「airbnb」がもたらすサービスモデルの可能性
~「民泊」とシェアリングエコノミーについて~

情報化モデルとICTを巡るポリフォニー [第6回]
2015年9月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「airbnb」からみたシェアリングエコノミーについて

「airbnb(エアビーアンドビー)」という個人住宅への宿泊を仲介するサイトが、欧米を中心にサービスを拡大しているのをご存知でしょうか。
「民泊」とも呼ばれ、個人住宅の宿泊マッチングを提供する「airbnb」が2016年のリオ五輪の公式スポンサーとなった話題は、シェアリングエコノミーが新局面を迎えたことを象徴する出来事となりました。

ネットの進化にともなうシェアリングエコノミーの効果は、社会全体の生産力を向上させ、「モノ」や「人」など、社会的リソースの稼働率が上昇することで、2016年には、シェアリングエコノミーの経済規模が10兆円を超えるという試算もあります。

SNS等のソーシャルメディアやネットワークテクノロジーの進化によって急速に拡大するシェアリングエコノミー、この「CtoC商取引」の世界に新たな潮流ともいうべき消費行動が誕生しています。

今回のコラムでは、「民泊」サービス「airbnb」を題材として、システムとシェアリングエコノミーについて考えたいと思います。

airbnbとは

私が懇意にしている若い人達に「airbnb」について聞くと、利用したことがあるという答えが返ってきました。利用する理由としては「観光がメインなので宿泊費用を安く抑えたい」、「ゆったりくつろぎたいので、ホテルではなく民家に泊まりたい」など、その時の気分しだいで宿泊先のタイプを選べるのが魅力とのことです。

「airbnb」のシステムは、単純にいうと「自分が所有している部屋を貸したい人」と、「部屋を宿泊先として借りたい人」をマッチングさせるサービスモデルです。この「airbnb」のサービスは「facebook」とも連動していますので、提供者・利用者の双方が「自分は怪しい人物ではありません」ということを「facebook」を介して認証できるため、安心感があるのだそうです。

「airbnb」は、2008年8月米国カリフォルニア州サンフランシスコでサービスを始めましたが、その認知度を大きく飛躍させたのが2012年に開催されたロンドンオリンピックです。

当時、オリンピック開催で需要が高まり、慢性的なホテル供給不足に悩むロンドンで、約1,800人のホストが約1万人のゲストに自宅を提供しています。

その内訳は、85%が海外からの旅行者で、平均滞在期間は1週間、1ホストあたり平均1200ポンドの収入を得ています。そして、その翌年にはイギリス全体で5億ポンドの経済効果を創出したと言われています。

「airbnb」のビジネスモデルは、地域創生のトリガーに?

いま「airbnb」のWebサイトにアクセスすると、通算ゲスト数は4,000万人、あらゆる価格帯で世界190ヶ国34,000以上の都市で人と人とをつなぎますと書かれています。

目的地の都市名を入力して検索すると、各都市のホストが所要する宿泊施設の写真とホストの顔写真が表示されます。驚いたことに、その宿泊施設の中には「お城」、「ツリーハウス」、「ボート」、「島」など非常にユニークな物件も含まれています。

このユニークな物件に宿泊できるのもそうですが「airbnb」では、これまでとは違う宿泊体験を提供することをコンセプトとして、地元の人々と同じようにその場所で暮らすような旅行体験が実感できるのが魅力となっているようです。

試しに「airbnb」の日本サイトで「京都」を検索すると、827件の宿泊施設、平均価格9,138円、そして、川沿いにある「町家」が一軒まるごと貸し切りにできるなど、思わず泊まってみたくなるような物件が並んでいます。
この「airbnb」サービスの特徴である、一般の旅行者が地元住民のように居住できる「ユニークでローカルな宿泊体験」こそが、いま求められている最もホットな観光旅行の形態ではないでしょうか。

そして、そのサービスを下支えしているのが、ネットワークシステムを活用した、ゲスト・ホスト双方のレビュー(サイト上に書き込む利用後の評価)です。サービス受給者であるゲストだけではなく、サービス提供者のホスト側からもゲストを評価することで、信頼と安心を担保しサービスクオリティーを維持しているところが、サービスの高評価に繋がっていると思われます。

ネットが持つ特性を活用し、サービス提供者と利用者が互いに評価し合うことで信頼感と安全性を醸成していくソーシャルメディア時代の新たな宿泊サービス「airbnb」、今後どのような展開を見せるのでしょうか。

ネットやSNS等の進展が可能にした「airbnb」のビジネスモデル、サービスの進化に対して現行の法整備については、後を追いかける形で追随しているのが現状のようです。

法的には「グレーゾーン」と言われながらサービスが拡大する「airbnb」に対して、アムステルダム(オランダ)では2013年1月、宿泊者は最大4名まで、レンタル期間の合計日数が年間60日以下の要件を満たしている場合、「airbnb」のサービスを容認するルールが導入されました。

