ICTと「スマートシティ」の美味しい関係
~「ブロックチェーン」の可能性を考える~

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略 [第3回]
2018年9月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

将来、既存の職業のうち半数程度が「AI」に取って代わられると言われています。

現実に、金融業界では「みずほフィナンシャルグループ」が1万9000人分、「三菱UFJフィナンシャル・グループ」が9500人分、「三井住友銀行」が4000人分の業務量削減など、その効果を試算し公表しています。

このような現象は、過去の歴史においても幾度か発生しています。19世紀の産業革命では、労働者が自分達の仕事が機械に奪われて失業してしまうと考えた結果、イギリスでは機械の打ち壊し運動が起こっています。

しかし、イギリスは産業革命を経てその後国力を強化し、多いなる発展を遂げました。

21世紀の現代においても、多くの職業が「AI」に取って代わられる可能性があります。また、その一方で、ICTを活用したサービス産業や、クリエイティブな分野などでは新たな職種が生み出されることも考えられます。

この「AI」などのICTを活用した都市モデル「スマートシティ」構築へ向けた取り組みが注目されていますが、その新たな仕組みとして「ブロックチェーン」技術がもたらす社会的効果に期待が集まっています。

「ブロックチェーン」技術は、金融業界の最新トレンドのひとつで、金融ビジネスを一変させるともいわれる「FinTech(フィンテック)」や、仮想通貨の「ビットコイン」などと共に、「AI」やロボット技術など、一見すると金融分野には無関係と思われる技術を駆使して、先進の金融サービスの提供をめざす取り組みとして、一躍有名になりました。

また、これに関連して、オープンな金融サービスを実現する有望な技術の1つとしてアイデアの革新さに加えて、幅広い用途への応用が可能なことから「ブロックチェーン」がもたらすビジネスでの波及効果に多くの企業が注目し、金融サービスにとどまらず国内外において様々な動きが活発化しています。

「ブロックチェーン」技術の可能性

「ブロックチェーン」技術が持つ特性を活かすことで、行政手続きの簡素化だけではなく、農業分野に最先端の技術を取り入れることで、有機野菜に使用された農薬や土壌の質などを「ブロックチェーン」で管理することが可能になります。これにより、消費者に信憑性の高い情報を提供することも可能になるなど、行政・事業者・住民まで広くその便益が波及するのではないかと考えられています。

「ブロックチェーン」技術が持つ4つの特徴

改ざん出来ない仕組み(改ざん不可能)

「ブロックチェーン」では、ブロックは時系列順に追加される仕組みになっています。

過去のデータを変更・修正すると、後に続く全てのデータを変更しないと変更が成立せず、やり取りの妥当性が全ノードによって検証されるのです。

個々のブロックには、1つ前のブロックの情報を含んだハッシュ値(英数字)が格納されています。一部分でもデータが変更されると、ハッシュ値は全く異なる英数字となり、データの変更が検出されます。

あるブロックを変更・修正すると、そのブロックのハッシュ値が変わり、変更されたハッシュ値が次のブロックへ格納されるため、それ以降全てのブロックを変更しないと、整合性が取れない仕組みになっています。計算リソースの観点から見ると、51%以上を占めるノードが協調して改ざんを実施しない限り、改ざんされたデータが正しいブロックとして保存されないため、事実上、改ざんは不可能な仕組みになっているのです。

ゼロダウンタイム(システムが停止しない)

従来の仕組みでは、リーダーの役割を担うコンピュータシステムが存在していましたが、「ブロックチェーン」には、中央集権的なノードは存在しません。

全てのノードが平等に並列につながって、全く同じ機能を有しています。そのため、一部のノードが故障しても、他のノードが正常であれば、「ブロックチェーン」全体が停止することなく全ての処理が続行されます。この仕組みによって、従来のシステムを超える冗長化を実現することが可能になり、「ブロックチェーン」が自律分散システムと呼ばれる由縁にもなっています。

全員で情報共有(管理者が存在しない)

「ブロックチェーン」でつながる、全てのノードは同じデータを保存する仕組みになっています。「ブロックチェーン」にトランザクションデータが投入されると、先ず初めにどのノードがブロックを追加するかが決定されます。

