行政文書の管理に関するガイドライン改正案のポイント
~保存期間「1年未満」の文書の取扱いを中心に~

行政文書管理の成熟度向上を目指して [第3回]
2018年1月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

政府は平成29年11月8日、有識者による公文書管理委員会(委員長・宇賀克也東京大学教授)を開催し、行政文書の管理に関する新たなガイドライン案を取りまとめました。重要なポイントの一つは、これまでコラムで取り上げた保存期間が「1年未満」とされる文書の取扱いであり、文書管理の根本問題を解決する上で大きな一歩を踏み出したといえます。

※ガイドライン案については第58回公文書管理委員会配布資料1、2を参照下さい。

省庁の文書はガイドラインや各省庁の文書管理規則に基づき、重要性や性質に応じて保存期間を1~30年に設定した上で、行政ファイル管理簿に登録・管理し、廃棄するときは内閣府のチェックを受けることになっています。しかし、現在、「1年未満」の保存文書は、こうしたルールの枠外に置かれています。

何が1年未満の文書に当たるのかについての定義が曖昧で、文書を作成した省庁の担当課の判断だけで廃棄できるというものです。ファイル管理簿に登録されないので、存在したことさえ分かりません。これでは「文書は行政のもの、文書管理は行政の裁量行為」と揶揄されても何ら反論できないでしょう。

1年未満の保存文書、7つの類型を例示

改正案では保存期間を原則1年以上としつつ、その例外として「1年未満」で廃棄してもよい文書として次の7つの類型を例示しました。

  1. 別途、正本・原本が管理されている行政文書の写し
  2. 定型的・日常的な業務連絡、日程表等
  3. 出版物や公表物を編集した文書
  4. 〇〇省の所掌事務に関する事実関係の問合せへの応答
  5. 明確な誤り等の客観的な正確性の観点から利用に適さなくなった文書
  6. 意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響が極めて小さい文書
  7. 保存期間表において、保存期間を1年未満と設定することが適当なものとして、業務単位で具体的に定められた文書

これまで等閑に付されてきた「1年未満」の保存文書にようやく光が当てられました。しかし、これで全ての問題が解決するわけではありません。都合の悪い文書は保存すべき行政文書と認定せず、個人メモとして廃棄する道、つまり、各省や課ごとの裁量に大きな余地が残ります。文書管理上の根本問題である「私物化意識・私物化容認意識」の払拭は組織風土の問題であり、法の趣旨に基づいて、真摯に、かつ地道に取組んで欲しいものです。

国会は文書管理上の問題を政争の具にするのではなく、立法府としての役割を果たすべく、将来的にガイドラインの実効性が失われないよう法制化をすることや第三者としての専門家(レコードマネージャ・アーキビスト等)が監視する仕組み等を作ることが重要ではないでしょうか。行政文書管理の成熟度向上を図るためには内部監査や自主点検だけでは十分とはいえません。

一方、行政の透明性を確保するために、年間作成・取得される文書の約40%といわれる1年未満保存文書の管理を厳格化していくことは、それに関わる人や時間というコストがかかることも事実であり、行財政改革という至上命題を達成するためにはバランスを考慮することが大切です。文書管理のための文書管理にならぬよう改革を進めて欲しいと思います。

保存期間に関する改正案のポイント整理

ガイドラインは、「第1 総則」、「第2 管理体制」、「第3 作成」、「第4 整理」、「第5 保存」、「第6 行政ファイル管理簿」、「第7 移管、廃棄又は保存期間の延長」、「第8 点検・監査及び管理状況の報告」、「第9 研修」、「第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理」、「第11 補足」と別表第1、別表第2で構成されています。

今回の改正案における保存期間に関するポイントを整理しておきましょう。

<第4 整理>

  • 文書管理者は標準文書保存期間基準(「保存期間表」)を定め、公表。
  • 意思決定過程や事務及び事業の実績の合理的な跡付けや検証に必要となる行政文書については、原則として1年以上の保存期間を設定(意思決定に与える影響が極めて小さいことが見込まれ、長期間の保存を要しないと判断されるものは非該当。)
  • 前掲の1から7に例示した7類型
  • 通常は1年未満の保存期間を設定する類型の行政文書であっても、重要又は異例な事項に関する情報を含む場合など、合理的な跡付けや検証に必要となる行政文書については、1年以上の保管期間を設定。

<第7 移管、廃棄又は保存期間の延長>

  • 保存期間を1年未満とする行政文書ファイル等であっても「第4 整理」における1から7に該当しないものについては、どのような業務に係るものについていつ廃棄したのかを記録し、一定の期間ごとに一括して公表。

その他の改正案について

保存期間だけでなく、もう一つ重要なポイントがあります。これは、省庁担当者が外部との打ち合わせで相手方が発言した部分を記録する際、「言った、言わない」の水掛け論防止のための方策です。打合せをした当事者間の確認は論を俟つまでもなく、遅きに失した感がありますが、今後はしっかり取り組んでいただきたいと思います。

改正案は次のとおりです。

<第3 作成>

  • 行政機関内部の打合せや行政機関外部の者との折衝等を含め、別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等の記録については文書を作成。
  • 文書の作成に当たっては、正確性を確保するため、原則として複数の職員による確認を経た上で、文書管理者が確認。
  • 各行政機関外部の者との打合せ等の記録の作成に当たっては、行政文書を作成する行政機関の出席者による確認を経るとともに、可能な限り、相手方による確認等により正確性の確保を期する。相手方の発言部分等について記録を確定し難い場合は、その旨を判別できるように記載。

最後にもう1点。個人メモと行政文書については、以下のとおりです。

<第5 保存>

  • 個人的な執務の参考資料については、適切にアクセス制限を行った個人フォルダに置くことを徹底。
  • 合理的な跡付けや検証に必要となる行政文書に該当する電子メールについては、原則として作成者又は第一取得者が速やかに共有フォルダ等に移す。

しかし、個人文書と行政文書の境目は依然としてグレーであり、個人文書を明確に定義、例示等、改善を進めていくことが望まれます。

今回は、平成29年11月8日の公文書管理委員会で明らかになった「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案について重要なポイントを紹介させていただきました。政府は、パブコメ(平成29年11月22日~平成29年12月10日)を経て、平成30年春を目途に全面改正する方針です。自治体の皆様にも是非ご検討いただければ、と願っております。

次回以降も、行政文書の管理改善に向け、実務面での問題点や解決方法について紹介させていただきます。
どうぞお楽しみに。

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