そして、オリンピック開催時に話題となったロンドンでは、2015年3月「airbnb」に対応する新法(住宅共有法)を制定、年間90日まで個人が自宅を有料で貸し出すことが合法化されます。
この新法制定の際、英国のブランドン・ルイス住宅担当大臣は「旧法はアナログな1970年代に制定された法で、今の時代には通用しない時代遅れなシロモノだった」とコメントを発表しています。

その一方で、バンクーバー(カナダ)やベルリン(ドイツ)ではアパートの「不正流用」が禁止されるなど「airbnb」を「禁止」するのか、合法化して「容認」するのか、各都市での対応が分かれているのも事実です。

2020年の東京オリンピック開催に向かって、「CtoC商取引」という消費行動の進展や、世界的なシェアリングエコノミーの潮流に日本国内でどのように対応していくのか、我々は転機を迎えていると思われます。

このような新たなサービスが登場すると、我々日本人はその真面目さ故に「旅館業法に抵触する可能性がある」など、サービスの問題点ばかりを指摘し、後ろ向きの発言をする傾向があります。しかし、「家」を貸し借りしているのは利用者同士であり、「airbnb」は物件を仲介しているだけですので、「airbnb」がただちに違法であると断定はできません。

上手く使えば、社会的リソースをシェアリングして有効活用することを標榜する「airbnb」のビジネスモデルは、地域創生のトリガーとなる可能性も秘めていると感じているのは私だけでしょうか。

「民泊」で個人住宅の新たな利活用へ

話しが少し横道にそれますが歴史を150年ほど遡ると、かつて我が国では「民」が宿泊施設を提供し、「官」がそれを後押しするようなシステムが存在しました。江戸時代の街道筋に設置された「本陣」です。この「本陣」は、各宿場の名主・庄屋が所有する住宅などが「宿泊施設」として提供され、それを当時の政権「徳川幕府」が指定する仕組みで、いまで言う指定管理者制度のような運用がなされていました。

「本陣」は、一般の「民」が営業する宿屋の「旅籠」とは別に分類され、三代目の将軍「徳川家光」が上洛した寛永11年(1634年)に「本陣」が指定されるのに始まり、その後「参勤交代」の導入によって制度が確立すると、この仕組みは幕末の明治3年(1870年)明治政府より本陣の廃止が通達されるまで運用が続けられています。

このコラムの趣旨から逸脱しますので、これ以上は述べませんが、当時の徳川幕府は「小さな政府」を目指していましたので、幕府の政策には「民」を活用したユニークな事例が多数存在しています。いまこそ、我々はこのような先人の知恵に学ぶべきではないでしょうか。

さて、話しをもとに戻しますと、宿泊施設に関連した話題では「みずほ総合研究所」が2020年の東京オリンピック開催時の宿泊施設不足について試算を公表しています。これによると、2020年の東京五輪開催時には、東京都を筆頭に千葉県、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、福岡県、大分県の10都府県において、深刻な客室数の供給不足が見込まれると予測されています。

また、10都府県で2020年までに必要となる宿泊施設新設のための投資額については、東京都1,372億円、大阪府1,577億円、京都府1,345億円など、合計5,555億円になると推計しています。
この5,555億円の新規投資が、東京五輪終了後も継続して、日本国内の経済成長を押し上げる効果を発揮するのでしょうか。オリンピック開催時の貴重な経験を活かして、「airbnb」に対応する新法の制定に大きく舵を切ったイギリスのように、我が国においても将来を見据えた施策の展開が求められています。

そのような中、2015年6月30日閣議決定された「規制改革実施計画」において、「イベント開催時で、宿泊施設の不足が見込まれ、公共性の高い場合には、自宅を提供することは、旅館業法の適用外であるということを明確にする」ことが決定されました。なお、この実施計画では「民泊」について今年度検討を開始し、来年度に結論を出すとも明記されています。

このような状況を踏まえ、大阪府では「民泊」に関連した国家戦略特区の条例案を再提案する動きがあります。また、2015年9月12日~13日に開催される「ツール・ド・東北2015」では、開催地の石巻近辺での慢性的な宿泊施設不足対策として、「民泊」サービスの提供が実施されています。

ネットワークシステムの進展やソーシャルメディアの普及は、シェアリングエコノミーのプラットフォームとなる評価システムの誕生につながっていきます。そして、このシステムによって、提供する側と利用する側の双方がお互いに評価し合うことで、安心して「CtoC商取引」ができる社会基盤を構築することに成功したのです。

「モノ」の「所有」から「利用」へシフトしていく流れの中で、イギリスが社会問題の解決やオリンピックに代表される一過性のイベントへの対応などに、シェアリングエコノミーを上手く活用したように、制度化にもとづく緩和策が講じられることで、個人住宅の新たな利活用の道が開けばと願うのは私だけではないと思います。

今回のコラムでは、「airbnb」のビジネスモデルを題材として、システムとシェアリングエコノミーについて考えてみましたが、今後もこのコラムでは、このような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考察したいと思っています。

最後に英国の政治家「ウィンストン・チャーチル」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「完全主義では、何もできない。」

それでは、次回をお楽しみに・・・

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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