続いて、最初にブロックを追加したノードが、他の全てのノードにブロックを送ります。全ノードがブロック内容の検証を行い、問題がなければ、それぞれのノードに追加されていきます。その結果、全ノードに全く同じデータが存在することになるのです。

データに問題があれば、ブロックは消滅し、最終的に問題のないブロックのみが追加される仕組みになっています。つまり、検証された正しいデータのみがブロックとして保存されていきます。このような仕組みのため「ブロックチェーン」は、信頼のプロトコルとも呼ばれています。

トレーサビリティ

上記のように「ブロックチェーン」では、全ノードによって正しいと認められた、変更(改ざん)不可能なトランザクションデータがブロックとして保存されています。

これに加えて、データが時系列順に格納されているため、元をたどることが可能であり、高いトレーサビリティが特徴になっています。

例えば、「ブロックチェーン」技術が注目されるきっかけになった仮想通貨「ビットコイン」では、世界標準時で2009年1月3日18時15分5秒の第一号のトランザクション発生以来、2018年2月の時点で、50万を超えるブロックの連鎖があり、その全てのブロックを確認することが可能と言われています。

既存システムの限界

現在のネット社会においては「AWS(Amazon Web Service)」などの事業者(管理者)が、ネット上に構築した環境を利用者に提供することで、サーバー利用料、レンタル料、管理費等の名目で手数料を得ることで、巨大なデータを保管するサーバーの運用や、Webサービスを提供しています。

いま、世界の人口は75億9717万人ですが、2020年の世界のスマートフォン契約者数は87億6924万件になると予測されています。「IoT」などによって「人」と「モノ」がつながるようになると、ネット上に蓄積されるデータは天文学的に巨大化し、この膨大なデータを管理するには、これまでの中央集権的なアーキテクチャでは処理しきれない状況になることが考えられます。

誰もが知っているようにサーバー機器の扱えるデータ容量には物理的な限界があります。さらに、絶対ダウンしないサーバーは存在しません。いま人気の「Microsoft Azure」や「AWS(Amazon Web Service)」などの定評あるサービスでも、年間では幾度か、何らかの要因でサービスが停止することがあります。短時間で復旧するとはいえ、ネットに依存した現代では小規模なサーバーダウンでも人命を左右する事態に直結する可能性があるのです。

「ブロックチェーン」は地域社会に何をもたらすのか

地域課題の解決を目指す「スマートシティ」構想には、これまでの既存システムでは出来なかったことを可能にする課題があります。「ブロックチェーン」が持つ特性を活かし文書の存在証明を確実に行い、それを様々な分野へ展開することで、医療や保険などの分野で活用することが可能になります。さらに、個人のボランティア活動の履歴を管理することで、本来評価されるべき活動を記録し、その価値を可視化することなども可能になります。

また、様々な課題解決のためのデータを蓄積する上での改ざん防止や、サーバーダウン・システム停止をリスクヘッジできる可能性もあります。

もちろん、「ブロックチェーン」技術を活用するだけで全ての課題が解決するものではありません。技術的にクリアしなければならない課題も多く、多領域で模索が続いているのが現状です。

しかし数年後、それらの課題がクリアされれば、従来は費用対効果が見込めずにいたシステムを安価に構築することも可能になります。そして、ネットワークに接続された複数のコンピューターが取引記録などを分散台帳として共有し、相互に認証する技術で、高い可用性や改ざん不能など、「ブロックチェーン」の特性を活かすことによって、新たにシステム化される領域は確実に広がっていくと思われます。

IT 先進国として知られる北欧の「エストニア共和国」では、国家レベルで「ブロックチェーン」技術の社会実装を推進することで、課税や登記システム、100万人以上(人口の 76% 以上)の医療記録に加えて、2000以上のサービスを電子化し、ブロックチェーン・ベースの証券取引所を開設する準備も進められています。

今後、自治体においては、民間事業者の先駆的な取組との連携を強化した、新たな住民サービス・生活支援サービスの提供が求められます。今回の「ブロックチェーン」のような新たな仕組みが、我々の生活にどのようなベネフィットをもたらすのか、引き続き注視していきたいと思っています。

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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