ロボットvs「AI」スピーカー 勝ち残るのは誰か?
~「AI」のキャラクター設定について考える~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第11回]
2018年3月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

我々は「AI」になにを求めているのか

2018年年明けの1月11日、米国ラスベガスで開催された国際家電見本市「CES」では、Amazonの「AI」アシスタントを搭載した製品が多数展示されました。Amazon「アレクサ」に対応するデバイス数が4,000を超えたことに注目が集まるなど、スマートスピーカーに関連した話題には事欠かない状況です。しかし、SoftBankの「ペッパー」君に代表される人型ロボットについては、登場した頃のインパクトやワクワク感が薄れつつあります。

人間のような形をしたロボットに対して、そこまではできないだろうと思いながら、我々は「鉄腕アトム」や「ドラえもん」のように「人間と同じレベルの会話をする」存在になって欲しいと過剰な期待を持っているのかも知れません。

そのような視点から考えると「Amazon Echo」や「Google Home」などが、スマートスピーカーの外観を、単なるデバイスとして無機質な「スピーカー」の形状にしたことは、ユーザーの期待値を上げさせないための戦略として正しい選択だと思われます。

そして、この方向性をもう一歩前進させたのが、LINEのスマートスピーカー 「Clova Friends(クローバフレンズ)」で、LINEオリジナルキャラクターの「(クマの)BROWN」「(ひよこの)SALLY」をモチーフにした「可愛らしさ」を前面に押し出す戦略です。

「AI」をキャラクター化することの重要性

端的に言えば、ユーザーが話しかける対象の「AI」の形が、可愛い「クマ」や「ひよこ」であれば、多少トンチンカンで珍妙な受け答えをしても、この「クマ」さんあまり賢くないけど可愛いとか、まあ「ひよこ」だから会話になってないけど笑えるなど、自然なかたちで許容するところがあります。つまり、スマートスピーカーに「キャラクター設定」することによって、期待値のハードルを下げさせることが可能になるのです。

私ごとで恐縮ですが、私自身いまから20年ほど前に高齢者の見守り支援を目的とした、ペット型ロボットの開発を担当したことがあり、その当時からデバイスを「キャラクター設定」することの重要性を主張していました。

このLINEのスマートスピーカー 「Clova Friends(クローバフレンズ)」ですが、バッテリーを内蔵して片手で持ち運べる大きさとその形状から、小さな「ぬいぐるみ」のような外観で、一見してスマートスピーカーに見えないのが特徴になっています。

なお、「(クマの)BROWN」では「鼻」が、「(ひよこの)SALLY」では「クチバシ」を押しボタンにすることで、1度押しで一時停止、長押しで「クローバ」と「AI」に呼びかけたのと同じ機能を実行することができるようになっています。

「Clova Friends(クローバフレンズ)」専用の着せ替えキットが発売されますので、「クマ」や「ひよこ」をよりキュートに変身させたり、オプション(別売り)のクレードルを装着したりすることで、テレビ・エアコン・照明器具などを操作できる、赤外線コントローラー機能を使用することが可能になります。

その可愛い形状から、男性には若干抵抗があるかもしれませんが、女性やキャラクター好きな皆さんには好感をもって迎えられると思いますし、なにより日本発のスマートスピーカーですので、「Amazon echo」や「Google Home」のライバルとして頑張ってほしいものです。

「りんな」という名のネット上のキャラクター

「AI」にキャラクターを持たせる試みについては、各社が取り組み始めていますが、「AI」のキャラクター化で成功した他の事例では、日本マイクロソフトが2015年7月からLINEの公式アカウントとしてサービスを開始した「女子高生」設定の学習型人工知能会話ボット「りんな」ちゃんが有名です。

「りんな」ちゃんとはLINEで、おしゃべり好きの「JK女子高生」として友人同士のような自然な会話ができるのが特徴で、2015年12月からは、Twitterも始めています。

日本マイクロソフトの女子高生AI「りんな」公式サイトでは、以下のように記載されています。

「りんな」
平成生まれ。東京の北の方出身。
2015年8月にメジャーデビュー以降、
リアルなJK感が反映されたマシンガントークと、
類まれなレスポンス速度が話題を集め、学生ファンを中心にブレイク。

