情報活用による意思決定最適化支援
~情報装備力の強化について考える~

行政文書管理をめぐる課題と提言 [第4回]
2017年7月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

前回は、文書管理の前提である私物化意識及び私物化容認意識を払拭した上で、文書管理の成熟度向上に資する高速検索性を確保する文書管理の分類技法について述べました。

整理すると次のようになります。

  • 組織が保有するすべての情報を対象とし、全員参画のもとにツミアゲ式分類をする。
    ツミアゲ式分類とは、小分類→中分類→大分類と下から上へと分類を決めていく方式です。一方、ワリツケ式分類とは、逆に、上から下へと分類を決めていく方式です。
  • 次に、検索の思考順に並べる序列式水平分類を併用することで、他者検索が担保され、高速検索性が確保される。

今回は、序列式水平分類について、もう少し詳しくご説明させていただきます。この分類技法は、情報の過不足発見し、組織の情報装備力を強化し、意思決定の最適化を支援する上で有効なツールとなります。

分類の階層化と水平化について

ワリツケ式、ツミアゲ式の分類法を、総称して階層化と呼ぶことにします。どこの課にでもあるような共通的な文書はワリツケ式で、課固有の文書はツミアゲ式で分類することが適しています。繰り返しになりますが、ツミアゲ式の場合、全ての文書を対象にして、課全員の参画が前提になります。これらが担保されないと、文書の所在が把握できず、必要な文書を探すのに莫大な時間を費やすことになります。

さて、階層化によって大分類や中分類がいくつもできますよね。しかし、これらをどう配列するのかというのはあまり考えられてはいないようです。ファイリングシステムには、「序列」という重要な技法がありますので、階層化に対応する考え方として水平化ということにします。

水平化は、一部の組織では、すでに採用され効果をあげています。階層化とは、高速検索性を確保し、事務の効率化を支援するものですが、水平化の機能はそれだけには止まりません。すべての情報をツミアゲて、適正に水平化を組むことにより、全体の情報を体系的に俯瞰できます。従って、ムダな検索時間を抑制するだけでなく、情報の過不足が可視化できるようになります。

水平化をどう組むのか?

水平化とは検索の思考過程です。保管単位(同じ課)の人なら誰でもが納得できるように組むことが大切です。水平化を行うステップは次のとおりです。

  • はじめに情報ありきであるから、全ての保有情報を分類の対象にする。
  • 情報共有化のためであるから全員が参画する。
  • そこでツミアゲ式階層分類を組む。
  • それが済んだら、大分類同士を検索の思考順に配列していく。
  • 中分類も同様にする。

水平化は、他者検索の迅速化によって文書管理の低次の目的である事務に効率化を支援するばかりではなく、情報の過不足を発見するツールにもなります。情報装備力強化(情報管理・活用能力の向上)になり、意思決定の最適化支援という上位の目的達成にも貢献します。

S市やK市、U市等の文書管理担当によれば、序列を組む時の視点は次の5点とのことです。

  1. 仕事の進行順序
  2. 主から従へ
  3. 内なるものから外なるものへ
  4. 通例・通常・普通から特例・特殊・特別へ
  5. 常識的な順

それでは、いくつかの視点を例示しましょう。

1. 仕事の進行順序

  1. 財政計画→予算編成→予算統制→執行管理→決算→財政公表(計画→実施→まとめ)
  2. ごみ減量→リサイクル→収集所→収集業者登録→収集完了報告→ゴミ処理施設管理
  3. 施行計画→設計→協議→説明会→契約→工事施工→完了検査(設計→施工→検査)
  4. 要領→統計調査員→調査地区→調査票→集計→統計書
  5. 受益者負担金→区域外流入→使用届→使用料

5. 常識的な順

  1. 4月→5月→6月
  2. 教育委員→教職員人事→学校予算管理→施設管理(人→金→物)
  3. 歳入共通→調定→歳出共通→支出負担行為伺書→支出命令書(入→出)
  4. 乳幼児医療→老人医療(子供→大人)

並べればわかる情報の過不足?

それでは、情報装備力を強化し、意思決定の最適化を支援する分類とは何か、下の図でしっかり確認して下さい。

図:情報装備力強化による意思決定の最適化支援

図:情報装備力強化による意思決定の最適化支援


文書管理の成熟度でいえば、事務の効率化支援より意思決定の最適化支援の方が上位にあります。つまり、階層化だけではなく、水平化という分類技法の修得により文書管理の成熟度のレベルアップが可能になります。

意思決定の最適化は、本人の思考過程の適否と情報管理・活用能力に支配されます。(ここでは、本人の思考過程の適否には触れません。)情報管理・活用能力を機能させるためには、個々人が収集管理する狭い範囲の文書(情報)だけでは、情報装備力として乏しいものです。従って、組織が保有するすべての情報が文書管理の対象になっている必要があります。

例えば、前述の「○1.仕事の進行順序」の1の序列は、「財政計画→予算編成→予算統制→執行管理→決算→財政公表(計画→実施→まとめ)」となっているが、「財政計画」が欠落していたらどうなるでしょうか?また、一般論でいうマネジメントサイクル(PDCA)で、Pばかりだったらどうなるでしょうか?

情報公開法では、文書管理の対象範囲を公開対象の行政文書としています。

『「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、または取得した文書、図画、及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によって認識することができない方式で作られた記録をいう。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。(以下、省略)』

しかしながら、行政文書は、必ずしも完結した紙文書だけに限らず、事案の手続きを問わず、また、媒体の種別を問わない、保有するすべての文書とすべきであると考えます。実際、北海道虻田郡ニセコ町の文書管理条例には、「文書等」とは次のように定義されています。

「実施機関の職員がその職務に用いることを目的として作成し、又は取得した文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によって認識することができない方式で作られた記録をいう。)及びこれらに類するものであって、当該実施機関が保有しているものをいう。」

これで第4回目のコラムを終了します。文書管理の成熟度を「事務の効率化支援」から「意思決定の最適化支援」へとレベルアップするには、すべての保有情報を水平化する分類技法の修得が有効であることをお話ししました。

次回テーマは、「情報は第4の経営資源~市民との情報共有を考える~」です。職員間の情報共有により事務の効率化は可能になります。しかし、政策等に関する意思決定最適化のためには、職員同士の情報交換だけでは不十分ですよね。市民とのコミュニケーションをどのように活性化するのかを考えてみましょう。 どうぞお楽しみに。

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