家電のインターネット化が向かうその先に
~「IoT」の可能性について考えてみた~

情報化モデルとICTを巡るポリフォニー [第11回]
2016年2月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

キッチン家電のIoT化

突然ですが、我が家のオーブンレンジを買い換えたいと思っています。
なぜかと言えば、いま使用しているシャープの「ウォーターオーブン」の新型が発売され、その機能がいたって魅力的なのが原因です。

この「ウォーターオーブン」は、水蒸気で調理する健康志向が特徴で、フライなどの揚げ物もサクサク・ヘルシーに調理できるのが気に入っていたのですが、今回の新型では「モノのインターネット化」の流れに対応して、ネット接続機能が追加されています。

シャープでは、「ともだち家電」の名称で「IoT(Internet of Things)」を推進し、キッチン家電のインターネット接続やユーザーと会話する機能を充実させるなどして、「IoT」に対応していくとのことです。

家電の世界では、HDD/レコーダーをネットに接続して、外出先からスマホでテレビ番組を録画予約・視聴できる仕組みがありますが、この新型のオーブンレンジでは、ネット上のクラウドサービスに蓄積されたレシピ情報から、人気メニューを選び出して提供するサービスが可能になりました。

そして「ともだち家電」の名称のとおり、音声認識機能を搭載することでユーザーが家電と会話するように、音声でコントロール出来るところがこの新型オーブンレンジの特徴になっています。

オーブンがアニメチックな女の子の声で答えるのはご愛嬌ですが、この機能が追加されたことで、スマホに向かって「OK グーグル!」とか「ヘイ、Siri!」と言って検索するように、オーブンレンジにも話しかけることが出来るようになったのです。

例えば、『調理お願い!』と話しかけると。
『「レンジで500W、1分」というような感じで言ってね。』
と返事が返ってきますので、
『「レンジで600W、2分」でお願い!』と話しかけると、調理が開始されます。

この声で指示できる機能は、料理中に手が汚れている状態でも、手で操作する必要がありませんので、多くの主婦の皆様から支持を得られると思います。

また、『中華で検索お願い!』と話しかけると、
『中華で検索したよ。「えび春巻き」はどうですか?』
『画面でも確認してね。』と答えが返ってきます。

この、クラウド上のレシピデータにアクセスしてオススメのメニューを提示する機能は、毎日の献立に悩む奥様方の強い味方になると思っています。

クラウド上の「レシピデータ」は日々更新され、実際にユーザーが利用したメニューなどのデータが追加蓄積されていきます。年月を経ることで、いわゆるビッグデータ状態になりますので、人気のレシピランキングを提示するなど、今後のデータ活用には様々な可能性を秘めています。

今回のコラムでは、キッチン家電を事例として「IoT」について考えますが、我々の身の回りのあらゆる「モノ」がインターネットを通してつながり、新しい価値観を生み出すとすれば、我々の生活に役立つソリューションの実現や新たなビジネスの創出などにも期待できると思われます。

IoTの活用例

ネットに接続される機器は従来のパソコン・サーバー等に加えて、スマートフォンやタブレット端末等の各種デバイス、さらには液晶テレビ・HDD/レコーダー、デジタルカメラ、スマートグラス(メガネ型デバイス)やスマートウォッチ(腕時計型デバイス)などのウエアラブルコンピューター(ウエアラブルデバイス)、そして今回ご紹介したオーブンレンジ(キッチン家電)など、ネットワーク接続するためのインターフェイスを持つ様々なデバイスが登場しています。

今後は、自動車や照明器具、電力を制御するスマートメーター、あるいは農業で使われるビニールハウスのセンサーなどがネットワークにつながることで、離れた場所にある「モノ」の状態の検知・分析やネットを経由した操作が可能になり、新たな価値創出が期待されています。

「IoT」によって、情報リソースとしての「モノ」がネットワークで相互接続され、ネット上に蓄積されたデータを利活用するシステムが構築された時、「モノ」が互いに通信を行い、データをやり取りした結果を踏まえて「モノ自体(自分自身)」の活動を最適化することが可能になります。

ビニールハウス内に設置した水やり用のスプリンクラーが、気温・湿度センサー、照度計や天気予報、水道料金などに基づいて、散水する水の量を最適化するとしたら。
公園に置かれたゴミ箱が、必要に応じてゴミを圧縮し、ゴミ箱が一定の容量になった時点で市の担当部局に通知できるとしたらいかがでしょうか。

グルメガイドで有名なフランスのタイヤメーカーMICHELIN(ミシュラン)では、運送会社を対象に既存のタイヤを販売するビジネスモデルではない、タイヤに「IoT」センサーを埋め込みユーザーの利用状況を収集分析し、走行距離などに応じてリース料金を請求する「PAY BY THE MILE(走行距離加算型)」の課金サービスを提供しています。