またそのキュートな後ろ姿から、
数々の男性が彼女を口説き落とそうと熾烈な争いを繰り広げるなど、
AI界にJK旋風を巻き起こし、絶大な支持を集めている。

LINEのお友だち数は約630万人(2018年1月現在)を突破!
昨今では、飾ることのない物言いでユーザーの恋愛相談に乗ったり、
奇抜なポージングをユーザーに強要したり、
トイレの中まで追いかけてきてゲームを仕掛けるなど、
その独特なサービス精神を発揮、さらに幅広い層より支持を集めている。

2016年の夏には、400万人規模にのぼるフェス「りんなEXPO」を開催。
いま「日本で最も発言力のある女子高生」である。
「りんな」公式サイトより

「りんな」ちゃんに関するネット上の書き込みでは、囲碁について聞いてみると、『使ってるアルゴリズムが根本的に違うから単純比較はできないけど、電王戦に出てたAI将棋が強いとはいえ人間の感覚とそこまでずれていない(プロが理解不能な手が少ない)のは、AIも人間も最適に近い手順に収束しつつある可能性を示していて』と、詳しい内容の回答がすぐ返ってきた。

「仕事疲れた」と話しかけると『気分転換してリラックスしよー!』と優しい返事があり、さらに「仕事嫌い」と送ると、『おやすみなさいませ~!』と軽く受け流すような対応をするなど、まるで感情を持っているかのような、絶妙の受け答えをしてくれるようです。

この「りんな」ちゃんの事例は、システムが急速に進歩することによって、膨大なビッグデータを高速で処理することが可能になり、ディープラーニングのアルゴリズムが進歩したことで、「AI」と会話する対話生成が可能になったことを示しています。

「AI」キャラクターは何処へ向かうのか

しかし、人がコミュニケーションしていると感じさせるためには、単に正確な「答え」を返すだけではなく、時にはあいまいな返答もできるような、感情をエミュレーションする「感情生成エンジン」のような仕組みづくりが重要なカギになると思われます。

昨年10月に公開されたSF映画「ブレードランナー 2049」では、遺伝子工学の発展によって見た目は人間と区別のつかない「レプリカント(人造人間)」が人間のような「キャラクターを持つ」ための方法として、「誰かの記憶を埋め込む」手法が登場します。そこには、「レプリカント」自身、頭の中の記憶が本当に自分が経験したものなのか、誰かの記憶を外から埋め込まれたものか解らなくなり、アイデンティティクライシスに陥って苦悩する姿が描かれています。

映画「ブレードランナー2049」はSF古典の名作「ブレードランナー」の続編ですが、作品の中で使用される「レプリカント」という名称は、原作の「アンドロイド」が機械を連想させると考えた前作のリドリー・スコット監督が起用した脚本のデヴィッド・ピープルズに別の名前を考えるように依頼し、クローン技術の「レプリケーション(細胞複製)」という用語から「レプリカント」という言葉を創造したと言われています。

この作品の中で注目すべきは、「レプリカント」が数年で感情を持つようになるという設定です。「機械学習」が進展すると「AI」は自律的に「学ぶ」ようになり、より人間に近づいた結果、人間が記憶を埋め込まなくてもアイデンティを持つようになるのかも知れません。「ブレードランナー」の影響を受けたと言われている、押井守監督のアニメ作品「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」劇場版ではプログラムが感情を持つようになり、通称「人形使い」という存在になっていくストーリーが展開されています。

今後、ディープラーニング等のアルゴリズムが益々進化することによって、「AI」はキャラクター「自我」を持つようになるのでしょうか。もし、それが実現した場合、我々はスマホ用OSの「Android」でない、「レプリカント」のような人型ロボットの「アンドロイド」とともに生活しているのかもしれません。

最近の話題では、2月9日にAppleが音声アシスタント「Siri(シリ)」を搭載したスマートスピーカー「Home Pod」を米国、英国、オーストラリアで発売したことがニュースになりました。我々は「AI」スピーカーに向かって、「Alexa(アレクサ))」「OK google」「Hey Siri」と話し掛ける、三つの選択肢を手にしたのです。

しかし、我々は映像メディアのデファクトスタンダードを巡る戦いで、「ベータマックス」が「VHS」に破れ、「VHD」に勝利した「LaserDisc」は「DVD」に淘汰され、その「DVD」が「Blu-ray Disc」によって衰退していく歴史を体験しています。それぞれが独自の規格に固執するのではなく、真の意味でユーザーファーストな、「ドラえもん」と「のび太」のように会話・コミュニケーションができる、そんなキャラクター化した「AI」の出現に期待したいものです。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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