事実・実態をあるがままに受け止める
~問題解決に向けた当事者となるために

自治体職員のための組織風土改革《実践》講座 [第8回]
2014年8月

執筆者:株式会社スコラ・コンサルト 行政経営デザインラボ
    プロセスデザイナー/行政経営デザイナー
    元吉 由紀子(もとよし ゆきこ)氏

職場で一歩踏み出す(4回目)

「職場で一歩踏み出す」をテーマとした4回目は、顕在化された問題をどのように受け止め、動き出す行動につなげるのかについてお届けします。問題をどう顕在化するのかについては、前回の内容をご参照ください。

“問題”をどう受け止めるのか

仕事を進めながら、地域の状況や住民の声、または、職員の問題意識をもとに、「何かおかしいな」と違和感を持ったとき、あなたはそれを誰にどのように伝えるでしょうか。通常は、そばにいる同僚や所属長に報告することになるでしょう。ただし、それが即“問題”として受け止められ、対処する行動を起こすことにつながるとは限らないものです。なぜなら、問題に対する反応のし方は、その受け止め方によって左右されるからです。

役所では、法律や制度によって定められている業務が多くあります。これらの法律事務については、「問題があってもよい」ということにはなり得ません。それゆえ、法を公正公平に守るお役目として、職員にはどうしても「問題はあってはいけないもの」というとらえ方が根付いているのではないでしょうか。世間からも役所に対しては無誤謬性が求められる傾向にあるため、その意識がより強くなりがちです。

このとらえ方は、地域や住民のニーズが比較的同質化していて、解決可能な方策が明らかな課題に対して、一定の計画に則った仕事を進めていくことによって問題をなくすことができる仕事のやり方に向いています。しかし、現実にはどんなに問題をなくそうとしても、皆無になるということが困難な課題が多くあるものです。特に、昨今では地域や住民のニーズは多様化高度化し、予測不可能で複雑な課題が溢れています。既存の法律や制度、マニュアルで対応できる範囲を超える事態が多発します。計画できることには限度があり、予め計画できない不測の環境下では、完璧に問題を解消できる答えなどなく、その時々に現実最適解を見出していかなければいけない仕事のやり方が増えているのではないでしょうか。

それでも、これらの課題に関して同僚や上司が報告を受けたときには、長年行政事務に携わってきた経験から「問題はあってはならないもの」というとらえ方が無意識に根付いていると、ついその事実・実態を容易には受け止めにくい反応をしてしまいがちです。

よくある反応のパターンは、以下の3つです。

問題の存在そのものを認めたくない。

問題に関する情報を耳にしたときに、心の中で「問題があるはずはない」という問題の存在そのものを打ち消してしまう拒絶反応が起きてきます。すると、いつもとは違う現象があったとしても、それを「問題としては認めない」という受け止め方をしてしまいます。

問題を取り扱いたくない。避けたい。

たとえ「問題がある」と認めたとしても、「おそらく大したことはないだろう」とか、「それぐらいならよくあることだ」という、取るに足らない軽微な程度のものとして受け止めようとします。それは、“問題”が発生したときの重大さを知っていて、問題があればそれに応じた対策を講じなければいけないためです。問題があってもそれをできるだけ軽微なものとしてとらえることにより、事後に発生する取り扱いを不要な範囲に留めたい、または、問題が対外的にオープンになることを避けたい、という欲求が強く働き、いわゆる“見て見ぬふりをする”言動に至ります。

自己の責任になることを回避したい。

問題が対処すべき程度のもので、かつ、対外的にオープンにする必要があると認識をされた場合であれば、少なくとも自分がその責任をとるようなことにはなりたくないという回避欲求が湧いてきます。その結果、「それは自分たちの部署とは関係ないことだ」「自分たちが関与する前からあったことだろう」といった他者に責任を押し付ける言動が出てきます。

どれも頭で熟考して結果出した結論ではなく、ある種身体が条件反射を起こしているものと言えるでしょう。

組織の問題とは?

「問題はあってはならないもの」という意識は、「問題を徹底的になくそう」とか「問題を未然に防ごう」というめざす姿に変えて掲げることは大事ですが、「~ねばならない」という精神論に陥ると、「問題がある」という事実・実態さえも認めない、見て見ぬふりをする、避ける、といった受け止め方をしてしまう危険性があるものです。問題が発見され、顕在化された場合には、組織としてはまず問題に対して誰もが当事者となっていち早く行動に結びつけていくことが第一です。

それには、「問題はあるもの、起こり得るもの」という認識を持ち、あるがままに事実・実態を受け止めることが大切です。そうすれば、きちんと問題に向き合い、行動を起こしていけるようになるでしょう。問題を伏せたり、軽視したり、他責にして押し付けたのでは、問題はいつまでたっても放置され解決には至りません。

問題を解決するためには、事実・実態をあるがままに受け止めるところから始まります。そして、その責任がどこにあるのかは二の次として、問題を解決する当事者となって関わっていく真摯さが、解決につながる道を切り拓いていく突破口になります。組織にある本当の問題とは、「問題があること」ではなく、「問題があっても、その事実・実態をあるがままに受け止められなくなること、誰も当事者となって関わろうとしなくなること」にあるのだと言えます。

そこで、「何かおかしいな」という違和感を抱いたときには、まずその現場(現地)に出向き、それが普段とどの程度の差があるものなのか(現物)を把握して、その事実・実態(現実)を共有するための報告を行うことがポイントとなります。職員の問題意識が組織の問題として受け止められるようになるためには、行政組織の体質に根付いた価値観と起こりがちな反応を予測して、同僚や上司が受け止めやすいよう情報を「現地・現物・現実」をもとに報告することが大切です。

次回は、「問題解決に向けて一歩踏み出すエネルギーの高め方」についてお届けする予定です。

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