「所有」から「共有」へのシフトが地域を変える
~シェアの概念は地域再生の起爆剤となるのか~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第3回]
2017年6月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「シェアリングエコノミー」が持つ可能性

前回コラムでもご紹介した「シェアリングエコノミー」ですが、人口減少や高齢化・過疎化などの社会問題を抱える我が国の地方都市において、単に個人の利便性向上の視点ではなく、地域課題を解消するための手段として「シェアリングエコノミー」が活用され始めています。

従来のモノを「所有」するという考え方から、社会的リソースをシェアして「共有」する概念へ転換することで、既存サービスを革新するような、ビジネスモデルが誕生するのかもしれません。

今回のコラムでは、前回に引き続き「シェアリングエコノミー」が持つ可能性について、考えたいと思います。

我が国の地方都市では、人口減少・高齢化・過疎化等の社会全体の構造変化に起因する様々な課題を抱えています。その山積する課題に対して、行政が多額の公費を投入して解消する手法は、社会資本を効率的に運用する観点から、現実的な選択肢ではないと思われます。

そこで注目されているのが、すでに地域の中にある遊休資産を効率的に活用する、「シェアリングエコノミー」の考え方です。

「所有」から「共有」へ考え方をシフトすることで、シェアの概念に基づくサービスが地域のインフラとなれば、行政からの支援に依存せずに持続可能な生活支援サービスの展開が可能になります。

このような、地域が抱える様々な問題の課題解決に向けて、「シェアリングエコノミー」の積極的な活用を目指す自治体を称して、「シェアリングシティ」と呼ばれています。そんな「シェアリングシティ」を標榜する自治体の中から、個人が所有する自家用車を「共有」することで、タクシーのように活用する、京都府京丹後市丹後町の「ささえ合い交通」と呼ばれる事業の展開事例をご紹介したいと思います。

京都府京丹後市丹後町の「ささえ合い交通」

この「ささえ合い交通」と名付けられたサービスは、住民ドライバーが自家用車で、利用者を市内の目的地まで運ぶ仕組みです。2008年にタクシー事業者が撤退し、人口の減少と高齢化が進む京丹後市丹後町では、自家用車をタクシーのようにシェアする「ささえ合い交通」の仕組みが、地域の社会インフラとして重要な位置付けになっています。

京丹後市は京都府北部の日本海に面した丹後町を含む6町の合併によって、2004年に誕生した人口約57,000人の自治体です。丹後町は京丹後市最北端に位置する町で、人口は12年間で約2割減少し約5,500人、高齢化率は40%と高い数値を示しています。

鉄道はなく、タクシー営業所も2008年に閉鎖されて以降、幹線道路を走る路線バスの数少ない運行本数を補完するため、2014年に市の委託を受けたNPO法人が運行するデマンドバスが導入されました。しかし、隔日運行で路線が決まっている上に、前日の予約が必要など多くの課題を抱えていました。

丹後町がこの地域課題を解決するために選んだパートナーが「シェアリングエコノミー」の代表格として知られる、米国サンフランシスコを本拠地とするライドシェアサービス最大手の「Uber」です。

「Uber」の仕組みは、車を利用して移動したいユーザーと、空き時間に車を使って副収入を得たいドライバーをマッチングする、移動に関する「シェアリングエコノミー」サービスです。

言い換えれば、個人の遊休資産となっている「マイカー・労働力」と「車で移動したい人」をICTで結びつけることで、新たなビジネスモデルを作り出したのです。

「Uber」は世界各国で事業を展開していますが、日本国内では、この事業形態では道路運送法に抵触するため、「Uber」日本法人は契約したハイヤー等によるサービスを東京都心部のみで事業展開しているのが現状です。

その「Uber」日本法人が現状を打開するために選択したのが、道路運送法の下でもマイカーによる有償運送が特例的に認められている過疎地への参入で、地域の課題を解決したい丹後町と、事業者である「Uber」の互いの思いが上手く合致したことになります。

「Uber」のシステムを利用した「ささえ合い交通」ですが、事業形態としては、地方の過疎地などにおいてNPO法人等が白ナンバー車(自家用自動車)を用いて会員等に対して行う輸送サービス、道路運送法の下で特例的に認められている公共交通空白地有償運送に該当します。

