行政による“情報公開”から“情報提供”へ
~協働への布石づくりを考える~

行政文書管理をめぐる課題と提言 [第6回]
2017年9月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

前回は、文書管理の成熟度を「行政内部の事務の効率化支援」(成熟度レベル2)から「政策等に関する意思決定の最適化支援」(成熟度レベル4)へとレベルアップの方策について考えました。そのためには、刻々と変化する住民ニーズをどう捉え、どのように共有化していくのかという「住民との情報共有化」(成熟度レベル3)が非常に重要なプロセスであり、ここでも、文書管理の分類技法が役に立つことを述べました。いかがでしたでしょうか。

今回は、行政・住民が共に考え、話し合い、磨き上げた「まちづくり」のビジョンをどのように実現していくのか、もう一歩踏み込んでみましょう。「住民との情報共有化」を進化させるためには、住民からの公開請求に基づいて、公開できるか、できないのかを決定して通知するだけではなく、保有する莫大な行政情報を公開請求によらず各課が自発的・積極的に発信し、住民との議論を深めていくことが極めて重要です。

“情報公開型”から“情報提供型”へと大きく舵取りをすることで、「まちづくり」を実行段階へとステップアップするために必要な「協働」をどのように育んでいくのか、「協働の布石づくり」について深堀していきましょう。

そもそも協働とは何か

「協働」とは、「目標実現」のために、「責任と役割を分担」し、「成果を共有」することであり、その「協働」の相乗効果が地域と住民にもたらされるものです。本来、行政が保有する市政情報等の管理・運用は、行政が住民から負託されたものであり、その「情報」を集約・整理し、分かりやすく提供することによって、住民自らが取り組む「まちづくり」等の活動を支援することが必要です。

行政と住民、住民と住民が「まちづくり」や地域の将来について対話を行い、緊密なコミュニケーションを図るための仕組みづくりが求められています。「情報」は、囲い込むよりも、共有したほうが有効であり、行政・住民ともに自身の意思で「情報」を第三者に可視化する事ではじめて行政と住民の「協働」が可能となります。

ただ声を聞くだけの「住民参加」ではなく、住民が提言し、実施にも関わる「住民参画」を推進することが「協働」には重要であり、さらに、政策立案だけでなく、業務執行の段階においても、その担い手としての「住民」をしっかりと認識することが大切です。しかし、認識はできても、なかなかその先には進まないのが実情ではないでしょうか。“言うは易く行うは難し”です。

なぜ、「協働」が求められるのか、その背景を考える

住民参加・参画の動きは、高度経済成長時代から低成長時代へ移行する中で生まれました。行財政の状況も大きく変化し、国・自治体の財政危機によって、バラマキ型の行財政運営は困難となりました。増大する行政需要に対して効率的な財源配分をしなければ、自治体運営は厳しい状況になると思われます。住民活動・NPOの取り組みは、こうした流れに対する活動なのではないでしょうか。

それまでの団体自治から住民自治への移行が必要となった。つまり、地域のことは、地方公共団体が自主性・自立性をもって、自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を行っていくことから、住民自らが自らの地域のことを考え自らの手で治めていくことになったわけです。自治基本条例が生まれた背景はこの辺にあると考えております。

自治基本条例は自治の基本を定めた最高規範であり、住民自治の確立という目的、住民自治の一層の推進という目標、住民の参加・協働という手段が階層構造になっています。逆にいえば、住民の参加・協働は住民自治の一層の推進という目標達成のための方策であり、住民の参加・協働の機能を分析できれば、これまで述べてきた分類技術を活用し、行政文書管理の成熟度レベル向上にもつながると確信しております。

具体的にいえば、住民の参加・協働の仕組みは、次の4つの機能プロセスで構成されています。

情報収集のプロセス

  • 積極的な情報公と情報提供

情報共有のプロセス

  • 会議公開の原則
  • 審議会等の委員(メンバー)の公募
  • パブリックコメント制度

意思決定のプロセス

  • 住民投票制度

協働のプロセス

  • 公共的課題解決のための共同の推進
  • 自発的な公益活動支援

4つの機能プロセスのうちひとつでも欠けるとこの仕組みは成り立ちません。もし、協働のプロセスがなければ、まちづくりは絵にかいたままの餅に終わることになり、それまで積み上げてきたことが意味のないものになってしまいます。

自治基本条例から地域分権条例へ ~池田市の取り組み~

自治基本条例は、2001年(平成13年4月1日)に施行されたニセコ町の「まちづくり基本条例」が最初で、その後、徐々に増え、現在では365の自治体が自治基本条例を制定しております。(出典:NPO法人公共政策研究所)

池田市(大阪府)は2006年(平成18年4月1日)に「みんなでつくるまちの基本条例」を制定しました。さらに、これには続きがありました。翌年6月、池田市は日本初の「地域分権条例」(池田市地域分権の推進に関する条例)を施行したのです。

この条例の特徴は、地域の自主的なまちづくりを推進するために、小学校区を単位とした11の「地域コミュニティ推進協議会」の設立を定め、すべての協議会に予算提案権を付与したことです。国から地方への権限移譲だけではなく、市から地域への権限移譲により「自分たちのまちは自分たちでつくる」という理念が色濃く反映された条例です。

地域コミュニティ推進協議会

  • 地域において、自治会や地区福祉委員会など、様々な団体が活動。推進協議会は、地域の各種団体と住民が連携し、地域のまちづくりのために活動する組織。地域住民だけではなく、地域内で働く人、学校に通っている人、法人・団体などもメンバーになることが可能。

予算提案権

  • 地域分権の実現に向け、推進協議会に付与された制度。推進協議会には、地域の様々な課題を解決するための事業を提案してもらい、議会承認を経て予算化。個人市民税の1%(当時約7,000万円)を地域ごとの人口割等も加味し600万~700万円の予算提案が可能。

この条例により、市民の参加・協働の仕組みがさらに強化され、各プロセスに必要な資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が確保されたことで、地域分権の実践モデルとなりました。

行政文書管理のコアは「文書分類技術」

行政サイドは、情報の提供・発信に関する職員の意識改革を進め、従前から実施している「広報活動の充実」、「広聴活動の充実」、「情報公開の推進」、「情報提供の推進」「積極的な住民参画の機会づくり」等をスピーディに展開することで、情報発信力を強化し、説明責任を果たすとともに、行政運営の透明性をより高い次元へと昇華させる取り組みが必要になるでしょう。

また、地域にとって有益な形で「情報」が利活用される社会の創成に向けて、行政と住民それぞれが緻密に連携し合うことが肝要です。そのプラットフォームになるのが、行政文書管理であり、その根幹をなすのが「文書分類技術」(階層化と水平化)であると確信しています。

これで第6回目のコラムを終了します。“情報公開型”から“情報提供型”へと大きく舵取りをすることで、「まちづくり」を実行段階へとステップアップするために必要な「協働」をどのように育んでいくのか、「協働の布石づくり」について検討しました。

これまでは行政文書管理の目的を6段階の成熟度レベルに分け、それぞれに応じた考え方を述べてきました。

次回からは、行政文書管理の効果的な導入手順例について実務面から解説をします。行政文書管理には様々な手法がありますが、少しでもお役に立ちたいと願い執筆してまいります。第7回目のテーマは、「手法導入前の諸準備~推進組織編成を中心に~」です。 どうぞお楽しみに。

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