーティストのライブに参戦してしまいました。もちろん、大きなパワーをもらったのは違いないのですが、仕事柄どうしても気になった点があります。

大きな会場となると、ステージの両サイドに大きなスクリーンが用意されており、そこにライブの様子を映し出すという、いわゆる「生中継」と同じようなことを行っています。養父市ケーブルテレビジョンでも生中継をすることは年に数回あるのですが、3~4台ほどのカメラをスイッチングする程度。そして、生中継の内容も、あのライブのようなアップテンポなものではなく、比較的ゆっくりとスイッチングするものです。

もちろん、人員も機材も規模が違いますし、比較にならないのは分かりますが、ライブでは曲・演出・流れなど完全に掌握し、かつ、あのカメラワークやスイッチングには感激してしまいました。テレビの音楽番組でも同じようなのかなと思います。無謀な妄想ですが、一度はあのようなスイッチャーをしてみたいと思い描くのでした。

私がケーブルテレビにかける思い

私は平成11年度に採用され、現時点で16年経過しました。ある意味エキスパート的な職員も必要と思い、その都度訴えかけてきました。それが功を奏したのか、災いしたのか、今でもケーブルテレビの一担当として奮闘しています(自分で言ってよいのでしょうか・・・)。

私の自宅も元々難視聴地域です。小さい頃から、地域のおじさんたちが苦労してテレビ受信に奮闘してきました。地域で共同受信組合を作り、さすがに施設の整備、修繕は業者さんにお願いしないといけませんでしたが、日頃の点検、山頂受信点の草刈りや木の伐採などに努力してきました。そのような姿を感じながら、何とかより良いもの、簡単にテレビが見られるようにできないのだろうかというのが私の思いでした。

この地域でケーブルテレビ施設ができることを知り、小さい頃からの思いで、職員になりました。まだ、採用された頃は、整備中の地域もあったことから、昼間は現場調査や工事同行、夜は遅くまで会議に出ていた記憶があります。何とか、順調に整備が進み、平成13年度から養父市内(当時は養父郡内)すべてにサービスが行き渡るようになりました。

私が日頃から重要だと思っていることは、以下の2つです。

「今で満足してはいけない。もっとよい方法があるかもしれない。」
「いち早く動いて問題解決に努める。」

今で満足してしまうと今後の発展性がなくなってしまいます。「もっとこうすればよかったのに・・・」、「こんな技術も出てきたから試してみる・・・」というように、日々変化しつづけていく必要があると思っています。どの自治体もそうでしょうが、人員削減等で年々職場環境は悪くなっています。

そのような中、現在の状況を維持するだけで大変かもしれません。けれど、維持するだけではおもしろくも何もありません。人間、新たな取り組みがなければ進歩しないと思っています。そして、契約者対応などで不具合があっても、いち早く動くことで円満に解決するということを身をもって感じています。解決は誰でもしなくてはいけませんが、それを少しでも早く解決に持って行けるように日々努力だと思っています。

技術的にも進歩していますし、メーカーやベンダーさんは新しい提案を持ってくることもあります。それを取捨選択することも重要だと思っています。どこの自治体とは申しませんが、メーカーの言うまま分からず設計に盛り込んでしまい、後でこんなもの不要だったのに…ということを耳にします。本当に必要なものを見極める、そのような目も必要です。だから、私がエキスパートが必要というところにかかってくるのではないでしょうか。

とはいえ、技術は日進月歩よりも早く進んでいると感じています。それに、遅れないように日々努力だと思っています。

地域住民への情報伝達手段として・・・

全国、たくさんの自治体があります。地域性も異なることから一概には言えませんが、住民への情報伝達しなければいけない事柄は、日頃からの広報活動、観光情報PRでしょうか。いいえ、最大の伝達項目は「災害・防災情報伝達」ではないでしょうか。

今年9月にも発生してしまいましたが、台風による豪雨被害。予想しない地域で長い間豪雨が降り続き、「大雨特別警報」が発令されるまでに至りました。近年では、台風に限らず、突然の思わぬ集中豪雨で大きな被害が出ています。そのような中で反省点として、大雨特別警報が出たことを、周知ができていたのか(これに関しては周知義務が課せられているはず)。土砂崩れや浸水が発生してから避難指示を出すなど、後手後手に回っているところも見受けられます。防災無線も整備されていたようですが、屋外拡声器しか無く、大雨時の難点とされる「雨音にかき消されてしまい、何か分からなかった」ということになってしまうのです。

もちろん、周知の手段はこれだけに限られたものではありませんが、どうしても災害発生時、想定時にはPUSH方式(どのような状況にあっても強制的に情報を伝えられる方式)が必要とされます。スマートフォンではエリアメールで強制発報されるものが増えましたが、まだまだ、従来のガラケーと呼ばれる携帯電話ではメールは入っても開かなくては情報を見ることは出来ません。そういった内容から、PUSH方式の音声伝達は強い情報伝達ツールになるのです。

養父市ではいち早く取り組み、ケーブルテレビ回線を利用した「音声告知放送」というものを導入してきました。ケーブルテレビをご利用いただいている世帯に「告知放送受信機」を設置し、日頃のお知らせ放送の利用から、火災、大雨、地震発生時などは最大音声で周知するといったものです。

平成16年10月に襲来した台風23号においては、円山川が氾濫し、隣の豊岡市では堤防が決壊するなど、大きな被害が出ました。養父市でも下流域で浸水被害があり、多くの世帯で床上、床下浸水がありました。そのような中、いち早く音声告知放送で周知を行い、避難勧告などや、その後の生活情報周知などで利用しました。建物や農地などの被害は出てしまいましたが、幸いにも人的被害は出ませんでした。

養父市における音声告知放送はいわゆる個別受信機であり、各世帯に設置しているものです。それが功を奏して、大雨などの音にもかき消されることも無く、住民に周知できたものと思われます。ただし、停電時や断線時に利用できなくなるといった欠点もあります。当時も、多くの浸水地域発生や倒木による電力線の断線があちこちにあり、市内の半分以上の世帯で停電となってしまいました。そのような経緯もあり、設備の更新時期を迎えた現在、有線でも無線でも利用でき、停電時には電池でも受信することが出来るハイブリット型告知を整備しているところです。

各自治体にもそれぞれの事情はあることと思います。災害が発生してから「想定外の災害だった」という言葉をきくことがありますが、もはや通用しない言葉だと思っています。日頃からもっとやるべきことはあるのではないでしょうか。きちんと情報を周知する仕組みの整備もそうですが、考えられない「想定外の災害」を想定した訓練を繰り返し行うなど、出来ていなかったところを見直さないと今後のステップアップになりませんし、今回の災害の教訓にならないと思われます。そして、近年では防災行政無線等と連携した携帯電話、スマートフォン向けへ情報発信するシステムが開発されているようです。安価に連携する機器を増やすことで万が一の際に助けとなるのではないかと思っています。

私は兵庫ニューメディア推進協議会の調査研究にも参加しており、先日の研究会でもこの件に関連したセミナーを受講しました。今の機器を使いこなすことは必要ですが、それにもまして必要と判断した機器であれば導入することも視野に入れつつ、新たな動きにも注視しないといけないと感じております。

最後に、今年9月の豪雨被害にあわれた皆様に対し、お見舞い申し上げますとともに、いち早く復興、日頃の生活を取り戻していただけるように祈念し、第2回目のコラムを閉じさせていただきます。次回をご期待ください。

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