10周年記念モデル「iPhone X」発売を目前にして
~スマホは我々の生活をどのように変革したのか~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第7回]
2017年10月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

はじめに

2007年1月9日、カリフォルニア州サンフランシスコのMacworldにおいて「今日、Appleは電話を再発明します」という、伝説のフレーズから始まったスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンで登場した初代「iPhone」。それから10年の歳月を経て、Appleは10周年記年モデル「iPhone X」を今年の11月3日に発売する予定です。

この、Apple入魂のスマートフォン「iPhone X」(Xは“エックス”ではなく“テン”と読むそうです)では、Appleが初代「iPhone」に搭載して、スマホの世界ではデファクトとなったユーザーインターフェースの「ホームボタン」が廃止され、セキュアに本体ロックを解除する仕組みとして、新たに「Face ID(顔認証)」を採用するなど、最新技術を搭載しています。

初代「iPhone」が登場して以降、上にスワイプしてホーム画面に移動する操作や、下にスワイプして「コントロールセンター」を表示させるユーザーインターフェースは「Android」など、他のスマートフォンでもお馴染みのものになっています。

今回「iPhone X」が採用したこの大胆な仕様の変更、ホームボタンを排除し「顔認証」システムで本体ロックを解除する仕組みは、我々ユーザーにどのような便益をもたらすのでしょうか。究極の公開情報とも言える個人の「顔」を生体認証のキーとして活用する「Face ID(顔認証)」の可能性と恩恵、それを検証するには、いましばらくの年月と検証が必要であると思われます。

初代「iPhone」が誕生してから10年、いまではスマートフォンは我々の日常生活に欠かせないツールとなっています。今回のコラムでは「スマホ」の登場によって、誰もがインターネットに繋がることで、私たちの暮らしはどのように変化していったのか、振り返りながら考えたいと思います。

「スマホ」の登場による変化

一昔前のラブストーリーなどでは、ドラマの登場人物が何らかのアクシデントによって、待ち合わせの場所で会うことができず、恋人同士がすれ違うシーンがよく登場しました。しかし、リアルタイムにコミュニケーションが可能になった現在では、そのようなストーリー展開自体があり得ないものになりました。

自慢できることではありませんが、私は自他ともに認める方向音痴です。しかし、そんな私でも待ち合わせの場所へ出向く際、交通機関の乗換を案内してくれる「ナビアプリ」や、GPSの位置情報を活用した「地図アプリ」などのおかげで、いまでは道に迷うことはありません。

スマホと「ナビアプリ」さえあれば、複数の交通機関のダイヤを時刻表で調べたり、窓口で駅員さんに聞いたりする必要はありません。駅の改札口を出て、いま自分がいる場所が解らなくても、行き先を入力すれば「ここを左へ」「次の交差点を右へ」と「地図アプリ」が目的地まで導いてくれます。

近隣の街でも、遠方の都市でも、同じように「アプリ」がナビゲートしてくれるのです。昔のように、紙の地図を持って歩く必要はなくなりました。移動という観点から見て、我々の日常生活の利便性は各段に向上したと思われます。

そして、電車などで移動中でも、無料で調べ物が出来るようになりました。

かつて、ガラケー(フィーチャーフォン)全盛の時代、ニュース・着信メロディなどのコンテンツは通信キャリアの「公式メニュー」のサービスとして、月額課金されていました。しかし、インターネットの進展とスマホの登場は、調べたい事はGoogleで検索すれば大概のことはわかるように、無料で情報やサービスを利用できる文化を作り出していきます。

また、その電車・バスの中で、多くの人達がスマホでゲームを楽しむようになりました。ガラケーの時代、携帯電話でゲームをすることは、一部のマニアックな層のものでしたが、このような概念はもはや過去のものになり、電車やバスの車内では、単語帳を見ながら英単語を暗記している中学生の隣で、スーツ姿のビジネスマンや年配のおじさん達がスマートフォンの画面を見つめて「スマホゲーム」に夢中になっています。

このように、スマートフォンの普及は同時に「スマホゲーム」という巨大市場を誕生させ、いまではテレビで日常的に「スマホゲーム」のCMが放映されるなど、誰もが気軽にゲームを楽しむ時代が到来しています。

また、このスーツ姿のサラリーマンや年配のおじさん達は、電車・バスの車内で「スマホゲーム」を楽しみながら、スマートフォンから会社のサーバーにアクセスして、これから向かう営業先で必要な情報や業務用メールのチェックを行っています。

「スマホ」の登場はこのようなかたちで、クラウドコンピューティングを劇的に進化させ、いつでも情報にアクセスし受発信できる環境を作り出しました。

それが外出先であっても、休暇中であっても、旅行先であっても、会社に出向くことなく、その場で「スマホ」を使って必要な対応ができるようになったのです。

このように、オンとオフが混在した日常の中で、言い換えれば常に仕事を持ち歩いているような状況の中で、我々は自然と複数のID・アカウントを所有し、使い分けるようになっていきます。

あなたは、今いくつのID・アカウントをお持ちですか?