この「ささえ合い交通」のユニークなところは、事業主体は地元のNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」であり、「Uber」はそのNPO法人と契約を結び、配車と運賃決済を行うシステムを提供しているところにあります。

そして、「Uber」ではスマホ・タブレットの無償貸出しや、アプリの利用方法についての問い合わせに、地元採用のスタッフが常駐して対応するなど、NPO法人の活動を支援しています。

2016年5月26日のサービス開始から約1年が経過しましたが、ささえ合い交通のブログを見ると、「利用者の声」に寄せられたメッセージからは、町民の皆さんに必要とされていることが実感できる言葉が並んでいます。

また、2016年5月26日~11月25日の利用実績集計では、利用者によるドライバー評価の平均は、5点満点中4.92を記録して、東京のプロドライバーの平均評価である 4.6 を上回る高評価となっています。

以下は、ささえ合い交通のブログ「利用者の声」からの抜粋です。

  • いつも病院へ行くのにバスで行っていましたが、バス停まで遠く、歩くのが大変でした。しかし、『ささえ合い交通』は、玄関から病院の入口までらくらく行けるので、重宝しています。
    利用したい時すぐにお願いできるのもいいですね。
  • 老人クラブの懇親会の行き返りに利用しました。丁寧に運転してもらってよかったです。
  • 病院に行くのに利用しています。タブレットを借りて私は自分で配車依頼をしています。とても便利ですね!
  • 病院に行くのに路線バスに乗り遅れてしまいました。次は1時間後なので困っていたところ、『ささえ合い交通』を思い出し、配車をお願いしました。
    すぐに病院に行けて喜んでいます。利用してみて便利なものとわかりました。
  • 『ささえ合い交通』に乗って丹後町を堪能しようという旅行パックを作っており、多言語対応が可能なので、東南アジアなど海外からの観光需要を取り組むことが期待できます。(旅館のおかみ)

世界中で利用されている「Uber」のアプリや仕組みは使い易いものの、今後の運用課題としては、以下の点があげられます。

  • 乗車は京丹後市丹後町内のみ(降車は京丹後市内のどこでも可)と運行区域に制限がある
  • 利用料金が最初の1.5kmまで480円、以遠は120円/km(タクシーの半額程度)とはいえ、市の負担により最大200円に設定されているデマンドバスと比較して高額である
  • ユーザー側の高齢者はスマホ・タブレット等の操作が不得意である
  • クレジットカードを持たない人はユーザー登録できない

「ささえ合い交通」では、スマホやクレジットカードの課題を克服するため、利用者に代わって配車依頼を代行する制度「代理サポーター制度」を導入するとともに、昨年12月21日からは現金決済に対応するなどサービス改善を図っています。

シェアリングエコノミーの課題

今回ご紹介した「ライドシェア」の事例も含めて、「シェアリングエコノミー」には多くの可能性があると思われます。「Uber」はサンフランシスコで事業を開始しましたが、その後ニューヨークでもサービスを展開し、南アフリカ、ヨーロッパへと進出した後、5年後には全世界にサービスを拡大して、現在では500を超える都市でサービスを提供するなど、「Uber」が利用可能な国・地域は拡大を続けています。

米国では、カリフォルニア州を筆頭に多くの州が「Uber」のようなライドシェア系のビジネスモデルを、TNC(Transportation Network Companies)という新しい範疇の事業者と規定し、闇雲に規制するのではなく、試行錯誤を重ねながら新たな枠組みを模索しています。

さまざまな地域課題を解消する可能性を秘めた「シェアリングエコノミー」ですが、その活用には法規制の緩和などクリアすべきハードルが多いことも事実です。

そして、その一方で地方の抱える課題は地域ごとに異なり、その解決方法もひと括りにはできないのが現状です。

人口減少・高齢化・過疎化等の社会構造の変化に対応するためには、丹後町の「ささえ合い交通」の事例が示すように、柔軟な思考の転換が必要になると思われます。

「Uber」のライドシェアシステムの根幹は、位置情報・ビッグデータであり、それがICTによってつながり、地域の遊休資産活用が促進されているのです。

今後、過疎化が進展する地方の公共交通空白地においては、交通空白地有償運送という限られた枠に閉じこもるのではなく、新たなサービスモデル創成に向けた、より挑戦的アプローチによる施策展開がなされることを祈っています。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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