2019年以降のまちづくりへ向けた「4つの視点」
~明日のまちづくりのトレンドを考える~

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略 [第7回]
2019年1月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

視点1 コミュニケーションの再構築

いまでは、誰もが調べものをする時はグーグルやヤフーで検索し、知人との連絡やコミュニケーションではSNSを利用するなど、日常的にネットアクセスしています。

しかし、行政が運用するWebサイトやHPを見にいくのは、年に数回程度か何らかのライフイベントが発生した時ではないでしょうか。自治体と地域住民の関係性をより密接なものにしていくためには、これまでの概念を払拭して、新たなコミュニケーションを図るための仕組みを作り出し、互いの関係性を再構築する必要があると思われます。

この、行政と地域住民とのコミュニケーションを巡る新たな局面は、米国で地域全体の情報を共有し合うシステム「SeeClickFix」がサービスを開始した、2008年9月頃から既に芽生えていたのかもしれません。

「SeeClickFix」のトップページにアクセスし地域を指定すると、その地域で投稿された課題やトラブルの一覧が表示されます。このシステムでは、住民からの投稿を通じて地域が抱える様々な課題を共有する、住民参加型の仕組みが構築されているのです。

このシステムによって、地域の住民は街の課題を自由に投稿できるだけではなく、システム上で解決策について意見交換することや、住民の側から自治体へ向けて課題解決するため提言や具体的な解決策を共有することも可能になっています。

また、最近では「SeeClickFix」など地域情報共有アプリの利用に加えて、「Twitter」の検索機能「ツイート検索」を利用しているユーザーも多く存在しています。たとえば、外出する際に公共交通機関の名称で検索すると、いま交通機関を利用しているTwitterユーザーが発信した運行状況や遅延情報など、現在のリアルタイムな情報を入手することができるのです。

「Google検索」との相違点は、そのツイートに「時間軸」が存在することで、まさに「いま起きている出来事」が検索から見えてくるところが特徴です。

地震などの自然災害が発生した際には、まずはスマホで「Twitter」を見るという人達も存在します。その行為からツイートそのものに「時間軸」が存在する特性を活用することで、「リアルタイムの出来事」にアクセスしたい、ユーザー心理が見えてくると思われます。

また、「Twitter」などSNSの特性として、そのリアルタイム性に加えて、ユーザーが発信する内容に個人の興味・関心とともに、喜怒哀楽などの感情に直結する投稿が多く含まれている傾向があります。そのため、Web上のコミュニケーションツールは、利用者のパーソナルな感情がもっとも集約されるメディアなのかもしれません。

今後は、行政側と住民がコミュニケーションする「SeeClickFix」等の情報共有アプリと「Twitter」などSNSを併用することを意識して、互いのツールが持つ特性を補完し合うような連携を視野に入れて、地域住民とのコミュニケーション環境を再構築する必要があると思われます。

視点2 地域が持つ独自の世界観・体験の提供

まちづくりの新たなトレンドとして、その地域が持つ独自の世界観やその街で過ごす特別な時間の使い方・体験の提供など「ライフスタイル・デベロップメント」に注目が集まっています。

シンガポールでは、この考え方に基づく施策として、観光客に独自の体験を提供する、夜のアミューズメント「ナイトアトラクション」を充実させています。

かつてのシンガポール観光の課題は、観光客が夜に楽しむためのアトラクション施設が極端に不足していることへの対応でした。

夕食後はショッピングしてホテルに帰らざるをえない。このような状況の中で、夜の時間帯をどのように魅力的に提供できるかが大きな課題になっていたのです。

また、シンガポールのチャンギ国際空港は、アジアにおけるハブ空港としての機能も担っています。そのため、深夜便を利用するトランジットの旅客に対して、搭乗便に乗り込むまでの余剰時間に対応した夜の時間帯の過ごし方を提案できる、観光スポットの存在が必要でした。

そんな地域課題の対応策として考え出されたのが、世界初の夜行性動物を楽しめる動物園として1994年に設立された「ナイトサファリ」です。

既存のシンガポール動物園は、熱帯圏の動物園としては世界屈指のレベルを誇っていました。しかし、動物たちの多くは夜の時間帯に活発に活動する特性をもっています。

この夜行性の生態に着目したのが、シンガポール動物園の隣にオープンした世界初の「夜だけ開園する動物園」です。

赤道直下のシンガポールで、日没後の涼しい時間帯に昼間とは違った動物の生態を観察できる「ナイトサファリ」は人気のアトラクションとなり、いまでは年間110万人が訪れる人気のスポットになっています。