Gmail、LINE、Facebook、Twitter、Instagram、これらすべてのアカウントを持っているという方もおられるのではないでしょうか。

「スマホ」と既存のビジネスモデルやサービスとの共存

いつも肌身離さず持ち歩く「スマホ」という名のデバイスの登場によって、SNSはその普及拡大を加速度的に進展させ、ユーザー達は利用するサービスに合わせて「ソーシャルグラフ(ネット上の人間関係)」や自分自身のアバター・キャラクターを使い分けるようになりました。

SNSは自分のリアルな日常生活をネット上に投影する手段となり「フォトジェニックな写真」という言葉で代表されるように、最近では「インスタ映え」する写真を投稿し合うことが、SNS内でコミュニケーションする際の重要な要素になりました。そして自分自身の存在を「ソーシャルグラフ」の中でどのように演出するかという、ある意味「プロデューサー的な視点」をSNSユーザーの一人ひとりが持つようになったのです。

そしてSNSは、ネット上の「友達」と繋がりを作る手段だけでなく、大切な家族や友人、恋人とのコミュニケーションに欠かせない存在になり、ガラケー時代の主要な連絡手段「キャリアメール」を利用せずに、LINEなどのSNSで直接メッセージを交換することで、プライベートではeメールを使わない人々が増加しています。

家族や友人でLINEグループを形成して、いつでもどこでも「グループ内会議」をするシーンは、いまでは当たり前の光景になっています。キャリアメール受発信の必要性が低下し、SNSでのメッセージ交換が主流になったことで、ユーザーは通信キャリアとの契約にこだわる必要がなくなりました。これが「格安スマホ」「格安SIM」普及の要因になったとも考えられます。

また、プライベートな範囲では「スマホ」の登場によって、我々はコンパクトカメラなどを持ち歩かなくても、いつでもどこでも高精細な写真・動画を撮影することができるようになりました。これによって、日常生活の中で遭遇した自然災害や事故などを、誰もが「スマホ」でその場の状況を撮影し、ネット上にアップロードすることが可能になっています。

最近では、一個人が撮影した事件・事故の動画が、SNSやYouTubeを通じて拡散され、重要な情報ソースとしてマスメディアにも認識されるようになり、テレビのニュース番組でも放送素材として利用されるようになりました。

今後、自然災害が発生した現場に居合わせた人々が撮影した動画・写真など、災害発生の瞬間をとらえた映像は、防災・減災対策などを研究する上で、貴重な資料・データになっていくと思われます。

このように振り返ってみると、初代「iPhone」が誕生してから10年、いまや「スマホ」は我々の日常生活に欠かせないツールとなり、まさに革命的イノベーションをもたらしました。しかし、別の視点から見ると「スマホ」はこれほどの変革を起こしながら、既存のビジネスモデルやサービスを駆逐せず、共存しているのが興味深いところです。

「スマホ」の普及が拡大してきた時期、絶滅危惧種のように思われていた「ガラケー」はしっかり生き残って、未だに根強い人気を維持しています。また、ネット配信のサブスクリプション(定額聴き放題)で気軽に音楽が聴けるようになってもCDの新譜は発売され、前回のコラムでご紹介したように、アナログレコードは再び注目を集めています。

そしてまた、「スマホゲーム」などでデジタルコンテンツに触れる機会が増えても、テレビの人気は衰えず、テレビで放送された話題はすぐにSNSでシェアされ、ネット上でのトレンドがテレビ番組で取り上げられるなど、お互いが補完し合うような形で共存しています。

このように、これまでの10年間を振り返ってみると「スマホ」は、新たなサービスモデルを我々に提供しながら、それまであった既存の「モノ」や「コト」を再定義してさらに新たなサービスモデルを作り出してきました。

今後、AI(人工知能)、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)など様々な技術が成熟していくことで、スマートフォンを活用した新たなサービスでモデルが誕生し、私たちのリアルな日常生活がさらに大きく変化していくと予想されます。

これからの10年、「スマホ」は我々にどのような未来を見せてくれるのでしょうか。大いに期待しながら、見つめていきたいと思っています。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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