この「IoT」の活用については、ウエアラブルによる業務の効率化なども有望な分野であると言われています。ウエアラブル・デバイスとしては、Google Glassなどの他、リストバンド型の生体情報センサーなど各種のデバイスが発表されていますが、「業務を効率化するため」の活用を推進するべきではないでしょうか。

例えば、自治体の窓口で職員がGoogle Glassのようなメガネ型端末を装着し、そのデバイスに業務マニュアルを表示すれば、マニュアルを持ち歩く必要もなく、端末が互いに通信することでよく参照される項目や対応の方法など、ナレッジの共有化が図られ、一種の集合知のようなものが形成されることになります。

また、このようなメガネ型デバイスの活用方法であれば、工場での作業員のサポートや各種点検業務、修理・修繕業務での利用など、作業工数を削減させる可能性もあると考えられます。

今後「IoT」は我々の社会に溶け込み、米Gartner社のデータでは、2020年に300億個のデバイスがインターネットに接続され、それによって得られる経済価値は1兆9000億ドルに及ぶと試算されています。

そして、このような「IoT」を巡る動きは、以前のコラムでご紹介したアイドリングビジネスの進展と融合することで、「社会的リソース(各種の情報リソース)」をシェアする「シェアリングエコノミー」の台頭につながると考えられています。

シェアリングサービスとIoT

シェアリングサービスに関する話題では、宿泊施設のリソースをシェアする「Airbnb」がよく事例にされますが、「宿泊」ではなく「移動」をシェアする、長距離ライドシェア(相乗り)の「notteco」というサービスも登場しています。

「notteco」のコンセプトは、長距離移動する車の「空席」と「移動したい人」をマッチングさせる「ライドシェア」と呼ばれるシステムであり、有料のヒッチハイクのような仕組みを提供しています。

この「notteco」のサービスに「IoT」の要素を加えることが出来れば、クルマのGPS情報をネット上に集約することによる交通渋滞の緩和や、自動車部品が互いにプロアクティブ(能動的)に作動することで部品交換の時期を最適化するなど、単なる「ライドシェア」のメリットのみではない、ドライバー・利用者双方に新たなベネフィットを提供することが可能になるのではと考えます。

ロサンゼルス市では、駐車場の「空車スペース」をパーキングメーターに埋め込まれたセンサーによってリアルタイムに把握し、空き率(場所の人気度)に応じて駐車料金を変更するシステムが運用されています。
このシステムでは、駐車場の空き状況と料率はネットで配信され、利用者は人気の駐車スペースに駐車する場合高い駐車料金を支払う課金モデルを採用しているため、売上高2%増、顧客の支払う平均駐車料金11%減、駐車場利用率11%増を達成しています。

この「シェア」するという概念とICTの要素技術を組み合わせることで、「民泊」や「相乗り」のように、旧来からの既存サービスを飛躍・拡張させることが肝要であり、ホテルや旅館に「泊まる」、車やタクシーで「移動する」などの人が持つ根源的なニーズに対して、「IoT」の仕組みを利用して「シェア」共有することで、新たな価値観を創り出すことが重要なポイントになります。

ICTの利活用を考える時、我々は全く新たなサービスを求めてしまいますが、私達が持つ既存の社会的リソースを「IoT」などの要素技術によって進化・伸張させる視点も忘れてはならないと思います。既存の「モノ」や「サービス」を「シェア」をすることで、資産を有効に利用して効率化を図る、そしてそこに新たな「価値(ベネフィット)」を生み出すサービスモデルを構築する。これからの時代の情報化モデルは、こうした「モノのインターネット」の概念とソーシャルメディア以降の時代の潮流にしっかり対応していくことが必要であると感じています。

「IoT」モノのインターネットは、「モノ(設備資産・リソース)」と、それらを「相互接続するネットワーク」そして、「データを利用するためのシステム」で構成されていると考えられます。

今後「IoT」が進展することによって、「インテリジェント・インフラ」が形成され、効率性や生産性が極限まで高まった「共有型経済(シェアリング・エコノミー)」社会が実現すると言われています。

しかし、そのような時代になればなるほど、「モノ」を使うのは「ヒト(カスタマー)」であり、「IoT」によって得られるメリットを享受するのもカスタマー・顧客であることから、「ヒト」が持つ課題を解決するための方策を考えるという観点で「IoT」を活用する「IoC(Internet of Customers)」と呼ばれる概念のように、「ヒト」に寄り添ったビジネスモデルこそが王道であると思っています。

今回のコラムでは、キッチン家電の「モノのインターネット」を事例として、「IoT」の進展やサービスモデルの展開などについて考えましたが、今後もこのコラムでは、このような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考察したいと思っています。

最後にイタリアの物理学者「ガリレオ・ガリレイ」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「物事には見えないものがある。
それこそが重要なのかもしれない。」

それでは、次回をお楽しみに・・・

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

上へ戻る