この「ナイトサファリ」の取り組みは、地域が持つ独自の世界観や体験を提供することで、地域の抱える課題を地域が再生する力に転換させてブランド化を図り、地域の復興につなげていく好事例ではないでしょうか。

視点3 モノを持たない生活の進展

モノを所有するのではなく、必要な時にモノやサービスを調達する「シャアリングエコノミー」を活用した「モノを持たない暮らし」が広がりをみせています。

観光の分野では、Airbnb(エアビーアンドビー)やタクシー配車アプリのUber(ウーバー)、地元の人と食事するEatWith(イートウィズ)などが我々の生活に変化をもたらしていますが、今後もこの傾向は加速し新たな業態が登場することも考えられます。

我が国でも、観光客が都市部で手荷物を預けるスペースが絶対的に不足している課題に対して、空きスペースを持つ「店舗」と手荷物を預けたい「旅行者」をマッチングする、新たなシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」が誕生しています。

シェアリングエコノミーの概念は、さまざまなビジネス分野で新しい価値観を生み出し、一般社会に次第に浸透しつつあります。「ecbo cloak」のようなシェアリングサービスの出現は、利用者に寄り添った新しい旅スタイルの提案につながるかも知れません。

手荷物預かりに関連するシェアリングサービスでは「ecbo cloak」のほかにも、「店舗」だけではなく「個人」がホストとなって荷物を預かることを可能にしたCtoCサービスの「monooQ」が誕生しています。この「monooQ」では「ホスト」である「個人」が追加サービスとして、荷物の受け取り場所や引き渡し場所を設定することができる仕組みを特色にしています。

このように、さまざまな分野で新たな価値観をもたらすシェアリングエコノミーですが、今後さらに一般化すれば、消費者同士が直接連携するエンドユーザーレベルでの取引が拡大することで、従来のように企業がサービスや商品を提供して、それを消費者が享受するという経済構造を変化させていく可能性があると思われます。

視点4 超高速通信「5G」の有効活用

次世代の通信方式「5G」では、現在主流の「LTE」の1000倍となる10Gbpsの高速通信が可能になるなど、大幅な性能向上が見込まれています。通信の高速化にともない通信容量も拡大することで、同時に多くの人々がアクセスする都市部においても通信速度が低下せず、大容量化が進めばビット当たりの通信コストの削減にもつながると大きな期待が集まっています。

「電話」は1800年代中頃に登場し、瞬く間に世界を動かす基幹テクノロジーとして発展してきました。以来100年以上に渡って「電話」は日常生活のあらゆる場面に深く浸透し、我々の社会生活全般を変容させつつあります。かつて電気の発明によって人々の生活が飛躍的に向上したように、超高速通信「5G」の登場によって、新たなサービスが誕生する可能性もあります。

これまで、様々なかたちのテクノロジーが登場し淘汰されていく中で、「5G」の登場もまた、情報通信の進展がもたらすパラダイムシフトの只中にあると思われます。

現代社会においては、即時性や正確性が要求される状況は日常的に存在し、私達はその生活シーンに即した多種・多様な連絡手段を適材適所で使い分け、活用していく時代を迎えたといっても過言ではありません。

新たな通信規格「5G」は、「IoT」や「VR」、自動車の遠隔操作など、さまざまなニーズに対応できる多くの可能性を秘めています。今後は「5G」の利用者である、ユーザー側のベネフィットをどのように作り出していくのか、ユーザーの「心に刺さる」キラーコンテンツやサービスをどのように創出していくかが大きな課題になってきます。

2020年のサービス提供開始に向かって、技術面やスケジュール等の課題がクリアされつつある「5G」ですが、最も大きな課題はキラーデバイス・コンテンツ不在の克服です。いま必要なのは、利用者に明確な便益を与えることができる、ユーザーファーストの視点に立脚した、新たなサービスモデルの創生ではないでしょうか。

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

上へ戻る